若者と男の話 - ⑤
今回は恋愛について話しています。
若者「ねえ、おじさん。」
男「やあ、どうしたんだい。」
若者「友達が恋愛で悩んでるの。」
男「そうかい。微笑ましいね。」
若者「そんなの辞めちゃえばいいのに。」
男「まあそう言いなさんなって。本当に悩んでいるんだろうから。」
若者「だから辞めればいいのに。」
男「君は分かっているから強いんだ。でも大方はそうじゃないからね。黙って見守ってやるのがいいよ。」
若者「どうしてあんなに悩むんだろう。しかも本気のフリして。」
男「意地の悪い言い方だなあ。まあ準備もなしに人を好きになるなんて、土台難しいことではあるけどね。」
若者「でも好きになっちゃう。」
男「そう。だからいろんなところで躓くんだ。異性間の付き合いではそれが顕著になる。」
若者「おじさんモテなさそう。」
男「分かるかい。」
若者「だって私と同じだもん。」
男「君は嫌かい?」
若者「そんなことないよ。だって私は人のこと好きになるもん。」
男「そうだね。君はやっぱり強いよ。」
若者「好きになるってどういうことかな。」
男「どういうことだろうねえ。何と言えないそのことが、そのことだと思うがね。」
若者「だから好きが分からないとも言えるのかな。」
男「そう。そんなことは考えたり理屈でどうこうする話じゃないんだよ、きっと。だから好きになるときに好きになる以外にはないと僕は思うんだけどね。どうやらそうでもないらしい。好きなことには理由が必要だし、好きになれないのは異常らしいんだ。だから好きな人のことで悩むし、好きになれないことでも悩むんだね。」
若者「好きだったらそれでいいって、みんな分からないみたい。」
男「いや、きっと痛いほど分かっているさ。それこそ僕や君なんかよりもよっぽど恋をしてきているんだから。だからこそ聞くに堪えないんだろう。こういう本来的な部分の隙間にあるようなものに対して、その隙間を埋めたらいいじゃないかなんて真実を認めることは、これまでの恋愛からすべてを否定することになるからね。」
若者「やっぱり分かってない。」
男「そうだね。結局は分かっていないんだろう。」
若者「だから恋愛するんだね。」
男「もちろんそんな人ばかりではないし、それはそのような人達に合わせた言い方だけどね。でも大方はそうだろうね。本来の孤独を分からなければ、恋愛でなくたって誰とも上手く付き合えないよ。これは万人に対して本当だ。」
若者「やっぱり好きになることってただそういうことなんだね。」
男「そうらしい。だから神秘的だと言って、大事にされてきたんだろう。」
若者「男も女も関係ないんだね。」
男「そうだ。恋愛だって人間関係なんだからね。」
若者「好きをそのまま大事にするのは大変なんだね。」
男「自分が大好きなんだ、きっと。」
若者「やっぱり辞めちゃえばいいのに。」
男「それによって知られる孤独と愛は素敵なものだよ。」
若者「皆それを忘れたがってる。」
男「その通りだと僕も思うよ。本来は求めあうものではないものね。」
若者「私は弱いままでいいや。」
男「うん、それでいい。きっと素敵な出逢いが待っているよ。」
若者「友達には言わないことにした。」
男「うん、それがいい。きっと伝わるよ。」
若者「理屈じゃないもんね。」
男「そうだ。君はやっぱり強いよ。」