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第7話 相棒作り

翌朝、僕はマリーと一緒に朝食を食べていた。マリーは少し悲しそうな表情で「お兄ちゃん、帰っちゃうの?」と聞いてきた。僕は暫く間をあけて「うん」と答えた。

「寂しいな。でも平気よ。お兄ちゃんがいなくなっても私は強く生きてみせるわ」

「心配するな、すぐにまたこの世界に戻ってくるよ」

「本当?」

「ああ、この世界ではまだやらなきゃいけないことがあるからね」

「よかった。じゃあ私待ってるね。きっと来てね、約束よ」

 マリーがテーブル越しに右手の小指を差し出してきた。僕は左手の小指を彼女の右手の小指に絡ませ、指きりをした。

「指きりげんまん嘘ついたらハリセンボンのーます」

 そして僕が元の世界へ戻るときがやってきた。

「一体どうやって元の世界に戻るの」

「指輪の力を使うんだよ」

 今日の新しい能力は自分の世界へ戻る能力だ。

 しかし一体どう言えば上手く作れるだろう。丁度僕が考えているとき、小鳥のさえずりが聴こえた。

 僕は鳥の帰巣本能を思い出し、それを上手く使った能力を作成することにした。

「能力名は帰巣本能。元いた世界へ我を戻せ、リンクロ」

 僕が指輪に魔綬をかけると、指輪のダイヤモンドがまた一つ眩い光を放った。成功だ。あとはこの能力を使うだけだ。

「うまく行ったの」

「ああ、大成功だ」

「ホント、良かったね」

「ああ」

「じゃあ、さよならだね」

「うん。マリー、僕は必ず戻ってくるから、それまでいい子にしているんだよ」

「もう、子ども扱いしないでっ」

「はは、御免。キミはもう立派な大人だよ」

 僕はマリーの頭を撫でながら、能力を使用しようとした。

「じゃあ、元気で」

「あっちょっとまって。はい、コレ」

 マリーが僕に宝箱を差し出してきた。

「これは・・・」

「私の焼いたパンが入ってるよ。元の世界で食べてね」

「ありがたい。頂くよ。じゃ」

「またねーー」

 そして僕はマリーのいる世界から消えていった。


自分の部屋らしき場所に体が顕現したが、僕は無事に元の世界に戻れたか確認するため、窓の外を開けてみた。

 隣の民家には犬のブルドックがいる。どうやらここは元の世界らしい。

 時計の針は僕が出立した日の午後の五時を指している。一時間しかあの世界にいなかったことになっている。

 こいつはよかった。

 無駄に時間が経過していたら周りの人を心配させてしまうからな。

 僕はさっそく宝箱を空けて中のパンを頬張った。美味い。ほんのりとした甘さのある優しい味だ。ありがとう、マリー。パンを食べ終えると、宝箱の底に手紙が置かれていた。

「ルクレティオおにいちゃんへ。無事に元の世界に戻れましたか? 私は元気です。お兄ちゃんがいなくなるのは寂しいけれど、私は一人でも大丈夫です。また必ず遊びに来てくださいね。そのときはご馳走します」

 まずい。僕は何故か手紙を読んでて少しだけ涙が出てきた。マリーは気丈な子だから涙は見せなかったけど、本当は凄く寂しい生活なんだろうな。ああいう境遇の娘を放置している村や国にも腹が立つが、それは僕にはどうしようもないことだ。待ってろよ、マリー。必ずまた行くからな。

「ルクレティオ様、何泣いてるんですか?」

 僕は後ろから話しかけられ、心臓が飛び出るほどの絶叫をした。

「もう、ルクレティオ様うるさいですよ」

「スーデル、お前いるならいるって言えよ」

「そんなこと言われても今来たばかりですからね」

 スーデルは少し申し訳無さそうに頬を指で掻いている。僕は彼女に詰め寄り、抗議した。

「大変だったんだぞ、村人全員に襲われて、マリーに助けてもらわなければ殺されてた。この僕の恐怖がキミに分かるか」

「なんで村人に襲われたんですか?」

「それは、その・・・・物を持っていったら泥棒扱いされたんだよ」

「それじゃルクレティオ様が悪いんじゃないですか」

「事前に世界毎にルールが違うことを話さなかったお前だって悪いだろ」

「はいはい。それで魔王の種子を身に付けた人間は見つかったんですか」

「いいや、それどころじゃなかった。

「じゃあ全くの無駄骨ですね」

「そんなこと言うなよ。魔王の種子がある世界が分かっただけでも収穫だろう」

「そのとおりです」 

 僕の後ろから聞き覚えのない声が聴こえてきた。振り返ると、そこにはまたしても幼い女の子が女神の着る装束を身にまとって立っていた。

「コーデル」

 コーデル? こいつが魔王の種子を探している少女か。長い髪をツインテールにして纏めている。顔はいかにも子供といった様子だが将来美人になりそうな整った容姿をしている。

「ルクレティオ様、初めまして。贖罪の庭のコーデルです。以後お見知りおきを」

「ああ、こちらこそよろしく」

「ルクレティオ様の働きによってようやく魔王の種子のある世界が一つ特定されました。これは快挙です」

「キミは発見できてないのか?」

「パラレルワールドも含めて何万もの世界の中から飛び散った魔王の種子を探し出すのは女神の私でも骨のある作業です。でもこうしてルクレティオ様の力を使えば簡単に特定することが出来ました。ルクレティオ様には感謝の念でいっぱいです」

 スーデルと違い、コーデルはやたらと僕を持ち上げてくれるな。自尊心が刺激されて、こそばゆいが、大いに受け入れることにした。 

「そうとも、スーデル。僕のおかげだよ。感謝するんだね」

「ただその能力はもう無闇に使わない方が無難です」

「なんで」

「この世には沢山の世界があります。今回は普通に人間のいる世界でしたが、中には空気の存在しない世界や、人間の生きられる環境にない世界もあります。ルクレティオ様を危険な目に遭わせるわけにはまいりません。」 

「そんな・・・」

「なのでこれからは魔王の種のある場所の特定はこの私に任せてください。」

「すでに見つけた一つ目の世界は」

「ではそこだけでも魔王の種子を回収しましょう」

「魔王の種子は一体どういう形で人間に害を示すんだ」

「表向き大きな変化は起りません。ゆっくりと魔王化が進行していく毎に食べ物の好みが変わったり、喀血したりします。」

「発芽までの期間は?」

「発芽までの時間には個人差がありますので一概には言えませんが、約一ヶ月程度です」

「一ヶ月か、けっこう日にちがあるんだな」

「あと一ヶ月以内に全ての種を回収するのは現実的ではありません。飛散した魔王の種子も確認できるだけで七つですから、もっと多い可能性もあります」

「ぱぱっと特定するにはこの能力を使うのが一番なんだけどな」

「そうですね。では今度その力を使うときは私を一緒に連れて行って下さい」

 コーデルは思わぬ申し出をしてきた。彼女を連れまわすことになるのか。しかしそうでもしないと、コーデルの言うとおり、異世界は危険に満ちている。しかも今は魔法が使えない。消え去る鳥だけでは戦闘になったときに不利なのは僕の方だ。

「ああ、わかった」

「それと、これを」

 コーデルは僕にベルを差し出してきた。

「女神の魔道具、癒しのベルです。鳴らすと体を癒して、更にマナが一時的に周囲に大量生成されます」

「おお、こいつは便利だ。あっちの世界ではマナが少なくてさ、困ってたんだよね」

「マナは全ての世界に平等にあるわけではありません。世界樹のある中心世界から波紋のようにあらゆる世界へ広がっていきます。中には世界樹から遠すぎてマナの一切存在しない世界も多くあります。ですがそのベルさえあれば、ルクレティオ様はそのような世界においても指輪の力を使うことが可能です。どうぞ今後の試練に役立ててください」

 そう言い残してコーデルは自分の世界へと戻っていった。

「スーデルより彼女の方が優秀だな」

 僕は悪戯っぽくスーデルをなじる。

「ふん、どうせ私はお風呂に入ってるだけですよ」

 スーデルは僕にふくれっ面を見せ付けてきた。

「ところで何でここに来たんだ、キミは」

「それは勿論、ルクレティオ様が大変だから何かお手伝いできないかと」

「確かにこの試練は一人でやるにはハードすぎる。手伝いは必要だ。でも女神であるキミの手を煩わせるわけにはいかないよ」

「ルクレティオ様」

「心配しないで。相棒を作ることにするから」

「相棒?」

「ああ、詳しくは明日のお楽しみ」


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