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第3話 幼馴染

僕が人生2週目に入ってから十五年の月日が流れた。長かった。でも人生2週目は実に楽しいものだった。思えば僕の人生1週目は散々だった。両親は早くに他界。僕は一人で生きていた。

 それでも魔法学校では落ちこぼれで、就職も決まらずくすぶっていたところに乗用車に跳ねられて他界。

 こんな無様な死に方をした人間が異世界を救い、人生2週目を謳歌している。なんて素敵なことだろう。

 両親は死なせないように僕は取り計らったところ、なんと2週目では四歳年下の可愛い妹が出来た。妹は僕になついてくれて、とても幸せだ。

 両親の仕事内容も1週目とは異なっていた。1週目では魔法とは縁遠い平凡なサラリーマンであった父が魔道具を開発する大手企業の開発主任になっており、専業主婦だった母親は魔力省に勤める役人になっていた。

 この変化に最初はとまどったが、次第に受け入れることができるようになった。

 また2週目との大きな違いは学校だ。

 1周目では僕は落ちこぼれだったため、普通の人が行く学校に通わされていたが、2週目の僕は優秀だったため、親が教育熱心になり、剣と魔法を学ぶ学校に入学させてくれたのである。

 この世界には山奥や地方に行くと怪物が存在している。そのため剣術と魔法を習うことは一般市民の教養の一つとされている。

 世界はマナに包まれており、魔綬は使いたいときに使うことが可能だ。この世界の魔法には幾つか種類がある。

 まず炎を出したり凍らせたり、対称に物理的ダメージを与える、いわゆる通念的な魔法は個人の内なるエネルギーを消費して使用する。この中でも破壊魔法は威力が強力だが、人を殺める目的で習得するのを避けるため、魔法の使用は免許制になっている。しかし抜け道を使って魔法を覚え、悪事を働く人間が後を絶たない。

 それとは別に晶術という物があり、これは個人の生体エネルギーと事前に契約した存在と詠唱をすることで繋がり、発散する魔法である。僕の必殺魔法、ドラガリオンはこの晶術に該当する。ドラガリオンは魔族特攻という非常に有難い付加価値がついているが、命を殺めることが出来るのは魔王のみである。他の魔王以外の魔族に使っても大ダメージを与えられるが、命までは奪えない。この世界に存在する魔族は人語を解し、人間と同等かそれ以上の頭脳を持って人間社会に定着している。表向き大人しくしているが、はっきりいって油断のならない連中だ。僕の秘密兵器である魔綬はマナを触媒にするので晶術よりの技術ということになる。

 召喚魔法は純粋な召喚する相手との契約によってのみ発動可能なので、誰でも使える物じゃない。

 この世界では召喚する元の存在に中々出会えないのでほとんど使われてもいない。   

 でも僕は違う。異世界で沢山の精霊と出会い契約を結んできたから召喚魔法を使うことが可能だ。

 家族でキャンプをしていたとき妹がおぼれたことがあり、僕はとっさに水の精霊を召喚して彼女を助けた。

 それを見た父親は驚き、なんでそんな幼い身で召喚魔法が使えるのかと問いただしてきた。流石に人生2週目ですからとは言えなかったので何となく、と答えた。

 すると父親は感極まった表情で「お前は天才だ」と叫び、母さんにもその事実を伝えた。あんまり騒がれると面倒なことになりそうだからと両親を説得し、召喚魔法が使えることは秘密にしてもらったのを覚えている。

 それより1週目との一番の大きな変化は、出会う人の違いだろう。僕には幼馴染が出来た。彼女の名前は漣エローレ雪定。なにやら男っぽい名前をしているがれっきとした女性で、ショートカットの美少女である。物静かで本を読むのが好きな彼女との出会いは幼稚園だった。僕も彼女と同じように読書をしていたら、彼女の方から僕に「本好きなの?」と声をかけてきてくれたのだ。僕はそれに「うん、好きだよ」と答えたことから仲良くなり、毎日幼稚園時代は一緒に本を読んだり、遊んだりしていた。やがて僕と漣は同じ剣魔学園小等部に入学した。

 この学校はエスカレーター式になっており、一度入ると大学卒業まで一本道だ。人生最大の難関であるお受験を僕と漣はわずか6歳で終わらせた。

 僕ほどじゃないが、漣も生まれつき膨大な魔力を身に付けていた。そして生まれ持った剣の才能があった。

 剣術だけなら僕を上回る才能と実力を持っている彼女だが、性格は、すれてなく、とても女性的で可愛らしい性格をしていた。漣は剣と魔法の授業を受けているとき以外はほんわかとしている。ヨーデルやスーデルと違い暴力も振るってこないが、彼女と剣技の授業で対戦するときは気合を入れないと負けてしまう。いや、気合を入れなくても負けてしまう。戦績は僕の百勝百敗。戦績的には互角であるが、試合の内容は圧倒的に漣の方が上をいくテクニックを見せ付けてくる。

 なぜ彼女がこんなに強いのか、一度尋ねてみたことがあったが、彼女は生まれつき、としか答えてくれなかった。

 漣エローレ雪定。はっきり言って彼女は天才だ。剣にしても魔法にしても人生2週目の僕に迫ってくる。だが流石に魔綬は使えないらしく、僕は彼女に見せ付けるように魔綬を使用して彼女を嫉妬させてみせた。

 このように幼馴染として共に過ごした漣と、高等部に進級することになった。

 剣魔学園は魔力省からの魔物討伐依頼も承っており、一種のギルドのような役割も果たしている。そのため学生達にも極僅かであるが生命の危機に瀕することがないよう、確実に倒せる小物しか依頼は来ないが、特に優秀な者には相応のリスクを伴う案件を引き受けることになっている。依頼の拒否権は学生にはなく、討伐可能かどうかを判別するのは教師の役割である。

 その日の朝、僕は少し寝坊してしまい、漣に起されて一緒に学校へ行くことにした。

「高校か、何をやらされるか想像できないね」

 学校へと向かう道すがら、彼女は不安そうな表情を浮かべていた。漣ほどの人間でも高校は緊張するらしい。それは決して単なる怯えではなく、少なからず命の危険のある高校生活に不安を覚えるのは人間にとって普通の感情だろう。

「心配しなくてもいいよ。キミなら上手くやれるさ」

「あら、随分優しいのね」

「事実を言ったまでだよ」

「へー、流呉って私のこと評価してくれてるんだ。嬉しい」

「キミとはずっと一緒に戦ってきたからね。キミの実力は知っているつもりだよ」

「ホント、嬉しい」

 漣は肩まで伸びた髪の毛を靡かせて僕に笑顔を見せてくれた。幼稚園の頃はショートカットだったのに、いつの間にか髪を伸ばしている。長い髪の彼女ははっきり言って美しい。桃色の唇に白い肌。大きな瞳に綺麗な鼻筋。どこに行ってもだれと会っても彼女を美少女だと思わない人間はいないだろう。

 人生2週目最大の違いは、この幼馴染の存在だろう。漣と出会えたおかげで、僕の人生は大きく好転している。優れた魔法使いは身の回りの人間を幸福に導くといわれている。きっと彼女が無自覚に発している幸福の魔力が僕を包み込んでくれているのかもしれない。

「学校だ、着いたよ」

 漣は我先にと校門をくぐった。そして駆け足で校舎の方に向かっていった。ホームルームにはまだ早い。ゆっくり行っても間に合うのに、彼女はちょっとせっかちだ。表向き不安がっているけども、内心ではよっぽど学園生活が楽しみで仕方がないんだろう。かく言う僕も学園生活は楽しみだ。1週目とは違い、一体どんな人間に出会うのか想像がつかない。とてつもなく悪い奴がいるかもしれないし、逆に天使のような連中もいるかもしれない。できれば皆優しい人たちであって欲しいのだが、剣魔学園は生徒間の競争を良しとする校風がある。そのため学校の生徒内の決闘は小学校の頃から頻繁に行われていた。小等部、中等部であれほどのライバルと戦ったのだから、高等部はもっとえげつない戦いが待ち構えている可能性が高い。僕は漣以外の人間との決闘経験が浅いので、少し緊張しているのは確かだ。

 というか、はっきり言って漣以外の人間で僕と対等に戦える人間はいなかった。だから決闘は常に漣とだった。漣、彼女は本当に強い。


政府からモンスターの討伐の仕事も引き受けているぐらいだから、もう飛び級して大学に行っても通用するだろう。一方の僕は高校生になるまでは目立たないように努力してきた。子供の頃からあまり目立ってしまうと人生2週目でも凶悪な怪物退治を依頼されそうで怖いからだ。

 僕が通う剣魔学園は、政府の怪物討伐要請に応じて実力のある生徒を派遣する制度を設けている。僕は一度も派遣要請を受けたことがない代わりに、漣が一人、気を吐いている状況だ。

 僕は甲羅に篭った亀のように政府の要請が来ると体調が悪いふりをして乗り越えてきた。そんな僕を漣は本気で心配してくれるので、僕としては少々心苦しい。でも分かって欲しい。人生2週目を僕は満喫したいんだ。青春したいんだ。できれば漣と付き合って結婚して子供を3人ぐらいもうけたいのだ。そんな人生を送ったっていいじゃないか。僕にはそういう生き方を選択する権利がある。

 なんといっても異世界を救った英雄なのだから。

 僕は他の生徒達が駆け足で校舎に向かう中、悠然と歩いて一年生の校舎へと向かった。僕と漣は同じクラスになった。今日からは長なじみでクラスメイトだ。

「よかった、流呉と一緒のクラスで」

 ホームルームが終わった後、教室内で漣は僕にそう話しかけてきた。

「僕もキミと同じクラスで嬉しいよ」

「ホントにそう思ってる?」

 漣は意地悪い目つきをして僕をおちょくってくる。

「ホントにホントだってば」

「はいはい、わかりました。それじゃあ早速今日の放課後、高校入学記念で決闘しよう」

 笑顔で怖いことを言って来る漣を必死になだめすかし、僕達は授業を受けた。


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