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31話 怪物の戦い

   31



 フード女と剣を交わしているのは、狂戦士と化したマリナさんだった。


 明らかな格上を相手によく食い下がっていたが、限界はとっくに超えていた。


「――世界ニ、秩序ヲ。反逆者ニ、絶望ヲ」

「う……っ、ぐっ」


 さすがに速度だけを武器では避けきれなくもなる。

 突き出された木の根に肩を貫かれて、よろめく。


 追撃の槍が突き出される。


 そこに、割り込んだ。


「おおぉおおおおお!」


 気を抜けば理性を吹き飛ばされそうな獣性と引き換えに、速度は以前と比べものにならない。


 一足で、マリナさんの背後へ。

 びっくりした顔をする彼女を引き寄せる。


「グレンくん!?」


 当然、このままなら彼女の命を奪おうとしたフード女の追撃に、まとめて貫かれて終わりだ。


 けれど、そうはさせない。


「世界ニ――秩序、ヲ!?」


 不気味なつぶやきがとぎれる。

 刺殺の一撃が、獣の分厚い毛皮と肉に防がれたからだ。


「これ以上、好き勝手させないぞ」


 半実体化した獣の腕。


 僕が盾を持っていた左腕ごとおおうようなかたちで顕現させた、獣の左腕だった。


 前世の世界で魔界を支配した、万魔の王が従えた大いなる獣の肉体だ。

 そう簡単には貫けない。


 そして、この力は逆鉾の君と同じで、僕の意思に従う。


「お返しだ!」


 狐のしっぽがそれぞれ蛇のように、フード女に襲いかかった。


 殴りつけたその体が、大きく弾き飛ばされる。


「グ、グレンくん、その姿――!?」


 そこでようやく、腕のなかでマリナさんが慌てふためいた声をあげた。


 ただ、その疑問に答える余裕はなかった。


「軽い……?」


 大妖狐のしっぽの一撃は、筋肉だるまのオーガを両断した逆鉾の君の全力の一撃に匹敵する。

 まともに叩き込めばどんな相手でもダメージを与えられるはずだ。


 けれど、手ごたえが軽かった。

 半分受け流されたうえ、防御を固められた?


 だとすれば、恐るべき反応速度だ。


 とはいえ、相手は体勢を大きく崩しているのも確か。

 追撃をするなら、いましかない。


 そう思ったところで、タマモの警告が耳朶を叩いた。


「主様!」

「――ッ!」


 ハッとして振り返った先、フード女と入れ替わるように視界に飛び込んでくる白い怪物の姿があった。


「『深層域の怪物(アビス・ゲート)』!?」


 腕のなかのマリナさんが声をあげる。


 こいつは確か、逆鉾の君とやりあっていたはずなのに。


 いや、そうか。


 この怪物と一緒に現れたフード女は、こいつにある程度、指示を出せてもおかしくない。


 見れば、羽のような複腕のひとつが切り落とされている。

 鉾の一撃を受けても無視させて、こちらに回してきたのか。


「まず……っ」


 羽の腕が襲いかかってくる。

 まともに一撃でも喰らえば、人の体では即死する。


 防がないと。


「ぐうううううううう!?」


 感覚も獣並みに強化されているおかげで、どうにか目で追うことはできた。

 とっさに獣の腕で体をガードしつつ、羽の複腕の攻撃を尾を使って受けとめる。


 だが、一手、足りなかった。


「あっ」


 獣の腕が弾き飛ばされる。


 開いた視界、間合いの内側に白い怪物が飛び込んでくる。


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