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30話 顕現

   30



「――万魔殿(パンデモニウム)接続」


 傷付けられた仲間たちの姿を前に、前世の自分にかつてなく近付けた実感を胸に、その力を呼び寄せる。


「契約をここに。其は万魔殿の第十柱。万国傾ける退廃の大怪狐」


 選んだのは、唯一、十柱の眷属で今もそばにいてくれている彼女。


 結果は――成功。

 万魔殿から第十柱の力の引き出しには、部分的にではあるが成功する。


 逆鉾の君と同程度の魔力規模であれば、いまの自分なら引き出せるようだ。


 続いて、真体の顕現(けんげん)

 ……は、失敗。


 タマモが語っていた、滅びの獣のもうひとつの肉体である真体を顕現させるのが、本来の万魔の王の力だ。


 けれど、いまの自分では顕現させることができない。


 最上位の精霊使いとしての力量がないからだ。


 けれど、かまわない。

 ここにいるのは万魔の王ではなく、自分なのだから。


 自分にできることをする。


 いまはそう思えるから。


 詠唱を追加した。


()()()()宿()()


 万魔殿から引き出した力を、外ではなく内側へ。


 これまで精霊使いとして、外の魔力(オド)を自身の体に流すことはしてきた。

 これは、その応用だ。


 ただし、とてつもない力技の。


「……ガッ!?」


 途端、雷に打たれたような衝撃が体に襲い掛かった。


 流れ込んできた力が肉体を蹂躙(じゅうりん)したのだ。


 当たり前のことだった。

 暴れまわる雷のように、純粋な力は普通なら制御できるようなものではない。


 けれど。


「……ぐっ」


 それを、ぎりぎりのところで乗りこなす。


 そうすることが、自分にはできる。


 暴走ぎりぎりの魔法戦闘で、無茶苦茶な魔力行使には慣れているから。


 ――期待外れのお荷物、と。

 そう呼ばれた勇者のまがいものとしての時間さえ、いまの自分を作り上げた時間だ。


 万魔の王と同じことはできなくても。

 僕は僕として、この力を使いこなす。


 だから。


「おいで、玉藻前(たまものまえ)


 ここに、世界を滅ぼす力は顕現する。


   ***


「……主様?」


 最初に気付いたのはタマモだった。


 当然といえば当然だ。

 これは本来、彼女の力なのだから。


「……グルルゥ」


 自分の喉の奥から、獣のようなうなり声がもれるのを聞いた。


 まるで洪水のようだった。


 力だ。


 体を突き破りそうな力があふれてくる。

 そのまま理性まで流されそうになる。


「……ぐっ」


 のを、奥歯を食いしばってこらえる。


 自分にはやらなければいけないことがある。

 理性を失っている暇なんてないのだ。


「……しっかり、しろ」


 叱咤して、自分の体を確認した。


 視界の端に、なびくものがあった。


 それは4本の長いしっぽだ。

 尾部に近い位置から、しっぽが生えているのだ。


 滅びの獣の第十柱のカケラ。

 そのまま実体化させるほどの力量がなかったので、自分の体を核にして具現化させたものだった。


 いうなれば、憑依(ひょうい)を介した顕現だ。


 もっとも、万魔の王はこんな使い方をしていなかったはずなので、これは僕の独自魔法(オリジナル)だけれど。


 この身に宿ったのは、あくまでも万魔殿にある力だけの存在だ。

 本能部分だけしか残っていないので、タマモの理性はない。


 制御に失敗してしまえば、この獣性は僕の体も食い尽くしてしまうだろう。


 しかし、その力は本物だ。


「……行く、ぞ」


 獣性を呑み込んで、視線を巡らせる。


 その先にいるのは――無機質なつぶやきをたれ流すフードの女の姿。


◆体調崩してたので全体的に予定がいろいろ狂ってますがとりあえず再開です。

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[一言] 快癒おめでとうございます。
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