26話 人間たちの抗い3
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「――ッ!」
自爆攻撃で吹き飛ばされる、ふたりの少女。
狂戦士化したマリナさんのほうは自分でどうにでもできるだろうけれど、エステルさんはまずい。
このままだと、壁に打ち付けた氷細工みたいに粉々になってしまう。
「エステルさん!」
とっさに私はその小柄な体を受けとめた。
後方に飛びながら、その衝撃の大半を引き受けたうえでやわらかく減衰させる。
毒で弱った体に相当の衝撃がきたけれど、彼女たちが介入しなければ致命的な一撃を受けていたことを思えばなんてことはない。
「うぐ……っ」
結果、うめき声をあげながらも、私はどうにか受けとめるところまでは成功させる。
けれど、そもそも、魔法を放った時点でエステルさんは重傷だった。
「なんで、こんな無茶なことを……!」
近くで彼女の状態を改めて確認し、私は思わず顔をしかめる。
主様ほど過剰魔法の経験はないせいか、重いフィードバックで彼女の両腕は内側からはじけていた。
そのうえ、至近で炸裂させた風の一部は逆流を避けられず、戦闘衣の前がバッサリと裂けて血をこぼしている。
「う、うぅ……」
「お待ちを。いま、回復魔法をかけますから」
とにかく、治療が必要だ。
うめき声をあげる彼女を私は急いで地面に横たえようとする。
しかし、この期に及んでなお、まだ私はエステルという少女のことをわかっていなかった。
彼女は痛みでうめき声をあげていたわけではなかったのだ。
「ううう……ぁあああ! タマ、モ、さん!」
痙攣する肺を酷使し、絞り出すように彼女は私を呼ぶ。
驚きに目を見開く私の目の前で、傷ついた腕が上がる。
痛みを噛み殺し、その手が私の服の胸ぐらをつかみ上げた。
「エ、エステルさん……?」
吹き飛ばされてまだ平衡感覚も壊れたまま。
衝撃と痛みと気持ち悪さでぐちゃぐちゃなのは、真っ白な顔を見ればわかる。
それでも彼女は無理やり身を起こすと、体ごとぶつかるように引き寄せた私の顔を、下から覗き込んで叫んだ。
「顔を上げて!」
「――」
紫水晶のような瞳が輝いていた。
「立ち上がって! 抗うの! うずくまっている暇なんてない! あなたには、守らなくちゃいけないものがあるでしょう!」
「……あ」
主様の宝石。
いまこのときまで、その価値を私はわかっていなかった。
主様の宝石は守られるべきものだと知っていた。
けれど、それは守られているから価値があるわけではない。
その輝きこそが、価値を決める。
この極限状態で、初めて私は主様の隣にたつ彼女の輝きを見たのだ。
それは、命の輝き。
守るべきものを持つ者の、意思のきらめきだった。
そして、それこそが再び脳裏に過去の情景を蘇らせる。