24話 人間たちの抗い
24
目が覚めたとき、私が考えたのは自分になにができるのかということだった。
幼なじみの少年とも、その彼の眷属とも私は違う。
悲しいくらいに、力がない。
けれど、足りない力でも使いようだ。
私はそれをよく知っている。
ずっとずっと、彼のことを見てきたのだから。
「シャーロット様。マリナ様」
「ああ。エステルさん」
真っ先にコンタクトを取ったのは、かろうじて動ける『輝きの百合』のふたりだった。
声をかけると、振り返ったシャーロット様が息をついた。
マリナ様も回復魔法で腕はつながったらしく、体を起こしていた。
「無事だったのですね」
「はい。グレンのおかげです」
また、助けられてしまった。
まだグレンの意識が戻ってないのは、私をかばったせいだった。
「グレンさんはどうですか?」
「命に別状はないと思います」
「それはよかった」
シャーロット様が安堵の吐息をつく。
彼女はグレンのことを買ってくれている。
いや。そうでなくても、誰に対しても彼女は気遣いをしたに違いない。
そういう性質の人だ。
決意を宿した目が、私を見た。
「どうかエステルさんは、逃げてください」
「そういうシャーロット様たちはどうするつもりですか」
「私は……私たちは、残ります。タマモさんたちの援護をしなければ」
「あれをそのままにはしておけないもんね。下手すれば中層で何百人死ぬかわからないもん」
シャーロット様が決意を表明すれば、腕がつながったばかりのマリナ様も言う。
そこには、国の雌分類冒険者で最高のパーティとしての責任感があった。
「それに……なんかグレンくんに助けられた気がするんだよねー」
失血で真っ青な顔をしたマリナ様は、荷物袋から毛皮のようなものを取り出しながら言う。
「まあ、腕ぶった切られて記憶は飛んでるんだけどさ。多分、間違ってないと思う。助けられた恩は返さないとね」
そこに理屈はない。
けれど、直感と確信があった。
「少なくとも、タマモさんとサカホコさんは無事帰すよ。だから、安心して」
口調は軽く、まなざしは断固として、マリナ様が宣言する。
であれば、十分だ。
「よかった」
私は、ほっと息をついた。
ただし、彼女たちの提案に頷くつもりはなかったけれど。
「私も戦います」
「正気?」
この緊急の場面で、マリナ様は言葉をかざらなかった。
「エステルさんは、冷静な判断ができるほうだと思ってたんだけど」
「私が普段通りに魔法を使っても、囮にもならないのは理解しています」
所詮、私は銀級冒険者だ。
魔法使いという一撃が強い特性上、時間をかけて一発を強くすれば黄金級冒険者相当の冒険者パーティの後衛としてはかろうじて背伸びすることができても、そのまた上の魔法銀級冒険者でも敵わない化け物相手ではなにもできない。
後衛から最大威力の一撃を叩き込もうとしたところで、避けるか防がれて終わりだろう。
「だけど、策はあります」
その策を聞くと『輝きの百合』のふたりはポカンとした。
「正気?」
さっきとまったく同じことを、マリナさんは言った。
ただ、そこにこめられた思いは違ったものになっていた。
私は迷うことなくうなずいた。
「もちろんです」
自分は守られてばかりだ。
だけど、だからといって、このままでいるつもりはない。
だって、彼と約束したから。
私たちは、ずっと一緒にいるのだと。
それは決して――守られるばかりを意味するものではない。