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22話 従者の戦い6

   22



 打って変わってなめらかな口調だった。


 一瞬、どこかで聞き覚えがあるようにも感じたけれど、そんなことは、ぶつけられた内容を聞いて頭から吹き飛んでしまった。


「貴様……」


 誇りを口にしたことを愚かと嗤われた。


 それは、あの御方の下僕として、絶対に許してはいけない侮辱だ。

 瞳孔が開くのを自覚する。


 けれど、そんな爆発する寸前の私に女は言ったのだ。



「そのような誇りがあるというのなら――どうしてお前はここにいる?」



「……え?」


 よくわからない言葉だった。

 そのはずだ。


 けれど、飛び出しかけた足はとまってしまっていた。


 まるで私のなかのどこかが、心のやわらかいところを突き刺されてひるんだみたいに。


 いや。


 いやいやいや。

 そんなこと、ありえない。


「なにを……なにを、言っているのですか」


 自分がどうしてここにいるのか?


 そんなの、主様がここにいるからだ。

 この世界に、転生したからだ。


「私は主様についてきた。それだけです」


 そんなことは、今更、考えるまでもない。


 だから、これまで考えなかった。


 ……本当に?


 ふと脳裏によみがえったのは、いつかエステルさんに問われかけた言葉だった。


 ――そういえば、前から気になってたんだけど。

 ――ふたりはそもそも、どうして。


 あのときは、気にもとめなかった。


 けれど、心のどこかでひっかかっていた。

 なにか根本的なことを尋ねかけた言葉のように思えたから。


 当然、気付いているべきことに、自分が気付いていなかったとするのなら……。


「それだけか。はは。考えたことがなかったか? それとも、考えたくなかったか?」


 心のうちを読むように、女は木の槍の代わりに、言葉の槍を突き刺してくる。


 深く、深く。

 その血を流せと。


 受け入れられない事実を、えぐり出してくる。


「お前がついてきたという主――そもそも、なぜ彼は生まれ変わった?」

「……!」


 自分は主についてきた。

 だったら、契約を交わした主人が、この世界に転生したのはなぜなのか。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それは、当たり前の理屈。


 そして、これまで私が思い至らなかったこと。


 恐らく、私と違って「そもそも」と問いかけたエステルさんは気付いていた。


 けれど、彼女はその疑問を最後まで口にしなかった。


 当然だ。

 あなたたちはなぜ死んだのか――なんて、まともな神経で仲間に訊けることではないのだから。


 だけど、敵に対してはそうではない。


「なにが誇りだ」


 不吉なかすれた声が、真実を隠していたヴェールを剥ぎ、白日のもとにさらす。


「貴様たちは、主を守れてなどいないのだ!」

「あ」


 その瞬間、脳裏に記憶がはじけた。


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[一言] このカルト元配下の別派閥とか?
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