12話 任された場所
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「私たちの今回の調査していた未踏領域は、基本的には二箇所から入ることができる」
アレクシスさんは地図を広げて、そのうち二箇所を順番に指さした。
「こちらが私たちが調査を始めた場所で、そこから何日かかけて、ここまでローラー作戦で探索を行ってきたわけだ。よって、そちらには下層モンスターがいないことは、もう確認できている」
「もう一方がこの広間がつながっている通路ですね」
僕が階層マップを指さし確認すると、アレクシスさんはうなずいた。
「そうだ。当面はここさえ押さえておけば、この階層に未踏領域から下層モンスターが侵入する恐れはない。もちろん、逆側の出入り口からも数日程度あればモンスターが出てきてしまう可能性は否定できないが……それだけ時間稼ぎができれば、この階層で探索をしている冒険者に警告を行き渡らせるには十分だろう」
「とにかく、いまは原因解明にアレクシスさんが動いて……同時に、この場所を守ることが重要ってことですね」
「ああ。それは君たちにしかできないことだ」
この階層にいる中堅冒険者たちの安全は、僕たちの働きにかかっているってことだ。
責任重大だけれど、信頼には応えたい。
アレクシスさんたち『護国の剣』が未踏領域に向かったあと、早速、僕たちはシャーロットさんたちと広間の入り口に陣取った。
「対応は順番にしましょう。長期戦になります。きつくなればおっしゃってくださいね」
「わかりました」
上位の黄金級冒険者パーティとして気づかいを見せてくれるシャーロットさんだったけれど、僕たちも甘えてばかりはいられない。
ここにいるのが黄金級冒険者パーティ『輝きの百合』と、下層を探索も可能な僕たち銀級冒険者パーティとはいえ、敵の数が多くなれば危険もある。
特に今回、最初になだれこんできたモンスターの数は多かった。
これは結果論ではあるのだけれど、モンスターが中堅冒険者たちを狙って『仮宿』内に拡散してくれたおかげで、各個撃破できた部分もあるのだと思う。
けれど、いまはもう『仮宿』内に他の冒険者はいない。
モンスターを通してしまえば、そのまま『仮宿』を素通りして階層に散らばってしまう可能性が高いので、どれだけの数が押し寄せてこようが入り口で迎え撃つ必要がある。
ただ、その一方で迎え撃つってことは、準備ができるということでもある。
これは大きい。
たとえば、後衛との間にバリケードがあるだけでもずいぶんと違う。
さいわい、もともと『仮宿』の入り口付近には、防備のためにバリケードが設置されている。
最初の流入時に破壊されてしまっていたけれど、補修すればまだ利用できるはずだ。
「シャーロットさん。ひとつ提案があるんですが――」
僕がそう切り出すと、シャーロットさんも似たようなことを考えていたらしく、すぐに乗ってくれた。
補修のための材料は、テントを壊されたのがいくらでもあった。
このなかで一番腕力と体力があるのは逆鉾の君なので、余裕のあるタイミングを見計らって指示を出して、バリケードの穴を埋めさせる。
壊れたときにからまったテントの山をそのままひきずってくる逆鉾の君を見て、マリナさんが「すごーい!」と歓声をあげていた。
モンスターの流入はそれからも散発的に続いた。
バリケードを利用しつつ待ちかまえる僕たちは、安定してそれを撃退していった。