表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

66/90

7話 脱獄者たちの末路4

   7



 背後から忍び寄ったモノが、カークの背中から一撃を加えた。

 対応するどころか、気付くことさえできなかった。


 ……当然のことだった。


 モンスターといつ遭遇するかわからない迷宮で、エドワードたちは普段通りに警戒をしていたつもりだった。


 しかし、これまでとは決定的な違いがあった。


 彼らの言うところの『期待外れのお荷物』――グレンがいなかったことだ。


 ちょっとでも考えれば、わかったはずだ。


 パーティの索敵(さくてき)は、すべてグレンがやっていたのだから。

 その彼がいない状況で『普段通りの警戒』をしていたのでは、足りるはずがないのだ。


 ましてや、ここは彼らが普段狩り場にしている中層とはいえ、迷宮の未踏領域。

 彼らの知らないことではあるが、迷宮の異変が起こっているまさにその舞台でもある。


 罪から逃げ込んだその先こそが、彼らが末期に抱く絶望と死の入り口だったのだ。


「あ、ああ、あああぁああああああああ!?」

「カーク!?」


 悲鳴とともに、カークが引きずられていく。


 エドワードは反射的に手を伸ばしかけるが、恐怖が体をこわばらせた。


 そのせいで手をつかむこともできず、ただその場には、引きずられた床の血の(あと)だけが残された。


「うっ、うわああああああ!?」


 パニックにおちいったマーヴィンが、悲鳴をあげて我先(われさき)にと逃げ出していった。


 エドワードは金縛りにあったように動けずにいた。

 別に、自分の女神の定め人(ステディ)を取り戻すため、なんてことはない。


 そんなことは一切思い付かなかった。


 ありえないありえないありえない、と。


 ただそれだけが頭を埋め尽くしていた。


 いうなれば、一種の現実逃避だ。


 カークが引きずられていった通路の向こう側から、押し寄せてくるモンスターの影が目に映っても同じだった。


 凶悪な下層のモンスターたち。

 迫りくる絶望に気が遠のいて――次の瞬間、腹に突き刺さったものが激痛で意識を引き戻した。


「ぎゃああぁあああああ!?」


 悲鳴は長く続いた。

 楽には死ねなかった。


 だから、それは発狂する青年が末期に見た幻だったのかもしれない。


「あ、え……?」


 激痛で大きく見開いたエドワードの目に映りこむものがあった。

 ありえない光景だった。



 さっき見かけたフードの人影が、うごめく怪物たちの間を歩いてきたのだ。



 モンスターの間を、人間が歩いてくるなんてありえない。


 だから、これは幻だ。

 そうでなければ、夢だ。


 最悪の悪夢だ。


「――界ニ、秩序(ちつじょ)ヲ」


 悲鳴をあげる体力すら失って痙攣(けいれん)するエドワードの耳に、なにかが聞こえた。


「――世界ニ、秩序ヲ。反逆者ニ、絶望ヲ。世界ニ、秩序ヲ。反逆者ニ、絶望ヲ」

「……ッ!?」


 壊れた蓄音機のように繰り返される、(うつ)ろな(こと)()


 その声色は、ギシギシと揺れる首吊りの(なわ)の音にも似て。


「ひぁああああああああああ!?」


 その瞬間、ついにエドワードは自分の正気を見失った。


「――オオ! 神ハ大イナル慈悲ヲ与エン!」


 振り下ろされたモノが、エドワードの頭を叩き潰した。


 絶望と苦しみだけを抱いて、彼の意識は永遠にとだえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ