5話 脱獄者たちの末路2
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職員を殺された組合からの追っ手が、より大がかりなものになることは想像にかたくない。
そもそも、そうでなくても、自分たちが捕縛されてしまうことになった原因の組合での一件で、エドワードはマーヴィンの言動に不満を抱いていた。
なにしろ彼が口を割ったせいで、自分たちがエステルをおとりにオーガから逃げ出したことが、あの場で明らかになってしまったのだ。
あのとき、自分は関係ないと言い張ったマーヴィンが自分だけ助かろうとしたことを、エドワードは忘れていなかった。
とはいえ、自分とカークのふたりだけで迷宮で生きていくことが難しいのは、さすがに理解できている。
ここは我慢だった。
逆に言えば……状況が変わり次第、必要があればすぐにマーヴィンのことは切り捨てるつもりだったが。
エドワードは、残る最後のひとりの仲間であるカークに目を移すと、内心で笑みをこぼす。
そう、必要があれば肉壁のマーヴィンは切り捨てていい。
自分と――自分の女神の定め人であるカークだけが生き残ればそれでいいのだから。
エドワードはカークの手を握ると、考えを切り替えた。
「……とにかく、ここまで来ればあとはどうにかできます」
「どうするんだ?」
カークの問いかけに、わずかにエドワードは表情をゆるめた。
「裏社会にもぐります。さいわい、私はそちらともちょっとしたつながりがありますからね」
巨大な都市には膨大な数の落伍者が生まれる。
必然として彼らは集まり、やがて裏社会という闇を作り出す。
闇のなかには、そうそう簡単に司法の手はおよばない。
タイミングを見計らって街に戻り、裏社会にもぐるのだ。
「ただ、警戒が強いうちにすぐ街に戻るのは危険なので、ほとぼりが冷めるまでは迷宮で過ごす必要があります。その間、食料や必要な物資を手に入れなければいけませんね」
「どうやって?」
「簡単です。下位の冒険者を襲って確保すればいいんですよ」
あっさりとエドワードは結論した。
ちなみに、ここに来るまでの間にも、すでに武器を奪ってきている。
先日、エステルに攻撃したことはあくまで緊急時のことで、正直、この手で人を殺すのにはまだ抵抗があるのは事実だが……自分たちが生きるためには仕方ないことだと割り切っていた。
自分が悪いわけではない。
状況が悪いのだ。
むしろ自分は被害者と言える。
「とにかく、この場はしのいで、どうにか街に戻って裏社会にもぐり込みます」
冒険者としての道は断たれてしまったが、自分ほどの才覚があればどこでだってのし上がっていける。
自分ならできると、エドワードは確信すら抱いていた。
……もっとも、これは彼が気付いていないことではあるが、手段を選ばない性格とはいえ、あくまで一冒険者でしかなかった彼が接触した裏社会はごくごく浅い領域に過ぎない。
もぐりこむことができたとしても、前途多難ではあっただろう。
ただ、知らないことはいくらでも妄想できる。
エドワードの想像の翼は、どこまでも広がっていった。
たとえば、そうだ。
いずれ裏社会の顔役のひとりとなれば、表の世界にもある程度の影響力を持つことができるだろう。
そうすれば、自分たちをこんなみじめな目に遭わせた人間にも復讐できる。
犯罪者として引っ捕らえられてから今日まで、自分を尋問した人間たち、牢に入れた看守、組合の職員の顔が次々に浮かぶ。
彼らに復讐をしてやるのだ。
いや。それどころか、ゆくゆくは組合そのものにさえ影響を与えることさえできるかもしれない。
それこそが、冒険者としての道を断った組合に対する、最大の復讐になるのではないだろうか。
そう考えれば楽しみでさえあった。
笑みがこぼれる。
しかし、その口もとが不意に大きくゆがんだ。
「……」
復讐の対象として当然あるべき、とある少年の無様な姿だけが、どうしても想像することができなかったからだ。