4話 脱獄者たちの末路1
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時間は少し遡る。
迷宮の通路に、男たちの荒い吐息が響いていた。
先頭を行くのは、粗末な服に身を包んだ青年だった。
ただ、よく見ればその体は、細身ながらも鍛えられたものであることがわかる。
「ここまで来れば、もう大丈夫でしょう」
そう言って足をとめたのは、グレンたちの元パーティメンバー、神官のエドワードだった。
ただし、装備のたぐいはすべて取り上げられて、囚人用の粗末な服に着替えている。
パーティの他のふたり、重戦士マーヴィンと剣士カークも同行していた。
本来であれば、犯罪者として収容されて組合から厳しい取り調べを受けているはずの3人だった。
それがどうして、迷宮などにいるのか。
「どうにか逃げ切れましたね」
彼らは囚人として捕えられていた牢から、逃げ出してきたのだった。
もちろん、組合も簡単に逃げ出せるような生ぬるい警備をしていたわけではない。
逃げ出すことができたのは、協力者がいたためだった。
「エドワードのツテがなければ危なかったな」
「ええ。思わぬところで役立ったものです」
カークの言葉に、エドワードは小さくうなずいた。
実はエドワードが迷宮の未踏領域の情報を買い付けたのは、組合に所属するとある職員からだった。
職業倫理に欠けるところのあったその職員は、業務上、知ることができた有益な情報を、組合が一般に開示する前に金銭と引き換えにエドワードに流していた。
当然、これは違法な行為であり、明らかになれば職を失いかねない。
エドワードたちが犯罪者として取り調べを受けるなかで、余罪として自分のことが口にされるのを恐れた彼は、衝動的に逃亡の手引きをしたのだった。
結果として職を失うどころではない罪を重ねていることになるのだが……そのあたりまで考えが回るなら、最初から職業倫理に反してまで小金稼ぎのために情報を売り渡したりしていないだろう。
とはいえ、罪を重ねた今後がどうなるのかということを、彼が気にする必要はすでになくなっている。
永遠に。
「まさかやつをマーヴィンが殺してしまうとは思いませんでしたがね」
「うるせえよ」
エドワードが言い、マーヴィンが低くうなるように返した。
逃亡の手引きをするために顔を合わせた際、協力者の職員は逆上したマーヴィンの手で殺されてしまっていた。
あの未踏領域で遭遇することになったオーガの件について、事前に伝えていなかったというのが、その理由だった。
お前のせいで大変な目に遭ったと。
あくまで一般人でしかない職員に、迷宮中層でモンスターとやり合っている中堅冒険者のなかでも腕力に自信のある重戦士が襲いかかったのだ。
とめる暇もない凶行だった。
もちろん、職員はまさか未踏領域にオーガがいるなんて事実を知るはずもなかったので、伝えるもなにもなかったのだが、そんなことは激昂したマーヴィンの知ったことではなかったようだ。
無駄な殺人を行ったマーヴィンに、エドワードは内心で苛立ちをつのらせていた。