3話 思わぬ再会
3
身長差は2倍近く。
リーチの差はそれだけ大きく、攻撃は重い。
重戦士なら一撃は防げても乱打にひざを屈し、軽戦士なら避けきれなくなった時点で一発もらえば吹き飛んでしまうだろう。
黄金級冒険者に足を踏み入れた程度では、絶対にオーガと一対一になってはいけないのだ。
……けれど。
そうした原則は、あくまで一般的な冒険者についての話だ。
「おおおおおっ!」
負けじと気合いを込めて、立ち向かう。
嵐のような攻撃をかいくぐり、魔法による一撃を加え、芯を外した攻撃なら受け流す。
これまでもやってきたことだ。
敵が中層のオークから下層のオーガに変わったけれど、こちらも速度と腕力、魔法は格段に上がっている。
もともと、冒険者グレンという存在は単独での戦いに特化している。
たとえそれが、侮られて恵まれなかった境遇の結果だとしても――そこで努力して得たものは確かにあるのだ。
思えば、アレクシスさんが評価してくれていたのもそのあたりだったように思う。
その事実を卑下するのはもうやめた。
そうして暴力の嵐のなかを喰い下がり、そこにエステルの援護が来る。
「――我が手に宿れ、火のかけら!」
炎弾がオーガに叩きつけられた。
速度重視で下級攻撃魔法を使ったらしい。
威力の高い魔法攻撃とはいえ、筋肉の鎧で防がれてダメージは大きくない。
しかし、この場合はそれが正解。
僕に対する攻撃がゆるむ。
もちろん、これでは倒すまでにどれだけ時間があっても足りない。
ただ、僕はある程度の時間を稼げばいいのだ。
「――お待たせいたしました」
暴れ回るオーガの脇に、飛び込んでくるひとりの少女。
もう一方のオーガを秒殺してきたタマモだった。
なかなか殺せない僕に意識を奪われていたオーガの反応は致命的に遅れた。
「はぁああ――ッ!」
高く跳んだタマモの薙刀がオーガの首筋を引き裂く。
旺盛な生命力を持つオーガは即死こそしなかったけれど、よろめいた巨体にさらに返す刃が襲いかかる。
数秒のうちにオーガは動きをとめた。
「おしまいですね」
くるりと薙刀を回転させて、血糊を飛ばすタマモの姿は出会いのときを思い出させる凜々しいものだ。
鋭い視線が、こちらを向くとふわりとゆるんだ。
「ご無事ですか、主様」
「ああ。怪我はないよ。さすがタマモ、早かった」
「いえ。主様が気を引いてくださっていたので楽でした」
ニコリとしてから、タマモは耳を動かした。
耳の向いているほうを見ると、こっちに来ているマリナさんたち『輝きの百合』の姿があった。
「やっぱり、グレンくんたちだった。そっちも倒してたんだ?」
「こっちも……ってことはマリナさんたちも?」
「うん」
ここに現れた下層のモンスターは、僕たちが倒したオーガだけじゃなかったらしい。
「一体、どこから……」
「未踏領域です」
パーティリーダーのシャーロットさんが歩み出てきた。
「どうやら敵は未踏領域側から、ここに現れたようです」
「未踏領域から……?」
そうか。
未踏領域で起きていた迷宮の異変。
下層のモンスターが現れていたのは未踏領域だったけれど、いつまでもそこに留まっているとも限らない。
この『仮宿』は未踏領域に近い。
もっとも、これまでは未踏領域にいたはずのモンスターが、僕たちが倒したものとシャーロットさんたち『輝きの百合』が倒したもの、揃ってこちらに押し寄せたのは不可解なところはあるけれど……。
シャーロットさんが言う。
「すでに『仮宿』のあるこの空間と未踏領域方面につながる3番入り口はアレクたち『護国の剣』が固めています。ただ、すでに『仮宿』に入ってきたモンスターがいるようです。私たちはその掃討に移ります。グレンさんたちには、私たちとは分かれて討伐に動いてほしいと思いますが、かまいませんか」
「わかりました」
この状況、対処できる僕たちがいたことは幸運だ。
いや。アレクシスさんが組合の依頼を受けて動いていたことが功を奏したというべきだろう。
うなずいたところで、悲鳴が聞こえた。
また、モンスターか。
そう思って振り返った先に、下層のモンスターの姿。
そして、追いかけられる人影があって――。
「え? あれって……」
エステルが驚いた声をあげる。
僕も目を見開いていた。
「マーヴィン……?」
僕たちの以前のパーティメンバーのひとりが、そこにいた。