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2話 オーガとの再戦

   2



 テントから出ていた僕たちが目に付いたのか、オーガがこちらに駆け出した。


「あっ」


 途中、気紛れのように振るった棍棒が、粗末なテントをあっさりと吹き飛ばす。

 なかにいる冒険者たちのものだろう悲鳴があがった。


 それで異変に気付いて、他のテントにいた中堅冒険者たちも次々に飛び出してくる。


「な、なんだっ!?」

「いまの音は!?」


 口々に言いながらあたりを見回してオーガに気付く。


 これは……まずい!


「出てきちゃダメだ!」


 叫んだけれど、間に合わない。


 迫るオーガの威圧を前に、テントから飛び出してきた冒険者たちが射すくめられたように動きをとめた。


「ひ……っ」


 引きつったような悲鳴。

 その直後、オーガの棍棒が彼らをまとめてなぎ払った。


「ガアアァアアア――ッ!」


 咆哮(ほうこう)耳朶(じだ)を打つ。


 装備が砕け、鮮血が舞う。

 目の前で、冒険者たちだったものが吹き飛ばされていく。


「――」


 その光景に――ひょっとしたらあったかもしれない、過去の自分とエステルの姿が重なった。


「ひゃあああああっ」


 悲鳴をあげて、棍棒の攻撃範囲外にいた生き残りが、こちらに逃げ出してくる。


 けれど、そのうしろにはオーガが迫ってきていて――。


「タマモ! 片方は任せた!」


 気付いたときには、僕は指示を出して地面を蹴っていた。


 タマモの実力ならオーガを相手取るには十分だ。

 また、逆鉾の君を残しておけば、不意の事態でエステルが危険になることはない。


 そこまで考えながら走り抜け、こちらに逃げてくる冒険者のひとりと目が合った。


「馬鹿! お前も逃げろ!」


 胸元で、銀色のタグが揺れていた。


 基本的に鋼鉄級冒険者(アイアン)ばかりのこの『仮宿』じゃ珍しい、僕と同じ銀級冒険者(シルバー)だ。

 同階級だからこそ、オーガに立ち向かう無謀さが理解できたんだろう。


 けれど、僕は迷わずその脇を通り過ぎた。


「おぉおおおお!」


 片方のオーガに突っ込む。


 飛んでくるのは、普通なら銀級冒険者(シルバー)では対処不可能な棍棒の一撃。


 だけど、見える。


「おおおっ!」


 僕は身を低くして棍棒をかいくぐった。

 そして、縮めた体をバネにして高く飛び、杖をオーガの横っ面に叩きつける。


 すでに魔法は展開してある。

 爆発的に広がった風の刃が、オーガの顔を切り裂きながらその顔面を殴りつけた。


 悲鳴をあげたのはオーガのほうだ。

 その巨体がよろめく。


「うっそだろ……!?」


 さっきの冒険者が驚きの声をあげている。


 信じられない光景だったに違いない。


「とまるな!」


 振り返って足をとめかけた彼に、僕は大声で逃げるように促した。


 まだ一撃を入れただけだ。

 以前はなすすべもなく殺されかけた相手だし、オーガの実力は嫌というほど知っている。


 今回の探索で『護国の剣』と『輝きの百合』というふたつのパーティの戦いを見る機会を得て、僕も自分が冒険者としてどの程度のレベルにあるのかは把握できた。


 万魔の王の力である逆鉾の君の召喚などを除いた僕個人の戦闘能力は、精霊使いとしての力を得て急速に成長している。

 下層を探索対象にしている黄金級冒険者(ゴールド)の領域に足を踏み入れた自覚はある。


 ただ、これは上級冒険者に限らない話だが、適性階層での一対一の戦闘は危険だ。

 下層でいえば、この間、戦ったチーフ・オークのような、集団戦向きで自分自身は下層では平均程度の戦闘力というタイプであっても、なるべくなら複数で叩くのが原則になる。


 そして、一対一を最も避けるべきなのは単体で強いタイプのモンスター。

 オーガがまさにそのタイプだ。


「グオォオオオオ――ッ!」


 暴れ回る大鬼がこちらにターゲットをさだめる。

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