20話 幼なじみは立ち向かう
20
急激な変化はそれこそ人間味が欠けていて、見ていると背筋が冷たくなる。
だけれど、むしろその素直さに、私は苦笑してしまった。
「そういうとこ、タマモさんは信頼できると思うよ」
「主様のことと聞いては看過できるはずがありませんもの」
当たり前のようにそう真剣な顔で言うタマモさんが、グレンを裏切ることだけはありえない。
それだけで彼女に対する私の好感度は相当に高いのだ。
だからこそ、私も真剣に彼女に答える。
「それで、主様のためとはどういうことですか」
「簡単なことだよ。私とタマモさんは、ちゃんと仲間にならなきゃならない。そうでないと、グレンを支えてあげられないから」
「……私ひとりでは、主様を支えられないと?」
一段、トーンの低い声。
ぞわっと全身の産毛が逆立った。
いまの発言は、相当にタマモさんの不快を買ったらしい。
実際、彼女からすれば、自分がひとりでグレンを支えて守っていて、私はそのついでに守ってあげているくらいの認識なんだろう。
こんなふうに言われれば怒るのも当然だった。
そして、その怒りは人間のものではない。
獣の怒りだ。
にらまれているだけでも、黒曜石級冒険者の子供たちが下層に放り込まれるくらいに怖い。
生物としての恐怖を感じる。
……まあでも、これは悪いことじゃない。
つまるところ、いまの彼女がちゃんと自分に向き合ってくれている証だからだ。
生物的な恐怖を呑み込んで、私はさらに踏み込む。
「支えられないよ。だって、あなたはグレンのことをわかってないもの」
「……貴様」
声色が完全に変わった。
瞬間、ひどい悪寒が襲いかかってくる。
まるで首筋に、ナイフのような獣の牙がふれているみたいだ。
ああ。これは……きついな。
覚悟してなければ、ちょっと立っていられなかったかもしれない。
だけど、きっとグレンもオーガに立ち向かったときに、こんな気持ちだったんだろう。
そう思えば、私はなんだって我慢できるのだ。
それに……どれだけ怖くても、彼女とはわかりあえると感じている。
これは「怪物とだって話せばわかる」なんて理想論を言ってるんじゃない。
なにせ、あれだけ近くにいたエドワードたちとは、同じ人間同士でもわかり合うことはできなかったのだ。
だから大切なのは、なにを大事にしているかということだ。
その点でいえば、どれだけ考え方の違う怪物であろうとも――タマモさんと私はわかり合える。
どれだけ怖くても、恐れることはなにもないのだ。
「さっきの私とグレンの話、聞いてたんでしょ? グレンのことを追い詰めてたのは、タマモさん、あなただよ」
「……それは」
タマモさんが、痛いところを突かれたという顔をした。
頭は回るし大人びている割には、意外と彼女はわかりやすい。
まあ、計算高さと精神性は別の話だ。
見た目より幼いところがあってもおかしくない。
多分、根が純粋なんだろう。
大きな力を持っていれば、人間みたいに狡猾である必要はないから。
そんな彼女のことだから、グレンのことを『万魔の王』として慕っている気持ちは純粋だ。
だけど、それだけじゃダメなのだ。
「ねえ、タマモさん。あなたが支えたいと思ってるのは、ここにいるグレンのこと? それとも、ここにいない思い出のなかの万魔の王なのかな」