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13話 幼なじみはもぐりこむ

   13



 探索の一日が終わった。

 有力な手がかりは得られていない。


 もっとも、逆に言えば、異常の見つからなかった領域が増えたということでもある。


 アレクシスさんも言っていたけれど、心配が無駄になるならそっちのほうがいいのだ。


 マッピングのほうは順調に進んでいる。

 この探索が終わったときには、この場所は未踏領域ではなくなっているだろう。


「ふむ。このあたりなら『仮宿』が使えそうかの」


 そう言ったのは『護国の剣』の魔道士ヴィルヘルムさんだった。

 冒険者としては珍しい、真っ白な髪とひげの老人だ。


 ちなみに『仮宿』というのは、迷宮内に冒険者が造った野営地のことだ。


 規模はさまざまだけれど、何十人から何百人という人間が野営をできるだけの安全地帯である。


 ある程度の規模のものは組合の管理も入っているので、半ば公的な組織と言っていい。

 多少は物資も蓄積されているので簡単な補給なら行える便利施設――ただし購入は迷宮価格――と言っていいだろう。


 新しく見つかった未踏領域には『仮宿』も存在しないけれど、僕たちは探索もれのないように領域内を塗り潰すように行ったり来たりしていて、偶然、未踏領域の端に戻ってきていた。

 その近くに『仮宿』があったというわけだった。


「せっかくだ。今夜は寄って行こう。少しでも体力の回復を図るべきだからね」


 アレクシスさんの決定で、僕たちは『仮宿』まで足をのばした。


 どこも『仮宿』というのは似たようなもので、粗末なテントが集まって並んでいる。

 モンスターの少ない場所を選んで防衛戦力も置いているとはいえ、たまに破壊されてしまうこともあるため、そのたびに造り直されることを前提にしているのだ。


 それでもそうした施設が繰り返し同じ場所に造られるのは、冒険者同士集まる場所としての目印の役割のほうが大きい。

 冒険者パーティがそれぞれ野宿をしているよりは、夜の間だけでも集まったほうが安全というわけだ。


 ここは比較的マシというか、規模としては最大に近いだろう。

 ひとつの大広間を占有するかたちで『仮宿』が展開されていた。


 僕たちはパーティそれぞれでテントを借りると、食事は携帯食で済ませてすぐに眠ることにした。


 殺風景なテントには、マットもない簡易ベッドだけが並んでいる。

 このうえに寝袋を敷いて寝るわけだけれど、地面に直接寝るよりは体温を奪われないし、なにより『仮宿』は組合から依頼を受けた信頼の厚い冒険者が警備についているので、ある程度は安心して寝られるメリットが大きい。


「……」


 けれど、なんとなく僕は寝付けずにいた。


 妙に不安定な感じがしていた。

 浮足立っている、と言っていい。


 頭のなかには、アレクシスさんから言われたことが繰り返されていた。


「僕は……」

「グレン?」


 ――びっくりした。


 心臓が口から飛び出るかと思った。


 いつの間にか、エステルがそっと忍び寄ってきていたのだ。


「な、なにしてるの。ちゃんと寝ないと」


 声を抑えて言うと、エステルは気にすることなく隣に身をすべり込ませてきた。


「グレンも眠れてなかったでしょ」

「……いや。まあそうだけど」

「大丈夫だよ。どうせ、ずっと眠ったままでいるには長い休憩時間なんだし」


 とはいえ、この体勢はちょっとまずい。


 エステルのやわらかい体が、ぴとりと抱き付いてきている。

 最近は宿でも部屋を別に取っていたので、久しぶりの慣れた感触だった。


「エステル、離れて」

「ダメ。声聞こえるもの」


 どうやら内緒話がしたいらしい。

 それ自体はかまわないのだけれど、そのためにぴったりとくっついてきているのは問題だ。


 分厚い冒険者衣装ごしでも、重量感のある彼女の胸のふくらみが呼吸で上下するのが伝わってくる。


 これは大変にまずい。

 主に僕の理性的な意味で。


 なにもわかっていない無垢な瞳を前に、僕は折れた。


「わかった。話があるなら、ちょっと出よう」


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