10話 最高位冒険者との会話
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「もちろん、大丈夫だよ。むしろエステルこそ大丈夫?」
苦笑しつつ返した。
別にエステルも体力がないわけではないのだけれど、さすがにこの探索に参加したメンバーのなかでは、黄金級冒険者でもなければ近接戦闘職でもない彼女の体力は最下位になる。
そんな彼女が前衛の僕の体力を心配するのはあべこべだ。
とはいえ、彼女が心配性なのは知っている。
気づかわしげにこちらを見る彼女に、僕と一緒に後方に戻ってきていたタマモが言った。
「主様のおっしゃる通りですよ、エステルさん。疲れたら言ってくださいましね」
「あ、うん。タマモさん。ありがと」
「いえいえ。必要があればサカホコ様におんぶしていただきますので」
「うーん。それはちょっと嫌だけど」
「ふふ。でしたら、なるべく、そうならないように気を付けなさいませ」
タマモはこの探索が始まってから、なにかとエステルの体調のことを気にしてくれている。
前のパーティのときは、こんな気づかいのやりとりはなかった。
見ていると安心できる。
そこで、横から話しかけられた。
「ちょっといいかな」
「アレクシスさん? なんでしょうか?」
なにか用事だろうかと思い尋ねると、さわやかな笑みが向けられる。
「いやなに。せっかく時間があるから、リーダー同士話をしてみたくてね」
あいかわらず、気さくな人だった。
冒険者としての格が違い過ぎるので、リーダー同士もなにもないと思うのだけれど、そう言ってくれるなら断る理由はない。
「もちろん。喜んで」
隣にきたアレクシスさんと、肩を並べて迷宮を進むかたちになった。
「……」
そういえば。
これまでもアレクシスさんと話をすることはあったけれど、それは用件があってのことだ。
こんなふうに、ふたりで言葉を交わす機会はなかった。
横目を使った先には、どこか機嫌よさげな赤毛の青年の姿がある。
初めて会ったときにも思ったけれど、引き込まれるような独特の空気をまとっている。
この国で最高位の冒険者。
……ひょっとして、これはとても貴重な機会なんじゃないだろうか?
この会話で、足りない自分に必要なモノが得られるんじゃないか?
そんなことを期待してしまうし、そう期待させるだけのなにかがアレクシスさんにはある。
青い目がこちらを向いた。
「さっきもそうだが、私のこだわりで作業を増やしてしまって悪いね」
「えっと? ……ああ。魔石の剥ぎ取りの件ですか?」
魔石の剥ぎ取りをしないのはマナー違反。
もちろん、適性レベルの迷宮で活動している場合、魔石は収入源になるので普通は回収するんだけれど、問題は適性以下の場所でモンスターを倒した場合だ。
たとえば下層の深いところで戦っている『護国の剣』や『輝きの百合』にとって、中層の魔石は回収する時間がもったいないレベルの収入にしかならない。
とはいえ、今回の場合、迷宮の異変を調べるという組合からの特別依頼を受けていることを考えれば、このままにしていても文句を言われるようなスジではない。
しかし、さっきもそうしたように、今回の探索ではきちんと回収することになっている。
このあたりを狩り場にしている中堅冒険者に迷惑をかけるわけにはいかない――というのが、アレクシスさんがそう決めた理由だった。
「その程度の手間は気にしません。僕自身、つい先日まで鋼鉄級冒険者だったわけですし。そこまで中堅冒険者にも気をつかっているんだなって思ったくらいで」
僕はこの迷宮探索にもぐる2日前に銀級冒険者になったばかりで、まだ実感もない。
石を投げれば当たる程度の鋼鉄級冒険者の感覚がまだ抜けないので、むしろ自分たち中堅冒険者程度をあの魔法銀級冒険者のリーダーが気遣ってくれるなんて、と驚いたくらいだった。
そこを差し引いたとしても、そもそも、組合からの依頼とはいえ、この調査自体が大勢の中間冒険者たちの安全のためにしていることだ。
僕が見る限り、アレクシスさんは単にやらなければいけない仕事としてではなく、ある種の使命感すらもって、異変の対処に当たっているように見えた。