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8話 迷宮異変の調査開始

   8



 アレクシスさんが組合から受けた依頼は『魔封の迷宮』の中層にある未踏領域で起きている異変の調査だ。


 魔法銀級冒険者(ミスリル)パーティ『護国の剣』、黄金級冒険者(ゴールド)パーティ『輝きの百合』が直接、組合から依頼を受けている。

 先日、銀級冒険者(シルバー)パーティになった僕たちは、その手伝いだ。


「グレンたちがオーガに遭った場所とは違うが、ここでも下層のモンスターの目撃情報がある。異変の原因を見つけられればそれでよし。無理なら下層モンスターを排除。異変自体が見つからなければ……まあ、それが一番いいな。さて。では調査を開始しよう」


 アレクシスさんの指示のもと、3パーティによる探索が開始された。


 このあたりでは、ゴブリン・ウォーリアやゴブリン・メイジなどの、ゴブリンの上位種が現れる。

 上層にいるただのゴブリンや、オークに比べれば強いし、連携も取ってくるので中堅冒険者にとっては厄介な相手だ。


 けれど、この3パーティであれば、なんの問題もない。


 僕たち1パーティだけでも、手こずるような相手じゃないくらいだ。


 だから敵は現れるモンスターではない。


 疲労のほうだ。


 今回はそれなりの強行軍で、広い未踏領域をおおよそカバーするかたちで探索を予定している。

 上級冒険者ともなれば体力は常人の比ではないけれど、戦闘をこなしつつとなると、どうしてもただ歩くだけより疲労が蓄積してしまう。


 戦闘の相手としては相手にもならないモンスターは、長距離走の()()()と考えたときにはなかなかやっかいだということだ。


 本命である迷宮の異変を前にしたときに、疲れ果てていては本末転倒だ。


 そこで、複数のパーティが持ち回りで戦闘をすることで、体力を温存する。


 このあたりが、僕たちが手伝いを頼まれた理由でもあった。


 探索の間は、それぞれのパーティが順番で戦闘をこなすことになった。


 まずは魔法銀級冒険者(ミスリル)パーティ『護国の剣』は、5人の雄分類(メール)からなるパーティだ。

 すでに顔を合わせたことのある、勇者アレクシスさん、槍使いの騎士バッカスさんのほかに、魔道士、大僧正、重戦士がパーティに名を連ねている。


 魔道師と大僧正は魔法使いと僧侶の上位職なので、パーティは冒険者として正統派な組み合わせと言える。


 特にすさまじいのはやはりアレクシスさんで、長剣片手につっこむと、水袋でもたたき切ったみたいにゴブリンたちの血肉が飛び散った。


 僕とは違い正統な勇者であるアレクシスさんは、さすがに剣にまとわせた魔力が半端ではない。

 ほぼひとりで終わらせてしまっているうえ、まったく本気を出していないことがわかった。


 ひょっとすると、この人ならタマモと同じようにオーガを一蹴することもできるんじゃないか――そんなふうにさえ思わせる風格があった。


 次に、黄金級冒険者(ゴールド)パーティ『輝きの百合』は、かなり防御寄りの構成だ。


 シャーロットさんの職業は聖女という、回復と補助に特化した勇者レベルに稀少な(クラス)であり、軽戦士のマリナさんと、神官戦士であるメリナさんに加えて、聖騎士のナディアさんという人がいる。


 聖女シャーロットさんを除いては3人が前衛として彼女を守ることができ、また、マリナさん以外の3人が全員高度な回復魔法と補助魔法の使い手だ。


 つまり、防御力が高く、傷付いてもすぐ回復できる。

 その堅実かつ堅牢な構成を武器に、彼女たちは国内最高の雌分類(フィメール)冒険者として、並の上級冒険者では難しい下層の深部まで足を踏み入れている。


 もっとも、残念ながら、迷宮中層レベルだと怪我自体しないので、真価を発揮できているとは言えない。


 とはいえ、中層レベルなら多少の攻撃力の低さは問題にならず、派手さはなくとも着実に敵を撃破していた。


 もちろん、どちらのパーティもまだ本気は全然出していない。


 たとえば、独自魔法(オリジナル)と呼ばれるモノとして『赤の勇者』ことアレクシスさんの『(ほむら)の加護』は有名だけれど、まだ一度も使用していない。

 他にも切り札、隠し玉のたぐいもあることだろう。


 そして、最後に僕たちだ。


 基本的にはお手伝い、あくまで補助ということになっていたので、最初は割り当てを減らしてくれるという話だったのだけれど、僕はみんなと相談したうえで、他の2パーティと等分の割り当てにしてもらうことに決めた。


 というのは、ひとつにはアレクシスさんたち『護国の剣』の疲労が気がかりだったからだ。


 今回の探索が始まるまで『護国の剣』は、『輝きの百合』とは別の黄金級冒険者(ゴールド)パーティと一緒に、別の場所で迷宮の調査を行っていたのだという。


 長期的な疲労というのはバカにならない。


 手伝いとはいえ、引き受けた仕事だ。

 責任を持って、少しでも疲労を肩代わりできるようにするのは当然のことだと思い、仲間たちも同意してくれた。


 そして、もうひとつの理由は――もちろん、それがいまの僕たちにとって、特別な負担でもなんでもないからだった。


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