1話 冒険者組合東地区本部へ
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翌日、僕たちは冒険者組合を訪れていた。
アレクシスさんは明日からは僕たちと迷宮に入るので、今日はお休みにしているということだったけれど、遭遇したモンスターの件で連絡を取ってみると、直接話を聞きたいとすぐ返事があったのだった。
「ここが東地区の本部か……」
指定されたのは、広大な王都を四分割したそれぞれにある本部のひとつだった。
僕たちが普段使っている第52支部とは比べものにならないくらいに大きな石造りの建物は、王城を除けば王都で最大の建造物のひとつだ。
足を踏み入れたフロアは想像を絶する広さ。
なにより、冒険者でごった返している。
それも、ここにいるのは最低でも鋼鉄級冒険者の上位層。
銀級冒険者以上を含めた、王都東区における上位の冒険者ばかりなのだ。
壮観と言うべきかもしれないけれど、正直、いまの僕たちはそれどころじゃない。
「アレクシスさんは、組合に話は通してあるから、来たことを伝えればいいって言ってたけど……」
「どこの受付に言えばいいの?」
隣でエステルがきょろきょろする。
受付は目的ごとにたくさんあった。
多分、あまりに人が多いので効率化のために、業務を細分化しているんだろう。
小さな支部しか利用したことがないから、勝手がわからない。
「しまったな。こんなことなら、もう少し早く……」
「主様」
タマモが僕の気を引いた。
見れば、職員の男性がこちらにやってきていた。
そこそこの年齢で、立ちふるまいからは立場のある人間であることがうかがえる。
「失礼します。グレン様とそのパーティメンバーの方ですか」
「そうですけど。あなたは……」
「案内役をおおせつかった者です。アレクシス様がお待ちです。ご案内いたします」
「は、はい。ありがとうございます」
まさか組合の側から来てくれるなんて。
最高位冒険者のからんだ案件だからだろう。
正直、助かった。
わかってはいたことだけれど、すごい人たちなのだなあと改めて感じる。
「それと、こちらをお渡しすることになっています。銀級冒険者への昇格、おめでとうございます」
渡されたのは、銀色の冒険者タグだった。
これで僕たちも銀級冒険者パーティってことだ。
上位の冒険者ばかりが集まるこの場所でも見劣りはしない。
「……堂々としていないとだ」
このタグに見合うように。
そして、仲間たちに恥ずかしくないように。
職員の人に通されたのは、広く立派な応接間だった。
「あ。きたきたー。グレンくーん!」
もうみんな来ていたようだ。
ソファから立ち上がったマリナさんが、ぶんぶん手を振っている。
「すいません。少し遅れましたか」
「いや。急な呼び立てすまないね。組合経由で報告は受け取っているが、改めて話を聞かせてほしい」
集まったのは、話を聞きにきたアレクシスさん、シャーロットさん。
話をする側の僕たちのパーティと、マリナさん、メリナさんだった。
僕たちから一通り話を聞くと、アレクシスさんは頷いた。
「組合でも君たちの遭遇したというモンスターについて、過去の情報を当たってみると言っていた。とはいえ、恐らく、成果は上がらないだろうね。中層部の未踏領域外だと、初めての異変の発生になるな」
「人の少ない下層ですから、これまで単に気付く人がいなかっただけかもしれないですけど」
一応、そう言い添えておく。
「中堅冒険者と上級冒険者では、極端に数が違いますから。中層ではそれだけ異変に気付く者が多かっただけかもしれません」
「確かにそうだ。おまけに、倒したら姿を消してしまうのではね。珍しいモンスターだなで済ませてしまった者もいたかもしれない」
そこで、アレクシスさんがシャーロットさんと目を合わせた。
マリナさんとメリナさんも、なにか言いたげな顔をしている。
ただ、先に口を開いたのはタマモだった。
「気になったことがあります」
「なにかな」
「まとう魔力の感覚でわかりました。私は、あれに似た存在を見たことがあります」