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17話 双子との交流

   17



 一通り僕たちが喜び合うのを待ってから、メリナさんが口を開いた。


「それで、これで試験は終わりですが、どうしますか? まだ探索を続けますか?」

「そうですね。一度、小休止を入れようかと」


 探索に無理は禁物だ。


 消耗したかなと思ったときに、突然、万全の状態でぎりぎり対処できるような強敵と出くわすようなこともある。

 疲れる前に休むのが正解で、実力が上がったからといって気を抜くつもりはなかった。


「それじゃあ、私たちも付き合おっかな。せっかくの機会だし、話もしたいしね」


 マリナさんがそう言い出して、みんなで休むことになった。


 バッカスさんだけは先に帰ってしまったけれど、まあこれは当然だろう。

 彼がいると、タマモとエステルの反応にいちいちハラハラしないといけないので、正直、助かった。


「そうだ。グレンくんたちは、中層の『未踏領域』でオーガに遭遇したんだよね。そのときのこと、聞かせてもらえない?」

「いいですけど」


 警戒はしつつも体を休めている間、マリナさんがそう言い出したので、そのときのことを話すことになった。


 依頼の関係で興味があるのかなと思ったのだけれど、どちらかというと『輝きの百合』のふたりはオーガとの戦い――僕がエステルを守ろうとしたくだりについて聞きたがった。


「ふわー。すっげー。グレンくん格好いい!」

「いや。これは僕の力がなかったって話ですから」


 目を輝かせているマリナさんに苦笑を返す。


 実際、僕にとってはボロボロになりながらどうにかエステルを守れたぎりぎりの危機だったけれど、黄金級冒険者(ゴールド)のマリナさんがその場にいれば、もっとうまくやったはずだ。


 しかし、今度はメリナさんのほうが口を開いた。


「いえいえ。そういう話ではありませんよ。必死になって守ってくれるというのが良いのです」

「うん。グレンは格好いいよ」


 エステルまで嬉しそうに言うので、少しほおが熱くなってしまう。


 めざとく気付いたマリナさんが顔をのぞき込んできた。


「あ。グレンくん、照れてる?」

「あはは。その、そろそろ勘弁してください」


 好意的にしてくれているのはわかるのだけれど、なんだかくすぐったくなってしまう。


 僕がほおを掻いて困っていると、マリナさんは機嫌よさげに笑った。


「いい話が聞けたなあ。みんなにも話したげよっと……およ?」


 話が一段落したところで、マリナさんがふと気付いた様子を見せる。


 なにかと思って無意識に目で追っていると、彼女はなにげなく近くの枝に手を伸ばした。


「ラッキー。パキパキの実がなってる」


 指先ほどの大きさの実だった。

 つまんだマリナさんが、ひょいっとそれを口に入れたので、思わずギョッとしてしまった。


 普通、そんなことする人間はこの世界ではいない。


 実際、見ていたメリナさんは、うっと声をあげた。


「マリナ! あなた、また! はしたないですよ! 身内以外の人もいるのに!」

「いいじゃん。うまいんだから」

「汚いですよ。もう、あなたは何度言ってもそうなんですから」


 非難する口調でメリナさんは言って、僕たちに頭を下げた。


「申し訳ありません、みなさん。見苦しいところをお見せしました」

「いえ。別にそんな……」


 食べられる木の実をつまむくらいなら、僕たちの感覚としては普通だ。

 けれど、この世界ではそうじゃない。


 なにせ『食べられる木の実』という概念がないのだ。

 なので、単純に『汚い』という感想が出る。


 僕の前世の世界でいえば『味のする泥団子を食べている人』を見れば、同じような感想になるかもしれない。

 泥団子を食べている身内を見られたと考えれば、頭を下げたくなる気持ちはわかる。


 逆に言えば、マリナさんのほうはかなり奔放というか、変わり者みたいだ。


 そこで、ふっとタマモが笑った。


「かまいませんよ。私もほら、この通り」


 そうして、ひょいっとマリナさんと同じ木の実をつまんで、口のなかに入れてしまう。


 メリナさんがぎょっとした顔をした。


「タ、タマモさん?」

「ふふ。驚きましたか? 私の出身の国では、迷宮のなかにあるモノを食べる風習があるのですよ」


 さらりと言う。


「そ、そうなんですか……?」

「はい。迷宮産のモノを口にすることで、迷宮により適した肉体を作ることができると信じられているのです」

「そんな話は、創世の女神様の教えにはないはずですけれど……」

「あら。そういえば、メリナさんは神官でしたね。しかし、おかしいですね。私の故郷の教えにはあるのですが」


 考え込むような顔を見せるタマモ。


「どちらが正しいのでしょうか。メリナさんはどう思われますか」

「え……ええっと。おかしいですね。ひょっとすると、女神様の教えがどちらか間違って伝わったのかもしれません」


 メリナさんがとまどいながらも答えを返した。

 その表情は真剣で、タマモの言葉を疑う様子はない。


 当然だけれど、タマモの言っているのはこの場で思い付いた口からでたらめのはずで……。


 すべてを知っている僕としては、すごいなーと遠い目をせざるをえない。


 だけど、そもそも、なんでわざわざこんなことを?


 そう思いながら見ていると、続いてタマモは携帯していた袋のなかからビンを取り出した。

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