16話 試験結果
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「……普通に下層で戦えてますね」
「すっごーい! 期待以上じゃん!」
「チッ」
戻ってきた僕たちに、後方で見学していた評価役の3人が声をかけてきた。
いや。正確には、ひとりは声をかけてきてないけれど。
舌打ちのうえ、睨まれている。
嫌われてるなあ。
まあ、好き嫌いばかりは仕方ないけれど。
苦笑を噛み殺していると、駆け寄ってきたエステルが、慣れた様子で体を確認してきた。
「グレン、怪我ない?」
「大丈夫だよ」
「心配し過ぎですよ。私がいる限り、主様に怪我などさせませんもの」
「うん。そうなんだろうけどね」
そう頷きつつも、エステルは一通り確認してくる。
このへんは、これまでの積み重ねからくる癖のようなものだろう。
それだけいつもボロボロだったということで、心配かけてたんだなあと思うと、少し申し訳なくなる。
そのうしろには、逆鉾の君がたたずんでいた。
「サカホコも、お疲れ様」
「……」
戦闘には直接参加していなかったものの、逆鉾の君はエステルの護衛をしてくれていた。
いざというときは彼女を守ってくれると信頼できるので、僕はうしろを気にせず戦うことができたのだ。
そのおかげもあって、良い感じで戦えていると思う。
いまの戦いを振り返ってみて、僕は確かな手ごたえを感じていた。
ここ数日、迷宮探索を繰り返しながら、この4人での戦い方を組み立ててきた。
僕とタマモが前衛。
エステルが後衛で、逆鉾の君がその護衛だ。
エドワードたちとのパーティでは、僕は遊撃のポジションだったけれど、実際には前衛として振る舞うことも多かった。
なので、あまりとまどうことなくやれている。
戦闘能力の高いタマモは前衛で暴れつつ、後衛を狙う敵がいればこちらもカバーする。
エドワードたちとのパーティでは、ガタつく前衛の援護をする必要があったため、小さな魔法を連打していたエステルは、ここでは砲台型の魔法使いとして僕たち前衛が出せない一撃をぶち込む。
そのために必要なための時間を、逆鉾の君の鉄壁の防御で埋める。
……もちろん、まだ動き始めたばかりなので完璧な連携には遠い。
けれど、その一方で、いまでも十分に機能するところまでは来ている。
パーティとして機能しているこの感覚は、エドワードたちとは得られなかったものだ。
確かな手ごたえとともに、僕は評価役の3人に向き直った。
「どうでしょうか」
「あはは。訊くまでもないと思うけどねー」
マリナさんが明るい笑い声をあげた。
「グレンくんたちの実力は銀級冒険者として十分だよ」
「と言いますか、これは普通に黄金級冒険者パーティの申請をすべきなのでは?」
メリナさんも言ってくれる。
となれば、あとは、もうひとりだけれど……。
そう思って視線を向けた先、腕組みをしたバッカスさんは、しかめっ面をしていた。
「まだだな」
「えー! バッカスくん、ありえなーい!」
途端にマリナさんが大声をあげた。
メリナさんも非難の目を向けている。
確かな手ごたえを感じていただけに、僕も少しショックだった。
……が、それよりも仲間の反応が気にかかった。
エステルはなにも言わなかったけれど、表情が硬かった。
なにを考えているのか明らかなので、魔法銀級冒険者相手に喰ってかからないかこわい。
逆に、タマモは笑顔のまま表情が変わらなくなっている。
なにを考えているのかわからないけれど、これはこれでこわい。
重い空気が立ちこめる。
集中した視線のなか、バッカスさんが溜め息をついた。
「黄金級冒険者パーティには、実績が全然足りねえ。個々の実力はともかく、連携にもアラがあるしな。いまは銀級冒険者だけで満足しとけ」
「……」
一拍の沈黙。
理解がおよぶまでの。
つまり、バッカスさんが言いたいのは……。
「あはははは。なーんだ、バッカスくん。素直じゃないなあ」
言葉の意味を理解しようとしていると、マリナさんが笑い出した。
「ちゃんと認めてるんじゃない」
「うるせえ!」
ますますしかめっ面になって、バッカスさんが毒づいた。
クスクスと肩を揺らすメリナさんが、僕たちに目を向ける。
「というわけですので、評価役の3人ともにみなさんの実力は確認しました。今日からみなさんは銀級冒険者のパーティです」
どうやら、そういうことらしい。
試験は合格。
それも、思わぬ高評価で。
「良かったですね、主様!」
ぎゅっと手を握られて、視線を向ければ華やかなタマモの笑顔があった。
それで、実感が湧いてきた。
「……うん。良かった」
エステルとも視線を交わし、喜びを共有する。
実力が認められたのだ。
冒険者としての階級が上がったことは、純粋に嬉しい。
それに、アレクシスさんの依頼を受けることができるようになり、他の滅びの獣たちにつながる情報への糸が切れてしまわなかったことは本当に良かった。
「組合には、こちらから連絡しておきます。みなさん、おめでとうございます」
「ありがとうございます」
祝福の言葉をくれたメリナさんに、僕は頭を下げたのだった。