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15話 飛躍する少年

   15



 開放型迷宮に広がる森のなか。

 タマモとともに、僕は動くべきときを待つ。


「――来ます、主様。数は先程お伝えした通りです」

「わかった。それじゃあ、行くよ」


 合図を待って、ぬかるんだ地面を蹴って、走り始める。


 それと同時に、肉体にめぐらせる魔力を、精霊使いとしての力で用意する。


 自分の内の魔力(オド)を呼び水に、外の魔力(マナ)を取り入れる。


「――」


 取り入れた魔力は、そのままでは使えない。

 肉体でろ過して、使えるかたちに変換する必要がある。


 このプロセスを、体を動かしながら頭の片隅で常に回し続けるのは慣れが要る。


 その一方で、慣れれば慣れるほど効率は増し、循環する魔力は増える。


 きちんと記憶が戻っていないせいか、かつての万魔の王に比べれば、精霊使いとしての僕の力は劣っている。

 足下にもおよばない。


 逆に言えば――まだ向上の余地はあるってことだ。


 マーヴィンをぶっ飛ばしたあの力は、まだ上限からはほど遠い。


 そう気付いてからは、起きている間は常にこのプロセスを意識してきた。


 もともと、近接戦闘と魔法を両立させる魔法戦士めいた戦い方をしていたので、普通の人よりは適性があるはず――だけれど、それでも最初のうちは苦労した。


 プロセスを回すほうに意識を取られて、階段でつまづいたり、なにもないところで転んだり、人にぶつかったり……。


 数日はいろいろ大変で、エステルとタマモにはずいぶん助けられた。


 ……途中、心配するふたりが出歩くときには左右で腕を抱え込んでくるようになったときには、周囲の目が痛くて、別の意味で大変だった。


 雌分類(フィメール)ふたりと腕を組んで歩く雄分類(メール)の図なんて、この世界ではまず見ないので。

 いや。前世でも普通に悪目立ちした気はするけれど。


 ともあれ、そんな介護めいた扱いに堪えて日常生活から鍛えたかいがあって、いまではほとんど意識することなく外の魔力(マナ)の変換プロセスを回せるようになってきた。


 地面を蹴れば、以前とは比べものにならないくらいに体が前に進む。


 敵の姿が見えてくる。


「……見えた!」


 バンデッド・オークの群れだ。


 20体はいる。


 バンデッド・オーク自体は中層でも出てくるモンスターだけれど、この規模で出てくれば、中堅冒険者じゃあ太刀打ちできない。

 そのうえ、ひときわ立派なオーク――チーフ・オークに率いられているとなればなおさらだ。


 チーフ・オークは下層のモンスターだ。

 オーガよりもは弱いけれど、それでも下層のモンスターとして相当の戦闘力があり、特に取り巻きのバンデッド・オークと一緒に行動しているときは厄介だ。


 だが、そんなのわかっていたことだ。

 気にせず飛び込んだ。


「おおおお!」


 振り下ろされる棍棒をかいくぐり、オークの巨体に盾から突っ込む。


 前は腕力自慢のオークの一撃で吹き飛ばされた。

 いまは違う。


「りゃあっ!」

「プギョッ!?」


 気合を込めて、こちらが吹っ飛ばす。

 マーヴィンに力負けしなかったのだから、重戦士の盾突撃(シールドチャージ)のまねごとくらいはできるのは当然だ。


 それどころか、マーヴィンに押し勝ったあのときよりも、精霊使いとして成長しつつある僕の力は強いのだ。


「おおおっ」


 押し勝ったオークの体を利用して、周りの敵を巻き込んで転倒させた。


 そこに、さらに踏み込む。


 杖を掲げた。


 近接武器の才能はなく、かといって、杖を使っても魔法使いじゃない僕にとって、多少の魔法補助と打撃武器(メイス)としての役割しか持たなかった。


 けれど、精霊使いとしての僕にとっては、話は変わる。


 杖を利用することで、外なる魔力(マナ)内なる魔力(オド)に変換することなく魔法を完成させることができるからだ。

 肉体強化のためにしているような魔力変換プロセスは、この場合、スキップできる。


「――我が杖に宿れ、風の剣」


 これまでは勇者としての魔力運用、杖にも内なる魔力(オド)を流していたので、その真価を発揮できなかった。


 精霊使いとしての魔力を流したことで、即時発動で過剰魔法(オーバーマジック)を使用せずとも、威力は魔法戦士相当にまで上がっている。


 そうして魔法で作りだした風の刃をまとわせた杖を振るった。


「おおおおっ」

「プギャッ!?」


 首筋から血飛沫(ちしぶき)をあげて、オークが倒れる。


 集団が体勢を整える前に、別のオークに杖を突きこみ、殴り付け、あごをかち上げる。


 相変わらず王道からは外れた『期待外れの勇者』のチグハグな戦い方。

 けれど、全体的な底上げのために、それは別物へと変わりつつあった。


 あっという間に4体を倒す。


「プゴォオオ!」


 そこで、重々しい雄叫びが横合いから鼓膜(こまく)を殴り付けてきた。


 チーフ・オークだ。

 および腰だったバンデッド・オークたちが落ち着きを取り戻した。


 あの雄叫びが指示だったのか、一斉に僕に襲いかかってくる。


 さすが下層のモンスターだ。

 さっきまでのような混戦ならともかくとして、さすがに、同時に攻撃されては避けきれない。


 過剰魔法(オーバーマジック)で切り抜けることは可能だけれど……。


 とはいえ、そこまでする必要もなかった。


「やあぁあああ!」


 直後、タマモが薙刀を振るい、オークの集団に横合いから突っ込んだ。


 ひと振りで2,3体を吹き飛ばされる強烈な突撃を喰らい、再びオークたちが統制を失う。


 こうなれば、また僕ひとりで対処もできる。


 あとは数を減らしつつ、手はず通りに時間を稼いでいれば……。


「グレン! タマモさん!」


 その呼びかけに、僕はタマモと視線を交わして即座に離脱した。


「――我が手に宿れ、炎の風よ」


 直後、エステルの魔法がオークの集団に直撃した。


 たっぷり時間をかけて練り上げた魔法は、中級の範囲魔法だ。

 破壊力は下級魔法とは比べものにならない。


 オークたちの大半が大ダメージを受け、即死する個体も出る。


 そこに僕とタマモが再度突っ込んでいき、どんどんオークを撃破していく。


「ブゴォオオ!」


 深手を負いながらまだ抵抗をしようとするチーフ・オークだけど、もう取り巻きはいない。


 最後はタマモの薙刀で首を飛ばされて、大柄な体が地面に倒れた。


◆基礎能力の向上。

万魔の王の力とはまた別にも、主人公は力を付けていきます。

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