14話 特別試験
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「……えっと?」
「マリナ。話がややこしくなるので、あなたはちょっと黙っててください」
頭が痛そうにひたいを押さえたメリナさんが言う。
マリナさんに代わって、そこからは彼女が説明をしてくれた。
「組合は基本、お役所仕事です。グレンさんたちが鋼鉄級冒険者であることが問題になっているのなら、銀級冒険者のパーティであれば問題はなくなります。そこで、みなさんを急ぎ銀級冒険者に昇格させてはどうかという話になりました」
「それは……」
ずいぶんと、唐突な話だった。
もちろん、実力を買ってくれているということなので、悪い話じゃないけれど。
「いいんですか」
「あはは。実力があるなら問題ないし、ないなら私たちと一緒に依頼を受けるべきじゃないでしょ」
マリナさんが笑う。
脳天気な口調ではあるけれど、意見自体は意外と核心を突いている。
メリナさんも補足してくれた。
「組合にもちゃんと、このような場合の特別試験に関する規定があったそうなので、大丈夫です。そうでなければ、アレクシス様の強い要望があったとしても、組合は首を縦には振らなかったでしょう。ただし、それも無制限ではありません。規定がありまして、実力を第三者が確認する必要があるのです。そのために、組合は私たちを派遣しました」
「ああ。そういうことですか」
ようやく、3人がやってきた理由につながった。
納得する僕を見て、マリナさんとメリナさんが、よく似た顔に太陽と月のような笑みを浮かべた。
「というのが、組合側の理由ですね」
「え?」
「私たちが確認役に手を上げたのは、みなさんに興味があったからです」
「背中を預けて一緒に戦うわけだしね。実力を見てみたいって思うのは当然でしょー? それも、あのアレクさんの推薦だし」
わかりやすく興味の宿った楽しそうな目で、ふたりともこちらを見てくる。
……考えてみれば、組合から派遣された確認役が、国でもトップクラスの『護国の剣』と『輝ける百合』のメンバーである必要なんてない。
どこかの銀級冒険者パーティで十分だ。
彼女たちがわざわざ出てきた理由は、僕たちへの興味があったからというわけだった。
そのひとりであるバッカスさんが、ハッと鼻で笑った。
「つっても、中層程度でちんたらやってるやつらを見たところで、なにがわかるって話だけどな」
「バッカスさん。先程から失礼ですよ」
メリナさんがたしなめる一方で、マリナさんがこそこそ耳打ちしてきた。
「ごめんねー。バッカスくんは、リーダー大好きだから。アレクシスさんが興味津々で話をしてた君に、嫉妬してるんだよー」
「……なるほど」
道理で、さっきから睨まれてるわけだった。
というか、アレクシスさんに話題にされてるのか。
なにを話しているのだろう。
気になるような、聞きたくないような……。
「だけど、あれで真面目だから評価はちゃんとしてくれるよ。安心してね」
「わかりました」
「ま。そうじゃなくても、私たちもいるしね」
にっこり笑った彼女が尋ねてくる。
「それじゃあ、探索の様子を見させてもらいたいけど、いいかな。準備が必要なら、待ってるけど」
「いえ。それは大丈夫です。僕たちも、これから行くところでしたし。それよりも……」
3人の格好を確認してから、こちらからも尋ねた。
「みなさんこそ、大丈夫ですか? ちょっと軽装に見えますけど」
「あれ? よくわかったね。主武器は置いてきてるの。街歩くにはかさばるんだよね」
「私も一部の武装は置いてきています。あくまで今日は確認役ですから。ただ……」
「ハッ。俺たちが今更、中層の探索くらいでオタつくかよ」
彼らは上級冒険者だ。
鋼鉄級冒険者の探索する中層領域なら、本気の武装をする必要なんてない。
それは、確かにそうなんだけれども。
「みなさん、勘違いしてますわね」
クスクスとタマモが笑う。
3人の上級冒険者たちが怪訝な顔をするのに、エステルが説明をした。
「私たちの、いまの探索階層は――」