13話 問題点と解決の方法
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「それで、こっちが同じく『輝きの百合』のメリナで、うしろのは『護国の剣』のバッカスくんね」
同行者を紹介したマリナさんは、背たけの関係で低い位置から、僕の顔をまじまじ見上げるようにしてきた。
「君がグレンくんだよね。うちのリーダーとは、もう会ったって聞いてるけど」
「『輝きの百合』……というと、シャーロットさんですか?」
「そ。あれがうちのリーダー」
アレクシスさんと一緒に、依頼の場に居合わせた雌分類冒険者だ。
マリナさんとメリナさんのふたりは、その仲間ということらしい。
あと、バッカスさんはアレクシスさんの所属する『護国の剣』のメンバーということになる。
そういえば、組合でエドワードたちが起こした騒動のときに、顔を見た気がする。
アレクシスさんは依頼のために迷宮にもぐっているということだったけれど、ここにパーティメンバーがいるってことは、いまは戻ってきているんだろう。
そして、彼女たち3人もまた、国のトップクラスの冒険者。
鋼鉄級冒険者でしかない僕たちにしてみれば、雲の上の人たちと言っていい。
「それで、どうしてシャーロットさんのお仲間が、アレクシスさんのお仲間と一緒に僕たちのところなんかに?」
「突然、押しかけてきてしまってすみません」
失礼のないように対応すると、メリナさんが頭を下げた。
丁寧な仕草は、同じ顔をしたマリナさんとは対照的だ。
外見はそっくりな双割子といっても、性格まで似ているということはないらしい。
「ですが、あまり時間がなかったものですから」
「時間が?」
尋ねる僕に、彼女はこくりとうなずきを返した。
「明後日、私たちは一緒に組合からの依頼のために迷宮にもぐることになっているでしょう。その前に、済ませてしまわなければいけないことができてしまったのです」
「どういうことですか?」
「組合のほうから要望が出ていまして」
メリナさんは申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「今回の件に関して、アレクシス様は依頼元の組合に対して、みなさんを銀級冒険者上位ないしは黄金級冒険者相当のパーティとして、助力を求めたと報告したのです。しかし……」
「実際には鋼鉄級冒険者じゃないかって組合の一部から文句が出たの。まったく、メンドくさいよねー」
言葉を選んでいるふうだったメリナさんをさえぎって、マリナさんがのんきな口調で言う。
ええっと、つまりは……どういうことだろうか?
疑問に思ったそのとき、これまで黙っていたバッカスさんが口を開いた。
「要するに、お前たちに魔法銀級冒険者と黄金級冒険者のパーティが足を引っ張られて、危険にさらされたらたまらないって話だ」
とげとげしい口調だった。
その目は、なぜか僕を睨み付けてきている。
「バッカスさん……」
「バッカスくん言い過ぎー」
メリナさんがひたいを押さえ、メリナさんが眉をしかめる。
「実際、そういうことだろーが」
ぶっきらぼうに、バッカスさんが言った。
ただ、物言い自体はともかくとして……おかげで状況は読み取れた。
「僕たちは実力を疑われていて、ふたつのパーティの足を引っ張ることを心配されてるんですね」
まあ、組合側の事情も理解はできた。
魔法銀級冒険者と黄金級冒険者パーティは、組合だけでなく国にとっても非常に重要な存在だ。
万が一のことがないように、不安要素はなるべく除いておきたいんだろう。
バッカスさんが妙にとがった態度なのは気になるけれど……。
それもまあ、似たような事情だと考えれば許容範囲だ。
……なので、笑顔のまま目が笑っていないタマモは、落ちついてほしいなあと思うのだ。
「あらあらあらあら。困りましたね。主様にそのような疑念を抱かれるなんて。どうしてくれましょう」
「……」
こわい。
どうしようじゃなくて、どうしてくれようなあたり危険を感じる。
薙刀が出てきそうな気配がある。
よく見れば、普段は物静かな割に沸点低めなエステルも、ちょっと目が三角になりかけてる。
……まずいことが起きる前に、話を先に進めてしまおう。
「状況はわかりました」
正直、この状況はかなり痛い。
組合の依頼を受けているアレクシスさんたちを手助けすることで、情報を手に入れるというのが目的のひとつなので、他の滅びの獣を探す手がかりが得られなくなってしまうからだ。
とはいえ、焦りはしなかった。
どうしようもないのなら、今回の話はなしということで連絡があるはずだからだ。
わざわざこの3人が訪ねてくる必要はない。
「それで、みなさんは僕たちにそれを伝えて、どうするつもりなんですか」
「それは――」
「簡単だよ」
メリナさんがなにか言いかけるより前に、マリナさんが明るい口調で言った。
「君たちが銀級冒険者ならいいわけでしょ。だから、君たちは今日から銀級冒険者になればいいんだよ」