12話 訪れた双子
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目的は定まった。
かつての仲間たち――万魔の王と契約を交わしていた滅びの獣を探すこと。
そのために、アレクシスさんの依頼を受ける。
付け加えていえば、最高位冒険者の依頼を受けることは、冒険者としてのステップアップにもつながるはずだ。
組合を通して、アレクシスさんに依頼を受けることを伝えると、すぐに予定が伝えられた。
「組合の依頼をこなすために、いまもアレクシスさんは迷宮にいるらしい。戻ってきてまた出るのが10日後だから、そこに同行してほしいって連絡がきた。場所は『魔封の迷宮』の中層にある『未踏領域』。ただし、僕たちが向かったのとは別の場所だ」
「少し下の階層だね。行ったことない」
「うん。準備をしておいたほうがいいだろうね」
結局、エドワードたちの自爆のおかげで『神罰の杖』を使う必要はなかったので、オーガの魔石を換金した資金は残っている。
あくせくと働く必要はない。
とはいえ、やるべきことはいくらでもある。
僕たちはそれなりに充実した日々を送っていた。
「今日も迷宮にいかれるのですよね」
朝食の席で、タマモが尋ねてくる。
「そのつもりだけど」
「でしたら、行き先は『恵神の迷宮』にしていただいてかまいませんか。パンを作りたいので、雑穀を集めたいのです」
「いいよ。特に、どこに行くとか決めてなかったし」
「ありがとうございます」
彼女は笑顔で言うと、上品な仕草で食事を口に運ぶ。
今日のメニューは、昨日の夕食に迷宮で焼いた残りの種なし平焼きパンに、マッシュポテトもどきと、野草のサラダだ。
タマモが料理に手を付け始めてから8日。
肉を焼いたり煮たりするだけのサバイバルから、かなり文化的な食生活へと進化をとげていた。
「どうなさいました?」
「こんな食事を短い間で準備できるようになって、タマモはすごいなと思って」
「……あら。そんな。急に褒められてしまいますと、私、困ってしまいます」
意外と不意打ちに弱いタマモは、スタイルの良い体をくねらせて恥じらうと、赤くなった顔を隠そうとする。
パタパタ落ちつきなく耳がふせられ、しっぽがゆれて口もとを隠す。
普段は余裕のある美人さんだけれど、こうしたときの彼女はむしろ可愛い。
ひとしきり恥じらってから、タマモは両手をぐっと握りしめた。
「ですが、まだまだです。食材が限られているのもそうですが、現状では迷宮の焚き火でしか料理ができませんから」
「宿にも『ミール』を温めて提供する程度の設備はあるけど……料理なんてしてたら、異様な目で見られるだろうしね」
「異常者扱いされるのは確実。下手すれば宿を追い出されたうえ、冒険者組合で悪いうわさが立つよ」
エステルが純粋なこの世界の住人として、太鼓判を押してくれた。
受け入れてくれた彼女が珍しいのだ。
普通は無理だ。
僕たちの半分くらいの量をちまちま食べていたエステルが、首を傾げた。
「宿暮らし卒業する?」
「それもありかもなあ……」
僕も考えていたことではあった。
もともと、王都は三つの大迷宮の周りにあった大きな街が、発展と拡張に従って融合して生まれた大都市だ。
そのため、王都は非常に巨大であり、大きな迷宮はそれぞれに距離がある。
下級冒険者から中堅冒険者までは、成長に従い攻略対象の迷宮を変えることがたびたびあるので、あまり定住はしない。
また、迷宮攻略をしている間は街に戻らないことも多いので、月の3分の1もいない住処を維持するより、宿暮らしのほうが安上がりで済むという事情もある。
ただ、もちろん、定住者用の個人住宅や集合住宅に住んでいる冒険者もいないわけじゃない。
たとえば、個人住宅なら人目を気にする必要はなくなって、タマモの願いもかなえることができる。
「そのためにはまず資金を集めないとね」
どちらにしても、迷宮に向かう必要があるということだった。
食事を終えると、僕たちはここのところずっとそうしているように、連れ立って宿を出た。
声をかけられたのは、そのときだった。
「あ。はっけーん!」
「良かった、ぎりぎり間に合ったみたいですね」
話しかけてきたのは、小柄な女の子のふたり連れだった。
僕たちと同じくらいの年頃だ。
片方は少し野性味のある軽戦士。
もう片方は、おしとやかな雰囲気の神官だ。
愛嬌のある顔がよく似ており、褐色の肌に銀色の髪が映えている。
一卵性双生児――というのは、母体から子供が生まれないこの世界にはないのだけれど、たまに祭壇に同時に子供が湧出することがある。
こうして生まれた子は瓜二つであり、双割子と呼ばれている。
多分、このふたりはそうだろう。
あと、声をかけてはこなかったけれど、そのうしろに青年がひとり付き添っている。
こちらは鎧姿で、三叉の槍を背負っていた。
「こんにちは。私は『輝きの百合』のマリナっていうんだ」
露出の多い服装をした軽戦士の女の子――マリナさんが、にっこり明るい笑顔で言った。
◆新キャラ登場です。
褐色肌銀髪少女の戦士と神官です。双子です。『輝きの百合』は準レギュラーになる予定。