11話 リーダーの決定
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ここまで聞けば、僕にもタマモが言いたいことはわかった。
「アレクシスさんが言っていた迷宮の異常事態の原因は、滅びの獣の存在だってこと?」
「原因とまでは言いませんが、なにか関係はあるかもしれません。まあ、あまり認めたくはないのですが。それはつまり、主様が死にかけた一因が私にあるということになるので」
ものすごい渋い顔をするタマモ。
かなり嫌な推測らしいけれど、可能性から目をそらすことのない彼女はやっぱり現実的だ。
「もしもそうだとしても、別にタマモがしたくてしたことじゃないから気にしないよ」
事故のようなものだ。
責任を問うようなまねをする気はない。
「そんなことよりも、それじゃあ、その場所にいけば、他のみんなに会える可能性があるんだね」
「試してみるのはありかと。他に心当たりはないのですから」
「まあ、確かにそれもそうだね」
言いながら、ふと、心が浮き立つのを感じる。
まだまともに思い出すこともできていないのに、かつての仲間と再会できるかもしれないと思うと、心のどこかがワクワクした。
不思議な感覚だけれど、悪くない。
僕が期待に胸を高鳴らせているのに気付いたのか、タマモが嬉しそうに言った。
「探してみるのでしたら、あのキラキラ、もといアレクシスさんの依頼を受けるのがスムーズでしょう。情報という意味でもそうですし、オーガ程度どれだけ出てきたところで大したことではありませんが、万が一のことを考えるなら、主様の安全度を上げるために戦力はあるに越したことはありません。なんでしたら、これからすぐにでも組合に行って了承の連絡を……」
「いや。それはちょっと待って」
勢い込んでくるタマモを、慌ててとめた。
「僕の独断でパーティのことを決めるわけにはいかないよ。きちんと相談しないと」
可能性の話をするだけならともかく、実際に動くとなると話は少し違ってくる。
と、思ったのだけれど、ふたりはどうも違うようだった。
「主様の意向であれば、私は異存ありません」
「私もグレンがしたいなら、付き合うよ」
タマモだけでなく、エステルも同じ意見のようだった。
そして、当たり前のように言ってくる。
「このパーティのリーダーはグレンなんだから」
「僕が?」
虚を突かれた僕に、エステルが首を傾げる。
「それはそうでしょう。パーティは再編したんだし。前は、プライドばっかり高いエドワードがリーダー役をやってたけどさ。新しいパーティには、新しいリーダーが必要だよ」
「いや。それはわかるんだけど……」
「なに?」
「いつの間に、僕がリーダーに?」
初耳だった。
リーダーを決めた覚えはない。
逆鉾の君は無理にしても、戦闘力ならタマモのほうが高い。
判断力ならエステルだっていいはずだ。
ただ、ふたりの間ではもうこれは決まっていることだったらしい。
「他にいらっしゃらないと思いますが。私は主様以外に従うつもりはありません」
「私も、グレンについていくから」
「……なるほど」
このパーティの核が僕なのは、間違いないようだった。
というか、これ、さては選択肢がないな?
別に嫌というわけじゃないけれど。
……しかし、リーダーか。
「責任重大だな……」
「堂々となされていればいいのです。主様なら間違いなどありえませんから」
タマモが断言する。
信頼してくれるのは嬉しいけれど、疑うことを知らないニコニコ笑顔は胃が痛い。
僕は普通の人間で、普通に間違うのだ。
それこそ、記憶のなかの彼――万魔の王なら、違うのかもしれないけれど。
「もちろん、私も投げっぱなしにするつもりはないよ」
さすが付き合いの長いエステルは、僕がプレッシャーを受けていることに気付いたようだ。
フォローしてくる。
「必要があれば意見も言う。そこは安心してくれていいから」
そう言ったうえで、彼女は強い口調で続けた。
「ただ、リーダーは絶対必要。いざというときに決断するために。それができないと、オーガと遭遇したときみたいになる。あれは確かに災難だったけど、あのとき、ちゃんと対処さえできてれば、みんなで逃げ切れた可能性だってあったんだから」
「それは……」
エステルのいうことは正しい。
あの場面、僕がオーガを感知して警戒を発した時点で即座に全員が逃げ出していれば、違う結末もありえた。
だからこそ、彼女は言うのだ。
「適当なことを言ってるわけじゃないよ。私は、グレンならできるって思うから、リーダーをしてほしいんだよ」
小さな手が伸びてきて、僕の手を握りしめる。
少しだけ低い、優しい体温。
紫水晶の瞳が見つめてくる。
いつでも僕に力を与えてくれるまなざしだった。
男も女もないこんな世界だけれど……これで応えなきゃ男じゃない、と思う。
「……わかった」
うなずきを返し、リーダーとして責任を背負って、僕は今後を決めた。
「アレクシスさんの依頼を受けよう」