10話 かつての仲間の手がかり
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「探す? 他の滅びの獣を?」
「はい。この私がいたのですから、他のみながこの世界にやってきていてもおかしくはありません」
確かに、それは言う通りかもしれない。
「まあ、主様をひとりじめできなくなるのは残念ですが。……本当に、残念無念なのですが」
「二度言うほどなんだ……」
「それはそうですとも。覚えておいてくださいましね。私は主様をお慕いしているのです。姉様方が来たからと追いやられてしまったら、泣いてしまいます」
よよよ、とタマモが顔を両手で顔をおおう。
「ああ。考えるだけでもなんだか涙腺がゆるんで……」
「待って待って! そんなことしないから! ちゃんと、その、タマモの気持ちはわかってるから!」
「でしたら安心ですね」
その答えを聞いたタマモは顔をあげると、にっこりした。
彼女なりの冗談だとわかってはいても、自分のことを好きだと言ってくれている女の子の泣く姿を見ずに済んで、少しほっとする。
僕は胸を撫で下ろして――ふとエステルの視線に気付いて、ギクリとした。
「……」
じぃーっと。
いまのやりとりを見ていた彼女の目が、奇妙に平坦なものになっている。
なんだろうか。
気になるけれど、あまり気にしたくないような……。
話を戻したほうがよさそうだ。
「だけど、他の滅びの獣のみんなを探そうにも、手がかりがないよね」
探せば、この世界のどこかにいるのかもしれない。
けれど、それは雲をつかむような話だ。
「いえ。そうでもないかもしれません」
「ん?」
「確かなことは言えませんが、意外とみんな近くにいる可能性もあるかと思いまして」
「というと? なにか根拠があるのかな」
「私がすでに主様と再会しているからです」
おどけているときとは打って変わって、理性的な口調でタマモは言った。
「広い世界のなか、私と主様が偶然再会できたのなら運命的でとても素敵だと思いますし、もちろん私たちは運命で結ばれていると確信はしていますが――冷静に考えて、それは偶然ではありえないでしょう」
「口では乙女なことを言いつつも、タマモって考え方は地に足付いているよね」
「乙女チックで現実的なところがチャームポイントですので」
両立できているのは、実際、けっこうすごいと思う。
ともあれ、僕も少し思考を整理する。
「つまり、この広い世界で、僕が攻略対象とするような迷宮でタマモが眠っていたのは偶然じゃないってこと?」
「はい。私が主様に引きずられてここにいるというのは、十分にありえることかと。その場合、私と同じようにこの国のどこかの迷宮に、他の滅びの獣が眠っている可能性は低くありません」
「なるほど。一理ある」
そこで、僕たちのやりとりを聞いていたエステルが首を傾げた。
「だけど、グレン。それが本当だとしても、この王都だけでも大迷宮は三つもあるし、それぞれがとんでもなく広いよ」
「それも、確かにそうだね」
迷宮に依存するこの世界の仕組みから、国の人間の大部分が一極集中して住んでいる王都。
そこに住む人間の8割を占める冒険者が生活のために毎日もぐっても、まだ全然余裕があるくらいなのだ。
下層に至っては、挑戦できるのはごく少数の上級冒険者だけなので、探索し切れていない場所がいくらでもあると聞いている。
探し物をするには、この王都にしぼったとしてもまだ広過ぎる。
「……手がかりはあるかもしれません」
といったのは、タマモだった。
「主様にお尋ねしたいのですが。昨日、あのキラキラが言っていたことに関してですが」
「アレクシスさんね」
「そう。キラキラのアレクシスさん。彼が言っていた迷宮異常事態が起きている場所のひとつが、私が主様と再会した場所だったのですよね」
「そういうことになるね。実際、僕たちはオーガに遭ったわけだから」
うなずいた僕に、タマモは疑問を提示する。
「通常ではありえないような出来事が起きている場所に、この世界では異物である滅びの獣がいた。はたして、これは偶然なのでしょうか?」