3話 最高位冒険者の依頼
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僕はアレクシスさんに、自分の身に起きたことを説明した。
もちろん、未踏領域で見付けた不思議な岩のことや、タマモの真実、僕の過去のことについては伏せたうえでだ。
話し終わると、アレクシスさんは同情的に頷いた。
「なるほど。それは、大変な目に遭ったね。生きて帰れてよかった」
「タマモとサカホコに助けてもらえましたから。生きて帰れたのは幸運でした」
「聞く限り、ただの幸運ばかりとは限らないだろう。生きるべく抗ったから、幸運を掴むことができたわけだ。そういうのが、冒険者には最も大事な資質だと私は思うよ」
「ありがとうございます」
最高位の冒険者から、認められるようなことを言われるのはなんだかくすぐったい。
アレクシスさんがタマモたちに水を向けた。
「グレンの話だと、ふたりは外国からの移住者ということだったね」
「はい。不慣れなところだったので、主様に出会えたことは幸運でした」
「『旅に出て自分の主を見付ける』か。君たちの国には、奇妙な風習があるんだな。――っと、失礼なことを言ったかな。許してほしい。外の国のことはときに奇妙に思えるものだから」
「かまいません」
にこやかに答えるタマモ。
不自然さを隠すために、彼女たちは他国の人間ということにしておいた。
基本、この世界、迷宮近辺で閉じており、一部の人間を除いては国家間の人のやりとりはない。
遠い国の一地方の出身だと言われれば、奇妙な目で見られこそすれ、嘘を見抜ける人間はいなかった。
「こちらこそ、サカホコのご無礼をお許しくださいまし。非常に寡黙なタチでして」
微動だにすることなく、ソファのうしろに立っている逆鉾の君を示して、タマモが言う。
「しかし、性根は清く正しく、腕も立ちます」
「オーガを倒して、冒険者を助けたという時点で心根も実力も疑ってはいないよ。それに――」
アレクシスさんがこちらを向いた。
「――主として認められたというグレンも、ずいぶんと腕が立つようだ。先程の鎮圧の際に見せた力は見事だった」
そういうと、なにかを考えるようにアレクシスさんは視線を天井に向けた。
シャーロットさんが不思議そうな顔をする。
「アレク? どうかしたんですか?」
「……ちょうどいいかもしれないなと思って。人手が足りていなかっただろう?」
「まあ。それほどの逸材ですか?」
「さっきの騒動を見る限りは。それに、私の勘もそう言っている」
やりとりを挟んで、再び視線が僕のほうに向いた。
「話をしてくれたこと、礼を言う。そのうえで、君たちさえよければだが、私の頼みを聞いてくれないだろうか」
「頼みですか?」
最高位の魔法銀級冒険者が、頼みごと……?
予想外のことに目を丸くする僕に、アレクシスさんは言った。
「組合から頼まれた、私たちの依頼を手伝ってほしいんだ」
「手伝い……僕たちがですか?」
思わぬ申し出だった。
必要に応じて、冒険者が依頼を融通し合うこと自体はない話じゃない。
ただ、アレクシスさんは最高位の魔法銀級冒険者だ。
振られた依頼には、相応の難易度があるはずだった。
それを、僕たちに……?
「足を引っ張らないでしょうか」
「大丈夫だと私は判断した」
予想された反応だったのか、よどみなくアレクシスさんは答えた。
「まず、タマモさんとサカホコさんはオーガを倒せるレベルにある。そして、さっきの組合での騒動を見る限り、グレンはすでに最低でも銀級冒険者の上位レベル……あるいは、黄金級冒険者の領域に足を踏み入れかけているものと私は見た」
「僕が……?」
少し驚く。
鋼鉄級冒険者のマーヴィンを一蹴することができたとはいえ、自分の実力がどの程度のものなのかは、正直、まだ把握できてなかった。
僕が銀級冒険者の上位、あるいは、黄金級冒険者レベル。
言われてみても、実感はない。
けれど、アレクシスさんは確信しているようだった。
「加えて、さっき聞いてきたが、エステルくんは組合の内部資料ではすでに銀級冒険者相当だ。冒険者のレベルはパーティ単位で評価される。君たちはすでに黄金級冒険者相当だと私は判断した」
そこで、アレクシスさんは一度言葉をとめた。
「と言っても、突然な話だ。君たちにも予定があるだろう。この場ですぐに返答を求めはしないよ」
確かに、すぐに答えられるような話ではなかった。
仲間たちとも話をしなければいけない。
それに、今日はあまりにいろいろなことがあり過ぎた。
エステルとタマモに目配せをしたあとで、僕は口を開いた。
「ありがたい話だと思います。よく考えさせてください」
「うん。期待させてもらうよ」
本当に楽しみそうに笑うアレクシスさんの言葉を最後に、その場はおひらきになったのだった。