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2話 迷宮の異変

   2



「オーガと……?」


 どうやらそれが、僕たちが呼びとめられた理由らしかった。


「それはかまいませんけど、どうして魔法銀級冒険者(ミスリル)のアレクシスさんがそんなことを?」

「普通、迷宮中層でオーガが出ることはない。たとえ、未踏領域であっても。これは大変なことだ。違うかな?」

「確かに僕たち中堅冒険者にとっては大変なことですけれど……」


 実際、死にかけた張本人なので、そこを否定するつもりはない。


「だけど、それはなにかの偶然じゃないんですか? いわゆる『迷宮の気まぐれ』だと思っていたんですけれど」


 迷宮で通常見られないような出来事が起こることを『迷宮の気まぐれ』という。


 僕はこれまで遭ったことがなかったけれど、たまに聞く話ではあった。


 要するに、偶発的な事故なので、その場で対処すれば終わりだ。

 今回の場合、すでに僕たちがオーガを撃破しているので、終わっているはずなのだけれど……。


 アレクシスさんもそこは考えていたようだった。


「ああ。()()は確かに、たまに気まぐれだ。けれど、それが何度も起これば、なにか()()()()()()()()と疑うべきだろう? そのうえで、解決策を探るのが()()と長くうまくやっていくコツだ」

「あら。そこで、恐ろしい迷宮を()()と言い表すのは、雌分類(フィメール)差別ではないですか?」


 そこで、黙っていたシャーロットさんが口を開いた。


 文句を言っているようだけれど、口許は笑っている。

 それだけで空間が華やぐような上品な雰囲気の人だった。


 アレクシスさんが肩をすくめる。


「差別? それは違うね。なぜなら私は、私たちに生きるための恵みと生き甲斐を与えてくれる迷宮を素晴らしいものと思っているし、それにたとえるほどに君たち雌分類(フィメール)を魅力的だと思っているからだ」

「斬新な見立てね。雄分類(メール)雌分類(フィメール)を魅力と思うだなんて」

「そんなことはない。わかる者にはわかる。なあ、グレン。君もそう思わないかい?」


 同意を求めてくるアレクシスさんも笑っていた。


 どうやらこのふたりは、雄分類(メール)雌分類(フィメール)の違いを超えて、仲が良いらしい。


 もっとも、この世界では当然のこととして、そこには男女の関係を思わせる空気はない。

 純粋に友人同士の気安さだけがあった。


 僕はなんとなくエステルのほうをちらりと目をやってから、頷きを返した。


「ええまあ。言いたいことは、なんとなくわかる気がしますけど……ええっと。それで、つまりはどういうことなんでしょうか?」


 話を戻した。


「彼女の……今回の迷宮の一件が、気まぐれではなく不機嫌だというのは、つまり、この手の出来事が他にも起きているって理解でいいですか?」

「君は察しがいいね。ああ、そういうことだ。実は、未踏領域で奇妙な出来事が頻出しているらしくてね。君たちも遭遇したが、中層で下層域のモンスターが出れば、中堅冒険者には大きな被害が出るだろう。ましてや『深層域の怪物(アビス・ゲート)』が出るようなことがあれば……」

「アビス……なんですか?」


 聞いたことのない言葉だった。


 迷宮には、上層、中層、下層とあっても深層という区分はない。


「ああ。深層というのは、私たち上級冒険者がそう呼んでいるだけだからね。下層には、私たちでも到達不可能な領域があるんだ。それ以下を深層と呼び、そこにいるのが『深層域の怪物(アビス・ゲート)』。人種が踏み込むことを許さない現時点で確認されているなかで最強のモンスターだ。過去、私たちも遭遇したが、逃げかえるのが精いっぱいだった」


 下層には、あのオーガが可愛く見えるような怪物が棲んでいるらしい。


 可能性の話にしろ、確かにそんなのが中層域に現れれば、中堅冒険者が殺し尽されてしまいかねない。


「そういうわけで、私たちはその調査と解決を組合から依頼されているんだ」

「ああ。依頼……それも組合からの」


 話がようやく繋がった。


「それは、お疲れ様です」


 冒険者の主な収入源は迷宮探索だけれど、他に依頼を受けて報酬を受け取ることもある。


 基本は組合を通して依頼がなされ、冒険者のほうで受注する。

 これに対して、特定の冒険者が指名されるものを指名依頼という。


 もちろん、個人に直接依頼を持って行ってもいいのだけれど、組合を通さないと冒険者としての実績にはならないし、下手をすると犯罪の温床にもなりかねないということで組合は推奨していない。


 さらに、特殊なケースとして組合から依頼をされることがあり、これは特別な理由がない限り断れない。


 僕たちのような中堅冒険者の場合、人手が必要なときなんかに駆り出される。

 必要だけれど割に合わない仕事が多く、年に一度か二度の持ち回りの仕事として認識されている。


 魔法銀級冒険者(ミスリル)黄金級冒険者(ゴールド)の場合は、そんな雑用めいた依頼は来ないのだろうけれど、そのぶん、迷宮に起きた異変の解決という大変な仕事を振られてしまったのだろう。


「なに、これも上級冒険者としての務めの範疇だ。それで、話はしてもらえるのかな?」

「そういうことなら、喜んで協力させてもらいます」

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