1話 赤の勇者の要望
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その後、武器を奪われたエドワードたち3人は、警備員に捕らえられていった。
こうなっては、彼らはもう終わりだろう。
それで、この騒動からも解放されたかと思われたのだけれど、思わぬところから声をかけられた。
「ちょっと時間はあるかな。私たちに付き合ってほしい」
なんとアレクシスさんから要望があったのだ。
いろいろあって疲れてはいたけれど、相手は魔法銀級冒険者だ。
断るわけにもいかない……というのもあるし、正直、最高位の冒険者に興味があった。
僕たちは組合の奥の部屋に案内された。
どうやら組合の応接室のひとつのようだ。
最高位の冒険者ともなれば、要望ひとつですぐ使えてもおかしくない。
アレクシスさんから、手続きがあるので少し待ってほしいと言われ、僕たち4人だけが部屋に残された。
「あのキラキラ、何者です?」
ソファに腰かけると、僕の右隣に座ったタマモが不審そうな声をあげた。
キラキラというのはアレクシスさんのことだろう。
僕の左隣に座ったエステルが口を開いた。
「アレクシス=ホルツヴァート様は、冒険者パーティ『護国の剣』のリーダーだよ」
「有名な方なのですか?」
「最高位冒険者である魔法銀級冒険者として、国で知らない人はいないと思う。サンカディア王国には魔法銀級冒険者のパーティはふたつしかないしね。ちなみに、あの人は女神から勇者の職業をもらっていて『赤の勇者』って呼ばれてる」
「勇者の……? とすると、主様と同じというわけですか?」
タマモの素朴な疑問に、僕は少し苦笑してしまった。
「名前だけはね」
アレクシスさんは、勇者としてきちんと力を使いこなせている国内最高の冒険者なのだ。
そもそも、女神の間違いで勇者にされただけで実際には精霊使いの僕とは違う。
「なるほど、国内最強クラスの冒険者というわけですか。でしたら、あの強さも納得です」
タマモはふむと鼻を鳴らしてから、眉の間にしわを寄せた。
「むー」
「どうかしたの?」
なんだか気になる反応だったので尋ねてみると、タマモは唇を尖らせる。
「どうにもあの方、気に入らないなと思いまして」
「……僕たちに悪意を持っていそうってこと?」
パーティメンバーに裏切りを受けたばかりだ。
そういうことには、どうしても敏感になってしまう。
「いえ。そういうことではないのですが」
「そうなの? だったら……」
「ですが! タマモの乙女センサーが訴えかけているのです! あの男は危険だと!」
カッと目から光線でも放ちそうな勢いで叫ぶ。
「気を付けてくださいましね。主に貞操的な意味で」
「あ、うん」
よくわからないけれど、緊急性はなさそうだった。
エステルが首を傾げる。
「でも、確かにグレンに興味津々って感じではあったかも」
「そう? だけど、どうして?」
「それはわからないけど。ただ、あのとき、アレクセイさんの動きを追えてたのはグレンとタマモさんだけっぽかったから、それでかも?」
確かに言われてみれば、それは冒険者として気を引かれるには十分な理由かもしれない。
そこで、部屋の扉が開いた。
「待たせたね」
アレクシスさんが入ってくる。
さっきまで一緒だった仲間らしき青年たちの姿はなく、代わりに女性がひとり一緒だった。
装備からして、組合職員じゃなくて冒険者だ。
僕たちよりも少し年上、20歳ほどだろうか。
印象的な美しい黄金の髪が、腰まで伸びている。
「『輝きの百合』のシャーロット=リントン様……」
驚いたようにエステルが言った。
その名前を聞いて、僕も驚いた。
「上級冒険者……しかも名前付き!?」
シャーロット=リントンは、雌分類のパーティとして高名な上級冒険者だ。
級位は黄金級冒険者。
サカンディア王国では魔法銀級冒険者に雌分類はいないので、王国内で最高の雌分類冒険者ということになる。
加えて、パーティ名として『輝きの百合』を国から授与されている。
こうしたパーティは名前付きと呼ばれ、国の重要な存在である上級冒険者のなかでも、さらに頭ひとつ飛び抜けた存在とされる。
言い換えれば、最高位の魔法銀級冒険者候補ということだ。
しかし、どうしてまた、そんな高名な冒険者パーティのリーダーがふたり揃って?
そんな疑問が顔に出ていたのか、アレクシスさんが明るい声で言った。
「知っているようだけれど、こちらは『輝きの百合』のシャーロット=リントン。一緒に話を聞かせてもらおうと思って声をかけたんだ」
言いながら、アレクシスさんはシャーロットさんとともに対面のソファに腰を下ろした。
こちらの緊張を解くような、優美でいながら気さくな表情が向けられた。
「そう警戒しないでほしい。私たちは、中層の未踏領域でオーガと遭遇したという君たちに話を聞かせてほしいだけなんだ」