8.
明かりを落とされてもなお真っ白で無機質な部屋の中央に、王侯貴族が使いそうな豪奢なベッドが鎮座していた。天蓋が付いたキングサイズのベッドの片隅が盛り上がっている。せっかく広々とした寝台なのに、寝返り一つで落ちそうな位置だ。もちろん、最初は中央に眠っていたのだが。
本来の枕元でピロリロと電子音が鳴り響く。
ベッドの主は、ずずずと這って、放り出された通信機を握った。5センチほどの棒状のマイクに、耳に差し込むイヤホン部分が付いているだけの簡素な端末である。
マイクの脇にはランプがあり、青く瞬いていた。青、ということは相手はイクスだ。水色がアウレーリエ、緑がユリアーナ。黄色はユプシロンで赤はツェットだ。研究所に暮らす一人ひとりに色が割り当てられている。
「なぁに?? 僕寝てたんだけどぉ……」
ギーゼルベルト・ツァイツラーはふやけた声で苦言を呈した。片手で通信機を付けながら、もう一方の手で付近を手探りする。眼鏡が見つからない。景色は色のない抽象画にしか見えず、触覚に頼るより他になかった。
『アポの電話があった』
寝起きのギルに負けず劣らず気だるげな声がスピーカーから湧き出す。
イクスは、数々の試作のあと、初めて完成形に近い形に造ったアンドロイドだった。
顔も体型も、髪質から歯並びに至るまで、全て兄に――ヨルク・ツァイツラーに似せて造った。起動させるまでは、兄の遺体が横たわっているかのようだった。もっとも、本物の兄は交通事故で死んだため、遺体は酷い状態だったが。
中身も、兄に近づけたはずだった。初期学習はヨルクがどんなことを考え、どんなふうに振る舞い、どんなことができて……、そういったことを教え込んだ。
なのに、今、ギルに語りかけるイクスの有り様は、兄の繊細さとは無縁だった。ピアノにも全く興味を示さない。ヨルク・ツァイツラーと言えば高名なピアニストだったというのに。
――これ、なんの意味があんの?
兄と寸分違わぬ演奏をして、イクスは不思議そうにギルを見上げたのだった。
二体目のユプシロンを死別した妻、カトリーナに似せようと思ったのは、イクスがあまりにモデルと異なる振る舞いをしたからだった。
『――から、写真が撮りたいんだと』
「あー、ごめん、聞いてなかったから最初から話してー」
『まだ寝てるのか? フリーダ・ヴェリースが、同僚への手土産に俺らの写真を撮りたいんだとよ』
「ああ……、マルクスの手先ね」
ようやく眼鏡を探り当てる。眼鏡をかけると、それまで灰色の塊だった景色に輪郭がついた。
フリーダが押しかけて来るようになってどのくらい経ったのだろう。
彼女はツェットのテストを行ってから、週に二回程度のペースで顔を見せるようになった。ギルに会いに来ているというよりはユリィとツェットを訪ねているようである。ギルもユリィに言われて見送りぐらいはすることもあるが、ほとんど会話したことがなかった。
最初に研究所を訪れてから、もう一ヶ月くらいは経っただろうか? 地下暮らしもあって、日付の感覚はひどく曖昧だった。
「いつ来るの?」
時計を見ると十五時過ぎを示している。ベッドに入ったのが朝の五時頃だったから、ずいぶん長く眠っていたようだ。
『早ければ早いほうがいいけどこっちの都合に合わせるとよ』
「ふぅん。じゃ、今日の十七時って答えといて」
『分かった』
通信が切れた。
あくびを噛み殺しながらベッドを抜け出す。白衣のまま寝ていた。着替えなくてはユリィに小言を言われると分かっているが、そのままで寝室を出る。
通信機のボタンを三度押して、通話の相手をユプシロンに変えた。
「ユプシロンー、お腹減ったから何か食べ物用意して。十分で食べ終わるようなものがいいなぁ」
『はい』
亡妻と同じ声で短く返事をする。ユプシロンもやはり、性状はカトリーナとは全く異なる。死者を人工的に蘇らせることの、なんと難しいことか。
いや、エーデル回路が“再現”に不向きなのだ。経験というデータから子供が育つように学習するエーデル回路人工知能では、段階的に“当人と似た経験”を与えながら細かくパラメータを調整して、ようやく他人を再現できる。
似せることが目的ならば、言動と要因が一対一で対応するような形にした方が早い。
わかっていた。わかっていてやらなかった。無意味だからだ。
廊下に出ると、かすかにピアノの音が聞こえた。イクスに弾かせたかったピアノは、今やアウラのおもちゃだ。
モーツァルトの連弾ソナタが聞こえる。アウラの隣で弾いているのはツェットだろう。アウラが駄々をこねて引っ張り込んだに違いない。イクスもユプシロンも仕事中ならば、消去法でそうなる。
ダイニングの扉を開けると、玉ねぎのにおいがした。ユプシロンがオニオンパイを切り分けて皿に乗せている。パイはすでに半分になっていた。おそらくユリィの朝食か昼食と同じものなのだろう。
ユプシロンはギルに気付くと無言で微笑んで一礼した。さらりと黒髪が流れる。
ユプシロンは人間に対して無口だった。表情は豊かだし、中身を覗けばどんなことを考えているかはだいたいわかる。言語として出力しようとしないのが、ギルに対するある種の気遣いであると分かってからは覗きも出力の強制もやめた。
それに、アンドロイド同士であれば喋る。仕事上接することが多いイクスとは特に親密だ。他者に対して親しみを覚えるように作ってある中で、ユプシロンのそれはイクスに対して強く反応している。
ギルは椅子を引きながら周囲を見回した。
「ユリィは?」
イクスはいつもどおりエレベーターにつめているとして、ユプシロンはここにいるし、アウラとツェットはピアノの部屋だ。残り一人、人間の助手の居場所だけがわからない。
「ご自身の部屋か、ピアノのお部屋ではないかと」
ユプシロンがコーヒーを注ぎながら答えた。答える間だけ目をブルーにして、すぐグリーンに戻る。彼女は言われる前にミルクと砂糖をたっぷり注いで差し出した。
「ありがと」
パイを手掴みしてがつがつと食らい、コーヒーを流し込むと椅子を蹴って立ち上がった。行儀悪く指先を舐めた後、ユプシロンが差し出したナプキンで手を拭う。
「ツェットー、お客さん来るから作戦会議しーましょ」
ギルは空に向けて言葉を放った。
ツェットはこの地下の警備システムそのものだ。研究所中に仕掛けられたカメラ、マイク、赤外線センサーその他諸々、すべて監視している。こちらから話しかける分には通信機が必要ない。
『分かった。今から向かう』
生真面目な声がイヤホンから発せられた。
廊下に半身を乗り出すと、ピアノの音は聞こえなくなっていた。
代わりに、アウラの駄々が漏れている。扉が開くと音ははっきりとした。
「ギーゼルベルトに呼ばれていると言ってるだろう」
「行っちゃやだったら! 私は何も言われてないもん!」
「俺は直接言われている。放してくれ」
「いーやーだー! やっと片付け終わって遊べるのに! ツェットのバカ! ぼくねんじん! とーへんぼく!」
その後は聞くに耐えない癇癪が続いた。
アウラは純粋な人造人間としては唯一の完成品だ。ギルがアンドロイドに求めた全てを注ぎ込んである。まだ起動から一年も経っていないため、知能も態度も幼児そのものだ。
左腕を引かれた状態で、困った顔をしているツェットが見える。
「ユリアーナ、なんとかしてくれ」
縋るような目を室内に向けた。部屋には助手も一緒にいるらしい。小さく笑い声が聞こえたが助け舟を出すつもりはなさそうだ。
ひとまずの完成を見て、動き始めた子供たちを観察していると、新たな発見や予想外の挙動もある。
ツェットはアウラを強引に振り払ってギルのもとへ向かうことも出来るはずだし、命令の優先度を考えればそちらのほうが自然である。ツェットに限っては、ギルの命令が何よりも優先されるようにしてあった。相手が人間ならともかくアウラの我儘など、放っておけば良い。
おそらく、ツェットの中ではギルの言う「作戦会議」が十分で済むものと計算されている。試算は概ね正しい。現在時刻と来客予定の十七時ちょうどまでを差し引き、ギルの忍耐も考慮して、もう少しだけなら説得による解決を目指す時間的余裕が存在する、という考えだろう。
ギルも壁にもたれて待ちの姿勢をとった。
(平和だなぁ)
こんな和やかな日々、そう長くは続くまい。
マルクス・デュッケは大学時代の後輩だった。同い年の後輩である。ギルにとってはほとんどがそうだった。十三歳で入学して、実家の経済力にあかせて取るべき単位も取らずに研究に明け暮れた。頼むから試験に出てくれと教授が頭を下げに来る頃には、大学に同世代もずいぶん増えていた。
ギルは大学内で有名だったので、近づいてくる人間は山ほどいたが、その中でもマルクスは異質だった。冷徹で偉そうで、人脈を武器としか思っていない。当時はそれが面白くて、比較的まともに交流していた。
軍で高官になったと聞いて納得した。迎えに来たと牢に現れたときもやはり来たかと思った。
今も、ツェットを隠れ蓑に、マルクスからの頼まれものを製作している。
頼まれものは、ギルからすればただのおもちゃだった。マルクスにとってもそのはずだ。
『エーデル回路を搭載した軍事用演算機』
そんなもの、思うように動かずトラブルを撒き散らすだけだろう。
(そろそろ潮時かねぇ。一応アレが出来上がれば、僕も用済みだろうしー。どーしよっかな)
十五年もの間、のらりくらりと地下牢生活を続けてこれたことが奇跡的だったのだ。
命綱となるエーデル回路のオペレーティングシステムは、誰にも明かすつもりはない。俗悪な人間の手には余る。
「我儘も大概にしろ」
ツェットがアウラを振りほどいた。そろそろ手を出そうかと思っていたタイミングだった。
(さすが。よく分かってるじゃないか)
ギルは子供たちのいる音楽室へ向かった。
ツェットがギルを見て、ややバツの悪そうな顔をする。
ユリアーナがヨルクの遺品であるグランドピアノの後ろに、簡素な椅子を置いて座っていた。演奏を聞きながら読んでいたのだろう、論文を手にしている。助手は教えられることが少なくて申し訳ないくらいに勤勉だ。
その彼女に甘えるようにアウラがしがみついている。兄に叱られた妹が母親に拗ねて甘えている図だ。
助手はギルに気づいて微笑んだ。
「ギル。見てたの?」
「うん」
アウラが振り向いた。グリーンに光る目は涙を模した液で濡れている。アウレーリエは合理化よりも人間らしくすることを優先しているため、他の機体にはない機能が山盛りだ。涙を流して泣くのもそのうちの一つだった。
「ギルのバカ。せっかくツェットがピアノ弾いてくれてたのに」
普段から付き合いの悪い兄が連弾に応じてくれた嬉しさがまるっと中断の悲しさに置き換わってしまったようだ。
「そりゃー邪魔してごめんなさいね。でも君のはただのお遊びだけど僕の用事はお仕事だ」
アウラは不服げに唇を尖らせた。アンドロイドたちは、ストレス値が一定以上を越えると、不満を顕にする。
「仕事仕事、っていっつもそればっかり」
「僕に言うことを聞かせたかったら、パガ超弾いて見せてよ」
それは、アウラがピアノに興味を持ち始めた時に交わした約束だった。
パガニーニによる超絶技巧練習曲――ラ・カンパネラ有名だが、いずれも超絶技巧の名に違わぬ難曲だ。オクターブ越えの和音が飛び交いトリルが連続する。
兄がよく弾いて聞かせてくれた曲たちを弾きこなすことができたら、なんでも一つだけ言うことを聞くことになっている。
「私じゃ物理的に無理だって分かってるくせに」
アウラはユリィの膝に顔を埋めてぐずる。
ロボットならばあらゆる曲が弾きこなせるかというと、そうはいかない。人間の姿に似せている以上制約はある。
まず、アウラの手では九度以上の和音が押さえられない。大きさも関節の可動域も足りないからだ。指をクロスさせて鍵盤を叩くのも、高速ではできない。イクスを作るに当たって苦心したのを思い出す。機構が複雑化しすぎて、ユプシロン以降のアンドロイドはもっと単純で不自由な造りにしたのだ。
「イクスができるんだ。改造すればできるよ」
「ユリィやってくれる?」
「えっ、私にできるかしら……。ツェットのほうが確実じゃない?」
「ツェットには前断られたんだもん」
ギルは眉を上げて隣に立つ青年を見上げた。
「へぇ? やってあげたらいいのに」
ツェットは人間の命令には極力服従するべし、という規則が影響してか、ロボットたちの頼みも断らない。珍しいことだ。果たして、彼の中でどんなロジックが組み上がっているのか。
ツェットは難しい顔で頭を振った。
「アウレーリエがギーゼルベルトに害をなす可能性は低いが、『なんでも言うことを聞く』などという危険な賭けに加担するわけにはいかない」
「僕は君らと違って人間なんだから、アウラに無茶言われれば断るさ。今後、僕を理由に断る必要はない。他に理由がないならやってあげなよ。僕が許す」
この程度のこと、分かっていないはずがない。それでも言い訳にギルを持ち出してくるのは、何かしら理由があるはずだ。
エーデル回路人工知能は嘘を吐かない。
ただし、本当のことを言うとも限らない。最も説得力のある言葉を計算して使うこともある。我ながらなかなか人間くさい仕様だ。
ツェットの目にほんの一瞬だけ紫がちらついた。
「……承知した(ヤヴォール)、ギーゼルベルト」
すぐに青い光が承諾を示したものの、嫌らしい。渋面のままだ。
「やった! 絶対、約束だからね!」
「ああ……。しばらくは手が空かないと思うが、いつかな」
兄の機微など知る由もないアウラは、喜色満面でツェットに抱きつく。
その様子を微笑ましそうに眺めていたユリィが立ち上がった。
「さっきツェットから聞いたけど、フリーダさんが来るのよね?」
ユリィの声は浮き立っている。
彼女にとって、フリーダ・ヴェリースは希少な『若い女性の訪問者』だ。地底で暮らしていると、たまに他人とやり取りしても中年男性の軍人か学者ばかり。フリーダの存在は貴重な潤いだという。会話をするだけで心が洗われるらしい。
たとえ若かろうと女であろうと、軍人は軍人だ。
ギルは懸念を口に出すのを抑えた。マルクスの息がかかった人間に気を許すなと釘を刺したときの沈んだ顔をもう一度見たくはない。
「写真撮りに来るんだって」
「そうなの? じゃあ皆にお洒落させないと。ツェットも後でいらっしゃい」
ギルはだらりと猫背になった。
「いつも通りでいいよ」
ツェットも少し考えたのちにエラーを返す。
「命令なら従うが……」
消極的な男性陣に、ユリィは肩をすくめた。
「私は、写真が後世に残るかもしれないと思ったらいつもより上等に写りたいけれどね。嫌なら無理強いはしないわ」
ユリィはそう言ってアウラを連れて出ていった。
「ギル、あなたはせめて白衣ぐらい替えなさいね。ユプシロンに言っておくから」
と、言いおいていく。
ギルは、先ほどまでユリィが座っていた簡易椅子に座り、部屋の扉が閉まってから口を開いた。
「マルクスの手先とはあまり仲良くなって欲しくないんだけどね」
「ユリアーナに直接言えばいい」
「分かってるよ。でも言いたくないんだもん」
椅子にずり下がって地団駄を踏む。スリッポンの靴底がバタバタ鳴った。
「だから、ツェットがあの軍人をユリィに近づけないでね」
「分かっている」
「どーだか。君ってすっごく人間に甘いもん。ユリィが着替えてってもう一声頼んだら、付き合ってあげたでしょ」
「それは……、だがユリアーナは無理強いしないと言った」
「ユリィはね」
ツェットが困ったように眉を下げる。
ツェットのコートは身を守るための装甲だ。肩うち式のロケットランチャーくらいなら、衝撃で吹き飛ばされはしても、理論上中身までダメージは通らない造りだ。相手が人間ならば、コートを着ている限り破壊されることはまず考えられない。
もちろん、鎧を脱いだところで人間相手に引けば取るまいが。
警備システムが外部の人間を前に武装を解くのが言語道断であることに違いはない。
しかしながら、定期メンテナンスでツェットの頭の中を覗いていると、番犬にはつくづく向かない性格に育ってしまっているのがわかる。
回路は学習データが増えるにつれて長期的な予測ができるようになる。
アウラなどはまだ一時間後のことを考えるだけで精一杯で明日のこともろくに考えていないが、ツェットはもう充分に今起こした行動が一ヶ月後にどう影響するかまで予測できているはずだ。
ツェットは論理的な思考をしても、いざ行動するとなると今目の前にいる他人の言葉を優先してしまう。後々のことをシミュレートして、フリーダを研究所から締め出したほうが良いと計算したとしても、懇願されれば扉を開いてしまうのだ。
もちろん「対処できない事態にはならない」と計算した上での行動のはずだが、先より今を優先していることに違いはない。
「いいかい、ツェット。あの軍人がユリィに近付こうとしたら物理的にも心理的にも間に挟まること。アウラがヤキモチやくかもしれないけど気にしちゃだめ。常に警戒レベル3以上キープ。いい?」
「いささか過敏ではないかと思うが」
「だーからツェットは甘いってゆーの」
「……そうだろうか」
納得のいっていない顔はしているものの、瞳は青く光っている。
(わざわざ命令しなきゃ駄目ってのが困りもんなんだよね)
ユプシロンが言わずとも砂糖とミルクを入れてくれるように、ツェットも自ら訪問者を最大級に警戒してくれれば良いのに、エーデル回路の教育というのはままならない。
そうなるように作ったのは、他ならぬ自分だ。本物の人間よりも素直なぶんマシなのだろうから、子供を持たずに済んだのは良かったと思う。
(もう少しカティが長生きしてたら、不幸な子供が一人出来上がってしまうところだった)
ギルは椅子の上で伸びをして、反動をつけて立ち上がった。
「さて、僕はシャワー浴びに行くから、ユリィかユプシロンに着替えの用意頼んどいて。あと、イクスと非常持ち出し袋の進捗確認よろしく。ゴミ箱もこまめに空にしといてね」
「分かった。警戒レベルの引き上げに際して、ギーゼルベルトの仕事部屋に入室する許可をくれないか。ゲートを改造すると言って持っていったままだろう」
言われてみれば、フリーダが出入りすることになったあの試験の後、武器の持ち込み防止に使っていたゲートを弄ろうと思って外したのだった。仕事部屋の奥に置いて、すっかり邪魔なオブジェと化していた。
「ああー、手荷物検査ゲート? 忘れてた。まだ全然いじり足りないし作業途中だけど一応動くんじゃないかなぁ。運んでいいよ。一緒に丸いセンサー落ちてると思うから時間あったら付けといて。場所は察して」
適当極まる注文に、ツェットは少し考えてから頷いた。
「可能な範囲でやっておこう」
「よろしくぅ」
ツェットなら、問題なくゲートを完成させられる。五年間、武器から日用品から玩具まで、開発を手伝わせてツァイツラー流を叩き込んできたのだ。設計書がなくてもパーツを正しくつけるくらい難なくこなすだろう。
「さーて、ユリィに怒られないうちに着替えなきゃ」
ギルは鼻歌交じりにスキップした。