表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お前のためなら死ねる俺  作者: エコー


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/50

第46話「アルドロ軍の進行」


 ラルズは仮眠を済ませると、城壁付近の民家に入った。


 家具を拝借したそこでは、急ごしらえの作戦本部が出来上がっている。

 アスレーヴェが入ることは適わないが、さすがに獅子の神も、四日も戦えば休息を必要とするようで眠っている。


「おはようございます。しかし、さぞお疲れでしょう。アスレーヴェ様を除けば、ラルズ殿下の武功に敵う者はおりませんから」


 ミラルドの声音からして、おべっかではなさそうだった。

 それでもラルズは少し距離を置いてしまっている。


「優しく起こされたってことは、敵は撤退したままなの?」


 ええ、とミラルドは頷いた。

 それでも寝かしておいてもらえなかったのは、朗報があるからだろう。


「教会騎士の姿が遠目に視認されました。まもなく王都へ到着します」

「よかった……」


 アスレーヴェに頼りっぱなしだったが、何とか凌げたらしい。

 敵将が不在だったことに感謝だ。

 ミラルドは様々な可能性を思慮したが、最終的に、城門を破壊しない策はやはりないと断言した。


 だとすれば負傷、病、あるいは死亡。


 ミラルドは魂影(シャドウ)に何か影響を及ぼしたかもしれないと言っていたが、深くは語らなかった。

 該当するのがどれであったとしても、ラルズはスピライトが関係していると思った。


 結果的に、敵は半日前に全軍撤退した。


 少なくとも王都から見えない位置にいるのは確かだ。

 ミラルドの見解は、教会騎士と激突するのを避けるため、前線を下げたとのこと。

 ラルズとしてはこのまま北国へ退散してしまえと思いたいが。


「数回に分けて斥候を放ちましたが、一人として帰ってきません。敵の総数や糧食事情は不明です。ここからは憶測で動くことになります」


「退いたんだから、分が悪いと思ったんじゃないの?」


「その通りですが、帝国は分が悪いと思った時には逃げ場がない状況で戦っています。皇帝や海竜だけ戦場から離脱した線もありますが、クラークが存命していれば、雪山に逃げ帰るなど考えもしないはずです」


「でも、皇帝が戦える状態だったら、防衛はもっと悲惨なことになってたでしょう」


「ええ。ですから、憶測です」


 ミラルドから鋭い眼光を寄せられて、ようやく気が付いた。

 最終的に判断するのはラルズだと、彼は言っているのだ。

 しかしラルズは自分自身で、判断力が欠如している自覚があった。

 ラルズが敵の状況を勘で決めつける前、そうはさせないと言わんばかりに、幾千もの馬蹄がヴェルト平原から鳴り渡った。


「到着したようです」


 ラルズたちはこぞって民家から出た。



 教皇に会うのは一年ぶりだった。

 彼は装飾過多にも見える上等な鎧を身に纏っていた。

 齢七十を超える男が馬に乗り、鎧を着ているだけで心配になってしまう。

 しかし彼は長旅に疲れた素振りを一切見せず、アスレーヴェにこうべを垂れていた。


 神から十分な説明を受けた教皇は、ラルズに深く謝罪した。


「殿下に王の資格なしと、離別した我らをお赦しください。償いは戦場でと神に誓いましたが、危機も過ぎ去った後らしく……」


「今も資格はないから、悔やむ必要なんてない」


 皮肉に捉えられそうだったが、長年を生きた教皇は棘がないことを見抜いた。


「寛大なるお心遣いに感謝いたしますぞ。しかし、どうしたものでしょうか。敵がいないのであれば、私共は食い扶持を増やすだけでありますな」


 教皇は困ったように髭を撫でて、遠い目でヴェルト平原を見た。

 教会騎士はヴェルト平原にて待機している。

 城門は瓦礫で塞いであるので、人が一人通れるくらいのスペースしかないのだ。

 教皇の悩みを否定できないのが辛いところだが、帰られても困る。


「ラルズ殿下、分かりやすい二択です。防御か、攻撃か」


 すかさず、背後のミラルドが助け舟を出した。


「そうね……」


 さすがのラルズも、利点と欠点を熟慮できた。

 防衛を選べば、糧食が尽きない限りは強固な守りを築くことができる。

 遅れてシュワルドから糧食を乗せた牛車が辿りつくだろうし、数日で飢えることはない。


 それでも、攻撃を選ぶことで生まれる利点は大きい。


 この一年間、アルドロ王国はサーライン帝国に対し、待ち構えることしかしていないのだ。

 攻めに出れるほど戦況が好転したとなれば、北部の諸侯たちが竜に従うのも今日までだろう。

 何より、教会騎士が参戦したと触れ回れる。

 国内最大戦力の彼らが軍から去ったから、竜に寝返る者で溢れたのだ。


 それに、スピライトが皇帝を傷つけていたとしたら、それを活かさない手はない。

 彼の行動全てに、意味を持たせてあげたい。


 どちらを選んでも、国が滅びればラルズのせいだ。

 これが王族の責任か。

 ラルズは目を瞑って考えた。

 どうせ先が見えないなら、ミラルド含む兵士の意思を尊重すればいい。

 スピライトが生きていれば、何と言ったか。


 ……決まっている。


 ラルズは北の方角を見据えた。


「背を向けた獲物を、襲わない獅子はいないわ」



 アルドロ王国は王都に兵を残さず、進軍した。


 その総数一万三千。

 獅子三百に、神が一頭だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ