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7話

 ライベルクに戻った俺たちはまっすぐ屋敷に戻り男を引き渡すついでにアジトとヘビを潰してきたことをアダムに説明した。


「二人ともありがとう。イヴ、後でお説教だからな?」


「え~」


「勝手に飛び出していったんだ、当たり前だろう?」


「まぁいてくれて助かったところもあるからあまり怒らないでくれよ?」


「はぁ……仕方ない。あなたがそう言うなら少しは役に立ったんだろう。軽めにしておくがしばらくは外出する暇もないと思え」


「はーい……」


「さて、業務の引継ぎや禁断の果実の残党狩り、やることが多いと思うが頑張ってくれ。俺たちはオボロを追う」


「えっ!? もう行っちゃうの!?」


「もうこの領にはオボロはいないだろう。次の領へ行こうと思っている」


「なら少し待っていてくれ。渡したいものがある」


 数分後戻ってきたアダムが持っていたのは伯爵家の紋章が入った手に収まるくらいの金属の板だった。


「これは?」


「伯爵家がこの人を信用し、認めた証だ。これがあれば領境の検閲を時間を取られずに通れると思う」


「いいのか? こういうのは立派な騎士に渡すもんじゃないか?」


「二人はイヴの命を守ってくれた。それだけで渡すには充分だ。あんな人でも大切な家族だ、これ以上大切な家族を失いたくない。それはそのために私ができる最大限の援助であり覚悟だ」


「ならありがたくいただいていくよ。さて、国王もただのんびりしているわけではないだろう。追手くらいはかけているはずだしそろそろ連絡が来るはずだが……」


「キル様、狩人からの書状です」


『っ!?』


 いきなり後ろから聞こえた声に振り向くとフードを目深にかぶった年齢不詳の人物が書状を差し出しながら立っていた。


 かろうじてわかることは、こいつがかなりの腕であるということと、声の高さから女ではないかという事ぐらいだ。


「お前が連絡役か。名前は?」


「便宜上シグレを名乗っています。こちらが詳細です。確認後速やかに行動せよとの陛下からのお言葉です」


「わかった。じゃあ二人とも、またこの街に来たら屋敷を訪ねるよ」


「ああ。またな」


二人と別れた俺たちはオボロを追いかけて領境に向かいながらシグレに話を聞いた。


「私が聞いた限りではオボロはウェスリンへ向かったようです」


「ウェスリンか…… 砂と岩の都と言われる街だな」


「はい。採掘した石と黒い油の売買で生計を立てている人が多くいる街ですが、最近領主が変わりその領主は油の採掘を制限しているようです」


「では貧困で飢える者が多くいるということか」


「ええ。それよりもお客さんですよ」


 いかにもな格好の男たちがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらこちらへやってくる。


「おい兄ちゃん。女3人と荷物置いてきゃ見逃してやるぜ?」


「3人?」


 後ろを見ると少し後ろで気まずそうな顔をして立っているいるイヴがいた。


「お説教じゃなかったのか? まぁいい、答えは否、だ」


「賊に上げるものなんて何一つないですし、あなたがたはこれから捕まるので持っていても意味はないですよ」


「んだとゴラァ! おいお前ら! やっちまえ!」



―――――――――


「ば、馬鹿な……」


 威勢よく雄叫びを上げて襲いかかってきた賊だが腕前はお粗末なものだった。


 俺が出るまでもなく3人がボコボコにしていて少しだけ可哀想だと思ったのは秘密だ。


 そんなことがありつつも領境にたどり着き、賊を引き渡してイヴにお説教じゃなかったのかと聞くと、


「それが嫌なのと色んな領を見てみたくて脱走しちゃいました!」


「おいおい…… 置き手紙は?」


「急いで出てきたので書いてませんよ。それよりキルさん、付いて行っても良いですよね!?」


「この領はこれから大変になるんだからお前もアダムの手助けをしたほうが良い」


「私がいてもやれることは少ないですし、それよりも沢山の物を見たり経験したりしたいんですよ! だからお願いします!」


「けどなぁ……」


「私からもお願いしたいな」


「アダム。業務の引き継ぎは良いのか?」


「友人でありこの領の救世主を見送らないのはどうかと思いったから急いでやってきたんだ。間に合うか不安だったけど間に合って良かった」


「で、イヴが旅に出てお前は大丈夫なのか? 心の支えや業務の手助けは必要だろう?」


「イヴにそんなことさせてもこんなふうに脱走されるだけだから、それなら自由にさせてみようと思ったんだ」


「そういうことなら構わない。旅の仲間としては申し分ないからな」


「ありがとう兄さん!」


「帰ってきたらお説教ですからね?」


 そう言いながらも妹を見る目は優しく、本当に妹思いの兄だなと思った。


 新たに二人の仲間が加わり和やかに話しながら、俺たちはウェスリンを目指した。


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