4話
ケルベロスの死骸から十分離れた頃には辺りは暗くなっていた。
途中で拾っておいた枝を焚き火に放り込みながら安心したのか眠ってしまった女の子の護衛らしき二人に話を聞いている。
「私の名はノクト、彼女はルナです。私たちはライベルク伯爵家に仕えておりこの方は伯爵家がご息女であるイヴ様です。イヴ様を助けてくださりありがとうございます」
ノクトは青紫の髪に青い目をしたクールな青年でルナは金髪に翠の目の明るい少女だ。
そしてイヴは白い髪のなかに赤い髪が混ざるという珍しい髪をしており赤い目をしていたのを思い出して家族から疎まれているのではと思ってしまった。
妹もそうだが特殊すぎると拒絶される。例えそれが実の娘であっても。
俺は髪の色が原因で家族から疎まれているのではと思った。両親がそばにいないことがその証明だろう。
深く考えすぎかと思った俺は頭を軽く振ってから二人に質問の続きをした。
「人を助けるのも冒険者の仕事だからな。そういえばライベルク伯爵家のご息女がルズベルに遊びに来ていると聞いたことがある。今はその帰りか?」
「はい。この森は安全だと思っていたのですがまさかケルベロスがいるとは…… 何か生息圏が変わった等の報告は聞いていますか?」
「いや、なにも聞いていない」
「そうですか…… この森に潜んでいるのがあの一匹だけだと良いのですが……」
「数が多いようならギルドで人を集めて狩っておくしかないな」
「ご飯出来たよ~」
強い魔獣が多かった場合の対処法について話しているうちに料理ができたらしい。アリスの料理の腕は日に日に上がっており、教えた俺よりも上手いんじゃないかと思うことが多くなってきた。
「今日は鹿の燻製と野菜のスープだよ。時間がなかったから軽めだけどいいよね?」
「はい。この状況ですし満足するまで食べてしまっては動きが鈍くなってしまいますから」
「じゃあお嬢様を起こして食べ始めるか。おーいお嬢様~」
「んぅ?」
私……寝てたの? 確かケルベロスから助けてもらって……そうだ! ノクトとルナは!?
身体を起こした私を見ていたのは黒い髪を後ろで束ねた黒い目の男の子と、短めの白い髪と薄茶色の目の女の子。
見知らぬ私たちを助けてくれた優しい二人。
「起きたみたいだな。俺はキル、こっちは妹のアリスだ」
「キルさんとアリスさん…… ノクトとルナは大丈夫なんですか?」
「こちらですよ、お嬢様。お二人のお陰で怪我はだいたい治っています」
「良かった…… ありがとうございます!」
「気にしないでいいよ。それでこれからのことだけど、またケルベロスみたいな魔獣と遭遇したら不味いだろうし俺たちが街まで護衛するよ」
「良いのですか? お二人にも行くべき場所があるのでは?」
「俺たちもライベルクに行く途中なのでついでですよ。さぁご飯にしましょう。明日にはこの森を抜けてしまいたいですからね」
翌日、俺たちはケルベロスのような強い魔獣がいないか警戒しながら進んだがケルベロスどころか兎一匹にも出会わず森を抜けることができた。
それからライベルクまでお嬢様の護衛をしたのだが何事もなく着いてしまった。
良いことではあるのだが拍子抜けした感じは否めない。
「ライベルクに到着っと」
「ここでお別れですね……」
「あぁ。でも直ぐ会えるかもしれないな」
「フフッ、そうだといいですね。ではまた会いましょう」
ーーーーーー
街で少し情報収集をした俺たちは伯爵家の邸の前に来ていた。邸はこの街で一番大きい建物で、広い庭や高い尖塔などは公爵家に匹敵するほどだ。
「ここが伯爵家?」
「あぁ、そのはずだが…」
「なんで自信なさそうなの?」
「外観が変わりすぎてるからな……」
そう、前に来たときにはここまで大きくなく、もっとこじんまりとした機能優先といった先代の意向がそのまま反映された質素な建物だった。
門番に声をかけ伯爵のもとに向かう途中もきらびやかになっていて工事のための資金はどこから出ているのか気になったが伯爵の部屋に着いたので思考を切り替えた。
「伯爵、お客様が来ております」
「入ってきなさい」
先代の伯爵は細い目が特徴のまじめな人だったが今代の伯爵は小太りな体系に湿っぽい目と胡散臭さでいっぱいだったがそれを表情として出さないように気をつけながら口を開く。
「初めまして伯爵。私はキル、こっちは妹のアリスです」
「キル君にアリスさんか。私はエデンだ。娘を助けてくれてありがとう。それで、なにか用かな?」
「この街に犯罪組織はいますか? そこにいるであろう人物を殺せと国王から依頼されて私たちはこの街に来ました。名前はオボロ。国賊として今世間を騒がせている奴です」
オボロの名前を出したとたん伯爵は目に見えて狼狽え始めた。
「オボロだと!? 奴はこの街にいるのか!?」
「最後の目撃がこの街なだけで、未だにこの街にいるかどうかはわかりませんが、可能性はあります。そして国賊である奴が市場で買い物でもしようとしたならすぐさま住民に気付かれるでしょう。犯罪組織に身を寄せているか森に潜んでいるか。なら先に犯罪組織を潰して聞いてみます」
「そ、そうか。なら森の奥深くに「禁断の果実」という組織がある。だが我々では奴らのアジトは見つけられなかった」
「そうですか。では明日から探し出して潰してきます」
「なら今日はこの屋敷に泊まると言い。先程戻った娘も喜ぶだろう」
「ありがとうございます」
こうして俺たちは伯爵家に泊まることになりイヴと話しながら楽しく過ごしていたが、赤い髪の男が話しかけてきた。
「兄さん、どうしたの?」
「兄さん…ということはあなたがアダムさんか」
「はい。お二人に話したいことがあるのですが少しお時間をいただいてもよろしいですか?」
「あぁ。だが敬語は止めてくれ、あなたのほうが立場も歳も上だ」
「わかったよ。イヴ、二人を借りてくね」
アダムについていくと応接室のような部屋に通された。これから話す内容はそれほどヤバイ話らしいと緊張してアダムの言葉を待つと、アダムは驚くような話をしてきた。
「二人とも、父さんから禁断の果実の話は聞いただろう? あの組織は父さんが金稼ぎのために作った組織じゃないかと私は睨んでいる。なので父さんには充分警戒してほしい」
「まぁそんな気はしてたさ。ここへ来る前に街の人から話を聞いたがあまりいい話は聞けなかったからな」
「そこでお願いがあるんだけど禁断の果実のアジトに行ったときには父さんが関わっている証拠も探して来て欲しいんだ。これ以上街のみんなが苦しんでいる姿は見たくない」
「わかった、約束しよう」
「ありがとう。お礼に二人の部屋の護衛は私が信用する人たちに変えておくよ」
「頼む」
そうして俺たちが寝静まった頃、事件は起きた。