3話
「ガウッ、ガァッ」
「っ」
隠れている俺たちのすぐ近くを魔獣たちが通りすぎていく。それを確認して俺たちは大きく息を吐いた。
「ハァーー……」
「何この森! 危険な魔獣だらけじゃない!」
「奴らがこんなのを飼ってるなんて聞いてねぇぞ。くそっあの強欲領主、あえて黙ってたな!?」
「私たちがここの魔獣を少なくして死ぬのを期待してたのかな?」
「それよりあいつも犯罪組織の一員だと考えた方が自然だ」
「だから犯罪組織を潰すのに乗り気じゃなかったのね!」
「恐らくな」
(だが何故奴はオボロに殺されたんだ? 奴が犯罪組織の一員なら殺す必要はないはずだ)
「キルお兄ちゃん、また魔獣がくるよ!」
「ちっ、今度は数が少ない。さっさと倒すぞ」
「わかった!」
ちくしょう。オボロを追っていたはずが何故こんなことに……
ーーーーーー
「ここら辺には魔獣はいなさそうだな。今日はここで休もう、アリス」
「うん! ところでキルお兄ちゃん、何か聞こえない?」
「うん?」
ガァンッ キンッ
ここはフォリスの森。街道が通っていることもあり、あまり強い魔獣はいない森だ。ライベルクの街に向かう人は必ずここを通ることになる。
ここにすむ魔獣は怖くはないのでアリスと話しながら歩いてた俺たちが焚き火の準備をしようとしていると剣劇の音が聞こえてきた。
「お兄ちゃん!」
「わかってる! 行くぞ!」
木々の隙間を駆け抜けて音のする場所へたどり着いた俺たちが見たのは倒れている護衛らしき人たちと必死に慣れない剣を振る女の子がいた。
女の子はなんとか攻撃を防いでいるようだが相手が悪すぎる!
「あいつってケルベロスだよね!? なんでこんなところに!?」
「そんなことより早く助けるぞ!」
「あっ!」
アリスの驚いた声に振り返ると女の子が剣を弾き飛ばされ、宙を舞う姿だった。
「まずいっ!」
ーーーーーー
最悪です! なんでこんな場所にケルベロスがいるんですか!? 詐欺ですよ! ここには強い魔獣は出ないはずじゃないですか!
「お嬢様、早く逃げてください! ここは私たちが足止めします!」
こうみんなは言ってくれていますがこのまま逃げても他の魔獣に襲われてはひとたまりもないですね。なら……
「絶望なら出来る限り抗ってみましょう。みなさん力を貸してください!」
「お嬢様…… はい!」
みんなで時間を稼げば誰かが助けてくれるかもしれません。それにかけるしかなかったとはいえ私の考えは甘いと言わざるをえませんでした……
「グアッ」
「キャア!」
「お嬢様…… 申し訳……」
目の前でみんなが死んでいきます…… 爪に引き裂かれ牙に食いちぎられて…… あっという間に残っているのは私だけになってしまいました。
五体満足な人も生きているのか確認しようがありません。私も少しは剣の覚えがありますが直ぐ弾き飛ばされ私も宙に浮いているのを感じます。
(神様、助けて下さい…)
目の前に迫る牙の前で私は祈ることしかできませんでした。
……? 痛みが、ない?
何時までも痛みが来ないどころかいつになっても地面に落ちないのが気になり目を開けた私の目に映ったのは木に激突しているケルベロスと男の子の腕だった。
私をそっと地面に降ろした彼は「少しだけ待ってな」と言うとケルベロスに向き直った。
ーーーーーー
「さて、早く終わらせないとな。アリス! この人や周りの人を頼むぞ!」
「わかった!」
ケルベロスか。素早い動きと鋭い牙で獲物を狩るBランクの魔獣だったか。
早くしないと日がくれちまうからさっさと狩らないとな。
「悪いが手加減はしねぇぞ。恨むなよ」
俺の武器はカタナと呼ばれていた古代の武器だ。
何故かうちの倉庫に放置されていたのを引っ張り出してきたのだが他の人には使えないらしい。
呼べば現れるし自由に動かせるし本当に不思議な剣だ。
「ガウッ?」
俺の殺気に驚いたケルベロスはそれを振り払うように勢いよく飛びかかってきた。
「瞬閃 一文字」
一瞬硬直したケルベロスは真っ二つになって地面に落ちた。
抜刀術「瞬閃」は俺が仇を討つために学んだ古代の剣技。その真髄は相手に気付かれないことにある。
人や魔獣を音をたてずに殺す、そのために生み出された剣技だとギルドで読んだ秘伝書には書いてあった。
他に魔獣がいないことを確認した俺が女の子のもとに戻ると女の子はもう立ち上がれるようになったらしくアリスと一緒に死んだ人たちを埋葬していた。
「おーいアリス、こっちは終わったぞ」
「あ、お兄ちゃん。こっちもこの人が最後だよ。二人まだ生きてる人がいたからそっちも治療済み」
「よし、ならその二人は俺が連れていくから直ぐ移動しよう。ここにいるとケルベロスの血に集まった魔獣にまた襲われるからな」
アリスに殿を任せて俺たちは急いでその場から離れた。