2話
重厚な扉の先にはきらびやかな空間が広がっていた。
純白の壁や床に青い旗がなびく。あれは確か王家直属の蒼壁騎士団だったか。
横一列に並んだ彫像のように動かない騎士団の間を進んだ俺は国王から10メートルのところで片膝を着けた。
「召喚に応じ参上しました、キルと申します。以後、お見知りおきを」
「面を上げよ」
「ハッ」
この国の国王は御年76になるがそれを感じさせない風貌と威圧感を持つと有名な人で、その威厳は盗賊が恐れ、この街で盗賊の被害にあったものがいないくらいである。
何を言っているのかというとそんな人の前にいる人がその威厳を正面、しかも至近距離で感じるのだ、緊張しないほうがおかしな話である。
騎士団がどうやって耐えているか知りたいくらい俺はここに来たことを後悔し始めるが、目標を思い出すと不思議と緊張感は消えた。
「ほう、いい顔をしている。それに礼儀もなっているようだな。どこで習った?」
「私を案内してくださった騎士団の方にお願いして学んでおいたのですが付け焼刃なので至らぬところがあってもご容赦願います」
「ふむ、よかろう。ではいくつか質問に答えてもらおうか。お主が何故奴を殺す役目をやろうと思ったのか正直に答えてみよ。金か? 名誉か?」
「そのどちらでもありません。私の目的は仇討ちです」
「仇討ち、だと?」
「えぇ。奴は7年前俺の家族を殺しました。その仇を討つために俺は冒険者になりました」
「なるほど。犯罪者はギルドでお尋ね者として貼りだされる。冒険者として力をつけつつ仇を探すのにちょうどいいというわけか」
「そのとおりでございます」
「では次だ、このたびの依頼にあたって望むなら武器を持たせてやることにしているが何か欲しいものはあるか?」
「いえ、俺はこれまで使ってきた武器がございますので、望むものはありません」
「そうか、ではもう一つ気になったので聞かせてもらおう。お主の今のランクはどれくらいだ?」
「A+ランクでございます」
「ほう、その若さで最高ランクか! これなら期待できそうじゃ。キルよ、お主を採用することとする。奴を必ず殺してくれ」
「ハッ、承知しました」
「下がってよい」
一礼して俺は玉座の間を後にした。門番に見送られ大通りから脇道に逸れるまでは我慢できていたが人目がなくなったとわかると笑いが止まらなくなった俺は抑えることを止め、大きな声で笑い出した。
「ハハッ、ハハハッ、アハハハハハハハハ! ようやく、ようやく仇を討てる! 待っていろ、俺が必ず殺してやるよ!」
俺はしばらく笑い続けた。笑い止んだ俺が長旅に必要なものを買い始めたのは日が沈み始めた頃だった。
買い物を終えた俺は下宿に帰り、早速奴の情報が入った書類を取り出した。
その書類で得られた情報はあまり多くなかったが、奴の名前がオボロだということ、奴が最後に訪れたのは「ライベルク」だということ、そして奴の似顔絵の三つさえあればどこへ逃げったって探し求めて殺せると思った。
翌日俺はギルドを訪れ、国王の依頼を受けたこと、ついてはしばらくの間この地を離れることを伝えた。
受付の娘や顔馴染みになったギルドの仲間たちが暫し別れを惜しんだが景気よく送り出してくれた。
さぁ、別れもすんだし国王に出発することを伝えようと思っていると懐かしい声が聞こえたので振り返ると案の定妹だった。
妹は十歳になっており時々この街に来るようになった。この街でしか買えない薬や布を買いに来るようだが今日は何をしに来たのか聞いてみると嬉しそうに話してくれた。
「しばらくお願いしてたことなんだけど、ようやくお兄ちゃんと一緒に冒険者をしていいって言われたの!お兄ちゃん、その大荷物だと遠くに行くんだよね? 私も連れていってよ!」
妹と共に冒険者が出来るのは嬉しいことではあるが、何も知らない妹を仇討ちに巻き込みたくないと思っていると妹は何を考えたのかわかっているといった表情でこう言った。
「知ってるよ? お兄ちゃんが仇討ちをしようと思ってるの。孤児院の先生が全部教えてくれた。仇討ちに賛成する訳じゃ無いけど私はお兄ちゃんと一緒にいたい!だから連れていってお兄ちゃん!」
「ハァ、まあいいか。俺もお前と暮らせるのは嬉しいしな。なら買い物し直さないとな」
「ありがとう!お兄ちゃん!」
おいこら先生なにばらしてんだよと思わなくはないが妹と過ごせるのを考えるとまあいいかと思える俺は妹に甘すぎるかもしれないな。
こうして思いもよらぬ同行者が増えたが俺の復讐の旅は始まったのだった。