1話
暗闇の中静かに眠る小さく、しかし平和な村に三発の銃声が響く。
「ぁ、あ? 兄……さん?」
俺の目の前には血の海に沈む兄の姿があった。そしてその向こうには銃を構えた冷たい目をした男がたっていた。
「ねぇ、キルお兄ちゃん。キラお兄ちゃんどうしちゃったの?」
その言葉にハッとして妹を後ろに庇い男を睨みつける。すると何を思ったのか男は銃を下して俺に話しかけてきた。
「おまえたちを殺す気はない」
「なぜ兄さんたちを殺した!」
「知らなくてもいいことだ」
今更ながらに怒りが込み上げてきた俺は感情のままに叫んだ。
「俺はお前を許さない! 必ずお前を殺してやる!」
それを聞いた男は一瞬だけ悲しそうな顔をしたが踵を返し去り際に「ならそれまで殺されないでやる」と言い闇に溶けるように消えた。
それから五分もしないうちに村の人が各々武器を持ちながら家に押しかけ、殺されている両親と兄を見て驚き、そして涙を流した。
次の日、これからどうするのか聞かれた俺は妹を孤児院に預け、街で冒険者をやりながら仇を探すと答えた。
村の人たちからは反対されたが俺の意思が固いことがわかると渋々折れてくれた。
村の人を説得いたあと俺は妹を連れて孤児院へ行った。幸いにも男はお金を持ち出すことはしなかったらしく、妹を預けるためのお金には困らなかった。
孤児院の人も俺の事情を知っていて快く妹を預かってくれた。
「キルお兄ちゃん、ここは?」
「これからアニが過ごすところだよ」
「私だけ? キルお兄ちゃんは?」
「俺はお金を稼がないといけないから一緒にいられない。けど時々会いに来るよ。それまでいい子にしていたらご褒美を上げるからほかの子とも仲よくするんだよ?」
「うん! わかった!」
こうして俺は故郷を後にした。
七年後――――――
「うおっ、ヤバイ!!」
冒険者たちが今戦っているのはドラゴンシャムという二メートルを超す大きなトカゲの群れだ。
十匹は下らない数に冒険者たちは戦列が乱れ始めている。
このトカゲは爪や尻尾が高く売れるがそれらは武器でもあり、入手困難な高級品だ。
今も一人噛まれそうになっているが横から蹴りを受けて吹き飛ぶトカゲ。
「前に出すぎだ! 俺が引き付けるから今のうちに下がれ!」
「悪い、助かった!」
トカゲを蹴り飛ばした男はそのままトカゲの注意を引き付け、その間に戦列を立て直す冒険者たち。
「立て直したぞ! お前も下がれ!」
「了解! っらぁ!」
置き土産とばかりに強く蹴りつけ反動を利用して距離をとる男を追おうとするトカゲたちだが、遠距離から魔法を受けて倒れていく。
このトカゲは鱗がとても硬く物理的な攻撃には強いが魔法には弱く、トカゲたちが全員倒されるまでにさほど時間はかからなかった。
―――――――――
『かんぱーいっ!』
ここは「ルズベル」という大きな街のギルド。今日も仕事を終えたり仕事を探す冒険者で賑わっている。
「おいキル! お前強かったんだな! これまで組んだ奴がいないから実力を疑ってたぜ! A+ランクってのは嘘じゃないみてぇだな!」
「お前たちもBランクとは思えないいい連携だった。機会があるならまた組みたいもんだ」
「ならうちのパーティに入らないか? お前なら他の奴らも大歓迎だろうしよ!」
「悪い、俺にも目的があってそれが終わるまでパーティを組まないことにしているんだ。だからパーティに入ることはできない。でもまた一緒に仕事をしようぜ」
「あぁ! それじゃ、俺らはそろそろ行くぜ! またな!」
「またな」
この男、キルは十七歳になっていた。冒険者を十年続けている彼は若いながらも最高であるA+ランクまで到達していた。
そして今のキルはギルドが閉まるまで仕事以外ではギルドを離れないのでギルドの主と言われ、尊敬されてきた。
「キルさん、今日はもう閉めますね」
「わかりました」
今日もあいつの情報はないか。別ルートの情報はどうなっているかなと腰を上げようとしてところで声をかけてきたギルドの職員が一枚の人相書きを見せてきた。
「キルさん、いつも人相書きを見てますよね。さっき新しい人相書きが届いたんですが見てみます?」
「お願いします」
渡された人相書きを見た瞬間俺は身体が震えるのを感じた。人相書きに書かれていたのは俺が探していた男だった。ようやく、ようやく仇を討つことが出来る!
「これ、受注してもいいですか?」
「此処で受注するのではなく国王から直々に受けるかたちのようです。後日お城へ向かってみてはいかがでしょうか」
「わかりました。そうします」
次の日、俺は王城の廊下を案内されていた。
「キル殿、此方が国王陛下の居られる玉座の間です。くれぐれも粗相の無いようにお願い致します」
「わかりました。準備はできていますのでいつでも構いません」
「では… キル殿が到着いたしました! 入室しても宜しいでしょうか!」
「構わん。入ってきなさい」
「失礼します!」
仇を討つためにこの依頼を逃すわけにはいかない。俺は緊張しながら扉が開くのを見ていた。