第12話 ジェラシィ
あげはと夏芽は講堂への渡り廊下の端っこにあるベンチに腰を降ろしていた。
「なんで急に外行くんよ」
「だって急に行きたくなったんだもん」
「気儘やなあ。お姫さんみたいや」
「その通り。小さい頃から姫って呼ばれてたし」
「それはヨイショやろ」
あげははまたお弁当の蓋を開ける。
「いいじゃんそれでも。あー何だかやだな。ね、あげは、ヘレナって英語の発音、やらしくない?」
「えー? さっきのDeliciousとか?」
「ちょっと喋れると思ってさ、見せびらかしてるみたい」
「しゃあないんちゃうん。子どもの頃から喋ってる言葉なんやから。ウチら真似しよう思ても出来へんし」
それに、ほんまにDeliciousそうなんやもん。あげはは口に出さずに思った。夏芽もガサガサとお弁当を取り出す。
「それにさ、最近ちょっと図々しくない?」
「ヘレナが?」
「そう、しょっちゅう来るじゃん」
「そう言われたらせやな、この頃よう来るなあ」
「何か企んでんじゃないの?」
「はい?ウチに話しかけても何にもええことないと思うけど」
「あげはを通じて、村上君に近づきたいとか」
「そんな面倒な事、直接言うた方がずっと早いやん。ってかウチ、ムラカミとは何の関係もないで」
「金髪だからって何でも通用するって思ってなくない?」
「そこまでは思えへんけどな。ヘレナの金髪はほんまにきれいやし」
「黒髪が一番なんだよ。世界の人気レベルじゃ」
「夏芽、ずっと前に黒は地味~とか言うてたやん。それに夏芽ってなんかヘレナを敵や思てるんちゃう?」
「そんなことは思ってないよ、男子の人気NO1だし」
「そうかなー」
夏芽はヘレナの微妙な心の揺れ具合を感じ取っていた。ヘレナ、授業中もちらちらあげはのこと見てる。関西育ちの親近感か、体育大会のバトンの縁なのか。あげはを独占してきた夏芽は聊か面白くなかった。あげはを独占したからと言って何かいい事がある訳でもなかったが、何となく懐いていた妹に想い人が出来たみたいで気持ちがブレる。
夏芽は決して性格が悪い子ではなかったのだが、幼いころから有力者の娘という事で、周囲には気遣われて育った。我慢する事にはあまり慣れていない。思い込んだら一直線の性格は、あげはにも共通するものがあり、やはりあげはを自分のシェルターに匿っておきたかった。そう、夏芽はマイルドジェラシーに駆られていた。




