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Magical Wars ~Legend of Red Dragon~  作者: 口羽龍
第1章 邪神誕生
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第6話 冒険の果てに

 3人は話題の教師がいる学校の前にやってきた。その学校は小高い丘の頂上にあって、そこからは街や海を見渡すことができる。


 3人は正門から入ろうとした。だが、夏休みだからか、閉まっている。隣の守衛室には、守衛がいるはずだが、今日はいなかった。


「閉まってる」


 サラは門を握り、軽くするった。しかし門は開かなかった。


「夏休みだもん」

「他に出入りするところないかな?勉強会をやっているなら、どこかが開いているはずなんだけど」


 サムは冷静だった。勉強会をやっているから、教師や生徒が出入りするために、どこか門を開けているはずだと思っていた。


 3人は校舎の周りを歩いて出入り口を探すことにした。


 しばらく歩くと、開いている門を見つけた。ここから教師や生徒は入ったみたいだ。


「ここだ」


 サムは開いている門を指さした。


「入っていいの?」


 サラは聞いた。無断で他の学校には行ってはいけないと思っていた。


「大丈夫だろ?」


 サムは強気だ。


 3人は学校に入った。廊下には誰もいなかった。ただ、上の階から声が聞こえる。どうやら上の階で勉強会が行われているようだ。


「上の階から声が聞こえる。勉強会かな?」


 サラは小声だった。勝手に入ったので誰かに見つかると思ったからだ。他の学校の生徒が無断で入ってはいけない。でも教師の秘密の突き止めなければ。


「そうだろう」


 サムも上の階でやっていると確信していた。


「まず、職員室に行こう。あの先生と会ってみよう」

「うん」


 3人は職員室に入った。夏休みだからだろうか。用務員以外は誰もいる気配がない。室内の電気が消されている。いつもだったらかかっているはずのエアコンが、かかっていない。そのため、とても蒸し暑い。3人は持っていたハンカチで汗をぬぐった。


 そこに、1人の男が入ってきた。その男は半そでにジーパン姿だ。ひょっとして、話題の教師? そう思うとサラは、とても緊張した。


「何か用か? 君、この学校の生徒じゃないな。だったら、さっさと帰ることだな。じゃないと、警察を呼ぶぞ」


 男はすぐに職員室を出ていった。男は冷静な表情だ。何か悪いことを企んでいるような顔だ。


「あの人・・・」


 サラは何かを感じた。


「私、感じたの。あの人、悪い人よ。何か悪いことをやってるはず。それを証明するまで、私は帰らないわ」


 サラは強気だった。サラは人間の悪を見抜く力がとても鋭かった。それは、他のドラゴン族では見られないことだ。担任の教師もそのことに気づいていた。生徒も気づいていた。これもサラが友達が多い理由だ。


「じゃあ、俺も付き合うよ。俺がサラを守ってみせる」


 マルコスの目は真剣だった。


「僕も。サラは大切な友達だから」


 サムもサラについていこうと決意した。


 3人は教師を尾行し始めた。教師は上の階に向かうようだ。


「僕の体の中に隠れて。そうすれば見えないから」


 サムはゴーストに変身して、2人を体の中に隠した。体の中に隠れることで、外からは見えないようになるからだ。


「ありがとう」


 3人は廊下を静かに歩いていた。とても静かだ。電気は消されていて、暗かった。


 突然、たまたま通りかかった生徒が魔獣に変身して襲い掛かってきた。透明になっているため見えないはずなのに、彼らには見えるかのようだ。3人は、透明になったのにどうしてと思った。最初3人は、彼らが野蛮な魔獣だと思っていなかった。普通の優しい子供だと思っていた。サラとマルコスはサムの体から飛び出し、魔獣に変身して襲い掛かった。


「くそっ…それでも襲い掛かってくるとは」


 サムは悔しげな表情だった。


「やっつけましょ」


 サラは強気だった。


「かかってこい!」


 サムも強気だった。


「うん」


 マルコスは腕をまくり上げた。


「炎の力を!」


 サムは右手を指し、火柱を起こした。


「食らえ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。


「覚悟しなさい!」


 サラは炎の息を吐いた。しかし魔獣は倒れなかった。耐久力が高かった。


「水の力を!」


 魔獣は魔法で火柱を起こした。3人は大きなダメージを受けた。


「大地の怒りを!」


 サムは大地を指し、大きな地響きを起こした。


「覚悟しろ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。


「星の怒りを!」


 サムは天を指した。すると、無数の流れ星が降ってきた。敵は大きなダメージを受けた。


「天の怒りを!」


 サラは魔法で雷を落とした。敵は倒れた。


「なんで見えるのかな?」


 サラはいきなり戦うことになって驚いていた。


「何か不思議な力を持っているに違いない」


 やっぱりあの教師には、何か秘密があるのでは?マルコスは改めて思った。


「マルコス、やっぱりこの学校、先生ともども怪しいわ」


 サラは強気だった。絶対に秘密を突き止めてやると思っていた。


「うん、僕もそう思う」


 マルコスも怪しいと感じ始めていた。


「あの先生がますます怪しく見えてきた」

「絶対に真相を突き止めてやる」


 マルコスは拳を握り締めた。


 4人は階段を上がった。と、その上からまたしても敵が襲い掛かってきた。


「また出た!」


 サムは驚いた。


「しつこいな。」


 マルコスはあきれていた。


「星の怒りを!」


 サムは大量の流れ星を落とした。敵は痛がった。


「食らえ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。


「ガオー!」


 敵はサラに向かって炎を吐いた。しかしサラには全く効かなかった。


「天の怒りを!」


 サラは雷を落とした。敵は倒れた。


「ふぅ・・・」


 サムはため息をついた。突然襲い掛かってくる子供たちにうんざりしていた。


「きっと、教師が操っているんだ」

「私もそう思う」


 サラは何としても彼らを元に戻さなければと思った。


 程なくして、再び敵が襲い掛かってきた。


「また襲い掛かってきた」


 マルコスは驚いた。今度は2体だった。


「大地の力を!」


 サムは大きな地響きを起こした。


「天の怒りを!」


 サラは雷を落とした。雷を浴びた敵はしびれた。


「覚悟しろ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。敵は倒れた。敵は何をすることもできなかった。


「はぁ・・・」


 マルコスはため息を吐いた。ひっきりなしに敵が襲い掛かてくるからだ。


「この学校、どうなってんだ?」


 マルコスは首をかしげた。


「この先に何があるんだろう」

「行こう!」


 サラは強気だった。


 3人は3階に向かって歩き出した。敵が襲い掛かってくる時以外は廊下は静かだった。




 3人は3階にやってきた。声は3階から聞こえてくる。どうやら勉強会は3階でやっているみたいだ。


 突然、再び魔獣が襲い掛かってきた。


「ここでも襲い掛かってきた!」


 マルコスは驚いた。


「炎の力を!」


 サムは魔法で火柱を起こした。敵の体に火が点いた。


「食らえ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。敵は熱がった。


「許さないわよ!」


 サラは激しい炎の息を吹きかけた。


「天の怒りを!」


 敵は魔法で雷を落とした。


「炎の力を!」


 サムは再び火柱を起こした。


「覚悟しろ!」


 サラは鋭い爪でひっかいた。


「とどめだ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。敵は倒れた。


「ふぅ・・・」


 サラはため息をついた。だが、間もなくして、魔物が襲い掛かってきた。


「ひっきりなしだな」


 サムは驚いた。


「やってやろうじゃん」


 マルコスは腕をまくり上げた。


「炎の力を!」


 サムは魔法で火柱を起こした。体に火は付かなかったものの、効きはいいようだ。


「食らえ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。


「許さないわよ!」


 サラは炎を吐いた。


「グルルル・・・」


 魔獣は炎を吐いた。マルコスの体に火が点いた。


「炎の力を!」


 サムは魔法で火柱を起こした。魔物は倒れた。


「しつこいな」


 マルコスはあきれていた。


「なんだか不気味な声が聞こえないか?」


 その時、サムは何かの声に気づいた。とても不気味な声だった。


「ほんとだ」

「何だろう」

「あの教室の方から聞こえてくる」


 4人は勉強会をやっている教室の前にやってきた。教室の前の廊下には誰もいない。聞こえるのは勉強会の教師や生徒の声だけだ。


「ここだ」


 3人は教室をのぞき見した。そこには、あの教師の他に、白いドラゴンの司祭がいる。


「あっ、その人、知ってる。神龍教の司祭のラファエルだ」


 サムはその男のことを知っていた。


「その人、知ってるの?」

「うん。雑誌に載ってたんだ」


 ラファエルは魔法で子供たちの魂を抜き取っていた。そしてその隣にいた教師が、とんでもないことをやっていた。教師は吸引器具を使って、魂の抜けた子供たちに幻草げんそうを吸わせて、神龍教に使えるように洗脳していた。


 幻草を持つことも使うことも、法律で禁止されている。持ち込んだりした場合、死刑にされる。更に教師は、魔獣のオーラを与え、魔族にしていた。魔獣のオーラを与えて人間を魔族にするのも、法律で禁止されている。


「何あれ?」

「幻草だよ。あれ、使うことが禁止されているんだよ」


 物知りなサムは答えた。


「なんであんなことを?」

「あれを吸った人は幻覚を覚えるんだ。たぶん、王神龍に使えるようにするためじゃない?」

「こんな恐ろしいことを」


 マルコスは拳を握り締めていた。今すぐぶん殴りたいと思っていた。


 その時、教師が廊下に目を向けた。教師は誰かが廊下にいることに気が付いた。今さっき、職員室で会ったあの3人だった。教師は捕まえようと思い、教室を出た。


 3人は隣の教室をのぞいた。隠れるところがないかどうか探していた。幸いにも、隣の教室には誰もいなかった。3人は隣の教室の机の下に隠れた。


「誰もいない。ここに隠れよう」


 今さっき、職員室にいた子供だということに気が付いた教師は、廊下を歩いていた。サムの中に隠れていた2人は、その様子を見ていた。教師は、秘密を知られたくないと思い、彼らを殺そうと思い、やってきた。だが、その姿は人ではなかった。3つの首を持つ犬、ケルベロスだった。


「誰だ!出てきなさい!」


 教師は叫んだ。しかし誰も出てこなかった。


「やっぱりあの人、悪いことをしてたのね」

「サラはすごいな。悪い人がわかるから」


 マルコスは感心した。


「ありがとう。この力、生まれつきのものなんだけど、その力、絶対に見せるなと言われてきたの。理由はわからないけど」


 サラは笑顔を見せた。


「どうしよう」


 マルコスは困っていた。逃げてばかりではだめだと思っていた。


「逃げてばかりじゃ話にならないわ。気づかれないように後ろから近づいて襲い掛かりましょ」


 サラは強気だった。今すぐぶちのめしたいと思っていた。


「うん」


 2人はサムの中に隠れながら廊下を出てきた。物音を立てずに、静かに歩いた。3人はゆっくりとケルベロスに近づいた。ケルベロスは3人に気づいていなかった。


「3、2、1、ゴー!」


「ゴー!」の合図で3人はケルベロスに襲い掛かった。


 何かに気づいて、ケルベロスは振り向いた。あの3人が襲い掛かってきた。ケルベロスは先制攻撃を受けた。


「なぬっ! ここにいたとは!」


 ケルベロスは驚いた。


「食らえ!」


 サラは炎を吐いた。しかしケルベロスにはあまり効かなかった。


「天の怒りを!」


 サムは魔法で雷を落とした。しかし全く効かなかった。ケルベロスには魔法が全く効かなかった。

「あなたが生徒たちを洗脳してることも、人間を魔獣に変えてることも、いけないことよ!」


 サラは強気な表情だった。


「ちっともいけないことではない。全ては偉大なる創造神王神龍様のため。改まエデンを築くため」


 ケルベロスは熱く語った。


「この野郎!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。ケルベロスは少し痛がった。


「炎の力を!」


 ケルベロスは魔法で火柱を起こした。マルコスとサムは大きなダメージを受けた。今までより火柱が強かったからだ。


「食らえ!」


 サラは雷を吐いた。ケルベロスは大きなダメージを受けた。どうやらケルベロスは雷が弱点みたいだ。


「ガオー!」


 ケルベロスは毒の牙でマルコスに噛みついた。マルコスは毒に侵された。


「くそっ・・・」


 マルコスは腕を握った。噛みつかれて痛かったからだ。


「癒しの力を!」


 サラは魔法でマルコスの毒を消した。


 魔法で解毒をしながらの戦いだった。時々強力な攻撃魔法を使ってくるケルベロスに苦戦した。魔力が高いうえに、どんな攻撃魔法も通用しない。


「私に勝てると思ってるのか?」


 ケルベロスは毒を帯びた鋭い爪でひっかいた。


「くそっ、またやられた」


 ひっかかれたマルコスはまた毒に侵された。


「大丈夫?」


 サラはすぐに魔法で毒を消した。


「覚悟しなさい!」


 サムは透明になってケルベロスに体当たりした。


「死ね!」


 ケルベロスは毒の爪でサラをひっかいた。しかしサラは毒に侵されなかった。ドラゴンの皮膚は頑丈な上に、ドラゴン自体毒に強かった。


「そんなことで毒に侵されないわよ。覚悟しなさい!」


 サラは炎を吐いた。


「さっきはよくもやったな!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。


「食らえ!」


 サムは透明になって体当たりした。ケルベロスはその場に倒れた。3人はケルベロスを倒した。


「うっ、よくも私を倒したな。しかしもう遅い。あと少しで、父なる創造神王神龍様の世界が完成する。私たちの理想郷が完成する。なんと素晴らしいことだ」


 そう言い残し、ケルベロスは目を閉じた。


 サラは焦った。魔界統一同盟が世界を征服する日が近いと感じたからだ。ケルベロスが、王神龍の世界ができるまであと少しだ、と言って死んだからだ。


 突然、光とともに1人の男が現れた。その男はまるで忍者のような服を着ており、首から下をマントで覆っている。彼の頭には金色の龍の彫刻がある。サラはその男を見て、驚いた。王神龍だった。


「ふっふっふ、よくも私のしもべを倒したな」

「あなたが、王神龍?」


 王神龍は鋭いまなざしで3人を見ていた。


「そうだ。私が王神龍だ。覚えておけ、やがてこの世界の最高神となる存在だ。君たちが倒した私の仲間から聞いたのだが、君たち、私を倒そうとしているようだね。だが、誠に残念なことだが、それはできない。なぜならば、私は神だからだ。神を倒すことなど、できるわけがない。諦めたまえ」


 やはりその男は王神龍だった。サラは拳を強く握りしめた。サラは怒りに満ちていた。


 サムは開いた口がふさがらなかった。雑誌に書かれていた通りだ。


「生意気なこと言いやがって。これでも食らえ!」


 マルコスは迫真の力で王神龍に殴りかかった。だが、痛がらなかった。今度は鋭い爪でひっかいた。だが、王神龍は何も痛くないかのような表情だ。マルコスは、何かがおかしいと思った。普通だったら痛がるのに、どうして痛がらないんだろうと思った。


「お母さんを返して」


 サラは炎を吐いた。だが、王神龍は痛がらなかった。全く食らっていないかのようだ。


「お前の母はまもなく私の生贄になる。愚かな人間は、私の生贄となるのだ」


 王神龍は笑みを浮かべていた。


「たった1つの罪で人を殺すなんて、私、許せない! 殺してやる! 覚悟しなさい!」


 サラは魔法で火柱を放った。王神龍の体は火柱に包まれた。だが、王神龍は何もなかったかのような表情だ。どうして効かないんだろう。強力な何かが王神龍にあるのでは?サラはそう思った。


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。やはり王神龍は痛がらない。


「何だ、その攻撃は?それで私を倒すことができると思うのか?」


 王神龍は少し笑みを浮かべていた。


「ふざけたこと言うな!」


 サラは炎を吐いた。しかし王神龍はダメージを受けない。


「ふっふっふ、いくらやっても無駄だ。まだわからぬのか。私は神だ。私は不死身だ。私を倒せやしない。」


 王神龍は相変わらず笑みを浮かべていた。


「俺は神龍教の信者になんかならないからな」


 サムは叫んだ。サムは魔法で火柱を起こした。しかし王神龍はダメージを受けない。


「いやでもならせてやる!」

「許さないわ!」


 サラは魔法で雷を落とした。王神龍の頭上から雷が落ちてきた。だが、服も体の焼け焦げない。痛くもかゆくもない表情だ。


「ふっ、痛くもかゆくもないわ」


 王神龍は自信気だった。


「この野郎!」


 サムは催眠術をかけた。催眠術をかけ、悪夢を見せようと思った。だが、王神龍は眠らない。


「そんなの効かぬ!」


 王神龍は叫んだ。


「食らえ!」


 サラは巨大な火柱を起こした。だが、それでも倒れない。王神龍には全く効かない。


「何だその攻撃は」


 王神龍は笑みを浮かべた。


 3人はその後も強烈な技や魔法を使ったが、王神龍にダメージを与えることができない。王神龍は全く痛がらない。次第に3人は、どうして攻撃が効かないのだろうと思い始めてきた。だが、その理由は全くわからなかった。


「遊びはここまでだ! 食らえ!」


 王神龍は少し笑みを浮かべ、持っていた杖を天に掲げた。その時、天井が光り、3人の頭上にすさまじい雷が落ちてきた。裁きの雷だった。神のみが放つと呼ばれる雷だ。最初、3人は何が起こったのかわからなかった。目の前がまぶしくなり、真っ暗になった。3人は一瞬で気を失った。その後何が起こったか、覚えていなかった。3人は王神龍の恐ろしさを知った。その力は桁外れで、とても倒せそうにない。もはや人間は滅ばなければならないのか。3人は、人間が滅びるのは避けられないことだろうと思った。


 王神龍は、何事もなかったかのように消えていった。3人はその場に倒れたまま、起き上がることができなかった。




 サラは目が覚めた。そこは檻だった。2人は檻の中にいた。檻は天井に吊るされている。目の前には礼拝室が見える。礼拝室は洞窟の中にあって、素掘りだ。


 礼拝室の向こうには、巨大な龍の彫刻がある。龍の彫刻の目の前には信者がいる。龍の彫刻の下には祭壇があり、その前には、陰陽師の姿をした獣人がいる。その獣人こそ、神龍教の教祖、犬神だ。

 その周りには、その部下と思われる魔獣が何人かいる。その中には、メデューサやテュポーン、ケルベロスなどがいる。煙を吸わされた少年もいる。あの少年はすでに魔獣になっていた。


 犬神は、巨大な龍の彫刻に向かい合い、目を閉じ、呪文を唱えている。とても不気味だ。彼らは、何かにとりつかれているような形相だ。彼らはみんな、魔界統一同盟の人と同じく、首に金色の龍のペンダントを付けていた。


「我らの唯一神よ、父なる創造神王神龍様よ、我らをお守りください。我らは魔獣の子。新たなエデンの到来を祈り、父なる創造神王神龍様への忠誠を誓い、愚かな人間の魂を捧ぐ。我らの光を、堪えぬ安らぎを!」


 犬神の言葉に続き、信者がひざまずき、同じ言葉を発した。彼らの目は光っていた。彼らも何かにとりつかれているような表情だった。


 しばらくして、1人の女が部下に連れられてやってきた。サラの母、マーロスだ。茶色いロングヘアーに、白いノースリーブを着ている。そのノースリーブはボロボロで、何日の着たままのようだ。


 マーロスは抵抗していた。逮捕につながるような罪を犯していないにもかかわらず、捕まったと思っているからだ。


「お母さん!」


 サラは叫んだ。やっと母に会えたからだ。しかしマーロスの表情は暗い。まるで魂が抜けたかのようだ。何日もろくなものを食べていなかったので、疲れ果てていた。


 その時、マーロスはあの夢のことを思い出していた。捕まえられ、閉じ込められていることも、あの夢と一致する。


 だとすると、自分はこれから、巨大な白龍の生贄に捧げられるだろう。そんなの嫌だ。もっと生きたい。もっと生きて、いろんな人と接したい。サラが結婚して、独り立ちするまで、サラを見守りたい。癌で死んだ夫の分も長く生きたい。マーロスは願っていた。だが、それは叶わぬ夢となろうとしていた。


「何するのよ! 離して!」


 マーロスは叫んだ。マーロスは必死に抵抗していた。だが、捕まえている男たちの力が強く、逃げることができなかった。


「いいから来い! これは神の命令だ!」


「何が神よ。邪神じゃないの。そんな邪神に仕えて、どんないいことがあるの? ちっともよくないじゃない!」


 マーロスは、彼らが崇めている王神龍が邪悪な神だということを知っていた。


「生贄はまだか。」


 突然、声が聞こえた。王神龍の声だ。


「もうしばらくお待ちください、父なる創造神王神龍様」


 部下は頭を下げた。


 マーロスはロープで手首足首を縛り付けられた。マーロスはこれから何をされるんだろうと思った。マーロスの心臓はうなりを上げている。死ぬのが怖くて、昨夜はおとなしく寝ることができなかった。涙が止まらなかった。マーロスは逃げようとした。しかしサラは、近くでそれらを見ていたテュポーンの魔法によって、手足が動けずにいた。


 マーロスは体を動かそうとしたが、動かなかった。逃げることができずに、ただ、天井を見上げることしかできなかった。天井には白龍の彫刻がある。夢で見た白龍だ。マーロスはこの後その白龍の炎を浴びると思っていた。


「お母さん!」


 再びサラは叫んだ。


「静かにしろ!」


 突然、横にいたドラゴンが声をかけた。神龍教の信者の中でも位の高い12使徒の1人、ラルフだ。


「やめて、いじめのことは後悔しているから、反省しているから、話して。私、そのため高校に進学できそうになりそうになったの。何とか高校に進学してからは、人権サークルに入って、その罪を償おうとしたの。だから、許して」


 マーロスは必死で訴えかけた。生贄になって死ぬのは嫌。今までのことは許して。どうにか生贄にしないで。こんなところで死ぬのは嫌。マーロスは生贄になるのを避けるために祈っていた。


 だが、犬神や信者はみんな無視していた。その中には、笑顔をのぞかせている人もいる。マーロスは王神龍に捧げる生贄になることを待ち望んでいる人だ。無視している人も、望みは同じだ。マーロスが王神龍の生贄になることだ。


「もう遅い!そなたは言えぬ傷を与えた。一生償っても消えぬ傷だ。そなたは、我らの唯一審にして、父なる創造神王神龍様の生贄となり、神の炎、神炎を浴びることによって、その罪の重さを知れ!」


 テュポーンはとても怒っていた。マーロスの犯した罪の重さをよく知っていたからだ。

 向こうの扉から白いドラゴンがやってきた。司祭のラファエルだ。ラファエルはいくつものペンダントを首につけ、右腕にブレスレットを付けている。ラファエルはゆっくりとマーロスに近づいてきた。


 信者は歓喜の雄たけびを上げていた。彼らはラファエルや犬神を救世主と思っていた。しかし本当は、人間を憎む人間に、魔族の力を与え、復讐の手助けをする、禁断の儀式、同の儀を行っていた。同の儀は、法律で禁止されている儀式で、それを行った人は死刑を宣告される。


 ラファエルはマーロスの前に立つと、マーロスを見た。ラファエルは、放心状態のマーロスの顔を撫で、マーロスに向かって祈りを捧げた。


「我らは魔獣の子。我らは父なる創造神王神龍様の子。我らは創造神王神龍様の再来を願い、ここに愚かな人間の肉体を捧げる」


 ラファエルは、右手でマーロスの頭を撫でた。すると、ラファエルの右手がマーロスの頭に入り込んだ。マーロスは何が起こったかわからなかった。


 ラファエルは、マーロスの脳をつかみ、取り出した。頭を手に入れたため、頭に大きな穴ができた。だが、皮膚が動き、すぐに元通りになった。マーロスには傷1つ無かった。マーロスは生きていた。


 自分の脳を見て、マーロスは驚いた。あまりにもグロテスクで、目をふさぎたくなった。自分の脳が体から分離したからだ。だが、金縛りにあっていたため、目をふさぐことができなかった。


「愚かな人間に神罰を! 我ら魔族に光あれ!」


 ラファエルは叫び、前を向き、信者たちの前で脳を高々と掲げた。それを見た信者は歓喜の雄たけびを上げた。サラの横にいるラルフも雄たけびを上げていた。


 突然、ラファエルの目が赤く光った。すると、脳が溶け始めた。ラファエルが魔法で溶かしていた。溶けた脳は、どろどろになって、ラファエルの足元に落ちていった。だが、マーロスはまだ生きていた。ラファエルは解けていく脳を無表情で見ていた。


 マーロスは無心で信者を見ていた。マーロスは、記憶を失っていた。脳がなくなったからだ。マーロスは、今まで何をやってきたのか、わからなかった。ただ、意識はあった。マーロスは無表情で目の前の儀式を見ていた。


 ラファエルは、脳が溶かされていく様子を気持ち悪いと思わなかった。信者もそう思ってなかった。より大きな歓喜の雄たけびを上げた。それを素晴らしいことだと思っていた。愚か者の脳が溶けることが、とても素晴らしいと思っていた。


 サラはあまりにもひどくて、見てられなかった。泣きそうだった。


 脳が完全に溶けると、犬神は巨大な龍の彫刻に向かって叫んだ。


「父なる創造神王神龍様、我ら魔獣の子を讃えよ。今ここに愚かな人間の肉体と言霊を捧げる。今こそその素晴らしき姿を現し、神罰を与え、この世界の愚か者を消し去りくださいませ」


 それに続いて、信者たちが、犬神と同じ言葉を発した。信者の目が赤くなった。信者たちは龍の彫刻に向かって祈りを捧げていた。


 信者たちの声は、とても不気味だった。マーロスはその声におびえていた。ああもうすぐ死ぬのかな?死ぬのは嫌だ。マーロスはそう思った。まるで地獄のように感じていた。


 全ての信者の目が赤くなったその時、龍の彫刻の目が赤く光った。まるで彫刻に王神龍の魂が宿っているようだった。それとともに、信者たちが歓喜の声を上げた。


 それとともに、マーロスの体が宙に浮かんだ。マーロスは最初、自分の身に何が起こったのか、わからなかった。金縛りにあい、上しか見えないからである。


 しばらくして、金縛りの魔法の効果が切れ、見渡せるようになった。マーロスは辺りを見渡した。そして、自分が宙に浮いていることに気づき、驚いた。


 上から祭壇を見ると、多くの人が犬神やラファエルに祈りを捧げている。そして、自分が王神龍の生贄に捧げられることを願っている。あってほしくないことだ。もしこの場にいたら、彼らを皆殺しにしたいと思った。


 だが、宙に浮いているマーロスは、何もできなかった。ただ、辺りを見渡すことしかできなかった。

 犬神が振り返って、巨大な龍の彫刻に目を向けた。犬神は、右手の杖を上に掲げて、叫んだ。


「父なる創造神王神龍様、ここに生贄をを捧げます。どうか蘇りください」


 犬神が言ったその時、龍の彫刻の前に巨大な白い龍の幻が見えた。その白い龍こそ、神龍教の神、王神龍だ。王神龍は神秘的な姿をしている。王神龍は蛇のようにうねっている。王神龍は生贄をにらみつけた。目を合わせたマーロスは怯えていた。この龍の生贄にされるからだ。


 神龍教の信者によると、王神龍は、神の生まれ変わりと呼ばれていて、人間離れした魔力で強力な魔法を使い、不死身の体を持ち、神のドラゴンや龍のみが口から吐くという炎、神炎を放つという。神炎はあらゆるものを溶かし、人間に制裁を与える。そして、その炎を浴びた人間は、賢人として生まれ変わると言われている。しかしそれは、浴びる人を安心させるための嘘だった。


 マーロスは驚いた。巨大な白い龍が目の前に現れた。マーロスは、これが王神龍だと確信した。王神龍は神々しい姿をしていた。体は雪のように白く、背中の毛は美しい水色だった。とても邪神だと思えなかった。


 王神龍は上を向き、大きく息を吸い込んだ。マーロスは死ぬと思った。龍の炎を浴びたら、必ず死ぬと思っていた。王神龍は口を大きく開け、炎を吐いた。それこそ、あらゆるものを溶かし、生きる人に制裁を与える、神炎だった。


 マーロスは神炎を浴びた。マーロスは非常に熱い炎を浴びた、叫ぶ間もなく、一瞬で溶けた。マーロスは死んだ。それを見ていた信者たち歓喜の声を上げた。信者たちは、英雄を讃えているかのようだった。


 サラはその様子を泣きながら見ていた。母が殺されたことにショックを隠せなかった。


 マーロスの最後にいた場所には光る何かがあった。マーロスの魂だった。王神龍は魂を見つめ、飲み込んだ。それとともに、信者はさらなる歓喜の声を上げた。王神龍は満足そうな表情だった。そして、王神龍の幻は消えていった。


 犬神は、笑みを浮かべていた。犬神は、父なる創造神王神龍様に生贄を捧げることができて、とても嬉しかった。もっと生贄を捧げたかった。信者の気持ちもまた一緒だった。


「父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。新たなエデンまで、愚かな人間を生贄として捧げる」

「おお我が神よ、父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。我らに力を与えたまえ。世界に平和をもたらしたまえ。大いなる力で我らをお守りください」


 信者たちは王神龍の彫刻に向かって叫んだ。その声は次第に大きくなっていく。信者はまるで洗脳されているかのようだ。不気味な笑顔で王神龍の彫刻を見つめている。犬神は、左手に持っていた魔法の杖を高々と掲げ、雄たけびを上げた。それに反応して、彫刻の目が赤く光った。まるで彫刻が生きているようだ。


「次は貴様だ。愚かな母と道連れだ。覚悟しろ!」


 ラルフは檻の鍵を開け、サラを引っ張り出した。サラは抵抗したが、ラルフが強かった。太刀打ちできなかった。


「許せない! 絶対に許せない!」


 その時、サラの体に異変が起きた。体から光が発せられた。サラは、自分の身に何が起こったのかわからなかった。


「な、何だこの光は?」


 礼拝室にいた人はまぶしい光に目がくらんだ。彼らは、何が起こったのかわからなかった。逃げまどい、出口を探した。


 その時、同じく檻にいたマルコスが目を覚ました。まぶしい光と音に気づいたからだ。気づいた時には、辺りはまぶしい光に包まれていた。


「サラ?」


 マルコスはサラを探したが、見つけられなかった。まぶしい光に包まれて、ほとんど見えない。ただ、巨大な金色のドラゴンだけが見えた。そのドラゴンは神々しい姿で、とても巨大だった。今までにこんな大きなドラゴンは見たことがなかった。マルコスは驚き、固まった。開いた口がふさがらなかった。


 マルコスは半ば無理やり金色のドラゴンに乗せられ、どこかに連れられた。マルコスはそのドラゴンは誰だろうと思った。神様だろうか?自分の危機を知って神様が助けに来たのかと思った。


 突然、金色のドラゴンはいなくなった。光がなくなった。気づくと、そこはハズタウンだ。マルコスは驚いた。何が起こったのかわからなかった。


「あれ?サラは?」


 マルコスは辺りを見渡した。だが、一緒にいたはずのサラやサムはいなかった。


「サラー! サムー!」


 マルコスは叫んだ。だが、サラやサムはいない。人間がいなくなり、寂しくなったハズタウンでマルコスは独りぼっちだった。




 その頃サラは、ドラゴンの姿でリプコットシティの道端で倒れていた。サラは体に何らかの力が起こり、どこかに飛ばされていた。その間、何が起こっていたのかわからない。ただ、許せないと叫び、光が放たれた瞬間、サラは気を失っていた。


「大丈夫?」


 白いドラゴンが声をかけた。名前はパウロ、この近くに住んでいるドラゴン族だ。


「うーん、誰?」


 目をこすり、サラは目を覚ました。サラは辺りを見渡した。どこかの道端だ。サラは何が起こったのかわからなかった。


「僕の名はパウロ。パウロ・デラクルス。君は?」


 パウロは優しそうな表情だった。


「わからないの。思い出せないの」


 サラは記憶を失っていた。母のことも、マルコスのことも、サムのことも、そして、自分がサラというドラゴン族の少女だということを。


 その後、魔界統一同盟は、侵攻を続けた。人間は激しく抵抗したが、自分より強い魔獣に変身した彼らの前では、なすすべがなかった。


 人間は捕まえられ、ある人は王神龍の生贄に捧げられ、ある人は過酷な強制労働をさせられた。優秀だった人は犬神に洗脳され、魔獣の力を与えられ、神龍教の信者になった。


 魔界統一同盟は、あっという間に世界を征服していった。犬神は、征服した町や村、街の人々に、王神龍を祀るように命令した。その中には、祀ろうとしない人もいた。人間を険しいところで過酷な労働をさせるからである。だが彼らは、決して王神龍が嫌いだということを口にしなかった。なぜならば王神龍は、恐るべき力を持つ創造神だから。もし逆らったら、頭上に雷が落ち、命を落とすことになるから。心の中では、彼らは信仰していなかった。人間と魔族が共生する世界が理想だと思っていた。だが、それを口にすることは固く禁じられていた。ある結社を除いて。


 そして、世界は王神龍のものになった。王神龍は、この世界の最高神となった。犬神は、この世界の総統となった。犬神は、この世界を壊す存在である人間をすべて捕まえ、険しい山里で農業や鉱業に従事するように命じた。


 1ヶ月後、ほとんどの人間が捕まり、険しい山里や寒い雪国に連れられた。国々を収める人々はみんな神龍教の信者で、人々に信仰するように勧めた。だが、信仰する人々はほとんどいなかった。

 人間たちは魔族たちの監視のもと、厳しい農業や製糸業、鉱業に従事しなければならなくなった。人間の自由は、王神龍の手によって、あっという間に奪われた。


 人間は全く抵抗できなかった。恐るべき力を持つ王神龍に、勝つことは不可能だからである。人間はなすすべなく、重労働をせざるを得なかった。その労働はとても過酷なものだった。


 炭坑で重労働を課せられた人間は、ほぼ1日中無休で穴を掘り続ける。食事は1日1食、ご飯とおかず1品だけだ。


 製糸業で重労働を課せられた人間は、ほぼ1日中糸を作り続ける。食事は非常に質素で、与えられる賃金はなし。


 退職はできず、脱走したものは必ず捕まる。捕まった人は犬神の命令により愚か者とみなされ、王神龍の神炎を浴び王神龍の生贄にされる。


 まるで生き地獄のようだ。それは、人間を殺そうとしているようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲームはあまりしないのでわかりませんが、世界観ができあがっていて魅力的な内容だと思います。キャラ読みをしがちなのですが、(サラが好き)世界観も好きだなぁと思いつつ読ませていただきました。 …
2020/09/07 12:00 退会済み
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