第5話 大陸を越えて
3日後、3人はカーペットの上で目覚めた。今日も快晴で、カーフェリーの乗客の中には、まるで水平線のように広がる大海原から、日の出を見る人もいた。毛布を着て寝なかったが、室内が常温に保たれているため、風邪を引くことはなかった。
マルコスはカーペット席の近くの売店にやってきた。朝食を飼うためだ。売店には何人かの人が並んでいた。
「いらっしゃいませ。何になさいますか?」
「サンドウィッチ3つと野菜ジュース3本をお願いします」
マルコスは3人分の朝食を買おうと考えていた。
「かしこまりました。少々お待ちください」
売店の店員は頭を下げた。マルコスはレジの横で商品を待つことにした。その後ろには、何人かの人が並んでいる。彼らも朝食を買おうとしている。
しばらくして、別の店員がメニューを持ってきた。
「はい、どうぞ」
マルコスはメニューを受け取った。
「ありがとうございます」
マルコスはお辞儀をした。
「ありがとうございました」
売店の店員もお辞儀をした。
マルコスはカーペット席に戻ってきた。右手にはサンドウィッチとジュースが握られていた。
「サンドウィッチを買ってきたよ」
マルコスはサンドウィッチとジュースを見せた。サラとサムは笑顔を見せた。マルコスは3人の朝食を買ってきたからだ。
「ありがとう」
サラは笑顔を見せた。
3人は、船首の近くのデッキで、朝食のサンドウィッチを食べていた。
「サラ、どうした?」
マルコスは聞いた。サラが何かを考えているような表情だったからだ。
「昨日も、お母さんが白い服を着た男と話をしている夢を見たの」
サラは昨日の夢のことが気になっていた。
「白い服を着た男? 誰だろう」
白い服という言葉に、サムが反応した。サムは持ってきたバッグの中からある雑誌を取り出した。何かの月刊誌のようだ。
「白い服か。そういえば最近、雑誌で見たけど、王神龍も、こんな服を着ているらしいよ。これがその雑誌。これが王神龍」
サムはその雑誌を見せ、王神龍の写真を指さした。その雑誌は、神龍教の間で配られている広報誌『メシア』だ。『メシア』とは、『救世主』という意味で、『弱き者の救世主でありたい』という彼らのモットーが由来だ。
表紙には、白い忍者のような服を着た男の写真があった。それが王神龍である。その広報誌の表紙は、いつも王神龍だ。目つきが鋭く、いかにも怪しそうだ。
サラは王神龍の姿に驚き、目を大きく開けた。夢に出てきたあの男と瓜二つだったからだ。もしかしたら、あの夢に出てきたのは、王神龍? だとすると母は、神龍教か魔界統一同盟に連れ去られたのでは? サラはその時思った。
「あの服!」
サラは指をさした。
「えっ?!」
サムは驚いた。
「こんな服を着てたの」
サラは夢を思い出していた。
「だとすると、あの白い服の男って、王神龍? お母さんは魔界統一同盟か神龍教に捕まったのかな?」
サムは首をかしげた。
「絶対にそうに違いない」
マルコスも首をかしげた。
「だとすると、お母さんは、魔界統一同盟か神龍教にさらわれた?」
サラは驚いた。
「かもしれない」
「サラのお母さんは絶対に生きているよ。奇跡を信じようよ」
サムはサラの肩を叩いた。サラはサムを抱きしめた。励まされて嬉しかったからだ。
「この船は今日の正午にリプコット港に着くらしいな。もう大陸が見えるかな?」
マルコスは船首の先を見た。船首の向こうには、大海原しかない。まだリプコット大陸は見えないないようだ。予定通りなら、今日の正午、カーフェリーはリプコットシティの港に着く予定だ。
「まだ見えないわね」
サラは不安そうだった。船が遅れているかもしれないとサラは思った。
「今日の正午に着くはずなのにな」
そう言って、サムは首をかしげた。
その時、リプコットシティが見えた。桟橋の向こうには、高いビルが立ち並び、その向こうには山が連なっている。
それを見てマルコスは指をさし、叫んだ。
「あっ、リプコットシティが見えてきた!」
「本当だ」
サラは笑顔を見せた。ようやく目的地が見えてきた。
「もうすぐだね」
マルコスは期待を膨らませていた。
「待ってろよ、王神龍。必ず倒すからな」
サムは自信気だった。絶対に王神龍を封印することができると思っていた。
その日の正午、カーフェリーは、リプコットシティの港に着いた。アカザ島へのカーフェリーが発着するのは、ここからかなり西に行ったインガーシティだ。
リプコットシティはサイレスシティと比べ物にならないほど大きな都市だ。リプコットシティは200年以上前から発展してきた都市で、人口は1000万人以上、世界最大の都市だ。その街の中心部には多くの高層ビルが立ち並び、多くの人がここで働いている。近年、リプコットシティでは近代化が進んでいた。
だが、近代的なビルだけではなく、歴史的な建造物も立ち並ぶ。町には多くの人が行き交い、道路を車がひっきりなしに走っている。
また、ここは大陸横断鉄道の始発駅で、ここから3日間かけて、アカザ島へのカーフェリーが発着しているインガーシティまで延びている。その他にも多くの鉄道が走っていて、その鉄道の多くは、大陸横断鉄道の始発駅であるリプコット駅を経由または発着駅としている。
3人は港に降り立った。その到着とともに多くの乗客が降りてきた。その多くは家族連れで、華やかな服を着ていた。
「切符を買おうか」
マルコスは切符売り場を探した。
「そうしましょ」
サラは焦っていた。早く取らなければ席が取れなくなってしまうからだ。
「大丈夫かな? 利用客多そうだし」
大陸横断特急は全席指定で、個室タイプの1等寝台、2段ベッドの2等寝台、3段ベッドの3等寝台があった。同じ区間を走る急行は1等寝台がないものの、自由席があった。
「とりあえず調べて、予約しましょ」
サラは切符売り場に急いだ。
「うん」
3人はフェリー乗り場の奥にあり、大陸横断鉄道の駅に向かった。駅はレンガ積みで、非常に大きい。2階にはインガーに向かう大陸横断特急などが発着する電車のホームがあり、3階には海沿いを走る路線のホームがある。
3人は大陸横断特急の3等寝台を予約しようと、大陸横断鉄道のリプコット駅の切符売り場にやってきた。切符売り場には多くの家族連れが並んでいる。彼らの多くは大陸横断特急の切符を買うために並んでいる。
「すごい人だな」
行列を見て、マルコスは驚いた。
「買えるかな?」
サムは不安になった。これほど並んでいると取れないんじゃないかと思った。
「とりあえず、聞きましょ」
サラは前向きだった。
「うん」
並んでからおよそ10分後、ようやく切符売り場の前にやってきた。
「すいません。インガーまで、3等寝台、こども3枚、お願いします」
だが、女は頭を下げた。
「申し訳ございません。どの寝台も、明日まで満席です」
「それじゃあ、急行の指定席はありますか?」
サラは聞いた。しかし女は再び頭を下げた。
「申し訳ございません。こちらも満席です」
「それじゃあ、その自由席3枚でお願いします」
サラは残念そうな表情だった。
「かしこまりました」
サラがお金を差し出すと、女は乗車券と急行電車の自由席を出した。
「ありがとうございます。良い旅を」
女は笑顔を見せた。
3人は港に隣接するリプコット駅にやってきた。世界最大の都市の世界最大の駅で、まるで宮殿のような外観だ。入口のロビーは広く、天井は高い。いくつものホームがあり、私鉄や地下鉄も発着している。ロビーには多くの人がいる。船から降りてきた人々の多くはここから各地へ行く観光客がほとんどだ。
3人は大陸横断特急の発着する5番ホームにやってきた。2階の突端式ホームには、大陸横断特急の他に、4扉ロングシートの普通電車、区間快速電車、3扉セミクロスシートの快速電車、特別快速電車も停まっている。ホームに着いたちょうどその時、多くの乗客を乗せて普通電車と区間快速が同時に駅を出発した。
次の急行電車は現在5番ホームに停まっている大陸横断特急の後にやってくる。3人は大陸横断特急を見ていた。
大陸横断特急は14両編成の長い列車だ。客車の車体は濃い緑色をベースに、高級感のあるデザインだ。先頭と最後尾は2階建てで、展望ラウンジだ。一番前はガラス張りで、とても眺めがよさそうだ。列車の一番前には大きな電気機関車が連結されている。その電気機関車はとても大きく、客車よりも大きい。電気機関車の外観は客車の塗装に合わせた特別仕様だ。
「残念ね。乗りたかったのに」
サラは大陸横断特急に乗れない辛さを実感していた。乗客の表情は楽しそうだった。大陸横断特急に乗れるからだ。
「仕方ないよ。こんな時期だもん」
サムは仕方ないと思っていた。
午後1時ごろ、大陸横断特急はリプコット駅を出発した。3人はうらやましそうに見ることしかできなかった。
それと入れ替わるかのように、別の客車がやってきた。大陸横断特急と同じ区間を走る急行電車だ。大陸横断特急と比べると、外観は古くて、展望車や1等寝台がない。後ろ7両が自由席で、寝台車ではなく座席車だ。そのため、屋根が寝台車よりも少し低い。
「これが僕らが乗る急行か」
これに乗れば、王神龍に会える、母に逢えるとサラは思っていた。サラはわくわくしていた。
急行電車がリプコット駅の5番線に停まった。それと共に、乗客が入った。客車は手動ドアで、列車がよく停まってから乗り込むようだ。
「やっと来たわね」
サラは乗るのが楽しみだった。
3人は急行電車に乗り込んだ。自由席は窮屈なボックスシートで、大陸横断特急と比べてあまり清潔ではない。中には家族連れが多く乗っている。子供は車内ではしゃいでいる。これからの長旅が楽しいからだ。
「窮屈そうだな」
マルコスは車内の様子を見た。
「いいじゃないの。早く行かないと、大変なことになるよ」
サラは何としても早く行って王神龍を倒さなければと思っていた。
「そうだね」
サムもサラの考えに同感だった。
「お待たせいたしました。5番線から、インガー行きの急行が発車いたします」
午後1時半、急行電車は大きな汽笛を上げ、ゆっくりと動き出した。それと同時に普通電車や快速電車も発車した。ここからこれらの電車としばらく並走する。
その間に、一度は追い越された普通電車が次の駅に停まり、急行はそれを追い抜いた。急行は快速電車と並走していた。快速電車にも多くの乗客が乗っていた。
急行電車はしばらくリプコットシティの市街地を走っていた。高層ビルがいくつも立ち並び、駅周辺にはビジネスホテルが多く建っていた。
電車はいろんな電車とすれ違い、並走し、追い抜いていった。ここからしばらくは複々線区間で、急行電車の通っている中央の2線は快速用の線路で、端の2線は緩行線用のホームだ。
緩行線のホームには多くの人がいて、電車を待っていた。電車がホームに着くと多くの人が乗り降りしていた。どの電車も車内は混み合っていた。
「サラ、こんな長旅、初めて?」
マルコスはサラに聞いた。マルコスは流れる車窓を見ていた。
「うん」
サラは答えた。サラも車窓を見ていた。
急行電車は、しばらく市街地を走った後、新興住宅地を走った。この付近になると、快速電車も各駅に停まるようになる。住宅地はどこまでも広がっているようだった。その住宅地の所々には大きなショッピングセンターがある。レールは住宅地の先にまっすぐ伸びていた。
やがて急行電車は大きな川を鉄橋で渡った。川辺では人間の子供たちが遊んでいる。子供たちは楽しそうな表情だ。これから起こる悲しい出来事を全く知らないかのようだ。サラは車窓から彼らを見ていた。それを見て、子供たちの笑顔をいつまでも残したいと感じた。
向かいの席には、あるカップルがいた。女はあるパンフレットを持っていた。女は男にそのパンフレットを見せた。
「あなた、これ見て」
「何だい、これ?」
男はパンフレットを見た。男はパンフレットに興味津々だった。
「神龍教のパンフレットよ」
女は神龍教に興味がないようだ。
「インチキだな。変な宗教団体パンフレットなんか、捨てちまえ!」
男はパンフレットを奪い取り、バッグに入れた。サラはその様子を見ていた。
後ろのボックスシートでは男たちが話をしていた。
「最近、魔界統一同盟っていう連中が人間を探して捕まえているの。なんで捕まえているのかな?」
男は不安そうな表情だった。自分も狙われるかもしれないと思っていた。
「いくら何でも乱暴だと思うな。罪のない人にこんなことするなんて」
男はかわいそうな表情をした。
「それはそうと、最近変な宗教団体が現れたんだよ」
「何ていう教団だ?」
「神龍教」
男も興味がないようだ。
「ああ。聞いたことある。僕は入りたくないよ。不気味だもん」
向かいの男は嫌そうな表情だった。
「僕も入りたくないよ。昨日、勧誘に来たけど、断った」
男は厳しい表情だった。しつこく入らないかと行ってくる男がうっとうしかった。
「だろうな。あんなの入ったら、きっと恐ろしいことが起こるに違いない」
サラはその言葉を聴き耳していた。彼らの考えに同感だと思った。そんなとこ入ったら、人間を散々な目に合わせるだけだ。強制労働させて、時には殺そうとする。
その時、客室にある男がやってきた。スポーツ刈りの男で、首にはペンダントをぶら下げていた。神龍教のペンダントだった。
「ねぇねぇ、あの人」
サラは小声でサムに話しかけた。
「どうしたんだよ」
サムも小声だった。
「神龍教の?」
サラは男のペンダントを見ていた。
「うん」
「乗客の人間が連れ去られそうで怖いわ」
サラは不安な表情だった。
「それはないだろ。車掌さんがいるんだぞ」
サムは笑顔を見せた。
そこに、ある女性とその娘がやってきた。だが、2人とも寂しそうな表情だった。娘は泣きそうな顔だった。
「今日、旅行のはずだったのに、お父さん、どこ行っちゃったのかな?」
娘は叫んだ。娘は泣いていた。
「楽しみにしてたのにねぇ」
母は悲しい表情だった。泣き崩れる娘を見て、母は抱っこして励まそうとした。
「あいつらに連れ去られたのかな?」
サムは娘の表情を見ていた。
「わからない。でも否定できない」
サラは首をかしげていた。サラは心配そうに娘を見ていた。そして、再び父に会えるようにしなければと心の中で誓った。
その日の夕方、カーフェリーに少し遅れて、奴隷船がリプコット港にやってきた。港には何人かの魔界統一同盟の幹部がいる。彼らは奴隷船の到着を待っていた。魔界統一同盟は秘密組織なので、彼らが誰なのかは全く知らなかった。誰にも伝えていなかった。
人間を乗せたコンテナは、クレーンで吊り上げられ、貨物列車に積み替えられた。人間は、何かに吊り上げられているのを感じた。
その貨物列車も魔界統一同盟のもので、それを引く機関車の運転手も魔界統一同盟の幹部だ。ただし、そのことは誰にも話さなかった。人間を炭鉱で厳しい労働をさせ、彼らを弱らせて、大量に抹殺する計画を、誰にも知られたくなかった。もし知られたら、警察に捕まるからだ。
偉大なる創造神王神龍様が救ってくれるが、なるべくその手助けを借りないようにしていた。そうすれば偉大なる創造神王神龍様から暖かい恩恵を受けるだろう。彼らはそう思っていた。
人間は、何かに載せ替えられているのを感じた。何も見えないが、コンテナの中の揺れでそう感じる。これからどうなるんだろう。どんなところに連れて行かれるんだろう。その先で、何が待ち構えているんだろう。人間はおびえていた。きっと恐ろしいことに違いないと思う人間は少なくなかった。
「全部載せ終わったか?」
この運転手も魔界統一同盟の幹部だった。
「はい、載せ終わりました!」
「では、出発!」
運転手は汽笛を鳴らした。
大きな汽笛とともに、貨物列車が動き出した。貨物列車は、大量の人間を乗せて、重労働先に向かっていった。ここから目的地までは、およそ半日から1日かかるという。目的地で降ろされたかられは、鉱山などで厳しい労働をさせられる。彼らは、何をされるのか、全くわからなかった。捕まえた人々は、何も言ってくれなかった。ただ、列車に乗っていることはわかっていた。ジョイント音やけん引する機関車の汽笛が聞こえるからだ。
貨物列車は、工業地帯の中を走っていた。この線路は貨物船で、リプコット港から運ばれた貨物を運ぶための線路だ。旅客輸送も行っているが、それは朝と夕方だけで、日中は走っていない。
しばらくすると、鉄道の駅が見えてきた。この先は貨物船は旅客船と合流する。貨物列車はここから旅客線を走行する。駅では、普通電車が停まっていた。その普通電車は4両編成で、その中には多くの乗客が乗っていた。その多くは黒い制服を着ている。下校途中の学生だろうか。学生はその貨物列車に目もくれず、室内で騒いでいる。その声は、コンテナの中の人間たちにも聞こえた。人間はうらやましそうにその会話を聞いていた。ここから逃げ出して、自分もその輪の中に入りたい。だが、それは叶わぬことだった。
貨物列車は、駅の手前でタブレットを取り、旅客船に入っていた。駅員はそれを確認すると、信号室のてこを動かし、腕木式信号機を青にした。青になったのを確認して、貨物列車は旅客線に入った。
貨物列車は、しばらく市街地を走っていた。この辺りの住民は、従業員とその家族がほとんどで、他の路線と比べると、利用客はそんなに多くない。だが、そこを走る貨物列車のおかげで黒字路線だという。
しばらく走ると、広い田園地帯に出た。その田園地帯には、集落が点在していて、その田園で農業をしている人々が暮らしている。
農作業をしている人々は、長い貨物列車を見て、驚いた。この時間帯に貨物列車が走ることはないからだ。人々は首をかしげた。
その頃、魔界統一同盟の幹部が、貨物列車を1両ずつ回り、人間にえさを与えていた。奴隷船の中で与えられた餌とほとんど一緒だった。とても質素で、いつも食べている食事とは比べ物にならないほどだった。
しばらく走ると、貨物列車は雑木林に入った。この辺りに民家はなく、あるのはだだっ広い森だ。ここから少し下ったところに集落がある。かつて、その集落には、1000人ぐらいの人々が暮らしていたらしいが、過疎化が進み、今では100人程度だ。
雑木林の中を進むと、行き違い設備のある駅に着いた。その駅のホームはディーゼルカー2両分と短かったが、構内は広い。ここを貨物列車や特急電車が通り、それ同士の行き違いもあるからだ。その駅の主な利用者は集落の人々だ。駅からはかなり離れているものの、その集落の人々にとっては重要な駅だ。
貨物列車は行き違い設備のある駅を通過した。通過するとき、貨物列車はタブレットを投げた。そして、その先にある別のタブレットを受け取った。近くにいた駅の職員は、乗務員が投げたタブレットを拾った。
その駅では、2両編成のディーゼルカーが行き違い待ちをしていた。ディーゼルカーの車内はとても閑散としていた。ディーゼルカーの停まっているホームでは、運転手と車掌が通過する貨物列車を見ている。この便はここで行き違いを行わないのに、今日は行き違いを行う。臨時便だと聞いていた。いったい、何があったんだろう。緊急物資だろうか? それとも? 運転手は駅を通過する貨物列車を怪しげに見つめていた。
駅長室から出てきた駅の職員は跨線橋を渡って、ディーゼルカーに停まっている向かい側のホームにある駅舎の中に入った。駅の職員はタブレットを持っている。ディーゼルカーの前方の信号機が青になった。それを見て、運転手と車掌はディーゼルカーに乗り込んだ。てこを動かした駅の職員が、運転手にタブレットを手渡した。
ホームにいた駅長が笛を吹いた。片開きの扉が閉まった。長い汽笛を鳴らし、ディーゼルカーが動き出した。後ろの運転席にいた車掌は、怪しげにその貨物列車を見送っていた。車掌も、その貨物列車のことが気になっていた。ディーゼルカーがポイントを通過し、見えなくなると、駅員はてこを動かした。信号は再び赤になった。
その後も貨物列車は、いくつかの駅や信号場でいディーゼルカーや貨物列車と行き違いをした。ディーゼルカーは単行や2両編成が大半だ。この辺りは人口が少なく、乗客が少ない。信号場の中には、かつて駅だったが、利用客の減少によって信号場に降格になった駅もあった。
この路線は貨物列車が多くとるその貨物列車の大半は、アフールビレッジで採掘された鉱石を運ぶためのものだった。それはリプコット港で船に積まれ、世界各地に運ばれる。
その次で行き違いを行う場所は、信号場だ。その信号場は険しい山間に渓谷にあった。人の気配はない。当初から信号場だったようで、駅のホームの跡がなかった。信号場の先で、線路が二股に分かれていた。
予定では、この信号場で特急と行違うことになっている。信号場には、別の魔界統一同盟の幹部がいる。その幹部は、機関車に乗り込み、ここまで運転してきた幹部と交代して運転する予定だ。また、この駅で、一部のコンテナが切り離され、別の強制労働所に向かう予定だ。
貨物列車が信号場にやってきた。寝台特急はすでに信号場に着いていた。その寝台特急は8両編成で、食堂車のある寝台特急だ。その寝台特急は、各駅停車の用のディーゼルカーよりも速く、見た目が新しい。だが、車内は暗くて、うっすらと非常灯がついている。乗客の就寝を妨げないためだ。
また、その信号場は、別のディーゼル機関車が停まっていた。切り離された車両を別の強制労働所までけん引する機関車だ。その機関車の運転手も魔界統一同盟の幹部だ。もちろん、許可を得ての運行だが、何を運んでいるかはもちろん秘密だ。
貨物列車が停車した。信号場の職員は貨物列車からタブレットを受け取り、それを寝台特急の運転手に渡した。その間に、貨物列車の運転士が交代した。タブレットを確認すると、職員は事務所に入った。その間に、後ろの貨車の何両かが切り離された。
しばらくして、上りの信号機が青になった。間もなくして、寝台特急は、大きな汽笛を上げ、信号場を後にした。信号機を貨物列車が通過するとすぐに、信号が赤に戻った。
その運転手も車掌も、わずかに起きている乗客も、その貨物列車を怪しげに見ていた。臨時だったからだ。わずかに起きている乗客も怪しげに見ていた。普段はこの信号場で停車しないはずだが、今日は特別だ。運転手は首をかしげた。アフール鉱山で何かがあったのかなと思った。
アフール鉱山は最近、宗教団体の神龍教の私有地になったため、立ち入りが禁止されている。神龍教の私有地になってから、誰もアフール鉱山の様子を見ることができなかった。
貨物列車の運転手は、職員から別のタブレットを受け取った。アフール鉱山方面の下り信号が青になった。貨物列車は、寝台特急のやってきた線路と別の線路に入っていった。信号機を通過してすぐ、信号が赤になった。
その路線は主にアフール鉱山の功績を運ぶために利用されている貨物専用路線だ。かつては旅客列車も走っていた。といっても、多い時期でも旅客列車は1日に4往復前後しか走らなかった。アフール鉱山で産出される鉱石を運ぶ貨物列車が旅客列車よりもはるかに多く走っていた。
旅客列車がなくなったのは、神龍教の私有地になったからだ。それ以後、鉱山を出入りする人は、有蓋貨車に乗って近くの駅まで行っているという。
貨物列車が去ってすぐ、別のディーゼル機関車がやってきた。ディーゼル機関車は、残った貨物列車の先頭に連結された。ディーゼル機関車は、汽笛を上げて、寝台特急のやってきた線路を走っていた。その先は、寒い寒い北国だ。どうやら別の場所で重労働を受けるみたいだ。
貨物列車は本線と別れ、アーチ橋を渡ると、すぐに長いトンネルに入った。アフール鉱山への最後のトンネルだ。このトンネルを抜けたところにアフールビレッジがある、その手前に鉱山がある。そのトンネルに入った直後、陽が差してきた。朝が来た。
貨物列車の中の人間は、この先に何が待ち受けているのかと思っていた。そのことを考えると、眠れなかった。きっと厳しいことがある。きっと辛いことがある。そんな考えしかなかった。ある人は涙を流し、ある人は怯えていた。
長いトンネルを抜けると、そこには都会のような風景が広がっていた。高層マンションが多く建ち、多くの人が行き交っている。とても村とは思えない風景だ。ここは、鉱山の村、アフールビレッジだ。標高は1000m以上。冬はとても寒い。
貨物列車はアフール駅に着いた。貨物列車の扉が開いた。中からすし詰め状態だった人間が出てきた。人間は、辺りを見渡した。いったいここはどこだろう。誰もがそう思っていた。
「さっさと出てこんか!」
守衛の男は怒鳴った。守衛の男はドラゴンの尻尾で人間を叩いた。
「痛い!」
人間は涙ながらに叫んだ。
「痛いのはわかってる! もっとやられたくなかったらさっさと出て来い!」
だが、守衛がそれが聞こえないかのように怒鳴った。
「はい、わかりました」
怒鳴られ、人間は泣いていた。長時間すし詰めにされ、精神的に疲れ果てていた。
「整列! 今からお前たちは、この鉱山で働くことになる。厳しい労働だが、絶対に逃げるな。逃げたら銃殺だ。覚えておけ。なお、労働状況によって、1か月ごとに表彰を行う。最も多くの功績を掘り出した人は、労働から解放してやろう。だが、最も少なかった人は、我々の宗教が拝める神の生贄に捧げられるので、覚悟しておけ!」
守衛はこれからのことを説明した。その守衛も神龍教の信者だった。
その話をしているとき、1人の若者がだらっとした姿勢で立っていた。守衛の男はそれを見て、にらみつけた。
「そこ! なんだその態度は!」
守衛の男はドラゴンの尻尾で叩いた。人間はみんな震え上がった。
その日から人間は、アフール鉱山で過酷な労働をさせられた。だが、新たなエデンを迎え、自分たちが絶滅するということは知らなかった。彼らはそのことを全く話さなかった。ただ、一生ここで過酷な労働をすることになるかもしれないことしか聞いていなかった。
鉱山の手前の信号場で切り離された貨車は、ディーゼル機関車に引かれて雪の降る北国へ向かった。彼らはその村の製糸上で過酷な重労働を課せられる。
貨物列車は北国の駅にやってきた。ホームは1面2線だけだが、駅舎の向こうには何本かの側線があり、そこで特産品の糸の積み込みが行われる。
貨物列車は駅に着いた。しかしそこは、旅客用の駅より少し離れたところにある貨物ホームだった。秘密事項だからだ。そのホームも神龍教の建物で、立ち入り禁止だった。
駅には製糸場の工場長がいた。社長を含めて関係者はみんな神龍教の信者で、魔界統一同盟の幹部だ。
「出て来い!」
「待っていたぞ!」
工場長たちは大声で叫んだ。
「さぁ働け! 国のために命をかけて働くんだ!」
工場長は持っていたドラゴンの尻尾で人間を叩いた。
「こっちに来い!」
魔界統一同盟の幹部は人間を無理やり連れ出した。
人間は怯えていた。これから人間たちは1日18時間、休みなしで労働をすることになる。食事は1日1回、しかも少量だけ。とても過酷な労働だ。けがをしても保険はなし。体調が悪くても仕事をしなければならない。まるで地獄のような労働だった。
次の日の夜、神龍教の信者になった少年は自分のベッドで寝ていた。ふわふわの毛布で、とても心地よさそうだ。少年はこの日も王神龍に抱かれる夢を見ていた。少年の寝顔はとても穏やかだ。夢の中で王神龍に抱かれていたからだ。
そこに、獣人がやってきた。昨日話しかけた獣人だ。獣人は古びた経典を持っている。獣人は嬉しそうな表情だ。また1人熱心な信者が増えたからだ。
獣人は少年に向かって呪文を唱えた。
「全能の神よ、その人間に魔獣の力をお与えください」
すると、魔獣の霊が現れ、少年と重なった。まるで、霊が少年の体に乗り移ったようだ。
霊が少年と重なったその時、少年が目覚め、起き上がった。少年は鋭い目つきだった。まるで別人のようだった。
その少年は魔獣に変身した。少年はもはや人間ではなく、魔獣だった。
少年は人間を捨て、魔族になった。偉大なる創造神王神龍様のために。人間を全滅させるために。
2日かけて、急行は様々な風景の中を走ってきた。都会の複々線区間では様々な電車を追い越し、山間部では美しい峡谷に沿って走った。ある時は美しい海や湖に沿って走り、山を越え、どこまでも続くような広大な平原を走っていた。3人は雄大な車窓に興奮していた。
3人は自由席の座席にすら座ることができなくて疲れていた。家から持ってきた寝袋で寝ていた。それでも疲れは取れなかった。
朝7時、急行の車内はあわただしくなっていた。あと1時間足らずで、終点のインガー港駅に着くからだ。そのため、乗客は荷物の整理で忙しかった。3人も荷物の整理をしていた。今日の8時に終点のインガー港に着くという放送がしきりに流れていた。
「大陸横断鉄道のご利用、ありがとうございます。この列車は8時に終点のインガー港に着きます。お忘れ物のないよう、お降りのご支度願います。お出口は右側、1番線に到着します。」
3人を乗せた急行は、しばらく田園地帯を走っていた。とてものどかな光景で、農作業をしている人の姿もある。その向こうには港町が見えている。終着駅のあるインガーシティだ。
終点が近くなると、急行は美しい海岸線を走っていた。その向こうには、大海原が見える。そして、秘密要塞らしき建物も見える。アカザ島だ。
サムは車窓から見える建物を指さした。
「あれが秘密要塞かな?」
「きっとそうだろう」
サラはじっと秘密要塞を見つめていた。この中に母がいるに違いない。今すぐ助け出さなくては。そして世界を救わなければ。サラは決意を秘めていた。
「待ってろよ! 今すぐ倒してやるからな!」
マルコスは拳を握り締めていた。
駅が近くなり、案内放送が聞こえてきた。
「長らくのご乗車、お疲れさまでした。まもなく、インガー港、インガー港、終点でございます。インガー鉄道とカーフェリーはお乗り換えです。どなた様のお忘れ物のないよう、お降りのご支度願います。お出口は右側、1番線に着きます。大陸横断鉄道のご乗車、ありがとうございました。またのご利用、お待ちいたしております」
急行は、アカザ島やゴルドの国などに行くカーフェリーの発着する港町、インガーシティの中心駅、インガー港駅に着いた。駅舎は、人口のそんなに多くないインガーシティに似合わない大きな駅舎だ。駅舎が大きいのは、カーフェリーとの連絡客が多いためらしい。インガータウンは古代文明で栄えた小さな港湾都市で、ウンディーネ族の最後の生き残りが命を落とした場所として知られている。そのためこの街には、ウンディーネを祀っている神殿があると言われているが、もはや伝説でしか信じられていないようだ。乗客のほとんどはここでカーフェリーに乗り換えるという。
3人はホームに降り立った。乗客のほとんどは隣接するカーフェリー乗り場に向かった。残りの乗客はここを観光する人々と思われる。
3人はインガー港にやってきた。インガー港には、多くの家族連れがいて、カーフェリーを待っている。家族連れの表情は明るく、これからの旅に希望を膨らませているようだ。サラはその様子をうらやましそうに見ていた。そして、早く母を救い出さなくては。サラは決意を胸に秘めていた。
「アカザ島へのフェリーの時刻を調べなくっちゃ」
サラは時刻表を見た。アカザ島へのフェリーはある日とない日があった。車内で配布されていた時刻表によると、今度来るのは明日の午後3時らしい。
「明日の午後3時だって」
だが、張り紙が貼ってあった。多くの人がその張り紙を見ていた。彼らはアカザ島に向かう人々と思われる。
「あれ見て!」
サラは張り紙を指さした。その張り紙には、こう書いてあった。
秘密要塞建設に着き、しばらくの間アカザ島へのフェリーの運航を休止します。
なお、再開時期は未定です。
ご了承ください。
インガーフェリー
その前には、多くの人が集まっていた。運航休止の知らせを見ている人達だろう。彼らは騒がしそうに話していた。おそらく彼らは運航休止の知らせに驚いていると思われる。
「運航休止って・・・」
老人は島に行くのを楽しみにしていた。この島にある神社に参拝しようと思っていた。
「まさか」
老婆は乗る予定はなかったものの、予想外の事態に驚いていた。
「あの変な建物のせいだ」
男はこれから妻とゴルドの国に行く予定だ。
「なんであんなの建てるのかな?」
「何これ」
サラの声に反応して、マルコスは張り紙を見た。マルコスは驚きを隠せなかった。
「えっ、運航休止?」
サムも驚いた。
「そんな」
マルコスは開いた口がふさがらなかった。もうすぐ王神龍に会えると思っていたのに。マルコスはがっかりした。
「どうしよう」
「駄目か。どうしよう」
マルコスは落ち込んだ。
「近くの漁師に頼んで、船に乗せてもらって、島に行きましょ。それしか手段はない」
この付近には漁師が多く住んでいて、舟屋が多く並んでいた。
「乗せてもらえるかな?」
サムは首をかしげた。
「聞いてみよう」
マルコスは強気だった。
「うん」
3人は駅を出て、海沿いを歩いて漁師を探し始めた。この辺りは平地が少なく、わずかな平地に漁師たちの家が建っていた。
3人は駅の近くの漁師の家にやってきた。その家は木造で、海に面していた。1階が船小屋で、2階と3階が家だった。
サラは玄関のインターホンを押した。
「はーい」
インターホンから声が聞こえた。男の声だった。
「すいません、アカザ島まで乗せてってくれませんか?」
「そうだね。先生と一緒なら大丈夫だと思うけど、子供だけではねぇ…。それに、あんな変な建物が建てられている状況じゃねぇ・・・」
漁師はアカザ島に行きたくなかった。行ったら殺されると思っていた。
「やっぱり子供じゃ駄目かな?それに、あんな建物があるからな」
マルコスは行けるかどうか不安になってきた。
「そうだな」
サムは残念そうな表情だった。
「この街で情報収集しましょ」
情報収集をすればアカザ島に行くための手掛かりがつかめるかもしれないとサラは思っていた。
「うん、そうしよう。行く前に下調べしておいたほうがいいもんね」
マルコスは何も知らないよりいいだろうと思っていた。
「街の中心部に行きましょ。その方が多くの人から情報を知ることができるから」
サラは冷静だった。3人は電車に乗ってメインストリートに行くことにした。メインストリートの方が人通りが多く、多くの情報を得られると思ったからだ。
3人はインガー港駅に戻ってきた。駅は集落から少し離れたところにある。そのために、この駅と街の中心部を結ぶ電車が通っている。この電車は路面電車のようで、駅のホームは低く、電車も路面電車のようだ。町の中心部までは道路の端を走っていて、中心部では中央を走っている。
3人はインガー港駅に隣接した電停にやってきた。ホームは3本で、案内表示器には次にどのホームの電車が出るか表示してある。
3人は次に出る電車に乗った。電車は単行で、乗客はまばらだ。多少老人がいるぐらいだ。3人は整理券を取ってロングシートに座った。その直後、電車は動き出した。電車は吊り掛け駆動特有のモーター音を響かせ、車体を揺らしている。
電車は海沿いを走っていた。向かいには所々民家があって、見えなくなることがあった。海が見えるたびに3人は興奮していた。
電車に揺られて10分後、電車は街の中心部にやってきた。週末と相まって、多くの人が行き交っていた。そのほとんどの人々はこれからフェリーに乗る人々で、出航の時間までを楽しんでいるようだ。
3人は運賃箱に運賃を入れ、街の中心部に降り立った。
「ここで情報収集をしましょ。メインストリートで多くの人が通るから、多くの情報が得られるでしょ」
3人はここで情報収集をすることにした。
「すいません、王神龍に関して、何かご存じでしょうか?」
「王神龍?聞いたことないな」
通りすがりの若い男は首をかしげた。男は赤ん坊をあやしながら去っていった。
「すいません、王神龍に関して、何かご存じでしょうか?」
「ああ、知っているよ。世界を支配しようとしている神様じゃ。人間を絶滅させ、新たなエデンを築こうとしているらしいのじゃ。なんか悪い神様みたいじゃ。やっぱり、人間と魔族が共存する世界が理想じゃのう。何とかしたいけれど、太刀打ちできないほど強いから、どうしようがないのう」
通りすがりの老婆は詳しく答えた。3人はその話をよく聞いていた。
「どうやって王神龍を知ったんですか?」
「知り合いから。神龍教という新しい宗教団体が崇めているらしいのじゃ。あんたも入ればと言われたけれど、見た感じ、怪しそうだったから、断ったのう」
3人は喜んだ。やっと、王神龍に関する有力な情報を得た。だが、情報によると、太刀打ちができないほど強いらしい。3人は勝てるかどうか心配になった。負けると思った。
3人は近くの公園にやってきた。公園では子供たちが遊んでいる。夏休み真っ最中とあって、公園では朝からたくさんの子供が遊んでいる。
「あの先生、どうしちゃったのかな?」
ある子供が心配そうにしゃべっていた。
「あの先生って?」
サラは子供に聞いた。サラは聞き耳していた。行方不明というだけで、母のことを思い出したからだ。ひょっとしたら、これも神龍教の仕業じゃないかと思った。
「あの丘の上にある小学校の先生。半年間行方不明なのよ」
「そうそう、うちの子供、あの先生が白い龍の生贄に捧げられる夢を見たの」
「白い龍・・・」
サラは白い龍という言葉に反応した。王神龍も白い龍だからだ。
「その夢の話、教えてください」
突然サラに話しかけられ、主婦は驚いた。聞いてくると思ってなかったからだ。
「わかったわ。洞窟のようなところにある礼拝室で、巨大の龍の彫刻があるの。先生は、その中央に連れて行かれて、仰向けにされるの。その状態で浮かされて、龍の彫刻の前まで上がるの。すると、巨大な白い龍の幻が現れて、龍が吐く炎で跡形もなく消えるの。で、そこには光り輝くものが浮いていて、それを白い龍の幻が飲み込むの。すると、見ていた人は歓喜を上げるの」
主婦は夢に出てきたことを詳しく言った。
「何か、恐ろしいわね」
「そんなことするなんて、許せないな」
マルコスは拳を握り締めていた。
「私もそんな夢を見たの。怖かった」
「近隣の子供たちが同じ夢を見るなんて、何だか怪しいわね」
同じ夢を見るのは、それが正夢で、神龍教の信者が見せているものだとサラは思った。
「うん、何か関係がありそうだ」
マルコスはサラの推理に納得していた。
その時、道の向かいで街の住人が話をしていた。どうやら小学生のようだ。
「ねぇねぇ、この街にすっごい先生がいるんだって」
「知ってるよ。子供を育てるのがとてもうまくて、明るいらしいよ」
主婦はその話を不安そうに聞いていた。
「どうしたんですか?不安そうな顔をして」
サラは主婦に聞いた。主婦は不安そうな表情だった。
「あの先生の勉強会を受けた子、何か様子が変なの。変な呪文を唱えたり、突然いなくなったり。それでも先生に怒られないの。どうしちゃったのかしら」
その話を聞いてサラは思った。神龍教に入った人によくあることだ。だとすると、あの先生は神龍教と何か関係があるのでは? サラはその先生のことが知りたかった。
「ちょっと待ってください」
サラは右手を上げた。
「その先生、今、どこで何をやっているの?」
サラは立ち話をしていた小学生に聞いた。
「今日は小学校で勉強会をやっているらしいよ」
その少年は少し目つきが悪く、何か悪いことをやっていそうな感じだった。
「みんな積極的に参加しているんだって」
その少年はとてもかわいらしい顔をしていた。
「行ってみようか」
サラは神龍教の信者に違いないと思っていた。絶対に真相を突き止めてやる。サラは強気になっていた。
3人はその教師のことが気になった。サラはその時思った。どんな教師何だろう。どんな顔をしているんだろう。どこが評判なのかな? 会いたい。会って話がしたい。3人は私たちの小学校にもそんな教師がいたらいいのにと思った。
学校に向かう途中、3人はアカザ島の見える海岸にやってきた。その海岸は、今頃だったら、多くの観光客でにぎわっているはずだ。だが、今日は人混みがまばらだ。これも、城の建設で景観が損なわれているかもしれない。
3人はアカザ島を見た。すると、アカザ島は大変なことになっていた。木々が全て伐採され、城のようなものが建設中だった。
「これが、噂のアカザ島?」
サラは言葉を失った。島が変わり果てていたからだ。
「そうみたいだな」
マルコスは腕を組んでいた。
「なんだか不気味ね」
サラは開いた口がふさがらなかった。
「これじゃあ、観光客が引くのも当たり前だ」
サムは観光客の気持ちがわかった。
道路の向こうでは、若者が立ち話をしていた。
「アカザ島には変な要塞が建設されているらしい。あんなん作ったら海岸の景観が損なわれるよ。やめてほしいな」
「この街にはきれいな海水浴場がある。今の時期、多くの海水浴客がやってくる。でも、最近、アカザ島に変な要塞が建てられていて、景観が悪くなっている。あんなの建設しないでほしいよ」
「アカザ島に建てられているの、神龍教の関係施設なんだって。何に使うのかしら?変なことに使わなければいいんだけど」
その話を聞いて、サラは一刻も早く王神龍を倒して、元の景観に戻さなければと思った。
3人は海岸を後にして、話題の教師がいる学校に向かった。あの教師のことが気になったからだ。子供の行動といい、神龍教の信者の気がしたからだ。彼なら神龍教のことについて、王神龍のことについて何か知っているかもしれない。サラは教師から聞こうと思っていた。
「学校はあれだよね」
サラは丘の方を指さした。
「うん」