第7話 真実(前編)
アンリス火山から飛んで3時間半、4人はナツメビレッジに着いた。
ナツメビレッジは標高4000m台の村で、ナツメ火山の中腹のわずかな平地にある。人口は決して多くなく、交通の便が悪かった。
この村が開かれたのは今から500年ぐらい前だ。昔は1000人ほどの人口だったが、過疎化や人間狩りの影響で、人口は250人足らずだ。主な産業は機織業だ。ここで作られる布はとても美しく、高値が付くという。
この村の民家はどれも石やレンガでできていて、塀は高い石造りだった。
「高い所ね」
「こんな所に人が住んでるって驚きだわ」
サラは村の入り口にある谷から谷底を見ていた。谷を巨大なハゲタカが飛んでいる。この辺りに生息するハゲタカは世界最大で、それを見に来る人も多い。
「ここは行きにくいところにあるけど、景色がいいし、神秘的な風景だわ」
「ここは、天空の村と言われているんだ」
隣にいた人はその風景に見とれていた。観光客と思われる。こんな辺境の地だが、素晴らしい景色を見に多くの観光客が訪れる。ここまでの道は九十九折りの未舗装の道路を上った先にある。だが、そこまでして観光客がバスに乗ってやってくる。
「いやー、ここは最後の秘境だ。眺めは最高。こんなとこに人が住んでることが驚きだ。こんなところに住んでみたいな」
「すごい! 一度は行ってみたかったんだ!」
また1組の観光客がやってきた。彼らは歩いてこの村に来たと思われる。この後火山に登るのか、大きなリュックを背負っていた。
「ここは有名な観光地のようだな」
「こんな魅力的なとこだもん」
マルコスやサムも見とれていた。いつか住みたいと思うぐらいだった。
「僕だって住みたいと思うよ」
「交通は不便だけどね」
レミーも村の風景に見とれていた。
「シルフのオーブは幻の祠にあると聞いたわ。どこにあるのか調べましょ」
サラは前向きだった。早くオーブを見つけなければ。それが自分に課せられた使命だから。
4人は村の人々に聞き始めた。この村の人々はペオンビレッジ同様、みんな親しく、まるで家族のようだった。
「すいません、幻の祠って、どこにありますか?」
「そんなの聞いたことないな」
老人は首をかしげた。その老人は長くて白い口ひげを生やしていた。どことなくペオンビレッジの長老に似ていた。
「すいません、幻の祠を探してるんですけど」
「そんなのこの村にはない」
聞いた若者は冷たそうな表情だった。その若者は龍のペンダントを付けている。4人はそれに気づかなかった。
「すいません、幻の祠はどこですか?」
「知ってる。でも、そこは幻の大地、雲海諸島にある。だが、その島々は、雲海の現れる朝にしか現れない」
やっと情報がわかった。だが、朝にならないと行けないらしい。
と、その時、今さっき聞いた若者がやってきた。その若者は怖い顔をしていた。
「お前、サラか? ぶっ殺してやる!」
若者が赤いドラゴンに変身して襲い掛かってきた。なんと若者は神龍教の信者だった。幻の祠を訪れようとしたサラに気づき、殺そうとした。
「氷の怒りを!」
サムはドラゴンを氷漬けにした。ドラゴンは氷漬けになり、行動できなくなった。
「ガオー!」
サラは氷の息を吐いた。ドラゴンは何もできずにあっという間に倒れた。
「まさか敵だったとは」
「観光地だからといって油断はできないな」
4人は改めて気を引き締めた。人の集まる所でも油断はできない。いつ襲い掛かってくるかわからない。
「何だ、何事じゃ」
いきなり戦闘が始まり、人が集まってきた。そして、老人が4人に近づいてきた。どうやらこの村の長老のようだ。
「はて、この人は、まさか、サラさんかな?」
長老は知っているかのように話した。サラはその老人にあったことがなかった。サラは首をかしげた。
「そ、そうですけど。どうして知っているんですか?」
サラは戸惑っていた。声をかけられると思っていなかった。
「話がある。わしの家に来てくれんか?」
「いいですけど」
老人はこの近くにある家に入った。その家は周りの家と比べて大きい。塀は他の家より高い。
「なんで私のことを知ってるのかな?」
「わからない。行ってみよう」
4人はつられるように老人の家に入った。庭は他の家よりも広く、木が多かった。
4人は居間に入った。そこにはあの老人がいた。4人を見ると、老人はドラゴンに変身した。その老人はドラゴン族だ。
「よくぞナツメビレッジに来た。わしはこの村の長老ネルソン。ドラゴン族だ。私は感じていた。世界の異変を。この世界が作り直され、人間が滅亡してしまうのを。信じられん話だが、事実だ。だが、この世界のドラゴン族が神と崇めている竜帝グレセルア様が予言した。『いつの日か、世界に悪が訪れる時、危機が迫る時、奇跡のドラゴン現る。奇跡のドラゴン祈る時、精霊の祈り、世界を駆け、奇跡の光降り注ぎ、生けし物の心、一つとなる。さすれば、魔獣の王の秘めたる力目覚め、悪を封印し、世界を救いたり』とな。サラ、お前はその予言に出てくる『奇跡のドラゴン』なのだ」
「はい、私は奇跡のドラゴンです。普通のドラゴンを超越した力を持っています」
サラは素直に答えた。自分が特別なドラゴンだと自信を持っていた。
「やはりそうか。私は必ず来ると信じていた。シルフのオーブを手に入れるためにこの村を訪れると。そのオーブは、この村に朝だけ現れる雲海諸島にある『幻の祠』にある。だが、それで終わりではない。世界を救うためには11の要素が必要だ。それを集めた時、封印する力が生まれる。サラよ、奇跡のドラゴンよ。世界を救え! 人間を救え!」
長老のネルソンは霊感が強く、4人が今日来ると知っていた。4人は驚いた。来ることを知っていた人がいたとは。
家を出た4人は、ネルソンの言っていたことが気になっていた。
「まさか私が世界を救う予言があったとは」
「だから神龍教が狙ってるわけだ」
サムは感心した。神龍教であった自分でもその予言は知らなかった。ただ、サラを殺せとしか聞かれていなかった。
「竜帝グレセルアって、知ってるわ。犬神が現れた時に立ち向かった『魔獣の英雄』のリーダーだったドラゴンよ。今は神となって天界から世界を見守ってるんだって」
サラは4歳の頃、竜帝グレセルアの昔話を絵本で知っていた。母が眠れない自分に語り、聞かせてくれた。サラはその話が絵本の中で一番のお気に入りだった。同じドラゴン族として尊敬できるからだ。でも、そんな自分が英雄になるために戦うことになるとは。
「僕も聞いたことあるよ。でも本当にあったってびっくりした」
サムもその昔話を聞いたことがあった。だが、本当にあったことだとはわからなかった。
「雲海諸島は朝しか現れないのか。じゃあ、朝まで待つしかないな」
サムは崖から向こうの山を見ていた。雲はかかっていたが、島らしきものは見えなかった。下に広がるのは集落や原生林だけだった。
「早く見つけなければならないのに、残念ね」
サラは残念そうな表情を見せた。早く見つけて世界を救わねばと思っているのに、ここで足止めを食らうのが残念だった。
「仕方ない。1晩寝て朝にそこに行こう」
「それよりも気になったのは、あと8つの要素も手に入れなければならないことね。こんなにあるって。早く見つけなきゃ」
サラは4つのオーブが必要だとしか聞いていなかった。まさかあと7つ必要だとは。早くしないと新しい世界が作られて、人間が絶滅するのに。より一層早く巡らないと。
「それまで散策しつつ食堂で情報収集をしましょ」
4人はこの村で唯一の食堂にやってきた。食堂はそこそこ賑わっている。そのほとんどが登山客で、地元の人は少ない。村民はたいてい家で昼食をしていた。
「ここにもハイカーが多いね」
「きっとみんなここで泊まってから山に向かう人だろう」
登山客は明日の何時に山に登るか食堂で話し合っていた。世界の危機だと知らずに。
「明日、山に登ろうか?」
「いいわよ。できれば早朝に」
「どうして早朝に?」
「早朝になると雲海の中に幻の大地が現れるんだって。それが見たいのよ」
幻の大地である雲海諸島のことは観光客の間では有名なようだ。実際、登山客が多いのは早朝で、雲海諸島を見るためだという。
そんな中、たまたま食べに来ていた地元の人が小声で話をしていた。
「ここの新しい村長さん、去年この村に来たんだけど、夜になると変なんだ」
「夕方になると不気味な祈りをするんだって」
さらに、その向こうにいた地元の人も村長さんの行動を怪しく思っていた。
「村長さん、朝になると雲海諸島に向かうんだって。あの諸島は幻の大地で、魔界とつながっているんだって。どうしてそんなところに行くんかな?」
4人はその話を聞いていた。ひょっとして、この村長さんは神龍教の信者なんじゃないかな?
「今までの事例もそうだけど、この村長さんも神龍教にかかわりがあるんじゃないかな?」
「不気味な祈りをするって言った時点で怪しい」
サラは村長のことを気にしていた。村長がオーブを隠しているんじゃないかと思っていた。ウンディーネのオーブも、サラマンダーのオーブも何らかの噂が出ている人が絡んでいるからだ。
「この村、朝になると雲海の中に幻の島が現れるんだ。そこって、雲海諸島って言われるんだ。そこは魔界に通じているとも言われている」
「雲海諸島には世界を動かす秘宝が眠っているそうだ」
端の席にいる登山客が話していた。彼らは神話やこの村の伝承に詳しいようだ。
「その世界を動かす秘宝ってのが、シルフのオーブじゃないかな?」
「きっとそうだ」
「今夜は寝て、次の朝に雲海諸島に行きましょ」
4人はこの村でただ1つの宿で眠ることにした。朝にならないと話が進まない。急いでいるけど何にもできない。
「キャー!」
突然、叫び声が聞こえた。その声を聞いて、食堂にいた人や従業員は外に出た。4人は驚いた。そして、今朝、フレアに殺された男のことを思い出した。ひょっとして、誰かが神龍教の信者に殺された?
「長老さん!」
1匹の黒いドラゴンが倒れていた。ネルソンだった。何者かに斬りつけられたと思われる。村民は突然のことに驚いていた。
「ネルソンさん!」
「村長にやられた・・・、苦しい・・・」
サラは村長がいたと思わなかった。村長はサラが来たのを知ってやったと思われる。
「村長さんが? やっぱり! 俺たちが来たのを知って殺したのか!」
「サラ、すまん。何の役にも立てんかった。やはり村長は神龍教の信者だったか。しかも12使徒だったとは。わしはあいつが村長になることに反対していたんじゃ。きっとシルフのオーブを狙うだろうと。やはり狙ったのはあいつだったか。もうわしはだめじゃ。お前が世界を救って、平和な世界になるとこ、見たかったな。必ず世界を救って平和をもたらすと信じてるぞ、奇跡のドラゴン、サラよ。お前に与えられた使命を・・・、は・・・、た・・・、せ・・・」
ネルソンは息を引き取った。
「ネルソンさん! ネルソンさん!」
サラはネルソンをゆすった。だが起きなかった。サラは悲鳴を上げた。村民はかわいそうにその様子を見ていた。
「王神龍め! 村長め! 覚えてろ!」
マルコスは拳を握り締めた。王神龍や村長が許せなかった。
「サラ、王神龍を封印して仇を討とうぜ! そして、天国のネルソンさんのためにも世界を救おうぜ!」
「そうね!」
サラも拳を握り締めた。サラも許せなかった。
その声を聴いて、村人が集まってきた。倒れた長老を見て、村人は驚きを隠せなかった。中にはショックのあまり泣く人もいた。
「やっぱり村長さんは悪い奴だったんだな」
「村長さん、どこ行ったんだろう」
「わからない」
村長はどこにもいなかった。ここ最近いなくなることがいつもより多い。まるで4人が来るのを警戒しているかのようだった。
「やっぱり村長さん悪い人だったんだな」
村長を支持していた村人は村長がみんな村長が信じられなくなった。
「こんな村長に投票したことを後悔してるよ」
「長老が殺されるなんて」
「村長が許せない!」
村人は村長に対する不満を口にしていた。みんな険しい表情だった。
「村長さん、以前は普通の会社員だったんだけど、ある日突然政治家に転身して、村長になったんだって」
その男は村長のうわさを知っていた。村長は高卒で、普通の会社員だった。だが、ある時何かに目覚めて政治家に転身して、村長になったという。突然会社に退社届を出し、その後独学で政治学を学んだそうだ。
「あの村長さん、評判いいんだよ。村民のことを大切にしているし、優しいから。でも、こんなことをするなんて」
「村長さんには娘さんがいたんだけど、ある日自殺したんだって。でも、そのこと全く話したことがないんだよ」
その女は村長の娘のことを聞いたことがあった。リプコットシティでOLをしていて、評判は良かったが、上司からのパワハラがきつく、自殺したという。
4人はその会話のことを聞いていた。これまでの神龍教の信者のことを思い出していた。サラはインガーシティでの出来事を思い出していた。
「自殺・・・、グリードも自殺だったよね。なんか被るわね」
サラはグリードのことを思い出した。グリードはいじめ自殺したが、犬神の力で蘇り、神龍教の信者となった。ひょっとしたら村長の娘もそうなんじゃないかと思った。
「そうだね。怪しい」
サムも同感だった。神龍教は何らかの悩みや憎しみを持つ人々に力を与え、その原因となった人々を王神龍の生贄に捧げることによって快楽を与えているからだ。
「村長の娘さん、昔リプコットシティでOLをしてたんだけど、パワハラが原因で自殺したんだって。娘さんの関係者、次々といなくなってるんだって。中には生贄に捧げられる夢を見た人も」
老婆は村長の娘の同僚だった孫娘からその話を聞いていた。その孫娘は今でもそこでOLをしているという。
「この話を聞くと、やっぱり神龍教が関連してるんだろうな」
サムはますます怪しく思えてきた。もうこれは神龍教の仕業だろう。
「とりあえず明日は雲海諸島に行こう。そして、村長さんを追おう!」
「そうよね!あの人がシルフのオーブを隠していそうだからね。今までの事例から見て」
サラは村長がシルフのオーブを隠しているんじゃないかと思い始めていた。4人はこの村でたった1つの民宿に向かった。そこに泊まって早朝にチェックアウトして雲海諸島に向かうためだ。民宿はここから歩いて数分の所にある。
4人は民宿に着いた。民宿の名前は『雲海』。この村で見られる幻の大地、雲海諸島にちなんだ名前だ。その民宿は4階建て以外では周りの民家とよく似ていた。この辺りの景観に合わせて、民家に似せていた。
「いらっしゃいませ。民宿雲海にようこそ」
女将はお辞儀をした。個々の従業員はみんなこの村の民族衣装を着ている。この村の雰囲気に合わせている。
「あのー、4名1組なんですけど、お部屋、空いてますか?」
女将は部屋の状況を確認した。今は夏休みで、登山客がいつも以上に多い。
「1部屋なら空いてますよ」
女将は笑顔を見せた。4人はほっとした。
「そうですか。ありがとうございます」
サラはお辞儀をした。まだ空いている部屋があったのが嬉しかった。
4人は宿泊する宿の廊下を歩いていた。宿には火山への登山客も泊まっていた。すれ違う人々には大きなリュックを背負った人もいた。そうでない人もハイカーらしい服装をしていた。
「登山客が多く泊まってるね」
「その人達、世界が危機だと知ってるのかな?」
「多分知らないと思う」
サラは不安そうな表情で見ていた。世界が今こんな状況なのに、どうしてのんきにこんなことをしているんだろう。もっと世界のことを考えなければいけない時期だろう。
4人は案内された部屋に入った。その部屋は3階にあった。この村の民家は1階建てばかりで、そのためか見晴らしがよかった。
4人は部屋のちゃぶ台の周りに座った。部屋は畳敷きの4畳半で、真ん中にちゃぶ台がある。
「あー疲れた」
マルコスは横になった。突然戦うことになって驚いていた。
「明日の朝早くにチェックアウトして雲海諸島に向かおう」
サムは明日の計画を立てていた。サムはどんな時でも冷静だった。
「それにしてもあの村長さん何なの? 長老を殺して」
サラは村長のことが気になっていた。あんな悪いことをするなんて。サラは信じられなかった。
「きっと神龍教なんだろう。俺たちが来るのを予知して殺したんだ」
かつて神龍教の信者だったサムは神龍教の信者だと疑った。あの襲い掛かってきたドラゴンも。
「でもどうして雲海諸島に向かうのかな?」
マルコスは疑問に思っていた。そんな村長さんがどうして雲海諸島に向かうんだろう。魔界につながっているという危ない場所に。
「そこに秘密があるからだろ」
「あの娘さんが守ってたりして!」
突然サラは考えた。村長の娘もグリード同様自殺したからだ。復活して神龍教の信者として守っているのでは?
「それもあるな。グリードとナシアみたいな感じで」
マルコスもそんな予感がしていた。グリードは自殺した人でナシアがその親族なのが一緒だからだ。
と、サラは辺りを見渡した。向かいに座っていたレミーの姿がなかったからだ。
「あれっ、レミーは?」
「知らない」
マルコスは首をかしげた。
サラがベランダに目をやると、そこにはレミーがいた。レミーはベランダから外を見ていた。サラはベランダに向かった。
「そこにいたの」
サラの声に気づき、レミーは後ろを振り向いた。
「お母さんのことが心配で。どこでロンを探してるのかなって」
レミーは夜空を見上げた。レミーは母のことを思い浮かべていた。母は今どこでどんな夜空を見ているんだろう。早く会いたいな。
「もう王神龍のとこにたどり着いたのかな?」
「たどり着いたとしても、あんなに強い奴なんでしょ。歯が立たないじゃん」
「心配よね」
「絶対にお母さんを見つけられると信じてるから」
サラはレミーの肩を叩いた。サラはレミーを励ましたかった。
「サラ姉ちゃん」
サラは頼れるお姉ちゃんのようだとレミーは改めて思った。サラについていけばきっとお母さんは見つけられるはずだと思った。
その夜、4人が寝静まった頃、ふもとにある少年が来ていた。バズだった。聖魔導となり、4人に再会するためにやってきた。バズは感じていた。4人はナツメビレッジに泊まり、幻の祠に行くだろう。それは、この先のナツメビレッジに朝だけ現れる雲海諸島にある。
「すいません、ここにサラ・ロッシさんは来ませんでしたか?」
「いや」
夜遅くまで起きていた老人に聞いたが、老人は全く知らなかった。
バズは空を見た。サラは3人を乗せてひとっ飛びでナツメビレッジに向かったんだろう。ナツメビレッジに行って直接会うしかない。
バズは山の上を見た。この上に幻の祠がある。そこに行くには朝しか現れない雲海諸島から行くしか方法がない。きっとサラはそこを目指すだろう。それまでに会わなければ。もう雲海諸島に行っていたら、そこに行かなければ。
バズは真夜中の山道を歩いていた。4人に会うためには真夜中に山道を登るしかなかった。厳しい道のりだが、4人に会うためなら、世界のためなら乗り越えなければならないことだった。
次の日の早朝、村には深い霧が立ち込めていた。とても幻想的な光景だった。
サラは一番早く目覚めた。サラがベランダから外を見ると、霧が立ち込めていた。その中に雲海諸島があるんだと思うと、気持ちが高まった。
起きたサラに気づき、3人も目が覚めた。マルコスはベランダに向かい、サラの横に立った。
「この中に、雲海諸島があるんだな」
4人は、小高い丘に立った。そこには、雲海が広がり、その上には、いくつかの島が点在していた。
「早くチェックアウトして行きましょ」
「そうね。早く支度をしないと」
サラとマルコスは部屋に戻り、身支度を始めた。サムとレミーもそれを聞いて身支度を始めた。
「急がなくっちゃ」
「朝しか行けないもんね」
4人は身支度を素早く終えると、部屋を出た。
4人は入り口のフロントの所にやってきた。入口の前には何人かの登山客がいた。登山前に一休みしていると思われる。
「すいません、チェックアウトで」
「ありがとうざいました。またのご利用をお待ちしております」
女将は笑顔でお辞儀をした。4人は旅館を後にして、雲海諸島の見える丘に向かった。
「早く向かいましょ」
「朝にしか見えないもんね」
4人は雲海諸島に見える丘に急いだ。雲海諸島の見える丘はこの村のはずれ、ナツメ火山の見える丘だ。朝方にのみ見られる霧がなくなったら行けない。4人は急いだ。
「えーっと、この先だったな」
サムは地図を広げて位置を確認した。雲海諸島が見える丘はこの先だ。
「急ごう!」
4人は道を急いだ。行けなくなるまでに早く行かないと。
4人は雲海諸島が見える丘にやってきた。辺りには人がいなかった。
4人の目の前には霧が広がっていた。その霧の中から、霧がなかった時にはなかった大陸が広がっていた。それが雲海諸島だった。
「すごい。これが、雲海諸島。私、図鑑でしか見たことがない」
サラは雲海諸島を生で見て感激していた。雄大で、幻想的だった。サラはしばらく見とれていた。
「僕もだよ」
「感動した」
4人とも幻想的な光景に感動していた。
「さぁ、早く行かないと。この中で一番大きなあの島に幻の祠はあると聞いてるわ」
一転してサラは真剣な表情になった。今はそんなところで見とれている場合じゃない。早く雲海諸島の幻の祠に行かねば。そして、その中にあるシルフのオーブを手に入れなければ。
4人は雲海諸島に向かった。だが4人は戸惑っていた。雲の上なんて歩くことができるのか?4人はとても不安だった。歩くことができずに、谷底に落ちて死ぬんじゃないかと思っていた。
「本当に雲の上を歩くことができるのかな?」
「大丈夫だと聞いている」
「なんだか不安」
サラは恐る恐る片足を出した。すると、雲の下に抜けない。普通に歩くことができた。
「すごい! 歩ける!」
「やっぱり! 伝説の通りだ」
4人は雲の上を歩いていた。4人以外誰も雲の上を歩いていなかった。
雲海諸島は無人島ばかりで、以前に人が住んでいたという形跡がない。この島は、雲海とともに現れ、雲海とともに消えるからだろう。
「静かね。誰も住んでいないみたい」
「ここは魔界でも行ってはいけないところだと言われてるんだから」
10分ほど歩いて、4人は一番大きな島にやってきた。その島は草や木が生い茂っていて、低いながらも山がそびえていた。
「ここね」
「ここに幻の祠はあるはずよ。探しましょ」
4人は幻の祠にたどり着いた。シルフのオーブはここにあるという。その祠の入り口は石でできていた。まるで大地の祠のようだ。その祠は地上区間がなく、全ての部屋が地下にあった。
「村長さん!」
なんと、祠の入り口には村長がいた。村長は入り口をじっと見つめていた。村長の表情は真剣だった。何かを企んでいるようだった。
「そこで何してるんですか?」
「何もしておらん!」
サラが話しかけると、村長は走って逃げた。
「村長さん、何してたんだろう」
「わからない」
サラ首をかしげた。村長はそこで何をしていたんだろう。サラは後ろを振り向いた。村長はナツメ火山の方に走っていった。
その頃、雲海諸島に1人の少年がやってきた。バズだ。バズは1番中夜道を歩いて雲海諸島の見える丘にやってきた。疲れてはいたが、4人と合流して共に世界を救うためならこれぐらい耐えなければと思っていた。
と、バズは何かに気づいた。雲海諸島の一番大きな島に4人の姿があった。サラとその仲間に違いない。バズはそう感じた。この雲海諸島には誰も行こうとしない。魔界につながっているからだ。何らかの理由がない限り、誰も行こうとしないはずだ。
バズは何も驚くことなく雲の上を歩き始めた。4人に会うために。共に冒険をするために。
4人は幻の祠に入った。祠の中は真っ暗だった。入口は石造りで、まるで大地の祠のようだ。
「真っ暗ね。まるで大地の祠みたい」
サラは大地の祠のことを思い出していた。確かここでバズと出会った。バズは今どこで何をしているんだろう。サラはふとバズのことを思い浮かべた。
「バズ、大丈夫かな?」
サムはバズのことが心配になった。急にいなくなったし、生贄に捧げられる夢を見たからだ。
「あの時、あんな夢を見たもんね。心配よね」
「きっと生きてるさ。信じようよ」
マルコスは心配そうな表情のサラを励ました。
入ってすぐ、敵が襲い掛かってきた。魔法服を着た3匹のトカゲだ。
「いきなり来たか」
「頑張りましょ」
「それっ!」
レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。食らったトカゲは痛がったものの、すぐ持ち返した。
「天の怒りを!」
1匹のトカゲが魔法で雷を落とした。食らったレミーは大きなダメージを食らい、体がしびれた。
「氷の怒りを!」
サムは魔法で3匹を氷漬けにした。大きなダメージを与えることはできた。だが、3匹が凍らず、すぐ持ち返した。
「ガオー!」
サラは氷の息を吐いた。3匹は再び大きなダメージを受けたが、それでもびくともしない。
「食らえ!」
マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。ひっかかれたトカゲは表情が苦しくなった。
「炎の力を!」
もう1匹のトカゲは魔法で火柱を起こした。4人は大きなダメージを受け、レミーは倒れた。マルコスも表情が苦しくなった。
「天の裁きを!」
マルコスの攻撃を食らったトカゲが魔法で強烈な雷を落とした。マルコスは倒れた。
「ギャオー!」
サラは怒って3匹のトカゲの周りを飛び回り、炎の渦に包みこんだ。3匹のトカゲはどうすることもできずにサラの炎を浴びていた。
「炎の怒りを!」
サムは魔法で火柱を起こし、3匹のトカゲを包み込んだ。サラとサムの炎の攻撃を浴びたトカゲはまとめて倒れた。
「不死鳥の力を、我に!」
サラは不死鳥になってマルコスとレミーを復帰させた。
「こんなに強力な魔法をいろいろ使ってくるなんて」
「気をつけないと」
マルコスとレミーはより強力な魔法を使ってくる敵に警戒していた。
4人は先に進むと、広い場所に出た。天井は低く、少し薄暗なかった、だが、向こうの床の下から明かりが差していた。
「見て! 床が透けてる!」
サラの声に気づき、3人が下を見ると、床が透けて見えて、ナツメビレッジで見た谷底が見えていた。
「すごい」
「見とれていちゃだめよ。その先に行かないと」
透明な床の先には、また暗い洞窟があった。
4人は透明な床の上を歩き始めた。4人は谷底を見ていた。ここから落ちたら命はないと思っていた。
突然、音を立てて透明な床が崩れ始めた。
「床が崩れてく!」
「急げ!」
4人は驚き、走って逃げた。橋が崩れる仕掛けはあったが、床が抜けるのは初めてだ。こんな仕掛けがあったとは。
その間にも床が崩れるスピードは速くなっていった。
「早く!」
「早く逃げろ!」
4人は更に急いだ。レミーは息を切らしていた。
4人は何とかその先の洞窟に逃げることができた。程なくして、透明な床は全て抜け落ちた。
「何とか大丈夫だったわね」
「こんな仕掛けがあったとは」
サムとレミーは息を切らしていた。
「この先も気をつけないと」
4人は改めて気を引き締めた。この先も様々な仕掛けがあるはずだ。気を付けて行かないと。
その頃、祠の裏では村長が司祭ラファエルと話をしていた。ラファエルは見張りのためにここに来ていた。
「サラが来たのか」
「はい、直ちに火山に向かいます」
村長は焦っていた。あまりにも突然だったからだ。
「マグスの石の見張りを頼んだぞ」
「かしこまりました。あと、こちらに向かう途中、変な少年を見たんですけど」
村長はラファエルの元に向かう途中、雲の上を歩く少年の姿を見ていた。
「変な少年?」
「見たこともない魔法服を着ていて、少年にしては強そうな感じでした」
「うーん、知らないですね。だが、雲海諸島に来るとは、度胸がありますね」
ラファエルは考え込んだ。こんなところに単独で来るなんて。しかも少年。どうしてだろう。
4人は暗い洞窟の中を進んでいた。洞窟の中は静かで、今にも誰かが襲い掛かってきそうだ。
「ここも暗いわね」
「気を付けて進まないと。いつ敵が襲い掛かってきてもおかしくないよ」
「こんなところにこんな祠があるって驚きだわ」
サラはこんな秘境に祠があるのが信じられなかった。
「僕もだよ」
突然、後ろから敵が襲い掛かってきた。今度は大きな悪魔だ。4人は背後をつかれ、先制攻撃を受けた。
「くそっ、後ろを突かれた!」
「炎の力を!」
悪魔は魔法で火柱を起こした。炎をとても強力で、レミーは一撃で倒れた。
「くそっ!」
マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。大きなダメージを与えることができたものの、悪魔はびくともしない。耐久力が高かった。
「炎の力を!」
サムは魔法で強烈な火柱を起こした。悪魔の体に火が付いたものの、それでも悪魔はびくともしない。
「ガオー!」
サラは輝く息を吐いた。悪魔はとても大きなダメージを受け、瀕死になった。
「水の怒りを!」
悪魔は魔法で大津波を起こした。強い攻撃を受け、マルコスとサムは倒れた。
「くそーっ!」
サラは激しい炎を吐いた。悪魔は倒れた。
「こんなに強力な魔法を次々と使ってくるとは。不死鳥の力を、我に!」
サラは不死鳥になって3人を復帰させた。
「みんな強力な魔法を使ってくるな! 気をつけよう」
「こんなに強いとは。気をつけないと」
倒れた3人は気を引き締めた。こんなに強い攻撃を受けては、サラも倒れて全滅してしまうかもしれない。もっと耐えれるようにならねば。
洞窟を出ると、細い通路に出た。その通路の先には扉があった。
「サラ姉ちゃん、あれ見て! 谷底が見える!」
4人は細い通路の横を見ると、谷底が見えた。どうやらここは細い橋のようだ。
「谷底が見える! すごい!」
「本当だ!」
4人はこんな高い所を歩いているのを改めて知って、驚いた。
「崩れそうで怖いよね」
サラは警戒していた。今まで通ってきた橋は通り始めると崩れるからだ。今度も崩れるんじゃないかと思っていた。
4人は慎重に渡っていた。また崩れてくるんじゃないかと不安だった。
数分かけて、4人は渡り切った。今回は崩れることなく渡ることができた。
「何も起きなかったわね」
「そんな時もあるさ」
4人は扉を開け、次の部屋に入った。その先の部屋は透明で、側面も床も透けて見える。
「すごい!」
「こんなとこがあるなんて!」
4人はその部屋の美しさに感動していた。
「そういえばここも落ちてこなかったわね」
「美しさに見とれていたら、また敵が襲い掛かってきて、先に攻撃されるわよ。油断しないで」
すぐにサラは気を引き締めた。4人の先には再び暗い洞窟がある。4人は先を急いだ。
その先は暗い洞窟だったが、今さっきの洞窟より暗くない。
「敵が出てきそうね。気をつけましょ」
サラが気を引き締めたその時、敵が襲い掛かってきた。今度は2匹のオオカミの魔法使いだ。
「来たわよっ! いきましょ!」
「食らえ!」
レミーは6匹に分身して斬りつけた。オオカミは痛がったが、すぐに持ち返した。
「氷の力を!」
1匹のオオカミがサラを魔法で氷漬けにした。だが魔法はあまり効かず、サラは氷漬けにならなかった。
「そんなのあまり効かないわよ! 食らえ!」
サラはお返しに激しい炎を吐いた。オオカミは大きなダメージを受け、体に火が付いた。オオカミは慌てた。
「炎の力を!」
もう1匹のオオカミは魔法で火柱を起こした。マルコスとレミーは大きなダメージを受けたものの、あまりびくともしなかった。
「それじゃあこっちもやるぞ! 炎の力を!」
サムも魔法で火柱を起こした。サラの攻撃も食らったオオカミは倒れた。
「とどめだ!」
マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。残ったオオカミは倒れた。
「今回は何とかうまくいったね」
「たまたまよ。あまり効かない私に攻撃を仕掛けてきたんだもん」
サラは今回楽に勝てたのはたまたまだと思っていた。守りの堅い自分に攻撃を仕掛けてきたからだ。
「そうだな」
「こんな時もあるさ。気を引き締めないと」
4人は改めて気を引き締めた。
間もなくして、再び敵が襲い掛かってきた。今度は魔法服を着た3匹の悪魔だ。
「炎の力を!」
サムは魔法で火柱を起こした。だがあまり効かなかった。
「食らえ!」
レミーは持っていた刀で1匹の悪魔を斬りつけた。だがあまり効かなかった。
「炎の怒りを!」
レミーに斬りつけられた悪魔が魔法で溶岩を起こした。4人は溶岩に巻き込まれたが、何とか持ちこたえた。だが、マルコスとレミーは苦しくなった。
「癒しの力を!」
サラは魔法で4人を回復させた。
「食らえ!」
マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。食らった悪魔は苦しくなった。
「水の怒りを!」
悪魔が魔法で大津波を起こした。4人は大きなダメージを受けたが、何とか耐えていた。サラが魔法で回復させたことが響いていた。
「氷の力を!」
別の悪魔が魔法でレミーを氷漬けにした。レミーは大きなダメージを受け、表情が苦しくなった。
「癒しの力を!」
サムは魔法で4人を回復させた。表情が苦しくなっていたレミーは気を取り戻した。
「えいっ!」
レミーは炎を帯びた刀で斬りつけた。食らった悪魔は表情が苦しくなり、体に火が付いた。
「覚悟しろ!」
マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。レミーの攻撃も食らった食らった悪魔は倒れた。
「ガオー!」
サラは残った2匹に灼熱の炎を吐いた。悪魔は灼熱の炎を食らい、倒れた。
「何とか倒れずにすんだね」
「私も回復魔法を使っていかないと」
サラはこの先まだまだ道のりが長いから、もっと強い敵が襲い掛かってくるかもしれない。その時は自分も積極的に回復魔法を使わなければならないと思った。