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Magical Wars ~Legend of Red Dragon~  作者: 口羽龍
第2章 奇跡の子
14/34

第6話 ロン(後編)

 フレアの後をつけていくと、長い階段があった。その階段は、どこまでも下に続いているように長い。フレアは急いでその階段を下りていった。4人はサムの体の中に隠れながらその様子を見ていた。フレアに気づかれたらまずいからだ。


「昨日の神殿にもこんなのあったよね。確かこの先にオーブがあったんだよね」

「ああ。だとすると、この先にオーブがあるってことかな?」


 サラとマルコスは昨日の神殿ことを思い出しながらフレアの様子を見ていた。


「そうかもしれないな」

「フレアが見えなくなったら行きましょ」

「うん」


 4人はフレアが見えなくなるのを待っていた。


 しばらく待っていると、フレアの姿が見えなくなった。フレアの逃げ足はとても速い。


「見えなくなったわね」

「さぁ、行きましょ」


 4人が階段を下りようとしたその時、敵が襲い掛かってきた。4匹の赤いドラゴンだ。


「氷の怒りを!」


 サムは魔法で4匹のドラゴンを氷漬けにした。4匹は大きなダメージを受け、うち1匹が氷漬けになった。


「グルルル・・・」


 1匹のドラゴンが魔法で溶岩を起こした。4人は大きなダメージを受け、マルコスとレミーは倒れた。サムとサラは大丈夫だったものの、サムの体には火が付いた。


「ガオー!」


 サラは氷の息を吐いた。4匹は大きなダメージを受け、もう1匹が氷漬けになった。


「グルルル・・・」


 1匹のドラゴンがサラに向かって炎を吐いた。だがサラには全く効かなかった。


「雪の怒りを!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。凍った2匹のドラゴンと1匹のドラゴンが倒れ、残った1匹のドラゴンは瀕死になった。


「とどめだ!」


 サラは氷の息を吐いた。最後に残ったドラゴンは倒れた。


「大変だったわね」

「何とかあの攻撃に耐えられるようにならないと」


 サムは冷や汗をかいていた。あの溶岩の攻撃を何とかしなければ。


 サラは不死鳥となり、マルコスとレミーを復帰させた。これで何度目だろう。早く耐えれるようにならねば。サラはもっと耐える力を身につけてくれないかと思っていた。


 4人は暗い階段を歩いていた。その先には何も見えない。


「暗いわね」

「どうやってこんなに掘ったんだろう」

「きっと、神龍教が魔法で作ったんだろう」


 サムは、今度の洞窟も神龍教が作ったんだと思っていた。


「昨日の神殿もそうだけど、どこまで続くのかしら?」


 サラは昨日の神殿のことを思い出していた。長い階段にはうんざりしていた。だが、進まなければならない。人間の未来のためにも。


 階段を歩き終えると、その先には扉がある。どこまで下ったんだろう。今、地上から何メートルの部分だろう。サラは考えていた。


「この先にサラマンダーのオーブがあるのかな?」

「きっとそうだ。そうに違いない!」


 サムは自信気だった。昨日もそうだったからだ。


 扉を開けると、そこは階段だ。その横には溶岩が流れている。そして、より暑く感じた。


「暑いな」

「ここが火山の最深部かな?」

「たぶんそうだろう」


 その時、音を立てて地響きが起こった。


「な、何だ?」

「また地震か?」


 ふと、サムは溶岩を見た。すると、溶岩が徐々に盛り上がっていくのが見えた。


「見て! 溶岩が盛り上がってく!」

「早く階段を上るぞ!」


 4人は全速力で階段を上り始めた。その間にも溶岩が盛り上がっていく。階段を上るより、溶岩が盛り上がるスピードが速い。


「だめだ! 追いつきそう!」


 それを見たサラはドラゴンに変身した。サラは羽をはためかせ、一気に階段を上っていった。


「ありがとう」

「まだ油断するのは早いわよ。逃げ切るまで気が抜けないわよ」


 3人は迫りくる溶岩を見ていた。


「もうだめだ」


 そう思ったその時、地響きが収まり、溶岩が止まった。


「止まった?」

「そうみたい」

「よかったわね」

「もう助からないと思ったよ」


 4人はほっとした。そこはちょうど階段を上りきった所で、その先にはまた扉があった。


「また扉だ」

「今度は何だろう」

「行ってみよう」


 4人は扉を開けた。開けるとそこは暗くて細長い通路だ。その通路は緩やかな下り坂になっている。


「また暗い通路かよ」

「どれぐらい進んだらたどり着くんだろう」


 突然、扉が閉まった。閉まる音に気づき、4人は振り向いた。


「な、何だ?」

「どうして勝手に閉まった?」


 その時、轟音が聞こえてきた。その音は徐々に大きくなっていった。4人は辺りを見渡した。だが、何も変化がなかった。


「何だろう」

「また溶岩かな?」


 突然、扉の上から大きな丸い岩が落ちてきた。その岩は通路をふさいでしまうほどの大きさだ。岩は下り坂を転がり始めた。


「岩が迫ってくる!」

「逃げろ!」


 4人は全速力で逃げた。岩は下り坂で徐々にスピードを上げていく。轟音が徐々に大きくなってくる。


 4人はドキドキしていた。押しつぶされて一気に全滅してしまうかもしれない。4人は命がけで逃げた。


「早く! 早く!」


 走り続けていると、抜け穴があった。その先には、明かりがあった。


「あそこに入れば大丈夫かも」


 4人は抜け穴に向かって走った。その間にも岩は迫ってきた。


「とりゃあ!」


 4人は抜け穴に滑り込んだ。4人は間一髪で逃げることができた。


「岩が迫ってくるなんて」

「卑怯なわなを仕掛けやがって」


 サラは神龍教が憎かった。おとといの大地の祠といい、昨日の水の神殿といい、巧妙な仕掛けをする彼らが許せなかった。


 その先には細い崖があった。左右には溶岩が流れている。溶岩はそれまで以上に熱く、部屋は蒸し暑かった。


「蒸し暑いわね」

「ますます深い所を歩いてるみたいだ」


 4人は狭い崖を歩き始めた。溶岩はゴボゴボと音を立てていた。


「ガオー!」


 突然、大きな声がした。4人は立ち止まり、辺りを見渡した。


「あれ見て!」


 レミーが後ろを指さした。すると、溶岩から巨大な溶岩の化け物が現れた。化け物はドラゴンの姿だ。


「何だありゃ」

「すっげー!」


 化け物は4人を見つけると、追いかけてきた。


「驚いている場合じゃないわ。襲い掛かってくる! 逃げよう!」


 4人は全速力で逃げた。化け物は飛び跳ねながら、崖を壊して追いかけてきた。


「ガオー!」


 化け物はものすごいスピードで追いかけてきた。4人は全速力で逃げていたが、化け物の方が速かった。


「早く私の背中に乗って!」


 サラはドラゴンに変身し、3人を乗せようとした。ドラゴンは飛ぶスピードが速く、走るより速い。飛んでいけば、逃げられるかもしれないと思った。


 3人はサラの背中に乗った。サラは飛んで逃げた。3人は背中から化け物を見ていた。化け物は崖を壊しながら迫っていた。


「サラ、早く!」

「助けて、サラ姉ちゃん!」

「わかった。まかせて!」


 サラは全速力で飛んでいた。すると、化け物が遠ざかった。化け物のスピードより、サラの飛ぶスピードが勝ったからだ。3人は遠ざかる化け物を見ていた。


 サラはその先の階段を一気に上り、扉の前に着いた。化け物は4人を追いかけたが、高いところには行けなかった。化け物は悔しそうに4人を見ていた。


 3人はサラの背中から降り、サラは人間の姿に戻った。そして、化け物の様子を見ていた。


「危なかったわね」

「飲み込まれると思った」


 マルコスとレミーは下から化け物を見ていた。


「さぁ、早く行きましょ」


 サラはその先の扉を開け、次の部屋に向かった。3人はサラに続いて次の部屋に入った。




 扉を開けると、そこは長い通路だった。その先にはフレアがいた。女は4人を見つけると、また逃げ出した。


「おい、待て!」


 だがフレアは何も言わずに逃げ出した。4人は必死で追いかけた。


 突然、敵が襲い掛かってきた。4羽の火の鳥だ。まるでフレアが逃げるのを邪魔しているようだ。


「水の怒りを!」


 サムは魔法で水柱を落とした。4羽の火の鳥は大きなダメージを受けたが、耐えていた。


 1羽の火の鳥がサラに向かって体当たりした。だがサラには全く効かない。


「私にはそんな攻撃は通用しないのよ!」


 サラは氷の息を吐いた。4羽の火の鳥は大きなダメージを受け、1羽が凍った。


「ギャオー!」


 1羽の火の鳥が魔法で火柱を起こした。4人はダメージを受け、特にマルコスとレミーは大きなダメージを受けた。マルコスの体に火が付いた。


「食らえ!」


 レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。1羽の火の鳥が倒れた。


「覚悟しろ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。また1羽の火の鳥が倒れた。


「氷の力を!」


 サムは魔法で2羽の火の鳥を氷漬けにした。2羽の火の鳥は大きなダメージを受け、倒れた。


「また見失ったわね」


 サラは辺りを見渡していた。


「あれ見て!」


 レミーは向こうの扉を指さした。そこには扉を開けて向こうの部屋に行くフレアがいた。


「追いかけよう!」


 4人は全速力で追いかけた。だが、再び敵が立ちはだかった。今度は3匹の赤いドラゴンだ。


「雪の怒りを!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。3匹の赤いドラゴンは大きなダメージを受けたが、びくともしなかった。


「ガオー!」


 1匹の赤いドラゴンは辺りを火の海にした。4人は大きなダメージを受けた。レミーは倒れた。マルコスは苦しくなり、体に火が付いた。


「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。赤いドラゴンは痛がったが、あまり効かない。


「グルルル・・・」


 赤いドラゴンは魔法で火柱を起こした。3人はダメージを受け、マルコスは倒れた。


「覚悟しなさい!」


 サラは氷の息を吐いた。赤いドラゴンは3匹とも氷漬けになり、うち1匹が瀕死になった。


「氷の怒りを!」


 サムは魔法で3匹のドラゴンを氷漬けにした。3匹のドラゴンは倒れた。


「早く行きましょ」


 4人は先を急いだ。だが、フレアは扉を開け向こうの部屋に入り、すでにいなかった。


「早く向かいましょ」

「うん。」


 だが、再び敵が襲い掛かってきた。今度は巨大な炎の怪物だ。


「あの溶岩で見た怪物でそっくり!」

「まさかあれが襲い掛かってくるとは」


 マルコスは開いた口がふさがらなかった。


「驚いてる場合じゃないわ! 戦いましょ!」


 サラは気持ちを引き締めた。


「水の怒りを!」


 サムは魔法で大津波を起こした。炎の怪物は大きなダメージを受け、少し弱った。


 炎の怪物は4人を飲み込むようにして炎の渦に包みこんだ。サラ以外は大きなダメージを受け、瀕死になった。


「ガオー!」


 サラは氷の息を吐いた。炎の怪物は大きなダメージを受けたが、凍らなかった。


「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。炎の怪物は倒れた。


「早くフレアを追いかけましょ」


 4人はフレアの後を追って扉を開け、向こうの部屋に入った。


 扉を開けると、そこにはフレアがいる。だがフレアはまたもや逃げた。


「追いかけろ!」


 その声を聴いて、フレアは更に足を速めた。4人は走って追いかけ始めた。

「待てー!」


 マルコスが叫んだが、フレアは無視して逃げていった。


 突然、敵が襲い掛かってきた。今度は炎の怪物と赤いドラゴンだ。


「食らえ!」


 レミーは4匹に分身して鋭い爪でひっかいた。だが赤いドラゴンにはあまり効かない。


「ガオー!」


 赤いドラゴンは激しい炎を吐いた。レミーは激しい炎を浴びて倒れた。


「氷の怒りを!」


 サムは魔法で2匹の敵を凍らせた。2匹は大きなダメージを受け、赤いドラゴンは氷漬けになった。


「覚悟しろ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。炎の怪物は大きなダメージを受けたが、表情はあまり変わらない。


「グルルル・・・」


 サラは氷の息を吐いた。2匹は大きなダメージを受けたが、何とか持ちこたえていた。


 炎の怪物は大きな火柱を起こした。3人は大きなダメージを受け、マルコスは倒れ、サムは瀕死になった。


「氷の怒りを!」


 サムは魔法で2匹を氷漬けにした。2匹は大きなダメージを受け、氷漬けになった赤いドラゴンは倒れた。


「食らえ!」


 サラは氷の息を吐いた。炎の怪物は倒れた。


「何とか大丈夫だったわね」

「全滅するかと思ったよ」


 サラは不死鳥となって、マルコスとレミーを復帰させた。


「何とか耐えれるようにならないと」


 レミーはよく倒れることに不満を抱いていた。自分は魔法に弱く、しかも守りが弱い。もっと耐えれるようにならなければいけないと思っていた。


「早く行こう! あの扉に入った!」


 サラは戦いの中でフレアがどの扉に入ったか見ていた。迷いはなかった。


 だが、道をふさぐように再び敵が襲い掛かってきた。今度は2羽の火の鳥と2匹の炎の怪物だ。


「次から次へと道をふさぐように襲い掛かってくるわね。まるで邪魔をしてるかのようだ」

「何度出てきてもやってやろうじゃないか!」


 マルコスは腕をまくり上げた。


「氷の怒りを!」


 サムは魔法で4匹を氷漬けにした。大きなダメージを与えることができたが、氷漬けにはならなかった。


「ガオー!」


 炎の怪物は激しい炎を吐いた。4人は大きなダメージを受けたが、何とか耐えた。


 今度は火の鳥がサラに向かって体当たりした。だがサラには全く効かなかった。


「全く効かないわよ!」


 サラは氷の息を吐いた。2羽の火の鳥は倒れた。だが2匹の炎の怪物はびくともしない。


「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。食らった炎の怪物は倒れた。


「グルルル・・・」


 1匹だけ残った炎の怪物は魔法で火柱を起こした。4人は大きなダメージを受け、マルコスとレミーは瀕死になったものの、何とか持ちこたえていた。


「とどめだ!」


 サラは氷の息を吐いた。残った炎の怪物は倒れた。


「さぁ、早く行きましょ」


 4人はフレアの入った部屋の扉へ急いだ。


 その時、地響きが起こった。そして、天井の一部が崩れて、溶岩が流れ込んできた。


「な、何だ?」

「天井が崩れて溶岩が流れ込んでくる! 急ごう!」


 4人は更に足を速めた。溶岩が流れ込み、4人に迫ってきた。


「早く! 早く!」


 サラは扉を開け、次の部屋に入った。後に続いて、3人も次の部屋に入った。サラはすぐに扉を閉めた。溶岩を止めようとした。その先には長い上り階段があった。


「助かったかな?」


 その時、扉の隙間から溶岩が流れ込んできた。


「危ない! 逃げろ! 一気に飛んで逃げるわよ!」


 サラはドラゴンに変身した。3人はサラの背中に乗った。その間にも溶岩が流れ込んでくる。3人はその様子をサラの背中から見ていた。


 溶岩は徐々に4人に迫ってきた。サラはさらに高く飛んだ。そして、階段の上の扉の前まで来た。


「あの扉に入りましょ!」


 サラは扉の前に降り立ち、人間の姿に戻った。マルコスはすぐに扉を開け、4人は扉の向こうに入った。




 4人はその先の部屋を見渡した。溶岩は流れ込まない。どうやら止まったみたいだ。


「あれ見て!」


 サラが指さした先にはにはフレアがいた。部屋は行き止まりになっている。フレアは逃げ場を失ったのか、辺りを見渡している。


「待て!」


 すると、フレアはようやくこっちを向いた。フレアは鋭い目つきをしている。怒っているような表情だ。


「あんた、なんでついてくるの?」

「サラマンダーのオーブを取りにきたんだ!」


 サラは必死だった。世界を守るためにはサラマンダーのオーブが必要だった。


「あなたには渡さないわ! なぜならば、私の愛人であり、偉大なる創造神王神龍様が世界の最高神になるために守らなければならないの! 私はOLだった頃からロンが好きだった。どんなに言われても、どんなに弱気でも、私は好きだった。結婚したかった。でも、ロンはある日姿を消した。私は自殺したんだと思い、泣き崩れた。でも、ロンは姿を変えて私のもとに帰ってきてくれたの。偉大なる創造神王神龍様として。私はそのことが嬉しかったわ。だって、大好きだったロンに再び会えたんだもの。私、ロン改め偉大なる創造神王神龍様のためなら何だってするって誓ったの。そして、新たな世界を築き、偉大なる創造神王神龍様が世界の最高神になったら結婚しようと思ってるの。素敵な話でしょ?」


 フレアは王神龍との愛について語った。そして、王神龍となったロンと再会した時のことを思い出した。




 フレアは泣いていた。半年前にロンが自分の前から消えたからだ。あんなに好きだったのに、結婚したかったのに。いなくなったのが信じられなかった。


 だが、誰も慰めてくれなかった。ロンのことを心配する人などいなかったからだ。弱気で、表情が暗く、友達のいなかったロンのことを心配する人など、フレアしかいなかった。


「ロン、あんなに大好きだったのに、どこに行っちゃったの?」


 フレアはロンの写真を見ていた。その写真を見るたび、涙が止まらない。できることなら、天国で再会したい。そう願って何度も自殺しようとしたが、できなかった。


「フレア、大丈夫?」


 母だった。母は泣いてばかりで食欲の落ちたフレアのことが気がかりだった。


「ロン、どこに行っちゃったの? あんなに好きだったのに」

「もう忘れなさい。また新しい人を探せばいいじゃないの」


 母もロンのことが好きになれなかった。表情が暗かったからだ。


 母は部屋を出て行った。フレアは相変わらず泣き崩れていた。


「フレア」


 突然、声が聞こえた。フレアは振り向いた。だが、誰もいなかった。


「ロン・・・、ロンなの?」


 フレアはその声に聞き覚えがあった。ロンの声だった。フレアは少し嬉しくなったが、いないと分かると暗い表情になった。


「僕だよ」


 後ろに誰もいないと感じたフレアは前を向いた。するとそこには、白い服を着た忍者のような男が立っていた。フレアは驚いた。誰もいないと思っていた。


「ロン?」


 目の周りを見た時、フレアはロンだとわかった。ロンの顔をよく覚えていた。


「ああ。僕はロンだ。でも今は、王神龍だ。僕は王神龍として生まれ変わったんだ。君と新しい世界を築くために」


 フレアは嬉しかった。大好きなロンに再び会えたからだ。


「また会えてよかったわ。あなたと一緒に、新しい世界、築きましょ」

「そうですか? それでは、私についてきなさい」


 フレアは王神龍とともにどこかに消えていった。捜索願が出されたものの、誰も見つけることができなかった。まるでロンのように。


 その後、フレアはいなくなっている間に魔獣の力を与えられ、神龍教の12使徒となった。そのことは、母を含め、誰も知らなかった。




「素敵だ! でも、世界を作り直す野望は全然素敵じゃない! 素敵だけど、そんな恋、許せない!」


 サラは素敵だと思っていた。だが、世界を作り直して結婚することには反対だった。


「許せないというのか? 偉大なる創造神王神龍様の新たな世界が許せないというのか?」

「ああ。人間と魔族が共存してこそ、この世界は美しい。だから、人間を滅ぼし、新しい世界を築こうなんて、許せない」


 サラは人間と魔族が共存する世界こそ美しいと思っていた。互いの違いを認め合いながら平和に暮らしている、これが理想の世界だと思っていた。


「私の考えが信じられないのか?ならば、殺してやる!」


 その時、フレアの体が大きくなり、巨大な赤いトカゲとなった。これが犬神によって与えられた魔獣の力だ。巨大な赤いトカゲとなったフレアが襲い掛かってきた。


「雪の怒りを!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。だが巨大なフレアには体全体に吹雪がかからず、ダメージもあまり与えることができない。


「どうした? こんなので倒せると思ってるのか?」

「まだまだよ!」


 レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。だがフレアはびくともしない。フレアは不気味な笑みを浮かべていた。


「こんなの、痛くもかゆくもないわ」

「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。だが、あまり効かない。マルコスは全く効かないことに焦っていた。本当に倒せるのか不安になった。今までに戦ってきた敵と比べ物にならないほど大きかった。


「これがお前の力なのか?」

「ふん! これでも食らえ!」


 サラは激しい氷の息を吐いた。フレアはサムよりも大きなダメージを受けたものの、びくともしない。


「私の力にひれ伏すがよい!」


 フレアは灼熱の炎を吐いた。辺りが火の海になり、4人は大きなダメージを受けた。マルコスとレミーは何とか持ちこたえたが、体に火が付いた。


「みんな、大丈夫だった?」


 サラは3人のことを気にかけていた。今までで一番の強敵だと思い、全滅することを恐れていた。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で4人の体力を回復させた。4人を優しい光が包み込む。4人は完全ではないが元気になった。


「覚悟しろ!」


 レミーは氷を帯びた爪でひっかいた。それでもフレアにはあまり効かない。


「これしかできないのか? 愚か者が!」

「おりゃあ!」


 マルコスも氷を帯びた爪でひっかいた。それでもフレアはびくともしない。


「これで勝てると思うなよ!」

「そうか? これでどうだ!」


 サラは猛烈な氷の息を吐いた。フレアは少しひるんだものの、すぐに元の表情になった。


「わが力、思い知るがよい!」


 フレアは再び灼熱の炎を吐いた。4人は再び大きなダメージを受け、マルコスとレミーは瀕死になった。


「こ、こんなに強いとは。」

「気合を入れて挑みましょ」


 サラは気合を入れ直した。だが、そんなサラも倒せるかどうか不安になってきた。あれだけの大きな怪物だからだ。だが、世界を守るために倒してサラマンダーのオーブを手に入れなければ。その思いがサラを動かしていた。


「食らえ!」


 レミーは姿を消し、フレアを何度も鋭い爪でひっかいた。フレアは何が起きたかわからず、戸惑った。だがあまりびくともしなかった。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で4人を回復した。4人を優しい光が包み込み、体力を回復させた。4人は元気になったが、前に比べて体力が少なくなってきた。


「負けないぞ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。相変わらず効かなかったものの、フレアの表情が少し変わってきた。少し苦しそうな表情になってきた。


「ガオー!」


 サラはより強い氷の息を吐いた。フレアは大きなダメージを受け、更に表情が苦しくなってきた。

「なかなかやるな! ならば、これでどうかな?」


 フレアはさらに強力な炎を吐いた。4人はまたまた大きなダメージを受け、レミーは倒れた。マルコスは何とか持ちこたえたが、表情が苦しくなった。


「レミー!」

「あまりにも強くて回復しても間に合わなかったみたいだ」


 サムはフレアの攻撃のすさまじさに驚いていた。回復しても間に合わない。このままでは全滅してしまう。サムは焦り始めた。


「癒しの力を!」


 サムは魔法で3人を回復した。だがサムは不安になった。このままではマルコスも倒れてしまうんじゃないか?


「食らえ!」


 苦しみながらもマルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。


「不死鳥の力を、我に!」


 サラは不死鳥となり、倒れたレミーを復帰させた。だが、また倒れるんじゃないかと不安になった。


「息絶えろ!」


 フレアは再び灼熱の炎を吐いた。マルコスだけでなく、サムも倒れた。復帰したばかりのレミーは持ちこたえたものの、あっという間に瀕死になった。火の攻撃に強いサラは持ちこたえていた。


「終わりだ! 死ね!」


 フレアは自信気な表情だった。勝てると思った。王神龍の役に立てると思っていた。


「許せない! 絶対に許せない! 世界を作り直して、人間を絶滅させるなんて、許せない!」


 サラは怒りに満ち、拳を握り締めた。すると、サラの体が光り始めた。まるで10年前に礼拝室に現れた金色のドラゴンのように。それと共にサラの体は急激に大きくなった。赤い体は徐々に金色になった。鱗は荒々しくなった。やがてサラはフレアと同じぐらいの大きさになった。その姿はまさに、10年前に現れた金色のドラゴンだった。


「そ、その姿は・・・」


 フレアはそのドラゴンを見たことがあった。10年前にマーロスという女を生贄に捧げ、その子供も生贄に捧げようとした時に、突然現れた金色のドラゴンだ。そのドラゴンが放ったまばゆい光に包まれ、儀式が取りやめになった。まさか、あの時のドラゴンがマーロスの娘のサラだったとは。


「サラ姉ちゃん・・・」


 レミーは開いた口がふさがらなかった。サラがこんな姿になれるとは。サラのすごさに驚いていた。


「おのれー、食らえ!」


 フレアは灼熱の炎を吐いた。だが、巨大になったサラにはあまり効かない。


「そんなの通用せんわ! 食らえ!」


 サラは猛吹雪を吐いた。フレアは大きなダメージを受け、瀕死になった。


「これでも食らえ!」


 フレアは炎を吐いた。だが、弱っていてサラにはあまり効かない。


「とどめだ!」


 サラは再び猛吹雪を吐いた。フレアは気を失い、大きな地響きを立てて倒れた。マルコスとサムは大きな地響きを聞いて目を開けた。


「な、何だ?」

「サラ?」


 マルコスとサムは何が起こったのかわからなかった。


「サラ姉ちゃんがおっきなドラゴンになってフレアを倒したんだ」


 レミーはその時の様子を詳しく語った。


「サラ・・・、やっぱりあの時見たのはサラの真の姿だったんだな」


 マルコスはあの時見た金色のドラゴンのことを思い出した。やっぱりあれはサラの真の姿だった。


 サラは元の姿に戻った。だが、以前のように記憶を失うことはなかった。


「どうだった?」

「すごい! やっぱりあのドラゴンだったんだな!」

「うん! 成長して、その力を制御できるようになったの」


 サラは笑顔を見せた。やっと真の力を見せることができたからだ。


「サラって、すごいよな。これがミラクル種の真の力か」


 サムはその力に改めて感心していた。これが世界を救う力なんだ。サラは世界を救う英雄なんだ。


「ありがとう。さぁ、早くサラマンダーのオーブを手に」


 倒れたフレアの向こうには、オーブがあった。そのオーブは、溶岩のように赤く、光り輝いている。これこそが、サラマンダーのオーブだ。


「あれが、サラマンダーのオーブか?」

「ああ。まるで溶岩のように赤く輝いている」


 2人は赤く輝くオーブに見とれていた。


「早く行こう!」


 4人は急いでサラマンダーのオーブの元に向かった。




 4人はサラマンダーのオーブの前に立った。すると、サラマンダーのオーブは一段と光り輝いた。


「よくぞ来た、奇跡のドラゴン、サラよ。私がサラマンダーだ。君たちが知っている通り、世界はかつてない危機に直面している。邪悪な神、王神龍の手によって、世界が作り直され、人間が絶滅することになるのだ。王神龍は、元々ロンという名前の人間だった。ロンは父子家庭で、父からはひどい体罰を受けた。さらに、学校ではひどいいじめにあった。それによって、人間を憎む心が蓄積されていった。社会人になってもそれは蓄積されていき、ある日、ロンは邪悪な神、犬神と出会い、神のオーブを手に入れることによって、神の力を得た。王神龍となったロンはそれまで蓄積していた憎しみを解放するかのように人間の魂を食らいつくし始めた。そしてそれが世界を作り直す力となるのだ。更に犬神は神龍教という宗教団体を設立した。犬神は、王神龍のように人間を憎む人々を次々と洗脳し、神龍教の信者にしていった。王神龍が世界を作り直すための力は日ごとに強くなっている。もう時間がない! 早く行きなさい!」


 サラマンダーは世界の危機を語った。そして、王神龍は何者か詳しく語った。


「王神龍がロンという人間だったなんて」

「本来、神のオーブは世界を変える大きな功績をした人が死ぬ時に与えられるオーブだ。だが、そのオーブを悪用して、邪神を生もうとする奴もいる。犬神もその1人だ」

「そんなの、許せない! 絶対に許せない!」


 サラは拳を握り締めた。神のオーブを悪用して邪神を生みだした犬神が許せなかった。彼も封印せねばと思った。


「僕も許せないよ!」


 マルコスも犬神が許せなかった。どうしてこんなことになったのかわからなかった。


「でも、どうして犬神が生まれたんですか?」

「犬神は元はとある村の山奥のオオカミだった。そのオオカミは猟師に殺された。だがその時、偶然神のオーブを手にしてしまった。神のオーブを手にしたオオカミ改め犬神は世界を作り直し、自分を殺した人間を絶滅させようとした。それによって我々精霊は絶滅した。邪神を封印する力を秘めているからだ。犬神は何とか封印されたものの、また復活して、世界のどこかで人間を絶滅するための策を練っているという。だが、まさか宗教で人を集めようとするとは・・・」


 サラマンダーは犬神がどうして生まれたのか、どうして精霊は絶滅したのか語った。


「その昔話、聞いたことがあるけど、本当にあったなんて」

「僕も聞いたことある。本当にあったなんて」


 その昔話はほとんどの人間や魔族が子どもの頃に母に読み聞かせてもらった昔ばなしだった。だが、本当にあったと誰も信じなかった。


「いや、本当にあった話だ」

「オーブはあと1つね。シルフのオーブよ。早く探しに行きましょ。確か、ナツメビレッジにあるはずよ」

「私の後ろに、魔法陣がある。それを使うがよい。入口に戻れるだろう」


 サラはオーブの後ろを見た。すると、魔法陣がある。これに乗れば入口に戻れるはずだ。


「みんな、早く乗りましょ」


 4人は魔法陣に乗った。すると、辺りは赤い光に包まれた。光が収まると、そこは洞窟の入口だった。


「戻ってきたわね」


 4人はほっとした。サラマンダーのオーブを手にして、様々な恐ろしい仕掛けがある洞窟からやっと抜け出せたからだ。


「さぁ、早くシルフのオーブを探しにナツメビレッジに向かいましょ」


 サラは3人を乗せて空高く舞い上がった。次の目的地はナツメビレッジ。険しい山の中腹にある小さな村だ。更に厳しい冒険が待ち構えているに違いない。4人は再び気を引き締めた。

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