第6話 ロン(前編)
4時間飛んで、4人はアンリスに着いた。アンリスはリプコットシティの西の端にあり、リプコット港から続いていた平地はここまでで、この先には峠がある。アンリス火山はこの峠の近くにある。この辺りはリプコットシティのベッドタウンで、多くの住宅が立ち並ぶ。リプコット駅から続く複々線区間はここまでで、快速のほとんどはここが終点だ。特別快速はここからエリッサ駅まで各駅に停まる。また、乗り換え客を考慮してか、急行や大陸横断特急もここに停まる。
「着いたな」
「私、家庭教師をしていて幾度となくここを通ったんだけど、まさかあの火山にサラマンダーのオーブがあるって知らなかった」
サラは幾度となくアンリス火山を見てきた。その火山はアンリスどころかリプコットシティのシンボルのようなもので、観光地としても人気が高い。毎年夏になると多くの登山客がやってくる。そのため、火山のふもとには土産物屋やホテルが多かった。
4人は土産物屋の立ち並ぶ火山のふもとにやってきた。ここには土産物屋だけでなく、旅館も多くあり、登山客でにぎわっている。だが、神龍教が現れ、人間が捕らわれてからは観光客が減った。その影響で廃業した旅館や土産物屋もあった。
だが、ふもとはとても寂しかった。観光客が誰1人いなかった。旅立った夜にはアンリス駅で多くの観光客が降りたのに、観光客がいなかった。
「サラ!この張り紙見て!」
サムは土産物屋の張り紙を指さした。
火山活動活発化につき、アンリス火山への登山を全面的に禁止します。
ご理解とご協力をお願いいたします。
リプコットシティ観光協会
「何だよこれ」
「火山活動が活発化って」
サラはただただ驚いていた。少し前は何ともなかったのに、どうして? サラは信じられなかった。
「静かね」
「みんな避難してるんかな?」
「きっとそうだろう」
4人はがっかりしていた。情報収集をしようとしても誰もいないからだ。
「うーん、私の家に泊まろうか?1人暮らし用の部屋で、狭いけど、これでいいよね」
「それしかないな」
「サラの部屋に泊まれるなんて、感激だよ」
マルコスは興奮していた。部屋は違えども久々にサラの部屋に寝泊まりできるからだ。
「ちょっと、何考えてるの?」
「ごめんごめん」
マルコスは舌を出し、にっこり笑った。
「行きましょ」
3人はサラの背中に乗って、リプコットシティのサラの部屋のあるマンションに向かった。
約10分後、4人はサラの住んでいるマンションに着いた。ちょうど帰宅ラッシュだったためか、人通りが多い。アンリスとは全く違って、にぎやかだ。ここは火山活動の影響を全く受けていないようだ。
「ここが私の住んでるマンションよ。ここの7階なの」
「立派なマンションだな」
サムは20階建てのマンションを見上げていた。
「行きましょ」
サラは中に入った。中に入るのは旅立った時以来だ。大家さんはもう自宅に戻っている。フロントには誰もいない。
「きれいなロビーだな。」
マルコスが見上げると、吹き抜けになっていた。吹き抜けの天井には大きなシャンデリアがある。
4人はエレベーターに乗った。サラは7階のボタンを押した。間もなくして扉が閉まった。
「サラはいつからここに住んでるの?」
「大学に入学してから」
「大学ってどこなの?」
「リプコット大学。教育学部教育学科を専攻してるわ。あれから育ててもらった人が教師だったから」
「そうなのか」
エレベーターが7階に着いた。扉が開いた。
「7階に着いたわ」
「ここか」
マルコスは通路からロビーを見下ろしていた。ロビーには住人の男がいた。
少し歩いて、4人はサラの部屋の前に着いた。
「ここが私の部屋よ」
サラは鍵を入れて、玄関を開けた。
「おじゃましまーす」
「ここがサラの部屋か」
「うん。そんなに広くないけど」
「あー今日も疲れた」
マルコスはベッドに横になった。神殿でたくさん戦って疲れていた。
「ニュースを見ようか?」
レミーはテレビをつけた。テレビではちょうど夕方のニュースが始まった。
「まず最初のニュースです。アンリス火山の活動が活発化しています。その影響で、入山が禁止になり、ふもとにある土産物屋や旅館は避難指示により臨時休業を余儀なくされています」
と、その時、サラはふもとの中継に映る1人の女の姿が気になった。
「あの人、避難指示が出てるのに何してるのかな?」
「ん? そうだな。誰だろう」
マルコスもその女が気になった。周りに誰もいないのに、女は周りを気にするような仕草だ。
「ねぇ、あの女の人、何か気にならない?」
「サラ姉ちゃんも気になるの?」
「うん。入山が禁止されてるのに、どうして入るんだろうって思ったの」
「だよね」
サラもその女のことが気になっていた。先日会ったナシアのことがあるからだ。この女もナシアと同じく神龍教の信者じゃないかと思い始めてきた。
「どうしたんだよ、サラ」
「まさか、あの女、神龍教の信者じゃないよね」
マルコスは驚いた。サラが変な妄想をしたからだ。
「そんなわけないよ。どうしたんだよ、急に」
「いやいや、先日会ったナシアのことがあるからさ」
「そうだね。否定できないね」
マルコスは先日会ったナシアのことを思い出していた。毎日神殿のある丘に行っていたからだ。
「そろそろお腹がすいたから、夕食食べに行かない」
「うん、そうしよう」
4人は近くの定食屋で食べることにした。そこはサラがよく行っている店で、店主とは顔なじみだ。
4人は近くの定食屋で夕食を食べていた。今日は平日ということもあって仕事帰りのサラリーマンもいる。彼らは地球の危機のことを全く知らなかった。仕事のことばかり考えていた。
「明日、何としても火山に行かないと」
「そうだね。早くサラマンダーのオーブを取りに行かないと」
サラとマルコスは明日のことを話していた。見張りをかいくぐって行くしかないと思っていた。
「そんな時は僕が隠してやるさ」
「そうね。サム、また頼むわね」
「わかったよ。サラのためなら何でもやるさ!」
サムは笑みを浮かべた。サラはそんなサムが心強く思えた。
そんな中、向かいの2人のサラリーマンが話していた。1人はメガネをかけていて、もう1人は茶髪だ。メガネをかけた男はビールを飲んでいて、顔が少し赤い。
「あのニュースに映ってた女のこと、俺知ってるぞ。ロンが好きだった奴だ」
茶髪のサラリーマンは笑みを浮かべていた。ロンのことを思い出している。
「あのロン? あいつ、すっごく気弱だったよね。こんなの、会社にいてもいなくてもよかったよね」
メガネをかけた男はロンの上司で、気弱なロンのことを嫌っていた。早く辞めてくれないかと思っていた。
「だけど、半年前、突然姿を消したんだよな。どうしてだ」
ロンの上司はあの日のことを思い出していた。帰宅途中に自宅の最寄りの駅を出た先で姿を消したそうだ。10年経ってもその行方はわかっていないという。
「先日さ、ロンって男を探してる女性が突然尋ねてきて、びっくりしたよ。確か、フェネスって女だったよな。でも、10年前に姿を消したことしか知らないんだよな」
男は先日尋ねてきたフェネスのことを思い出していた。レミーは真剣にその話を聞いている。レミーは何かを考えているような表情だ。
「レミー、どうしたの?」
サラはレミーの表情が気になった。
「今は何も言わないで」
「わかった」
しばらくして、2人のサラリーマンが定食屋を出て行った。
「出て行ったわね。じゃあ、話すわ。フェネスって、あたしのお母さんの名前。まさかここに来てたとは」
サラは驚いた。レミーの母が小学校の頃の先生だったからだ。
「えっ、じゃあ、レミーの本名は?」
「レミー・霞・玉藻」
レミーは初めて4人の前で自分の本名を話した。
「えーっ、先生の娘だったの?」
サラは驚いた。先生と母の経緯が似ていると思っていたら、同じ人だったからだ。
「うん。まさか、サラ姉ちゃんがお母さんの教え子だったなんて、知らなかった」
「私、レミーが玉藻先生の娘だって知らなかった」
「先生、どこにいるんだろう。ロンに会えたかな?」
サラは先生のことを思い浮かべた。小学校の頃、空いた時間で夏休みになるとロンを探しに行くことを生徒に伝えていた。いじめられていたロンを守ることができなかった。だから謝ろうと思って探している。でもまだ見つけられない。あの時守れなかった思いを胸に、人を思いやる心を伝えたくて、先生になったと言っていた。
「とにかく、明日、何としても火山に行きましょ」
「うん」
サラは明日のことで頭がいっぱいだった。早くサラマンダーのオーブを取りに行かなければと思っていた。
「そうね。ロンに関する何かがわかるかもしれないし」
レミーは母のためにもロンを探し出さなければと思っていた。
「ここに行けばロンに関する何かを見つけ出せるかもしれないね」
「それにしても、10年経っても見つけられないって、おかしいわね」
サラは思った。こんなに見つからないのは珍しいことだからだ。
「何か事件に巻き込まれたとか」
「どうだろう。気になるな。とりあえず、明日の早朝、火山に行くぞ」
「うん」
4人は明日の早朝に火山に行くことにした。10年前の小学校のように、たとえサムの体の中に隠れたとしても、見張っている人が魔獣で、襲い掛かってくるかもしれないと思ったからだ。
翌日、夜明け前のリプコットシティ。平日とはいえ、人通りは少ない。夜勤帰りの人が歩くぐらいだ。リプコット港には、深夜のカーフェリーの乗客が始発の電車を待っていた。夏休みのためか、観光客が多い。だが、10年前と比べて少ない。人間が捕らわれたからだ。
4人はサラの部屋で寝泊まりした。サラとレミーはシングルベッドに2人で寝て、マルコスとサムは床で寝た。寝るスペースがなかったからだ。
朝5時ごろ、サラは起きた。明かりはまだついてない。他の3人はまだ寝ていた。今夜もサラは世界を救う夢を見た。徐々にそれを現実にしていかなければ。サラは改めて決意した。
サラは窓を開け、ベランダに出た。街はまだ静まり返っている。人通りは静かだ。夜はまだ明けていない。サラはドラゴンに変身し、ベランダから飛び立った。ドラゴンになったサラは朝の風を感じていた。旅立つ前は毎朝欠かしたことがなかった。毎朝、心地よい風を感じることで、気持ちが浄化されて、今日も頑張ろうと思えるからだ。
サラは空からリプコットシティを見ていた。夜明け前の街は今日も静かだ。歩いている人は数えられるほどだ。路面電車やバスは走っておらず、車庫で始発を待っている。カーフェリーはリプコット港にもうすぐ着く頃だ。エリッサシティからやってきた夜行列車はもうすぐリプコット駅に着く頃だ。サラは空を見上げながら、人間が捕らえられる前のことを思い浮かべていた。どれほどの人が夜明け前に歩いていたんだろう。どれだけの人がカーフェリーに乗っているんだろう。どれだけの人が夜行列車に乗っているんだろう。早く世界を救ってそんな光景に会いたいと思った。
マルコスは風を感じて目覚めた。窓は開いていた。マルコスは辺りを見渡した。ベッドに寝ていたはずのサラがいない。マルコスはベランダに出て、外を見渡した。すると、赤いドラゴンが飛んでいた。サラだ。マルコスは赤いドラゴンに見とれていた。かっこよかった。
サラはマルコスは気づき、ベランダにやってきた。ちょうどその頃、朝日が昇ってきた。
「マルコス! 起きたの?」
サラは大きな羽をはためかせていた。
「うん。空を飛んでるサラの姿に見とれていた」
「そう。ありがとう。かっこいいでしょ?」
サラは笑みを浮かべた。
その会話を聞いて、サムとレミーも目覚めた。
「サラ? あれ、どうしたの? ドラゴンになって」
「ドラゴンになって朝の風を感じてたの」
「そうか。やっぱりドラゴンはかっこいいよな。さすが魔獣の王って風格だ」
「ありがとう」
サラはサムの頬をすりすりした。サムは喜んだ。
サラは元の姿に戻り、部屋に戻ってきた。
「さぁ、今日こそ火山に行きましょ」
「うん」
サラは窓を閉めて朝食を作り始めた。サラは独り暮らしを始めた頃から自分で料理をしていた。
「サラの作る料理なんて初めて食べるよ」
「そう」
キッチンにいたサラは笑顔を見せた。
その頃、サムは早朝のニュースを見ていた。ニュースでは人間の過酷な重労働は全く取り上げられていない。ただ、人間が突然姿を消したとしか伝えられていない。よく耳にするのは火山活動のことだけだ。
「人間があんな目にあってること、知ってるのかな?」
「知らないと思う。伝えたいな。こんなにひどいことやられていること、大問題だと思うな」
サラは伝えたかった。でも神龍教は秘密の存在。知られてはならなかった。
ニュースでは火山のことがやっていた。生中継では、すでに避難指示が出て、静まり返ったアンリスが映っている。
その時、昨日の女の姿が映った。朝早くから山に行く模様だ。
「今日もあの女がいるな」
「何をしてるんだろう。避難指示が出てるのに」
「とにかく、今日こそは火山に行ってサラマンダーのオーブを取りに行きましょ」
今日こそは火山に行ってサラマンダーのオーブを取りに行かなければ。
朝食を済ませて、4人は部屋から出てきた。4人は屋上に向かった。屋上からサラの背中に乗ってアンリスまでひとっ飛びで行こうと思っていた。
4人は屋上に着いた。外はすっかり明るくなっている。人通りが少しずつ多くなってきている。3人はドラゴンに変身したサラの背中に乗ってアンリスに向かった。
約10分後、4人はアンリス駅に着いた。駅は静かだ。避難指示が出てからほとんど乗降客がいない。駅には駅員しかいない。
「静かね」
「避難指示が出てるからね」
サムは辺りを見渡した。やはり誰もいない。
「ギャー!」
突然、叫び声が聞こえた。4人は驚いた。
「何が起こった?」
サラは辺りを見渡した。土産物屋の辺りから聞こえてきた。
「土産物屋の方から声が聞こえた。行きましょ。」
4人は土産物屋に走った。今ここにいるとしたら、あの女か見張りの人しかいない。もだがたら見張りの人のみに何かがあったかもしれない。サラは感じていた。
数分後、土産物屋に着いた。土産物屋は静まり返っている。明かりが全くついていない。みんな避難しているからだ。
サラは驚いた。目の前に人が倒れている。どうやら見張りの人みたいだ。
「どうしましたか?」
「変な女に襲われた。あいつ、ロンらしき男と話していた。10年前に消えたあいつさ。あいつ、樹海の中の洞窟に向かった。何かを守っているみたいだ」
男は苦しそうな表情だった。瀕死だった。男はどうやら女とロンのことを知っているようだ。
サラは樹海の中の洞窟の話を聞いたことがあった。あそこは誰も入ってはならない。入ったら生きて帰れない。絶対に行くなと言われているところだった。
「ロン?」
「ああ、あいつ、王・・・」
男は目を閉じ、息絶えた。
「王・・・、王神龍? まさか!?」
サラは驚いた。封印しようとしている王神龍がかつては人間だったとは。信じられなかった。
「なわけないよな」
マルコスも否定的だった。生きている人間を神に変えることなどできないと思っていた。
「でも否定できないよな」
サムも否定的だった。
「あの女を追って洞窟に向かいましょ」
「ああ」
4人は洞窟に向かった。きっとあれがサラマンダーのオーブのある洞窟に違いないと思っていた。
しばらく歩くと、広い樹海に入った。ここでは方位磁針が全く効かず、どこまでも続くように広いため、一度入ると出られない人が多いという。そのためか、ここで自殺する人が多かった。
樹海は静まり返っていた。普段からそうだった。この樹海は入ったらなかなか出られないために避ける人が多い。
「どこにあるんだろう」
「根気よく探しましょ」
サラはあきらめていなかった。何としても世界を救わなければと強く決意していたからだ。
突然、敵が襲い掛かってきた。サラのような赤いドラゴンだ。
「水の怒りを!」
サムは魔法で津波を起こした。だがドラゴンはびくともしなかった。
「えいっ!」
レミーは4人に分身して氷を帯びた爪で斬りつけた。ドラゴンは痛がった。
「食らえ!」
マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。ドラゴンは更に痛がった。
「ガオー!」
ドラゴンはマルコスに向かって炎を吐いた。マルコスの体に火が付いた。
「覚悟しろ!」
サラは氷の息を吐いた。ドラゴンは氷漬けになった。
「雪の怒りを!」
サムは魔法で猛吹雪を起こした。ドラゴンは氷漬けのまま倒れた。
「あいつらも操られてるのかな?」
「きっとそうだろう。ここに来るなと言っているみたいだ」
サラは予感した。この近くに言ってはならない場所があると。そこにサラマンダーのオーブがあるだろうと。
と、レミーは何かに気づいた。足元を見ると、人が倒れていた。また見張りの男と思われる。
「大丈夫ですか?」
「苦しい・・・、死にそう・・・」
男は息切れながら答えた。
「あの女にやられたんですか?」
「ああ・・・、あいつの名前はフレア。ロンの・・・、恋人だ。あいつ・・・、ロンに会っていた。でも・・・、ロンは・・・、もはや人間じゃなかった・・・」
男は目を閉じ、息を引き取った。
「あの女、フレアって名前なんだな」
「ロンがもはや人間じゃなかったか・・・。だとすると、魔獣?」
マルコスは男の言葉が気になった。人間じゃなかったとすると、魔獣になった。そうしか考えられなかった。
「きっとそうだろう」
「強くなりたいがゆえに、魔獣の力を手に入れたんだろう」
サラは人間の強くなりたい欲望のことを考えた。強くなりたいがゆえに魔獣の力を得るよりも、もっと苦労して強くなるべきだと思った。
「強くなりたいのはわかる。でも、こんなやり方で強くなるのは間違ってると思う。もっと苦労して強くならなければいけないと思う」
「そうだな。サラの気持ちわかる」
マルコスはサラの言葉に感心していた。
「昨日戦ったグリードもそんな感じだよね。魔獣の力を手に入れて強くなっていじめられた奴らを殺そうとしたんだから」
レミーは昨日のグリードのことを思い出していた。
「言われてみればそうだね。強くなりたいってのは誰も思うことだけど、本当に大切なのは強さじゃないと思う。本当に大切なのは思いやりだと思うわ」
サラもグリードの気持ちがわかった。だが、本当に大切なのは思いやりだと思っていた。
昨日の事を話していると、敵が襲い掛かってきた。今度は2羽の火の鳥だ。
「水の怒りを!」
サムは魔法で大津波を起こした。2羽の火の鳥は水を浴びて弱った。
「えいっ!」
レミーは包丁に化けて火の鳥を斬りつけた。火の鳥は痛がり、羽から血が出た。
「食らえ!」
サラは氷の息を吐いた。1羽の火の鳥が倒れた。
残った火の鳥はマルコスに向かって体当たりした。マルコスは倒れた。
「水の力を!」
サムは魔法で水柱を起こした。残った火の鳥は倒れた。
「危なかったわね」
サラは不死鳥となり、マルコスを復帰させた。
4人は迷っていた。歩いても歩いても樹海だ。洞窟の入り口らしきものは全く見つからない。
「うーん、どこにあるのかな?」
「本当に迷子になっちゃうよ」
レミーは心配していた。泣きそうだ。
「大丈夫だよ。そんな時は空を飛んでまた入り口から歩きなおせばいいじゃないか」
サラはレミーの肩を叩き、励ました。
その時、ある女性とすれ違った。その女は、赤い服を着ている。サムはその女を見て、何かに気づいた。あのニュースに出てきた女だった。すぐさまサムは姿を隠した。
「何よ!」
サラは叫んだ。突然中に入れられたからだ。
「あの女、今朝のニュースの女だ。間違いない」
サムは冷静だった。透明になってあの女をつけ回そうと思っていた。そうすれば何か手掛かりがつかめると思っていた。
「そうなの?」
「うん。あの女の後をつければ洞窟に行けるかと思って」
「本当にそれで大丈夫なの?」
サラは疑問に思っていた。これで本当に洞窟にたどり着けると思っていなかった。
「とにかく、やってみよう」
「ならば付き合うよ」
マルコスはサムを信じていた。
女は黙々と歩いていた。4人はサムの体に隠れながらつけ回していた。女は時々周りを気にするしぐさを見せていた。誰かに見られるのが気になっているようだ。
その時、ある男がやってきた。その男は白い服を着ている。顔はほとんど見えなかったが、ハンサムな顔だ。
「ロン」
「見張りは順調か? サラは来てないか?」
サラは驚いた。ロンの正体は王神龍だったからだ。サラは10年ぶりに王神龍を見た。10年前と全く変わっていなかった。
「まだいないわ。しっかり見張っているわ」
「そうか。オーブを渡してはならぬぞ。すでに2つのオーブを奪われたんだから」
王神龍は姿を消した。やはりその女はロンの愛人だった。それを聞いて、4人は彼女についていけばサラマンダーのオーブがある洞窟に行けると思った。
「ロンが王神龍だったなんて」
「でもロンがどうして世界を滅ぼす神になったんだろう」
サラは疑問に思った。ロンも人間だったにもかかわらず、どうして同じ人間を滅ぼそうとする神となったのかわからなかった。
「ぐずぐず考えている暇はない。行こう!」
サムは強気だった。何としてもサラマンダーのオーブを取りに行かなければと思っていた。
女は洞窟に向かっていた。サラマンダーのオーブがある、炎の洞窟だ。女はここでサラマンダーのオーブがサラに取られないように見張っていた。今朝も同じように入って、見張ろうと思っていた。
「お母さん、気づいてるのかな?王神龍がロンだってこと」
「わからない。どこにいるんだろう。早く伝えないと」
レミーは母のことが気になっていた。ロンが王神龍だということを伝えたかった。
しばらく女の後をつけていると、洞窟に着いた。その洞窟は山のふもとにあって、登山口から外れた所にある。入り口には何の装飾もなく、見た目はただの洞窟のようだ。
女は周りを気にしながら、洞窟に入った。
「入ったわね」
「じゃあ、ここに、サラマンダーのオーブがあるんかな?」
「きっとそうだ」
「行こう!」
女が見えなくなるのを確認して、3人はサムの体の中から出てきた。
「やっと外に出れたわね」
「本当にしつこかったな」
マルコスはため息をついた。やっと外に出れてほっとしていた。
「油断するのはまだ早いわよ。早く行かなきゃ」
サラは気を引き締めた。サラマンダーのオーブを手に入れるまで気が抜けないと思っていた。
4人は洞窟の中に入った。洞窟の中は蒸し暑く、少し入っただけでも汗が出てきた。
「熱いわね」
「火山の中だもん。この近くに溶岩が流れてるのかな?」
「きっとそうだろう」
だがサラは何ともない顔をしていた。ドラゴン族は炎を吹くためか、暑さに強かった。
「それにしてもサラは何ともない表情をしてるな」
「ドラゴン族は暑さに強いの」
サラは自信気な表情だった。サラは自分のようなドラゴン族が暑さに強いことを知っていた。
中は大地の祠のようだったが、中には水蒸気が立ち込めていた。
入ってすぐ、敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いトカゲだ。
1匹のトカゲがいきなり炎を吐いた。マルコスの体に火が付いた。
「水の怒りを!」
サムは魔法で水柱を落とした。2匹の赤いトカゲはダメージを食らい、弱った。どうやら水に弱いみたいだ。
「食らえ!」
レミーは4匹に分身して斬りつけた。食らったトカゲはあまり痛がらなかった。
「覚悟しろ!」
マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。トカゲは大きなダメージを受け、表情が苦しくなった。
「とどめだ!」
サラは氷を吐いた。食らったトカゲは倒れた。
「炎の力を!」
残ったトカゲは魔法で強力な火柱を起こした。マルコスとレミーは表情が苦しくなった。
「水の怒りを!」
サムは魔法で大津波を起こした。残ったトカゲは大きなダメージを受け、倒れた。
「ここは炎の敵が多そうね。水や氷が有効だね」
「水や氷の攻撃を積極的に使っていこう」
4人は徐々に属性の相性を理解してきた。
しばらく進むと、開けたところに出た。そこには溶岩が流れている。そこは、より蒸し暑い。
「暑いわね」
「落ちたら命がないから、足元気を付けようぜ」
4人は流れる溶岩を見て、自然の力に感動しつつ、足元に気を付けないとと思っていた。
「火山にこんな洞窟があるなんて、驚いたわ」
「ここでも祭りが行われていたのかな?」
「確か、大学で聞いたんだけど、ここで炎の精霊に祀る祭りがあったと聞いてるわ。でも都市化が進んで、行われなくなったの」
サラは大学の講義のことを思い出していた。
突然、1人の男が立ちはだかった。その男は龍のペンダントを付けている。神龍教の信者のようだ。
「久しぶりだな、裏切り者のサム」
「お前は、マット」
その男は、神龍教12使徒の1人、マットだ。彼は炎の魔法が得意で、赤いドラゴンに変身することができた。
「よくぞここまで来た。だが、この先には進ませない。なぜならば、この先にサラマンダーのオーブがあるからだ。サラマンダーのオーブは偉大なる創造神王神龍様の脅威になるからだ。偉大なる創造神王神龍様の命令により、お前らを抹殺しなければならない。覚悟しろ!」
マットが赤いドラゴンに変身して襲い掛かってきた。
「えいっ!」
レミーは5匹に分身した。これによって、攻撃が当たりにくくなる。
「ガオー!」
マットはレミーに向かって激しい炎を吐いた。だが炎はすり抜け、レミーはダメージを受けなかった。本体ではなく分身に当たったからだ。
「氷の裁きを!」
サムは魔法でマットを氷漬けにした。凍らなかったものの、大きなダメージを与えることができた。だが、マットは表情を変えない。
「食らえ!」
マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。だがマットの表情は変わらない。
「覚悟しなさい!」
サラは氷の息を吐いた。それでもマットは表情を変えない。
「俺の力、思い知るがよい!」
マットは灼熱の炎を吐いて辺りを火の海にした。サラ以外は大きなダメージを受け、マルコスとレミーは倒れた。
「みんな!」
サラは驚いた。見たこともない灼熱の炎に包まれてマルコスとレミーが倒れたからだ。
「氷の裁きを!」
サムは再び魔法でマットを氷漬けにした。マットは大きなダメージを受け、今度は氷漬けにした。
「今がチャンスだ! 不死鳥の力を、我に!」
サラは不死鳥になってマルコスとレミーを復帰させた。
「大丈夫?」
「うん」
「凍らせてるから今は大丈夫。でも気は抜けないわよ」
マルコスとレミーは倒れていて今の状況がわからなかった。
「くそっ・・・」
マットは凍っていて、身動きが取れなかった。マットは何もできないことが悔しかった。王神龍のために何としてもサラを抹殺しようとしているのに、何も行動できなかった。
「雪の力を!」
サムは魔法で猛吹雪を起こした。マットは苦しそうな表情になった。
「とどめだ!」
サラは氷の息を吐いた。
「くそっ・・・、やはり予言は覆せなかったのか? 偉大なる創造神王神龍様、ひ弱な我をお許しください」
マットは氷漬けのまま息を引き取った。
「予言されてるとは」
「ならば、その予言通りにしてやろうじゃないの!」
マルコスは強気だった。予言は覆せないものだと王神龍に思い知らせたかった。
その先に進むと、橋脚の無い長い橋があった。その橋は木製で、今にも崩れそうだった。
「水の神殿にもこんなのあったよね。これも崩れそう」
「崩れ落ちてきそうな予感がする」
サラとマルコスは昨日の水の神殿のことを思い出していた。あの時と同じように崩れるのではと思っていた。
「その下は溶岩よ。気を付けて渡りましょ」
4人は橋を渡り始めた。下を見ると、溶岩が流れている。落ちたら命はなさそうだ。
「慎重に渡りましょ」
半分ぐらいまで渡ったその時、橋が音を立てて崩れ始めた。
「やっぱり!」
「急ごう!」
4人は急いで渡った。だが、橋は長く、崩れるスピードが速かった。
あと少しの所で、一番後ろを走っていたレミーが落ちた。
「キャー!」
叫び声を聞いて、サラはレミーを助けようと下に降りた。サラはレミーを抱き上げ、救出した。
「ありがとう」
「大丈夫だった?」
レミーはほっとした。死ぬと思った。
「こんなに早く崩れるとは」
「気を付けないと」
4人が対岸に渡ると、そこは長い一本道だ。その先には扉がある。
「どうしてこんなところに扉があるのかな?」
「きっと誰かが使ってたに違いない。きっと祭りだろう」
マルコスは祭りが行われていた時のことを思い浮かべていた。どんな祭りだったんだろう。どれぐらいの人が集まったんだろう。
「どれだけの人が参加してたんだろう」
サムもどれだけにぎわったんだろうと思い浮かべていた。
扉まであと少しの所で、敵が襲い掛かってきた。3匹の赤いドラゴンだ。
「水の怒りを!」
サムは魔法で大津波を起こした。3匹のドラゴンは大きなダメージを受け、1匹は力が弱まった。
「ガオー!」
1匹の赤いドラゴンがマルコスに向かって激しい炎を吐いた。マルコスは大きなダメージを受け、体に火が付いた。
レミーは4匹に分身して鋭い爪でひっかいた。だがドラゴンはあまり痛がらない。
「グルルル・・・」
弱まったドラゴンがレミーに噛みついた。レミーは痛がったが、あまり大きなダメージを受けなかった。
「食らえ!」
サラは氷を吐いた。1匹のドラゴンが氷漬けにされて、弱まったドラゴンは倒れた。
「グルルル・・・」
氷漬けにならなかったドラゴンは魔法で激しい火柱を起こした。
「さっきはよくも!」
マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。氷漬けされていないドラゴンは倒れた。氷漬けにされたドラゴンは何もできずに見ていた。
「とどめだ!氷の怒りを!」
サムは魔法で猛吹雪を起こした。氷漬けにされたドラゴンは倒れた。
「先を急ぎましょ」
4人は扉を開け、次の部屋に入った。次の部屋は天井が高かった。
「あれ見て!」
サラは上を見上げた。すると、頂上の火口が見えた。どうやらここが火山の中心のようだ。
「ここから火口を見るなんて、感激だな」
見上げたマルコスは開いた口がふさがらなかった。
「油断しちゃだめよ。オーブを取るまでが勝負だから」
サラは改めて気を引き締めた。
その時、再び敵が襲い掛かってきた。今度は3匹の火の鳥だ。
「水の怒りを!」
サムは魔法で大津波を起こした。だが火の鳥には当たらなかった。津波より高い場所を飛んでいたからだ。
火の鳥はレミーに向かって体当たりした。レミーは大きなダメージを受けた。
「食らえ!」
マルコスは空高く飛び上がって火の鳥を上から殴った。食らった火の鳥は大きなダメージを受けた。
「ガオー!」
サラは氷の息を3匹に向かって吐いた。3匹の火の鳥は大きなダメージを受けた。マルコスの攻撃も食らった火の鳥は倒れた。
火の鳥はサラに向かって炎を吐いた。だがサラには全く効かなかった。
「雪の怒りを!」
サムは魔法で猛吹雪を起こした。残った2匹の火の鳥は倒れた。
突然、地震が起こった。やはり火山活動が活発しているみたいだ。
「地震だ!」
「なんだなんだ」
4人は驚き、辺りを見渡した。すると、溶岩が流れ込んできた。
「溶岩が流れ込んでくる!」
「逃げろ!」
4人は階段を上り、高いところに逃げた。溶岩はあと少しの所でおさまった。4人は高台で冷や汗をかいていた。
「危なかったわね」
「でも、どうして火山活動が活発化したのかな?」
サラは首をかしげた。こんな時に火山活動が活発化するのが不自然に思い始めてきた。来るのを妨害していると思い始めていた。
「ひょっとして、来るのを妨害しているのでは?」
「そんなことないよ。自然なことだと思うよ」
マルコスは全く信じていなかった。自然なことだと思っていた。
高台には、洞窟の入り口があった。その先は真っ暗だ。
「この先には何があるのかな?」
「行ってみよう」
サムは強気だった。この先にサラマンダーのオーブがあると思っていた。
4人は洞窟に入った。洞窟は真っ暗だった。サラは持っていたカンテラに火をつけた。
「暗いわね」
「敵に気を付けて進まないと」
レミーは暗闇から敵が襲い掛かってこないか心配だった。
「見て! あの壁画!」
サラは壁画を指さした。その壁画には、まるで炎の塊のようなドラゴンが描かれていた。
「大地の祠にも、水の神殿にもあったよね」
「うん。この先にはオーブがあったから、この先に行けばオーブが見つかるってことかな?」
「そうかもしれない。きっとこの道で間違ってなかったんだな」
サムはほっとした。もし間違っていたらまた引き返さなければならなかったからだ。
突然、赤いドラゴンが暗闇から襲い掛かってきた。
「ガオー!」
ドラゴンは激しい炎を吐いた。炎を浴びたマルコスは倒れた。
「くそっ・・・、後ろからやられた」
「氷の怒りを!」
サムは魔法でドラゴンを氷漬けにした。ドラゴンは大きなダメージを受けたものの、氷漬けにはならなかった。
「食らえ!」
レミーは4匹に分身して鋭い爪でひっかいた。だがドラゴンにはあまり効かない。
「食らえ!」
サラは氷の息を吐いた。ドラゴンは大きなダメージを受け、氷漬けになった。
ドラゴンは氷漬けになり、何もできなかった。
「雪の怒りを!」
サムは魔法で猛吹雪を起こした。ドラゴンは氷漬けのまま倒れた。
サラは不死鳥となり、マルコスに不死鳥の炎を浴びせた。マルコスは復帰した。
「大丈夫だった?」
「うん。炎の攻撃には気をつけないと」
マルコスは舌を出した。
その先に進むと、崖の上の細長い通路だった。下には溶岩が音を立てて流れている。
「高いわね」
「落ちたらひとたまりもないわね」
サラは崖から下の溶岩を見ていた。レミーは足がすくんでいた。
サラが前を向くと、フレアがいた。フレアは急いで奥の洞窟に入っていった。
「あの女!」
「追いましょ!」
4人は落ちないように慎重にフレアの後をつけた。