第5話 決意(後編)
4人は、水路に戻ってきた。水路は相変わらず静かだった。サラの予想通り、水は引いていて、引いたところには肉食魚の死体が散乱している。サラは怯えていた。まだ生きていて、襲い掛かってこないか心配だ。
「やっぱり引いてたわね。よかった」
サラはほっとした。これで先に進めるからだ。
「行こう!」
マルコスは前向きだった。4人は階段を下りて、水の引いた通路を歩いていた。
「えーっと、この先だったな」
サムは水の下にも出入り口があるのを見ていた。その先にウンディーネのオーブがあると思っていた。
「ここだ!」
サムは出入り口を見つけた。その先は暗い階段があった。
「まだ下に行くのかな?」
「またレバーを操作するのかな?」
サラは思った。先に行くために何度もレバーを引いて水を抜いているからだ。
出入り口の先は暗い通路だった。目の前は真っ暗で何も見えない。サラはカンテラで前を照らしていた。
「この通路も暗いわね。本当にこの先にあるのかしら?」
サラは不安になった。
「この道しかなかったはずだから、大丈夫だろ?」
「しっかり見た? もっと別の道があるんじゃないの?」
サラはまだ道があるんじゃないかと思っていた。
「うーん、見落としてたらごめんね」
「いいよ。また見つけなおせばいいじゃない」
サラはサムを励ました。
暗い階段を抜けると、明るく細い通路に出た。
「ここ、どこだろう」
サムは辺りを見渡した。床や壁、天井は透けていなかった。
「ん? あの人は?」
マルコスはある人を指さした。そこにはナシアがいた。
「えっ!?」
「やっぱりあなたが神殿を蘇らせたのね」
ナシアは自信気な表情だった。今さっきの悲しそうな表情がうそのようだった。
「あのかけら、何なの?」
「そのかけらは水の神殿を封印するためのものだったのさ」
「なぜ、それを知ってる?」
「それを神龍教から守れと言われてたの。あなたたちがウンディーネのオーブを持ち出さないためにも。グリードをここで見張らせているのもそのためなのさ」
ナシアは笑みを浮かべた。
「何だって!? グリードは死んだと言ったじゃないか?」
マルコスは怒った。グリードが生きていたからだ。
「はっはっは、確かにグリードは死んだわ。でも、神龍教の手によって蘇ったの。ああ、何て神龍教って素晴らしいのかしら。犬神様が持つ奇跡の力。偉大なる創造神王神龍様の創造の力。その力に感動して、私も神龍教の信者になったの。愚かな人間を偉大なる創造神王神龍様の生贄に捧げることができて、本当に幸せだわ。そのおかげで、私はあの時の苦しみを完全に忘れることができた。これほどうれしいことはないわ」
ナシアは高笑いをした。そして、グリードを失った時のことを思い出した。
10年前の冬のことだった。ナシアは太っていた。最愛の息子、グリードが行方不明になったショックから立ち直れなくて、それを忘れるために暴飲暴食を繰り返していたからだ。行方不明になってから1ヶ月で体重が10キロも増えてしまった。周りの人は心配したが、誰も止めることができなかった。
ナシアは泣き崩れていた。最愛の息子、グリードが自ら命を絶ったからだ。自室で首を吊っていたという。自殺の原因は、中学校でのいじめだった。だが、先生たちは彼がいじめられていたことを全く知らなかった。ナシアはそのことに憤りを感じ、先生が信じられなくなった。会いたくないと思っていた。こんな先生は辞めるべきだと思っていた。
そこへ、担任の先生が訪問してきた。担任の先生は暗い表情をしていた。いじめ自殺のことでかなりショックを受けていた。
先生は玄関のインターホンを鳴らした。
「はい」
ナシアはインターホンに気づき、玄関にやってきた。
ナシアは玄関を開けた。そこには、あの教師がいた。ナシアはにらんだ。
「ごめんください」
「なんで、なんでうちの子供がいいじめられたの?」
先生は深々と頭を下げた。
「申し訳ありません。いじめに気づかなかった我々の責任です。今後は、いじめが起こらないように対策をしっかりと取ります。なので、これからもよろしくお願いします」
「あんたの言い訳なんて、聞きたくないわ。あんたなんかに関わりたくないわ。出て行ってちょうだい!」
ナシアは先制を突き飛ばした。先生は地面に落ち、泥まみれになった。先生は下を向いて去っていった。ナシアはその様子を細い目でにらんでいた。
ナシアは振り向いた。目の前に獣人がいた。ナシアは驚いた。どうやって入ったんだろうと思った。その獣人は顔が犬で、陰陽師のような服を着ていた。その獣人こそ、神龍教の教祖、犬神だった。神龍教の教祖、犬神は、悲しみに暮れる人々を喜ばせて、信者を集めていた。
「私は死んだ人間を生き返らせることができます。あなたの息子さんを生き返らせてほしいですか?」
「はい」
ナシアは泣いていた。グリードのことが忘れられなかった。もう会えない息子のことばかり考えていた。
「わかりました。私が生き返らせてみせましょう」
その後、ナシアは突然姿を消した。近所の人は探したものの、見つけることができなかった。だが、その数日後、何もなかったかのように帰ってきた。
その間、ナシアは犬神と会っていた。神龍教の素晴らしさに感動したナシアは神龍教を崇拝したいと思うようになった。その日のうちに、ナシアは幻草を吸わされ、神龍教の信者となった。
それから間もなくして、グリードは蘇った。だが、そのことは誰も知らなかった。蘇ったことは誰にも言わないように、と犬神に言われていたからだ。蘇ったグリードはそれから神龍魔導士となった。通夜や葬儀で寂しそうな表情をしていたが、四十九日で明るい表情だったのは、グリードが蘇ったからだった。
それから間もなくして、今度は先生が行方不明になった。警察は一生懸命探したが、全く手掛かりがつかめなかった。その後、先生が担任をしているクラスの生徒の中に、変な夢を見た人がいた。その内容は、先生が白い龍の生贄に捧げられる夢だったという。だが、誰も信じなかった。先生はどこかで生きていると誰もが思っていた。
だが、その夢は正夢だった。先生は魔界統一同盟の集団に誘拐され、白い龍、王神龍の生贄に捧げられていた。だが、そのことは誰も知らな方。知っているのは、魔界統一同盟の幹部や神龍教の信者だけだった。
それだけではなかった。グリードをいじめていた生徒が次々と行方不明になった。その時も生徒は白い龍の生贄に捧げられる夢を見たという。行方不明になった生徒が生贄に捧げられる夢だったという。やはりそれも正夢だった。
「それだけの理由で、人を殺すなんて、許せない」
マルコスは拳を握り締めた。
「いや、悪いことではない。死に追いやったような愚か者は、偉大なる創造神王神龍様の生贄に捧げなければならない。それが偉大なる創造神王神龍様の力になるのだ」
ナシアは笑みを浮かべた。
「許せない! 私、許せない! 殺してやる!」
サラは叫んだ。すると、ナシアは巨大なイカのクラーケンに変身した。これが、ナシアが得た魔獣の力だ。
「食らえ!」
レミーは包丁に化けてクラーケンの足を切った。クラーケンの足が切り落とされた。だが、足はすぐ再生した。
「そんな・・・」
レミーは驚いた。
「私はイカ。足は切り落としても何度も生えるの」
クラーケンは自信気な表情だ。
「天の裁きを!」
サムは魔法で雷を落とした。クラーケンは大きなダメージを受けたが、まだまだ体力がある。
「許さんぞ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。クラーケンの体から血が出た。だが、あまり痛がらない。
「ガオー!」
サラは雷を吐いた。クラーケンは痛がった。だが、すぐに持ちこたえた。
「これだけで倒せると思ったら、大間違いよ。」
クラーケンは毒の牙でマルコスに噛みついた。マルコスは毒に侵され、大きなダメージを受けた。
「大丈夫? 癒しの力を!」
サラは魔法でマルコスの毒を消した。
「天の怒りを!」
サムは魔法で雷を落とした。大きなダメージを与えたものの、それでもクラーケンはひるまなかった。
「死ね!」
クラーケンは大津波を起こした。
「危ない! 僕の体に隠れろ!」
サムは3人に指示した。3人は急いでサムの体の中に隠れた。4人は間一髪のところで大津波をやり過ごすことができた。
「危なかった。あんなの食らったら壊滅状態だよ。」
「ほっとするのはまだ早いわ! まだ戦いは続いてるのよ!」
サムの体から出てきたサラは気持ちを引き締めた。
「食らえ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。クラーケンは少し痛がった。クラーケンは少しひるんできた。
「グルルル・・・」
サラは炎をまとい始めた。炎をまとってクラーケンに体当たりしようとしていた。
「眠らせてやる!」
サムは催眠術をかけた。だが、クラーケンは眠らない。
「覚悟!」
レミーは包丁に化けて胴体を斬りつけた。クラーケンの体から少し血が出た。だが表情は変わらない。
「ギャオー!」
サラは雄たけびを上げてクラーケンに向かって体当たりした。クラーケンは大きなダメージを受け、瀕死になった。
「く、くそっ・・・ この技は・・・ かなわん・・・」
追い詰められたクラーケンは大津波を起こした。大津波を受けた4人は大きなダメージを受けた。サラ以外の3人は倒れた。
「みんな! くそーっ!」
サラは強烈な雷を吐いた。クラーケンは倒れた。
「お前・・・、その炎・・・」
クラーケンは驚いていた。どうして王神龍と同じ炎を使うことができるのか?
「私は選ばれしドラゴン、奇跡のドラゴンだから」
サラは自信気な表情だった。クラーケンは死んだ。
サラは不死鳥となり、3人を復帰させた。
「うーん、サラ?」
「倒した・・・、のか?」
サムやマルコスは何が起こったか覚えていなかった。気絶していたからだ。
「サラがやっつけたのか?」
「うん」
サラは自信気な表情だった。自分に秘められた奇跡の力で世界を救わねばと改めて強く思った。
その先には、また出入り口があった。その先は明るかった。どうやらあっていたみたいだ。
「どうやらこの道であってたみたい」
サムはほっとした。また引き返さなければならないと思っていた。
4人は次の部屋に入った。次の部屋は階段だった。床や壁は透けていて、側面からは肉食魚が泳いでいるところが見える。肉食魚は4人を見つけると一斉に見ている。彼らは4人を獲物だと思っている。
「また階段か」
マルコスは階段の先には何があるんだろうと思った。レバーか、それとも出入口か。
「上ってみよう」
サラは先頭に立ち、階段を上り始めた。
「いったいこの先に何があるんだろう」
その時、側面の壁が崩れ、水が流れ込んできた。それとともに、肉食魚も入ってきた。
「側壁が!」
「大変だ! 水が迫ってくる! 肉食魚も来るよ!」
マルコスは慌てていた。
「背中に乗って。早く出入り口に向かいましょ」
3人はサラの背中に乗って、出入り口に向かった。その間にも水は流れ込んでくる。肉食魚も迫ってくる。4人は慌てていた。
4人は出入り口の向こうの部屋に入った。だが、水はその部屋にも流れ込もうとしていた。
「どうしよう」
サラは困っていた。このままでは肉食魚の餌食になってしまうからだ。
「この防水扉で水を止めよう!」
サムは防水扉を指さした。防水扉は出入り口にぴったりの大きさだった。
4人は重い防水扉を一生懸命動かし、出入り口を閉じようとした。その間にも水は迫ってくる。肉食魚も迫ってくる。
「早く! 早く!」
サラは急いだ。
1分かけて、ようやく扉を閉めることができた。その直後、防水扉の前に水が流れ込んできた。
「間一髪だったわね」
「ほんとほんと。」
その先の部屋は、下り階段だった。下り階段の先には、また出入り口があった。
「今度は何もないと願いたいわね」
サラは恐ろしい仕掛けにこりごりだった。
階段を下りようとしたその時、敵が襲い掛かってきた。2匹の金色のサメ人間だ。
「食らえ!」
レミーは4匹に分身して鋭い爪でひっかいた。だがサメ人間はあまり痛がらない。
「天の裁きを!」
サムは魔法で強烈な雷を落とした。1匹のサメ人間がしびれた。
「くそっ、水の怒りを!」
しびれてないサメ人間は魔法で大津波を起こした。4人は大きなダメージを受けたが、倒れることはなかった。
「そんなので倒れないぞ!」
マルコスは電気を帯びた爪でひっかいた。しびれたサメ人間は瀕死になった。
「ガオー!」
サラは雷を吐いた。しびれたサメ人間は倒れた。
「癒しの力を!」
サムは魔法で4人の体力を回復させた。
突然、サメ人間は持っていた槍でレミーを突き刺した。レミーは痛がったが、あまりダメージを受けなかった。
「とどめだ!」
マルコスは電気をを美た爪でひっかいた。残ったサメ人間は倒れた。
「今回は何とか耐えることができたわね。」
「うん」
大津波を絶えることができて、サムはほっとした。パーティーが壊滅状態になるのを恐れていた。
「それにしても、サラって、普通のドラゴンじゃないね」
「うん。私、気づいたの。神と同等の力を持つって。お母さんの命を奪った神の炎、神炎を私も操ることができるの。吐くことはできないけど、それをまとって体当たりすることはできるの」
サラはクラーケンとの戦いを思い出していた。
「すごいな。その力、よく使ったらいいのに」
「いいんだけど、それを使うと、かなり体力を失うからあまり使えないの」
サラは残念そうな表情だった。これを使うと体力が大きく減ってしまうからだ。サラはピンチの時しか使わないようにしようと考えていた。
「そうか。でも、サラって、すごいな」
「ありがとう」
サラは笑顔を見せ、尻尾を振った。
4人が階段を下りて、出入り口の前にやってきた。その先は階段で、真っ暗だった。
「また階段か」
「どこまで下に行くんだろう」
サムは不安になった。だが、行かなければ世界は滅んでしまう。4人は引き返さなかった。
「とにかく行こう!」
マルコスは強気だった。何としてもウンディーネのオーブを手に入れなければ。
4人は暗い下り階段を歩いていた。その階段はらせん状で、なぜかここだけレンガ積みだ。
「どうしてここだけレンガ積みなのかな?」
「わからない」
今まで床も壁も透けていたところが多くて、暗い通路はコンクリートだ。
らせん階段はとても長かった。暗くて前が見えないことも相まって、どこまでも続いているように見えた。
「どこまで続くんだろう」
「わからない」
らせん階段は5分前後歩いても続いていた。4人は疲れ始めた。無限に続いているように見える罠で、どこかに進むためのスイッチがあるのではと思い始めていた。
その時、光が見えた。
「光だ!」
「やっとらせん階段の終わりが見えたか?」
マルコスはほっとした。やっと先が見えたからだ。
「無限階段だと思った」
サムもほっとした。階段がどこまでも続いている無限階段だと思っていた。
4人はらせん階段を抜けて、広い部屋に入った。そこは神殿の最深部だ。その部屋の奥には、青白く輝くオーブがある。ウンディーネのオーブだっ。だがそこには1人の男がいた。その男は龍のペンダントを付けている。神龍教の信者だ。どうやら彼も、バズ同様、王神龍の命令で守っているのだろう。
「よく来たな。必ず来ると思っていた」
「お前は!」
顔を見た時、サラは驚いた。位牌で見たグリードにそっくりだった。
「グリードか?」
「ああ、そうだ。よく気が付いたな。俺は水の神龍魔導士にして王神龍12使徒のグリードだ。確かに、私は10年前の冬に自殺した。いじめが原因だった。だが、私は犬神様に出会い、この世に再び生を受け、魔獣の力をいただいた。そして私は、その人間への憎しみの感情の強さから、水の神龍魔導士となることができた。お前がサラだな。偉大なる創造神王神龍様を封印すると言われているドラゴン族の女だな。父なる創造神王神龍様の命令により、お前を抹殺しなければならない。全ては偉大なる創造神王神龍様のため。さあ、かかってこい! そして、血の海でおぼれるがよい!」
グリードが襲い掛かってきた。
「えいっ!」
レミーは包丁に化けてグリードを斬りつけた。グリードの腕から血が出たが、グリードはびくともしない。
「炎の力を!」
サムは魔法で火柱を起こした。グリードの体に火が付いた。
「この野郎!」
マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。グリードは痛がったが、あまり効いていない。
「憎しみの数だけ人は強くなれる。そしてその強さは世界を変える力となる。水の力を!」
グリードは、10年前に戦ったケルベロスのような強力な攻撃魔法を使ってきた。グリードは魔法で水柱を起こした。だが、サムにはあまり効かなかった。魔導士のサムは魔法に強かった。
「ガオー!」
サラは激しい炎を吐いた。グリードは熱がった。
「食らえ!」
レミーは鬼火を起こして、グリードを攻撃した。グリードは痛がったが、びくともしない。だが表情が険しくなってきた。
「大地の怒りを!」
サムは魔法で地震を起こした。グリードはひるんだ。
「水の怒りを!」
グリードは魔法で大津波を起こした。4人は大きなダメージを受けたが、倒れはしなかった。戦ううちに耐えることができるようになった。
「覚悟しろ!」
マルコスは炎を帯びた拳で殴りかかった。グリードは苦しそうな表情を見せた。
「あと少しよ!」
サラは再び激しい炎を吐いた。
「なかなかやるな。だが、これで私が死ぬと思ったら大間違いだ。私の真の姿を見せてやる! 覚悟しろ!」
グリードは後ろにあった水の中に飛び込んだ。すると、水の中が光りだした。グリードは魔獣のオーラを解き放ったからだ。グリードの首から、8つの蛇が出てくる。足はドラゴンのように太く短くなっていき、うろこが荒くなっていく。グリードの顔は、徐々に蛇になっていく。それは、9本の蛇の首を持つ魔獣、ヒュドラだ。
「さぁ、かかってこい!」
ヒュドラとなったグリードが襲い掛かってきた。
「食らえ!」
レミーは4匹に分身して斬りつけた。だが、毒を食らった。直接攻撃すると毒を食らうみたいだ。
「大丈夫?癒しの力を!」
サラは魔法でレミーの体の毒を消した。
「直接攻撃したら毒を食らうみたいだ」
マルコスはヒュドラを警戒していた。マルコスは直接攻撃しかできないので何もできなかった。
「天の裁きを!」
サムは魔法で強烈な雷を落とした。ヒュドラは大きなダメージを受けたが、全くびくともしない。とても体力が高かった。
「死ね!」
ヒュドラはマルコスに噛みついた。マルコスは一撃で倒れた。
「マルコス!」
サラは驚いた。マルコスがたった一撃で倒れたからだ。
「えいっ!」
レミーは鬼火を起こしてヒュドラを攻撃した。ヒュドラは熱がった。
「くそっ…、こうなったら!」
ヒュドラは大津波を起こした。レミーは倒れた。サムは体力が少なくなった。
「不死鳥の力を、我に!」
サラは不死鳥となってレミーとマルコスを復帰させた。
「天の裁きを!」
サムは魔法で雷を落とした。ヒュドラは少し弱ってきた。
その頃、サラは炎をまとい始めていた。神炎をまとって体当たりする準備をしていた。
「食らえ!」
レミーは鬼火でヒュドラを攻撃した。ヒュドラの体に火が付いた。
「私の真の力、思い知れ!」
サラは神炎をまとって体当たりした。ヒュドラは熱風を浴びて倒れた。
「そ、その炎は・・・ まさか、お前、神のなせる技を使いこなせるとは。やはりお前は、ミラクル種のドラゴンなのか? やはり予言を覆すことはできなかったのか? これが、私の運命なのか?」
ヒュドラは倒れた。サラは自信気にその様子を見ていた。
「やったな」
「早くウンディーネのもとに行かないと」
サラの目先には、ウンディーネのオーブがあった。そのオーブは海のように青く光り輝いていた。
「あれがウンディーネのオーブか?」
「ああ」
4人はウンディーネのオーブに近づいた。すると、オーブの中から声が聞こえた。
「助けてくれてありがとう。私は水の精霊、ウンディーネ。私はこの神殿に祀られていました。5000年前、犬神をリーダーとする邪教集団が襲ってきました。彼らはとても強くて、普通の人間や魔族では歯が立ちませんでした。ウンディーネのような精霊と呼ばれる種族は絶滅しました。そして、最後の1人がオーブとなり、世界を見守ることになりました。だが、そのオーブを破壊しようと、邪教集団が襲い掛かってきました。その時、グレセルアと名乗るドラゴンとその仲間が立ち向かい、ようやく犬神を封印することができました。そして、ウンディーネのオーブはこの神殿に置かれ、神殿は海底に沈められました。再び悪事に使われるのを防ぐために。だが、こんなことになるとは。サラ、もうわかっているかもしれないけど、あなたは、世界に危機が訪れるときにのみ生まれるミラクル種のドラゴンなの。そのドラゴンは、普通のドラゴン族では使えないことができるの。不死鳥となり転生の炎で復活させることも、神の炎をまとって悪を溶かすことも、そして、悪の手によって殺されそうな時に、不思議な力が暴走することも。その力を使って、悪を封印する。あなたはそのために生まれてきたの。必ず王神龍を封印して世界を救うと信じているわ。頑張って! 次はサラマンダーのオーブを見つけないといけないわ。確か、リプコットシティの東にあるアンリス火山にあると聞いているわ」
サラはその時思った。自分は生まれた時点で運命を決めつけられているようだ。世界に危機が訪れるときにのみ現れるミラクル種として生まれ、その力を使って悪を封印するからだ。それが自分に課せられた運命だ。悪を封印しなければ世界は滅びる。そのために自分がやらねば。
ウンディーネのオーブの向こうには、魔法陣があった。その魔法陣は、神殿の入り口に戻れるものだ。
「あの魔法陣、何かしら?」
「入口に戻れる魔法陣かもしれない。入ってみよう」
「うん」
4人は魔法陣の中に入った。すると、魔法陣は光り輝き、4人を包み込んだ。
「な、何だろう」
光が収まると、そこは神殿の入り口だった。
「やっぱり入り口に戻れる魔法陣だったんだ。よかった」
と、ウンディーネの声が聞こえた。
「悪の手に落ちないように、再びこの神殿を海底に沈めましょう」
その時、地震が起こった。4人は驚き、サラの背中に飛び乗った。3人が乗ると、サラは舞い上がった。サラは上空から沈みゆく神殿を見ていた。神殿は徐々に沈んでいき、海の中に消えていった。
「再び沈んじゃうのね」
「危機が訪れる時、再び現れるんだな」
サラの背中から、3人も沈みゆく神殿を見ていた。神殿は音を立てて沈んでいき、海の中に消えていった。
4人は近くの海岸に降り立った。海岸には多くの人がいた。彼らは突然現れた神殿を見ていた。インガーシティの海底に神殿があったことをほとんどの人は知らなかった。彼らはただただ驚いていた。
「ここに神殿があったというの、全然知らなかった」
「おばあちゃんはうそつきじゃなかったんだ」
「本当のことだったんじゃよ」
その時、1人の女が声をかけた。かつてグリードをいじめていた女だった。
「あの時、何もできなかったこと、今も後悔している。できることなら謝りたかった」
「その気持ち、わかります。私のお母さんも、似たような後悔をしているから。お母さんは、ロンっていう人のいじめを止めることができなかったの。お母さんはそのことをとても後悔していたの。だから、毎年夏になると旅に出るの」
レミーは女の気持ちがとてもわかった。自分の母も同じようなことで後悔しているからだ。
「さぁ、早くアンリスに行きましょ」
サラは背中を見せた。3人はサラの背中に飛び乗った。すぐにサラは翼をはためかせ、空高く舞い上がった。4人は海岸に群がる人々を見ていた。そして、彼らを守らなければを改めて決意した。
その頃、バズは神龍教の貨物列車の中にいた。まるで強制労働を課せられた人間のような扱いだ。無蓋貨車に乗せられて、真っ暗な中で移動していた。神龍教を裏切ったのはこの世界のためならいいことだが、こんなことになってしまった。間違ってはいないけど、こんなことになってしまった。バズは泣いていた。
「この裏切り者め! てめぇ、よくも偉大なる創造神王神龍様を裏切ったな。いいか、よく聞け! お前はこれから、偉大なる創造神王神龍様の生贄になるんだぞ。ありがたく思え!」
見張り役は怒っていた。バズが悪いことをしたからだ。怒鳴り声を聞いて、泣いていたバズはうずくまった。
見張り役は無蓋貨車の小窓から外を見ていた。貨物列車は広い草原の中を走っていた。民家は見当たらない。とても壮大な風景だ。馬が元気よく駆け、一直線に伸びる道路をたった1台の車が走っている。
その時、数匹のドラゴンがやってきた。神龍教に半旗を掲げる「白竜団」の隊員だった。白竜団は神龍教の貨物列車が通る時間を調べていて、その時間を狙っていた。
「白竜団だ!」
見張り役の声を聞いて、神龍教の信者が外を見た。信者は白竜団がやってくるのを見て、貨物列車の中から出た。
だが、時遅し。白竜団は屋根上の入り口から無蓋貨車に入ってきた。
「くそっ、入られたか。構わん! やっつけろ!」
無蓋貨車に乗っていた信者は入ってきた白竜団に襲い掛かった。白竜団は応戦した。炎を吐き合い、魔法を使って戦った。バズはうずくまりながらその様子を見ていた。そして、白竜団が勝って自分を助けてくれることを願っていた。
だが、バズの願いもむなしく、神龍教の信者が白竜団を次々と倒していた。王神龍から授かった魔族の力はすさまじく、白竜団では歯が立たなかった。
白竜団は次々と殺され、最後に残ったのは団長のパウロだった。パウロは倒れた隊員を見ていた。パウロはどうしようもない表情だった。
「くそっ、こうなったら最後の手段だ」
パウロは無蓋貨車の屋根を突き破り、空高く飛び上がった。信者は空高く飛び上がるパウロの様子を見ていた。
空高く飛び上がったパウロは炎をまとった。パウロは貨物列車を見ていた。パウロは厳しい表情を見せていた。命を懸けてもやっつけてやる気持ちだった。
全身に炎をまとったパウロは貨物列車に向かって急降下した。パウロは目を閉じていた。まるで覚悟を決めたかのようだった。
炎をまとったパウロは貨物列車に体当たりした。これが、ドラゴン族に伝わる最強の技、巨炎竜だ。だが、それを使うと、ドラゴンは命を落とす。パウロもまた命を落とした。貨物列車は大破した。信者は全滅した。
幸いにもバズは無傷だった。築堤から転げ落ちたバズは築堤を見上げていた。その横には息絶えたパウロがいた。
「うっ・・・ うっ・・・」
バズは息絶えたパウロを見て泣き始めた。どうして平和のために平和を願う人が死ななければならないのか? 神龍教さえなければこんなことにはならなかったのに。バズはやるせない気持ちになった。
「バズ・・・、悲しいか?」
誰かの声が聞こえた。バズは泣きながら顔を上げた。顔を上げると、そこは真っ暗だった。昼間だったのに、なぜか真っ暗だった。
「あなたは・・・、誰ですか?」
「私はダハーカ。蛇の神だ。」
バズの目の前に、金色に輝く蛇が現れた。ダハーカだ。
「は・・・、初めまして」
バズは緊張していた。目の前に蛇の神がいるからだ。自分よりも遥かに位の高い神がいるからだ。
「お前は、そのドラゴンがかわいそうだと思うか?」
「はい。僕を助けるために、こんなことをして・・・ できることなら、魂を入れ替えたい・・・」
バズは再び泣き始めた。あまりにも悲しかったからだ。
「お前は、人が殺されることの苦しみがわかるのか?」
「はい。どうして・・・、どうして人が殺されなければならないんだ! 何も悪いことをしてないのに!」
バズは泣きながらに熱く語っていた。ダハーカは真剣な表情でバズを見ていた。
「よくぞわかった。お前は、人間が本来持つべき『思いやりの心』の鏡だ。お前は素晴らしい気持ちを持っている。だが、今日もまた1人、人間が王神龍の生贄になっていく。このままでは、全ての人間がこrされてしまう。わかっているか?」
「はい。それはとても悲しいことです。できれば、僕も、人間を守る力になりたい! この世界の平和を守るために、人間を守る力が欲しい! そして、連れ去られたお母さんを助けたいんだ!」
バズの気持ちはさらに高ぶっていた。
「よろしい! お前の気持ちはわかった! では、目の前の洞窟から、その男を助け出して来い!」
ダハーカが目の前から姿を消すと、目の前に洞窟が広がった。そこは、自分が見張っていた大地の祠にそっくりだ。バズは少し懐かしい気持ちになったが、同時に憎たらしい気持ちになった。神龍教の信者だった頃の自分を思い出したからだ。
バズは辺りを見渡した。洞窟はあの時みたいに暗くて静かだった。
突然、敵が襲い掛かってきた。1匹のミノタウロスだ。
「炎の怒りを!」
バズは魔法で強力な火柱を起こした。ミノタウロスは熱がり、体に火が付いた。
「ガオー!」
ミノタウロスは持っていた斧でバズを斬りつけた。バズにはあまり効かなかった。
「炎の怒りを!」
バズは再び強力な火柱を起こした。ミノタウロスは倒れた。
バズはあらかじめ買っておいたパンで体力を回復した。攻撃魔法しか使えないので、回復する手段がこれしかない。
その先に進んでいくと、光が見えた。バズは何だろうと思った。バズは興味に引かれて、光の見える部屋に進んだ。
バズは光の見える部屋にやってきた。そこは少し開けたところだ。大地の祠にそのような部屋はなかった。
「バズ・・・、そのオーブを手に取れ。」
ダハーカの声が聞こえた。バズの目の前には、金色に光るオーブがある。そのオーブは、見たことがない。店に売っているオーブとは、比べ物にならないほど輝いている。
バズはオーブを手に取った。その瞬間、オーブがより一層光り輝く。バズはそのオーブを天に掲げた。すると、オーブの上に雷が落ちた。だが、それにバズは気づいていなかった。まぶしくて、目を閉じていた。そして、バズの服が変わった。魔導士っぽい服だが、このような服の魔導士は見たことがない。
バズは目を開けた。魔法服が変わっている自分を見て、バズは驚いた。
「これは・・・」
「人間の持つべき『思いやりの心』を持つバズよ、そなたに最強の魔導士の力を与えよう。それは、最強の魔導士、聖魔導の力だ。およそ数千年、その力は途絶えていた。聖魔導は、この世界を守るためだけに生まれ、圧倒的な魔力を持ち、その力はいかなる悪も引き裂く。悪の道を歩んだ過去を捨て、お前は聖魔導として生きていきなさい」
そしてバズは最強の魔導士、聖魔導として覚醒した。今まで歩んだ邪教の信者としての過去を捨てて。
「助けて!」
「俺が地獄に連れてってやる!」
と、その時、向こうで叫び声が聞こえた。どこかで聞き覚えがあった。バズは向こうの部屋に入った。
バズが部屋に入ると、そこには、パウロがいた。連れ去ろうとしているのは、ニーズヘッグだ。死んだ後も死後の世界で死んだ白竜団を地獄に落とそうとしていた。
「お前は政府に歯向かったんだ! しょうがないだろ! さぁ、来るんだ!」
「そんなの嫌だ!」
パウロは抵抗していた。だが、ニーズヘッグが強くて、手も足も出なかった。
「やめろ!」
バズは大声で叫んだ。すると、ニーズヘッグが振り向いた。ニーズヘッグはバズに反応した。かつての仲間だったからだ。
「お前は、バズ。何だ、その姿は?」
ニーズヘッグは笑みを浮かべた。バズは拳を握り締めた。
「何が変な姿だ! 俺は最強の魔導士だ! 覚悟しろ!」
「何が最強だ。馬鹿げたことを言うな! この世界で最強の魔導士は、わが教祖、犬神様に決まっている!」
「俺は本気だぞ!」
「ならば、承知しないぞ! かかってこい!」
ニーズヘッグが襲い掛かってきた。
「天の裁きを!」
バズは魔法で強烈な雷を落とした。だが、何かにさえぎられてニーズヘッグは雷を受けなかった。
「どうした? それがお前の攻撃か? 情けない」
ニーズヘッグはバズに噛みついた。毒に侵されはしなかったものの、バズはダメージを受けた。
「氷の力を!」
バズはニーズヘッグを氷漬けにした。だが、氷が跳ね返された。
「なぜ、なぜ当たらないんだ!」
「わからないのか? 闇のバリアを張っている。このバリアを張っていれば、いかなる攻撃も防ぐことができる。お前はただただやられるしかないのだよ。諦めろ! お前が最強じゃないことを思い知らせてやる!」
その時、ダハーカの声が聞こえた。
「バズよ、今だ! 聖なる力を解き放て!」
バズは、持っていた杖を両手で持ち、天に掲げた。すると、杖が変わり始めた。今までの黒い竜の彫刻の入った杖ではなく、白い竜の彫刻の入った杖に変わった。
「悪を引き裂く聖なる力! 思い知れ!」
その時、杖が光を発した。その光は大きくなり、やがてバズの何倍もの大きさの剣になった。
「どりゃあ!」
バズは巨大な剣を手で操り、振りかざした。その光はニーズヘッグのバリアを引き裂いた。
「な・・・、何だ・・・、その技は・・・」
ニーズヘッグは驚いた。破れるはずがないバリアが破れたからだ。
「天の裁きを!」
バズは魔法で強烈な雷を落とした。ニーズヘッグの体はしびれた。
「そ・・・、それは・・・、まさか・・・、聖魔導・・・」
ニーズヘッグはしびれて何もできなかった。
「雪の裁きを!」
バズは魔法で猛吹雪を起こした。ニーズヘッグは倒れた。
「お前は・・・、まさか・・・」
「そうだ。僕は聖魔導として覚醒したんだ」
バズは自信気な表情だった。聖魔導として世界を救わねばと決意していた。
「世界を救うために生まれ・・・、圧倒的な魔力を持ち・・・、失われた力で悪を切り裂く・・・、伝説の魔導士」
ニーズヘッグは再び倒れた。
「あ、ありがとうございます!」
パウロはバズに握手した。そして、消えていった。元の世界に戻った。
突然、辺りが光に包まれた。バズは何が起こったんだろうと思った。光が収まると、そこは貨物列車が大破した築堤だった。
バズは歩き出した。どこかにいるサラと再会して、一緒に王神龍を封印するために。