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Magical Wars ~Legend of Red Dragon~  作者: 口羽龍
第2章 奇跡の子
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第4話 海底神殿

 次の日。今日も晴れだったが、昼からは雨が降る予報だった。


 サラはベランダから海岸を眺めていた。サラは10年前に敗れたことを思い出していた。あの悔しさを忘れていなかった。目の前で母が生贄に捧げられた。こんなの許せない。絶対に封印してやる。サラは拳を握り締めた。


「サラ、行くぞ!」


 マルコスは強気だった。何としてもウンディーネのオーブを見つけ出すための手がかりを見つけようと思っていた。


 4人は、旅館のフロントにやってきた。受付には、昨日の女将がいた。女将は笑顔を見せていた。


「ありがとうございました」


 サムは鍵を返した。


 4人は旅館の外に出た。朝早いためか、人はそんなに多くなかった。歩いているのは地元の人々がほとんどで、日中とは違い寂しかった。


「人通りが少ないわね」


 サラは今は手掛かりがなかなかつかめないかもしれないと思った。


 その時、向こうから中年の男性がやってきた。その男は白いシャツを着ていて、サングラスをかけていた。


「すいません、この辺りにウンディーネのオーブがあると聞いてやってきたんですが、もし知っていたら、それはどこにあるか教えてくれますか?」

「うーん、私は50年ぐらい住んでるんだけど、そんな話、聞いたことないね」


 男は首をかしげていた。


「そうですか。ありがとうございました」


 サラは残念そうな表情をした。


 その時、少女の叫び声が聞こえた。


「助けて!」


 その声に気づき、サラは振り向いた。すると、少女が2匹のドラゴンに絡まれていた。そのドラゴンは神龍教のペンダントを付けている。その少女は忍者のような服を着ていて、背中には忍者刀を背負っている。


「ちょっと!」


 サラは少女を救おうと思っていた。少女を放っておくことができなかった。何としても助けたかった。


「何だよ、お嬢ちゃん」


 ドラゴンは生意気な表情だった。


「やめなさいよ!」

「悪いことしてないよ。お嬢ちゃんがお母さんを探してるもんだから、神龍教の仲間になって探そうと言ったんだよ。悪いことじゃないよ。世界を見て回りながら母を探す。こんなにいいことはないさ」


 ドラゴンは熱く語った。


「ちょっと! あんたの考えは違ってるわよ」


 サラは反論した。


「あんた、あれっ?あの時のサラじゃないか?」


 そのドラゴンはサラのことを知っているみたいだ。


「まさか、ラルフ?」


 サラはそのドラゴンに見覚えがあった。母が生贄に捧げられたときに横にいたドラゴンだ。


「そうだ。私はラルフだ。久しぶりだな。あんたら、俺達に歯向かうのか? じゃあ、容赦しないぞ!」


 2匹のドラゴンが襲い掛かってきた。


「氷の力を!」


 バズは魔法で2匹のドラゴンを氷漬けにした。2匹のドラゴンは氷漬けにされ、行動できなくなった。氷漬けにされた2匹のドラゴンは焦っていた。


「大地の力を!」


 サムは魔法で地震を起こした。


「とどめだ!」


 サラは凍える息を吐いた。2匹のドラゴンはなすすべなく倒れた。


「くそっ、こいつ、強い。やっぱり・・・、あいつは・・・、奇跡の・・・」


 ラルフは目を閉じた。ラルフは息絶えた。


「大丈夫?」

「うん、大丈夫。あのね、あたし、お母さん探してるの。お母さんったら、夏休みになるといつもどこかに行っちゃうの。一人ぼっちで寂しいの。だから、お母さんを探し出して、どうしていなくなるのか聞きたいの」

「そう、私が小学校の頃の担任の先生もそうだね。夏になったらロンって男を探す旅に出るんだもん」


 サラは玉藻先生のことを思い出していた。探していることをサラの前で話したことがあった。


「そうなんだ」


 少女は感心していた。


「でも、一人で探すなんて危ないよ。今さっきみたいに変な人に絡まれるから」


 サラは少女に注意した。


「そうよね。じゃあ、一緒に行ってくれない。私、レミーっていうの。九尾の狐の女の子。魔法には弱いけど、忍術や妖術が得意なの。それに、いろんなのに化けることもできるの」


 レミーは9本の尻尾を見せた。


「じゃあ、一緒に行こうか」

「うん!」


 レミーは尻尾を振った。


「さぁ、ウンディーネのオーブについての手がかりを聞かないと」


 サラは再び聞き込みを始めた。早く手がかりをつかまないと人間が滅亡してしまうからだ。


 そんな中、2人の女性が立ち話をしていた。


「近頃、サメのようなのが生息しているから遊泳禁止なんだ。残念だよ」

「あの生き物、サメじゃなくて、大きな魔獣のようだったわ」

「早くいなくなってほしいよ。いつからこんなのいるんだ?」

「数週間前からよ。何をしてるんかな?」

「海底遺跡があるという噂がある場所の辺りをうろうろしてるんだ。何なんだろう」


 サラはその言葉に反応した。ひょっとして、その海底遺跡が、ウンディーネのオーブにつながる手掛かりになりそうだと思ったからだ。


「すいません、その海底遺跡って、何ですか?」

「海底遺跡?ああ、あの海にあったんだけど、ウンディーネのオーブと共に沈んだの。それがどうしたの?」


 サラは驚いた。思わぬところで手がかりをつかんだからだ。


「その海底遺跡を再び海の上に戻すには、どうすればいいんですか?」


 サラは真剣な表情だった。


「私にもわからないわ。でも、この海底遺跡にまつわる祠があるのは知ってるわ。あの丘の頂上よ」


 そう言って、女性は丘を指した。その丘は、10年前に王神龍に敗れた小学校の裏にあった。




 5人は住宅地を離れ、雑木林に入った。女性が言っていた祠はこの中にあるという。民家は全くなく、人の気配が全くなかった。


「どこにあるのかな?」


 5人は雑木林の中を進んでいた。この中には、獣道が所々にある。獣道は枝があまり落ちてなくて、整備が行き届いてるようだ。


 突然、敵が襲い掛かってきた。3匹のゴーストだ。


「ここにも敵が!」


 マルコスは驚いた。


「何とかしなくっちゃ」

「えいっ!」


 レミーは4体に分身して鋭い爪でひっかいた。分身の術を応用した攻撃だ。


「炎の力を!」


 バズは魔法で火柱を起こした。ゴーストの体に火が付いた。


 突然、ゴーストがバズに体当たりした。その時、ゴーストがダメージを受けた。バジリスクの特徴で、直接攻撃をすると毒に侵される。


「氷の力を!」


 サムは魔法でゴーストを氷漬けにした。2匹のゴーストが倒れた。


 残ったゴーストはバジリスクの毒で倒れた。


「やっぱり5人になると戦闘が楽だな」


 マルコスは安心していた。


「そうね。でも油断しちゃだめよ」


 程なくして、敵が襲い掛かってきた。今度は3匹の青いドラゴンだ。


「食らえ!」


 レミーは炎を帯びた爪でひっかいた。だが、ドラゴンにはあまり効かない。


 バズはバジリスクの目でにらみつけた。すると、ドラゴンは突然倒れた。バジリスクが持つ『死のまなざし』だ。


「氷の力を!」


 サムは2匹のドラゴンを魔法で氷漬けにした。だがドラゴンにはあまり効かない。


「覚悟しろ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。ドラゴンは少し痛がった。


「ガオー!」


 サラは激しい炎を吐いた。ドラゴンは熱がった。


「ガオー!」


 ドラゴンは凍える吹雪を吐いた。マルコスとレミーが氷漬けになり、レミーの体力が少なくなった。


「炎の怒りを!」


 バズは魔法で溶岩を起こした。残った2匹のドラゴンは倒れた。


「大丈夫?」


 サムは魔法でマルコスとレミーを元通りにした。


「あーびっくりした。倒れるかと思った」


 レミーは驚いていた。


 しばらく歩いていると、洞窟が見えてきた。その洞窟は、丘の頂上付近にあった。


「あの洞窟、何だろう」


 サラは洞窟を指さした。ノームのオーブがあった大地の祠に似ていた。


「ひょっとして、この中にあるんかな?」

「入ってみようぜ」


 サムは強気だ。


 5人は中に入った。中は暗い。まるで昨日入った大地の祠のようだ。


「薄暗いわね」


 大地の祠のことを思い出して、どれぐらい続くんだろうと思った。


「サラ、あれ見て!」


 突然、サムが声を上げた。何かを見つけたみたいだ。その先は行き止まりになっていて、そこには神殿のような壁画がある。その神殿は美しく、海に浮かんでいるようだ。


「これが、海底遺跡?」


 サラは壁画を見て、これが海底遺跡じゃないかと思った。


「この台座、何だろう」


 マルコスは目の前の台座を指さした。よく見ると、何かを取り付けるくぼみがある。


「ここに、何かを取り付けるのでは?」


 サラは考えた。


 5人は洞窟から出てきた。相変わらず誰もいない。


「オーブの位置はわかったんだけど、どうすればあの遺跡に行けるんだろう。海底でしょ」


 サラは考えていた。


「あの台座に何かを取り付ければ何かが起こりそうな予感がする」


 サムは冷静だった。


 その時、1人の女性とすれ違った。その女性は金髪で、痩せいていたが、減量の跡が所々にある。サラは振り向き、その女性を見ていた。


「あの人、誰だろう」

「さぁ」

 サムは首をかしげた。


「早く戻ろうぜ。戻って聞き込みをしようぜ」


 女性は5人を怪しそうに見ていた。何かを隠しているかのような表情だった。


 5人は市街地に戻ることにした。すでに昼が近かった。そこで5人は食事をして午後からの聞き込みに備えようと考えた。




 5人は海岸付近のラーメン屋でラーメンを食べていた。中には若い男女が多くいた。海水浴客が多く、日焼けした人が多くいた。


「あの女の人、怪しいと思わない?」

「別にそう思わないけど」


 マルコスは首をかしげた。


「私、感じるの。あの人、何かを隠してるって」


 サラに秘められた何らかの力が発動したようだ。


 そんな中、隣のテーブルにいた2人の中年の女性が話をしていた。彼らは海水浴客ではないようだ。


「グリードっていう中学生がいじめを苦に自殺したんだって」

「あの自殺が起こってから、変な連れ去り事件が起こったんだって。自殺と関係ありそうだな」

「あれから、グリードのお母さんの様子がおかしいんだ。どうしたのかな?」

「グリードのお母さん、最近、変な宗教の信者になったらしく、毎晩、変な言葉を発するの。不気味だわ」

「噂によると、この世界を投じしている神龍教の信者になったらしいよ。本当かな?」

「グリードのお母さん、グリードの通夜の時は大泣きしていたのに、翌日の告別式の時は何もなかったかのようにケロッとしていたわ。何かあったのかしら?」

「変な呪文を唱えていたのは、それからよね」

「うん」

「本人吐くようだと言ってたんだけど、あれは絶対に供養じゃないわ」

「きっと何かの儀式よ」


 サラはその話を聞きながら、祠の付近で見た女性のことを思い出していた。


「どうしたの?」


 マルコスは何か考え事をしているサラを見ていた。


「あの女のことを考えてたの」


 サラは真剣な表情だった。まだあの女ことを考えていた。


「まだ考えてるのかよ。どうしたんだよ」


 サムはサラをゆすった。


 5人はラーメン屋を出た。ラーメン屋の向こうは道路で、道路の向こうには海岸がある。海岸は海水浴客でにぎわっている。親子連れやカップルが多くいて、サングラスをかけている人が多い。


「楽しそうね」


 サラは言った。サラは親子連れがうらやましそうに思えた。父に抱かれた覚えがないし、母は10歳の時に殺されたからだ。


 その時、誰かの悲鳴が聞こえた。


「キャー!」


 5人は振り向いた。その声はラーメンの横の路地から聞こえてくる。5人は路地裏に向かって走っていった。


 路地裏にやってくると、中学生ぐらいの女の子が男が地に捕まえられて、どこかに連れ去られようとしている。女の子は抵抗していた。だが、男が強くて、なかなか離すことができない。


「助けて!」


 女の子は叫んだ。それでも男は離さなかった。


「やめなさい! 女の子がかわいそうじゃないの! 離しなさいよ!」


 サラは男の腕をつかんだ。


「お姉ちゃん! 俺らの邪魔をしようというのか? 許さんぞ!」


 男はミノタウロスに変身した。なんと、その男はミノタウロスだった。


 ミノタウロスが襲い掛かってきた。


「食らえ!」


 レミーは炎を帯びた爪で何度もひっかいた。ミノタウロスは痛がったが、すぐに持ち直した。


「炎の力を!」


 バズは魔法で火柱を起こした。ミノタウロスは熱がった。


「食らえ!」


 ミノタウロスは持っていた剣を振りかざし、レミーを斬りつけた。レミーは大きなダメージを受けた。


「氷の力を!」


 サムは魔法でミノタウロスを氷漬けにした。だがあまり効かなかった。


「覚悟しろ!」


 マルコスは炎を帯びた爪でひっかいた。ミノタウロスは痛がった。


「とどめだ!」


 サラは激しい炎を吐いた。ミノタウロスは倒れた。


「大丈夫? どうしたの?」

「連れ去られそうになったの。いじめが原因なの」


 女の子は涙ながらに話した。


「どんないじめ? 話して」


 サラの目は真剣だった。将来教師になる自分にとって、それは重大な問題だと思っていた。


「同じ中学校の子供、グリード・ラグランジュなの。あの子、いじめ自殺したはずなのに、蘇ったという噂が流れて、恐ろしい魔術で人を殺し続けている噂なの。それから、いじめた子供たちや彼の中学校の先生が次々と行方不明になってるの。あの時の憎しみを晴らしているかのように。で、今さっきさらわれそうになったのは、それが原因で殺そうとしていたからなの」


 5人は驚いた。死んだと思われた男が蘇ったからだ。ひょっとして、グリードも王神龍の力によって復活したのでは? だとすると、グリードは神龍教の信者では? 昨日、王神龍の力によって蘇ったニーズヘッグを戦ったサラはそう思った。


「そのお母さんって、どこに住んでるの?」


 お母さんなら、グリードの秘密を知っているとサラは思った。お母さんにその話を聞こうと思っていた。


「あの角を左に曲がったら、赤い屋根の家が見えるの。そこがラグランジュさんの家。で、こんな人なの」


 女の子は道を案内して、母、ナシアの写真を見せた。その写真を見て、5人は驚いた。あの丘で会った女性だった。


「この人!」


 サラは驚いた。


「あの丘で会った人だ!」

「知ってるんですか?」


 女の子は驚いていた。女の子は5人がその女性を見ていたことを知らなかった。


「今さっき、丘で見たんだよ。」


 サラは、今朝に祠でその女と会ったことを話した。


「あの丘・・・、出入りする人が少ないんだけどね。あそこは行っちゃだめだ、神聖な場所だとか言われているからね。どうしてだろう」


 女の子は驚いていた。そこに行く人はめったにいないからだ。


「とにかく、行ってみよう。何か関係があるんじゃないかな?」


 サラは赤い屋根の家に向かって走っていった。


「あ、ありがとうございました」


 女の子は走る5人に向かってお辞儀をした。


 10分ほど歩いて、5人は、赤い屋根の家にやってきた。その家は、周りと比べて少し大きく、赤い屋根が目立っている。


 サラは玄関のインターホンを押した。


「はーい」


 インターホンから声が聞こえた。少し元気のない若い女性の声だった。


「すいません、グリード・ラグランジュ君の母親はおられますか?」

「私ですけど」

「お聞きしたいことがあるんですけど」

「どうぞ、お入りください」


 5人は玄関を開けて家に入った。家の周りには木が植えられている。木の周りには雑草があまり生えていない。定期的に草むしりをしているようだ。


 サラは扉の前に立つと、ドアをノックした。


「失礼します」


 5人は家の中に入った。すると、ナシアがやってきた。今さっきと同じ服装だ。


「こんにちは。グリード・ラグランジュ君の母親のナシアさんはどちらにいらっしゃいますか?」

「私ですけど、どうかしたんですか?」

「話してほしいことがあるんですけど、いいですか?」

「いいですけど、こちらのテーブルで話しましょうか?」


 5人はダイニングにやってきた。ダイニングは整理整頓がしっかりしていた。


「こちらにお座りください」


 女性は案内した。


「ありがとうございます」


 サラは椅子に座った。


「突然すみません。グリード・ラグランジュ君について聞きたいことがあるのですが」


 サラは真剣に話した。絶対に真相を突き止めてやると思っていた。


「グリード? あの子に何が?」


 ナシアは驚き、首をかしげた。


「実はあの子が、蘇ったと聞きまして」


 サラは今さっきの女の子の言っていたことを話した。


「嘘言え! あの子はもう死んだ!」


 ナシアは強い口調だった。5人は驚いた。表情が豹変したからだ。


「でも、あの子が蘇って、人を殺そうとしているって聞いたんですよ。ご存じですか?」


 知らないのは絶対嘘だと思っていた。


「全く知りません」


「神龍教って、ご存じですか?」


 サラは龍のペンダントを見ていた。


「知らないです。初めて聞きました」


 ナシアは少し考えてから話した。サラは目を細めた。


「ど、どうしたんですか?」

「ううん、何でもないです」

「そうですか。ありがとうございました」


 マルコスはお辞儀をした。


 5人はダイニングから出てきた。と、サラは仏壇に目を向けた。そこにはグリードの写真が飾ってある。サラはグリードの写真を見た。グリードはなかなかかっこいい顔をしている。


「あの写真の子が、グリード君ですか?」

「はい」


 ナシアは泣きそうになった。自殺したことがあまりにもショックだったからだろう。


「ハンサムな顔をしていますね」


 サラは彼に一目ぼれしていた。


「ありがとうございます」


 ナシアはお辞儀をした。グリードをほめてもらったからだ。


「今日はありがとうございました」


 サラはお辞儀をした。


「いえいえ」


 ナシアは笑顔を見せた。


 5人は家を出た。サラはその家を出る直前、振り向いた。怪しいと思ったからだ。


 その頃、ナシアはカーテンの隙間から4人を見ていた。さっきの悲しそうな表情がまるで嘘のような真剣な表情だ。


 家からしばらく離れた所で、サラはナシアの様子を話していた。


「ナシアさん、やっぱり何か隠してるようだわ。息子が蘇った話をすると狂ったように豹変するから。それに、どうして祠の近くにいたんだろう。それに、あのペンダントを付けているにもかかわらず、神龍教を知らないって、おかしくないか?」

「そうかな。僕はそう思わないよ。でも、祠の近くにいたってことは祠の秘密を知っているかもしれないな。確かじゃないけど。そうだね。神龍教のペンダントを付けてるのに、知らないって。絶対に怪しいわ」


 マルコスもそう感じていた。ナシアは、何か隠し事をしているに違いない。もっと調べたい。明日、もっと詳しいことを聞きに行こう。




 その夜、5人は昨日と同じ旅館に泊まった。昨日同様、旅館には多くの海水浴客が宿泊している。


 サラとバズはベランダから夜の海を見ていた。


「結局手掛かりなかったわね」


 明日こそは手掛かりを見つけたいと思っていた。


「僕、一生懸命なサラ姉ちゃん、好き!」


 バズは笑顔を見せた。サラの真剣な姿が好きだった。


「どうして敵がバズに直接攻撃するだけで、毒に侵されたんだろう」


 あのゴーストと戦った時に思ったことだ。


「これがバジリスク族のすごいとこなんだよ。それに、まなざしだけで倒すこともできるんだ」


 バズはバジリスク族の特技を話した。


「すごいね」


 サラは感心した。


「ありがとう」


 バズはバジリスクに変身し、サラの頬をなめた。


「くすぐったい! かわいい!」


 サラはバジリスクの頭を撫でた。頬をなめられて、サラは気持ちよかった。


 その時、レミーがやってきた。レミーは空を見上げていた。レミーはどこかを旅している母のことを思っていた。


「レミー、どうしたの?」

「お母さんのこと思ってるの。今、どこを旅してるんだろうって」


 レミーは空を見上げていた。


「お母さんって、どんな人なの?」

「お母さんは学校の先生なの。夏休みになるとある人を探しに行くと言って家を出るの。その間、寂しさを晴らすために友達と遊んでるんだ。でも、お母さんのことが気になるし、自分もその理由をもっと詳しく知りたいの。だから探す旅に出たの」


 レミーは今までの経緯を詳しく語った。


「私の担任の先生もそうだったわ。夏になると、ロンって男を探す旅に出てるの。いじめられていたロンを止めることができなかったから、謝りたい一心で旅をしてるんだって」


 サラは玉藻先生のことを話した。


「そう。私のお母さんもそんな感じだわ。なんだか似てるね」


 レミーは笑顔を見せた。


「あれっ? バズは?」


 サラが横を見ると、今さっきまでいたバズがいなくなっていた。


「サラ姉ちゃん!」


 誰かの声に気づき、サラは下を見た。すると、バズがいた。


「どこに行くの?」

「コンビニ! ちょっとお菓子を買ってくるの」


 バズは元気に答えた。この近くにはコンビニがあり、海水浴客がよく利用している。


「そう。夜は気を付けてね。変な人に絡まれないようにね」


 バズはコンビニに向かっていった。


「そろそろ中に入りましょ」

「うん!」


 バズはコンビニに向かっていた。辺りは真っ暗で、静まり返っている。日中の賑わいがまるで嘘のようだ。みんな帰りの電車で帰ったり、ホテルや旅館でくつろでいる。


 バズは前を見た。コンビニの回る看板が見えた。そこは周りの建物と比べて明るく、若者が多く集まっている。静まり返った街の中で、ここだけは賑わいがある。バズはほっとした。もうすぐコンビニに着くからだ。


 突然、後ろから誰かがバズを抑えてきた。


「よぉ、久しぶりだな、バズ」


 その男は神龍教のペンダントを付けていた。


「お前は、ティム」


 バズはその男を知っていた。自分が神龍教の信者だった頃に兄のように慕っていた12使徒の1人、ティムだ。


「ちょっと来てもらおうか、この裏切り者」


 ティムは強い口調だった。


「やめろ!」


 バズは魔法で抵抗しようとした。だが、封じられていた。


「おい、メルビン。裏切り者のバズを捕まえたぞ!」


 ティムは近くに停まっていたワンボックスカーの中のメルビンに言った。メルビンもまた12使徒だ。


「ご苦労。たっぷりと死の恐怖を味わせてやれ!」


 メルビンは笑顔を見せた。


 バズはワンボックスカーに放り込まれた。バズは抵抗したが、逃げられなかった。乗せられると、手首足首と口を縛り付けられた。


「行くぞ!」


 メルビンはインガー駅に向かった。そこには神龍教専用の貨物列車が待機していて、バズはそれに乗せられて、神龍教に連れられる予定だ。そして、裏切り者として生贄に捧げられる予定だ。それは、教祖の犬神の命令だ。


 その頃、サラはなかなか帰らないバズのことを気にしていた。


「バズ、帰ってこないね」

「うん」


 サムも心配していた。


「もう寝ようよ。あの女性のことをもっと詳しく知らないと」


 マルコスは強気だった。


「寝ている間に、きっと帰ってくるよ」

「そ、そうよね。寝ましょ」


 サラはその時知らなかった。バズが神龍教に連れ去られたことを。




 その夜、サラは変な夢を見た。その夢は10年前に目の前で母を生贄に捧げられたような風景だった。礼拝室には司祭や12使徒、信者がいて、儀式が行われようとしていた。


「俺はこんなことで魔法使いになったんじゃないからな! 世界を豊かにするのが魔法なのに!」

 サラは驚いた。生贄に捧げられようとしてたのはバズだった。


「我らは魔獣の子。我らは父なる創造神王神龍様の子。我らは創造神王神龍様の再来を願い、ここに裏切り者の肉体を捧げる」


 ラファエルは、右手でバズの頭を取り出した。バズは驚いていた。自分の脳が取り出されたからだ。


「裏切り者に神罰を! 我ら魔族に光あれ!」


 ラファエルは叫び、前を向き、信者たちの前で脳を高々と掲げた。それを見た信者は歓喜の雄たけびを上げた。サラの横にいるラルフも雄たけびを上げていた。


 突然、ラファエルの目が赤く光った。ラファエルが魔法でバズの頭を溶かした。


「父なる創造神王神龍様、我ら魔獣の子を讃えよ。今ここに裏切り者の肉体と言霊を捧げる。今こそその素晴らしき姿を現し、神罰を与え、この世界の愚か者を消し去りくださいませ」


 それに続いて、信者たちが、犬神と同じ言葉を発した。信者の目が赤くなった。


 それとともに、バズの体が宙に浮かんだ。バズは下を見ていた。信者の光る目が見える。


 犬神が振り返って、巨大な龍の彫刻に目を向けた。犬神は、右手の杖を上に掲げて、叫んだ。


「父なる創造神王神龍様、ここに生贄を捧げます。どうか蘇りください」


 犬神が言ったその時、竜の彫刻の前に巨大な白い龍の幻が見えた。バズは神炎を浴びて、死んだ。それを見ていた信者たち歓喜の声を上げた。王神龍はバズの魂を見つめ、飲み込んだ。


「父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。新たなエデンまで、愚かな人間を生贄として捧げる」


 犬神は叫んだ。


「おお我が神よ、父なる創造神王神龍様、我らは魔獣の子。我らに力を与えたまえ。世界に平和をもたらしたまえ。大いなる力で我らをお守りください」


 信者たちは王神龍の彫刻に向かって叫んだ。その声は次第に大きくなっていった。




 翌朝のことだった。サラは昨日の夢のことが気になっていた。バズが生贄に捧げられる夢だ。


「どうしたんだ、サラ」

「バズが生贄に捧げられる夢を見たの」


 サラは暗い表情だった。


「そんな、まさか、連れ去られたのか?」


 マルコスは驚いていた。


「神龍教に連れ去られたかもしれない。裏切り者は生贄に捧げるのが掟だから」


 サムは神龍教の信者だったので、神龍教のことに詳しかった。


「1人少なくなったけど、今日こそはナシアさんの秘密を探りましょ」


 ナシアが何かを隠しているに違いない。突き止めてやる!サラは強気だった。


「サラは強気だな」


 サムは感心していた。


 4人は外に出た。今日は快晴で、昨日より多くの人が海水浴に来ている。みんな楽しそうな表情だ。もうすぐ世界が作り直されて滅亡してしまうかもしれないというのに。全く知らないようだ。


「とにかく、あの家に向かいましょ」


 サラは前向きだった。


「うん!でも、勝手に家に入ったら空き巣と思われちゃうよ」


 マルコスは逮捕されないか心配だった。


「大丈夫だよ。透明になった僕の体の中に隠れればいいさ」


 10年前のように、透明なゴーストになった自分の体の中に隠れれば見つからないと思っていた。


「そうね。サムに賭けるわ」


 サラはサムに信頼していた。


 10分ぐらい歩いて、4人は家に着いた。家はカーテンが閉じていて中が見えなかった。もう朝の9時だというのに。


「仕事に出てんのかな?」

「今日は日曜日だよ。休みのはずよ。それにしても、どうしてカーテンが閉じているのかな?もうこんな時間なのに」


 レミーは首をかしげた。


「おかしいわね」


 サラも不思議に思った。


「あっ、出てきた!」


 3人が玄関を見ると、ナシアが出てきた。女性は買い物袋を持っていた。どうやら買い物に行くようだ。


「買い物に行くのかな?」

「きっとそうだろう」


 ナシアが角を曲がり、いなくなった。女性はこの先にあるスーパーマーケットに向かった。それを見て4人はゆっくりと家の前に移動した。


「入りましょ」


 4人は玄関の前にやってきた。


「どうしよう、鍵がかかっている」


 サラは悩んでいた。玄関には鍵がかかっていた。


「大丈夫だよ。僕の中に入れば通り抜けることもできるんだ」


 サムは笑顔を見せた。


 4人は中に入った。電気は全部消されていて、暗かった。


「そういえば、仏壇のある部屋を調べてなかったわね。見てみましょ」


 サラは仏壇のある部屋に入った。畳敷きの8畳で、中央にはちゃぶ台がある。その向こうにはグリードの遺影がある。中学校2年生の時の写真らしい。


 サムの透明な体の中で、サラは部屋を調べていた。ちゃぶ台の下、タンスの中、物置の中・・・。4人はくまなく探していた。


 その時、サラはグリードの遺影の裏にある壺の中に何かを見つけた。


「ん? 何だろうこれ」

「遺骨じゃないの?」


 それは遺骨を入れる壺だと思っていた。


「かけら・・・」


 サラは壺からかけらを取り出した。壺の中にはかけらが入っている。


「そのかけら、祠につけるやつじゃない? 切り欠きの形がほぼ同じだし」


 サムは昨日言った祠のことを思い出していた。


「行ってみよう」

「うん。」


 4人は静かに家を後にした。音を立てれば周りの人に怪しまれる。4人は家から少し離れたところで透明なゴーストの中から出ようと考えた。


 4人は人通りの少ない路地裏に来た。ここなら顔を出してもいいだろうと思った。


「もういいかも」


 3人はゴーストの中から出た。すると、サムは元の姿に戻った。


「本当にこれで神殿が現れるのかな?」


 レミーは首をかしげた。


「やってみるしかないわよ」


 サラは強気だった。サラはかけらを持ってきたリュックにしまった。


 4人は路地裏から戻ってきた。相変わらず海水浴客が多い。朝に比べたら多くなっている。


「早く祠に行きましょ」


 4人は丘に急いだ。


「うん!」


 と、その時、ナシアとすれ違った。買い物から帰ってきたようだ。ナシアは買い物袋に食料等を入れていた。ナシアも4人を振り返った。昨日会った5人のうちの4人だったからだ。ナシアは怪しそうに見ていた。


 4人は、何も知らないかのように見せようと、振り返らずに丘に向かった。ナシアに怪しまれたくないからだ。


 ナシアは家に戻ってきた。ナシアは買い物袋をダイニングのテーブルに置くと、買ってきた野菜や肉などを冷蔵庫に入れた。


 ナシアはリビングの椅子に座って、考え事をしていた。ナシアは4人のことが気がかりだった。ひょっとして、中に入っていたんじゃないかと思った。


 ふと何かに気づき、ナシアは仏壇のある部屋に入った。ここには、ある人から隠せと言われていた物があった。ひょっとして、あいつらがそれを取ったんじゃないかと思った。


 ナシアはグリードの遺影の裏にある壺を見た。ナシアは驚いた。隠せと言われていた物がなかったからだ。やっぱりあいつらに奪われたのか。ナシアは拳を握り締めた。




 その頃、4人は丘の獣道に差し掛かっていた。相変わらず人気が少なかった。静かだった。


 4人が獣道に差し掛かって早々、敵が襲い掛かってきた。2匹の赤いドラゴンだ。


「食らえ!」


 レミーは4匹に分身して斬りつけた。だがあまり効かない。


「氷の力を!」


 サムは魔法で2匹のドラゴンを氷漬けにした。氷漬けにはならなかったものの、ある程度ダメージを与えることができた。


「食らえ!」


 マルコスは氷を帯びた爪でひっかいた。ドラゴンは大きなダメージを受けた。


「ガオー!」


 ドラゴンはレミーに向かって炎を吐いた。だがレミーはあまりダメージを受けなかった。火の玉を操ることのできるレミーは炎の攻撃には強かった。


「覚悟しろ!」


 サラは氷の息を吐いた。食らったドラゴンは倒れた。


「グルルル・・・」


 ドラゴンはサラに向かって炎を吐いた。だがサラはびくともしない。


「そんなの、全く効かないわよ」


「雪の力を!」


 サムは魔法で猛吹雪を起こした。残ったドラゴンは凍え、倒れた。


「相変わらず敵がいるね。」


「まるで僕たちを邪魔してるかのようだ。ここに来るな、ここに来るなと。」

「そうね。やっぱりここには神殿を見つけるための何かがあると。」


 祠の手前まで来たその時、今度は3匹のゴブリンが襲い掛かってきた。


「あと少しだったのに」


 サムは悔しがった。


「頑張りましょ」


 サラはサムを励ました。


「食らえ!」


 レミーは鬼火を起こし、相手を包み込んだ。ゴブリンは熱がった。ゴブリンの体に火が付いた。


「炎の力を!」


 サムは魔法で火柱を起こした。1匹のゴブリンが倒れた。


「食らえ!」


 マルコスは鋭い爪でひっかいた。ゴブリンは少し痛がった。


「ガオー!」


 サラは激しい炎を吐いた。残った2匹のゴブリンは倒れた。


 4人は祠にやってきた。祠は昨日と同じように静かにたたずんでいる。


「やってきたわね」


 サラは言った。サラは昨日のことを思い出していた。


「あのかけら、持ってるよな」

「もちろんさ!」


 サムはかけらを取り出した。


 4人は行き止まりにやってきた。行き止まりの所には台座があり、壁には水の神殿の壁画がある。


「このかけらをこの台座に、と」


 サラはかけらをはめた。すると、台座は光り輝いた。


「な、何だ?」


 サラは驚いた。台座が光り輝いたからだ。台座が輝くと思っていなかった。


 突然、地震が起こった。4人は驚いた。


「こ、今度は何?」


 レミーは驚いた。


「洞窟は危ない。外に出よう」


 サラは洞窟の外に逃げた。それを追うように、3人も洞窟を出た。崩れて下敷きになると思ったからだ。


 4人は洞窟の外に出た。相変わらず地震は続いていた。


「な、何が起こった!」


 海水浴客は自信に驚き、突然現れた神殿に驚いていた。


「あの神殿は何だ?」


 神殿を見た若者は開いた口がふさがらなかった。


「な、何だこりゃ」


 近くを歩いていた老人は驚いた。


 誰もが突然現れた神殿に驚いていた。そして、その神殿を知っている人は、それは決して伝説ではない、本当のことだったんだと思った。


「あれ見て!」


 サラは海の方を指さした。指さした先には、神殿があった。昨日訪れた時にはなかった。その神殿は、壁画のものと同じだった。


「あの壁画・・・」


 サムは今さっき見た壁画のことを思い出していた。あれはまさしくあの壁画のものだった。


「あれが・・・、水の神殿か?」

「きっとそうでしょ」


 サラは確信していた。きっとこれが水の神殿に違いないと。


「すごい。壁画の通りだ」


 サムは開いた口がふさがらなかった。


「とりあえず、早く行きましょ。私の背中に乗って」


 サラはドラゴンに変身して、背中を向けた。3人はドラゴンのサラの背中に乗り、水の神殿に向かった。


 その頃、ナシアはグリードの部屋から水の神殿を怪しそうに見ていた。そして、その手には、グリードの遺影があった。

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