或る鍛冶師 上
ソファの上で目を覚ます。窓から差し込む光に目を細めながら、横になっていた体を起こした。重い体を起こし、箪笥の方に歩み寄る。鍵穴のある引き出しに鍵を差し込み回した。引き出しをゆっくりと引き、中に入っている一本の短刀を手にする。それを、胸の方に引き寄せ暫く目を閉じる。そして、ゆっくり瞼を開けた。手に持っていた短刀を右腰に下げ、朝食をとるためその部屋を後にした。
同じ時刻。鍛冶の町ベルクタットのとある一軒の宿屋。その一室に泊まっていた二人は目を覚ました。結局、アウルの家では泊まらず、空いていた宿屋で寝泊まりしていた。二人は素早く身支度を整え、話し合っていた。
「これからどうします? いつまでもゆっくりしていられません」
ルテアが少し力が入った様子で話す。それに対し、ハルは落ち着いた口調で答えた。
「その通りだが、焦って行動を起こせば危険は増す。だから、少し落ち着け」
そう言われ、落ち着きを取り戻したルテアは不安を含んだ声で話す。
「すみません、焦っていました。ポートタットの人達が無事だといいのですが……」
「そうだな。無事だといいが。とにかく、朝ごはん食べながら、アウルと話し合おう」
「はい! では、昨夜の酒場に行きましょう」
まとめた荷物を背負って、二人は宿屋を後にした。
昨夜、情報屋アウルに会うため案内された酒場は、日中はカフェとして夜は酒場となっている。そのため、夜に比べ人で賑わっていた。
そこに亜麻色のフードを被ったハルとルテアは中に入り、空いている席に座ろうとすると、元気な声が背後から聞こえる。
「おはよっ! お二人さん」
焦げ茶色の外套を羽織り、首元に紅いスカーフを巻いた女性が挨拶をしながらやって来た。
「おはよう、アウル」
「おはようございます、アウルさん」
二人は挨拶を返し、アウルに席を進め、三人は席につく。そして、三人はそれぞれ料理を注文した。しばらく経って運ばれてきた料理を食べながら、三人はこれからの方針を立て始めた。
「さて、どうする? あたいは用意できているよ」
もちっとした白いパンをちぎりながらアウルは、向かいに座っているハルの方に問う。
「この後、鍛冶師に依頼していた武器を取りに行くぐらいだな。ルテアは他に何かするものはあるか?」
焼き目の付いた硬そうなパンを、湯気が上がる黄金色のスープに浸しながら食べているハルはそう答えると、横に座るルテアに尋ねた。
「私は特に用事はありません。ハル様の予定にあわせます」
そう言って、ルテアは野菜や薄く切られた肉を挟んだバケットを口に運んだ。
「じゃあ、お二人が鍛冶屋に行っている間に、あたいは足を用意しておくよ」
その言葉に首を傾げたハルとルテアだったが、アウルは微笑みで答えを隠した。
「では、そちらは頼む。ありがとう」
「いやいや、それはお互い様さ。これが奴に会える貴重なチャンスだからね」
「そういえば、昨夜も因縁があるって言っていましたね。あの人と貴方の間に何があったんですか?」
ルテアの問いに、アウルはしばらく、自分の目の前にある白いパンの方を見ながら固まった。そして、顔を上げ口角を上げ問いに答えた。
「その内容を語るには、料金が発生するがいかがする?」
にやにやした顔でルテアの方に向いて聞く。
「そ、そうなんですか。遠慮しときます」
「まあ、気が向いたら話はするよ」
ルテアの残念そうな言葉に、アウルが付け加えた。
それから、十分ほど経ち、三人とも食事を終えた。そして、勘定を済ませ店を出る。
「すまないね。奢ってもらってさ」
「足を調達してくれるお礼だよ」
「じゃあ、遠慮なく。調達出来次第、そっちへ向かうよ」
その言葉に、疑問を覚えたルテアが二人の会話に入り込む。
「まだ鍛冶屋の名前言って無かったはずですが、場所はご存知なのですか?」
その言葉に、当たり前といったような感じで答える。
「ゲルン爺の工房だろ? 驚いたみたいな顔しているけど、あたいは情報屋だよ。これぐらいのことは朝飯前さ。じゃ、あたいは行ってくるよ」
人の行き交いが多くなった通りに飲み込まれるように、アウルは姿を消した。
鍛冶の町ゲルンタット。この町には、鍛冶師が多く存在する。その中でも、有名な鍛冶師の名はゲルンと言って腕の良いことで有名だ。
そのゲルンの工房の前にたどり着いたハルとルテアは、閉店と書かれた看板に首を傾げていた。ここに来る前、アウルから開いている時間を聞き、該当する時間に着いたはずなのだが、空いている素振りは無い。しばらく、店の前で待っていると、中から頭に白いタオルを巻いた若い男性が姿を現す。
「おはようございます。もしかして、貴方は昨日、短剣を預けた方でしょうか?」
男は、恐る恐るハルに尋ねてきた。
「はい、そうですが」
ハルが答えると、男は、扉を開けて中に手招いた。
「では、どうぞご案内します。お待ちしていました」
「は、はぁ」
何か嫌な予感がしたが、武器を頼んでいたので、ゆっくりと二人は中に入って行った。
室内には、昨日と同じように壁や棚に武器が並び、奥にはカウンターがある。そのカウンターを通り、さらに奥に進む。奥は工房となっていた。その工房を通り、地下に続く階段を下っていく。そこには修練場のような円形の空間が広がっていた。その真ん中には、鍛冶師ゲルンが依頼していた短剣を手にして立っている。ハルが言葉をかける前に、ゲルンが口を開いた。
「待って居ったぞ。これが出来たやつじゃ」
そう言って、手に持っていた短剣を差し出す。それをハルはお礼と共に受け取り一歩下がる。そして、代金を払うため懐に手を入れようとしたとき、ゲルンから静止がかかる。
「お代は結構じゃ。それよりその鍛えた剣で手合わせしてくれんかね」
ゲルンは、腰の鎚を手に持つ。そして、鎚で軽く手を叩く。すると、叩かれた手から、一振りの刀が出現する。その光景に、ハルとルテアは驚きのあまり目を見開いた。
「ん? どうしたのかね?」
手にした刀を、肩に当てゲルンは二人に不思議そうな反応を示す。
「ゲルンさん、能力持ちだったんですか?」
「ああ、そうじゃよ。わしの能力は、この鎚で叩くと刀を生み出せるのじゃよ。さあ、剣を抜け! 若者よ!」
肩に当てた刀を、ハルの方に向けて言い放った。その言葉にハルは、息をのむ。
「……わかった。条件として、殺しはダメだ」
「あたりまえじゃ。では、妹さん審判頼んでよいか?」
ゲルンは、ハルの言葉に同意を示す。その彼の横に立っていたルテアに審判を依頼する。
「はい、承ります」
そのお願いを承認し、引き受ける。
そうして、ゲルンとハルが対面に立ち、真ん中の離れたところにルテアが立つ。ハルがコートを脱ぎ、短剣を抜く。ルテアの合図と共に戦いの火ぶたが落とされた。
こんにちは。ゆうやです。
今回は、中途半端な所で区切っています。普段、投稿する量に比べたら半分ぐらいですね。このサブタイトルにもある「或る鍛冶師」は少し長いので、普段よりも短い形になりました。
次回も期待していただくと幸いです。
では、早いですがこの辺りで。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
また次回! (おそらく、4月の中頃かな……)