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追われる身となった世界で  作者: ゆうや
16/20

或る日の記憶 中‐後

央都の中にある小高い丘。その上に建っている宮殿。正門へと続く石畳の敷かれた坂道を、歩いている二人。木剣を抱えたシャルトと、話しながら歩くハル。緩やかな坂道を歩き、目の前には槍を持ち鎧を着た門番が数人四人立っている。門番たちは、ハルの姿を視認すると、槍を地面に打ち付け、頭を下げる。彼らのうちの一人は、シャルトが抱える木剣を見て、駆け寄ってくる。

「お持ちします、シャルト様」

「ありがとう。フリゲート騎士団長までもっていってください」

 門番の言葉に、さすがに持っていて疲れたのかすべて預ける。その証拠に、肩を回していた。一人では持ちきれないのか、駆け寄ってきたもう一人の二人で分配する門番たち。二本ずつ持って、宮殿の方に歩き出した。

「お戻りになられましたか、ハル皇子、シャルト殿」

 声のした方向から、ゆっくりとした足音に呼応して、金属のこすれあう音が聞こえてくる。建物の方から、鋼の鎧に身を包んだフリゲートが歩いてきたのだった。彼の姿に、門番たちは持った槍を地面に打ち付け、姿勢を正す。フリゲートは、木剣を持った二人に指示を出し、武具屋から戻ってきた二人の方に歩み寄ってくる。

「遅かったので、少々心配しておりました。おや、新しい剣ですか?」

 出発するときは身に着けていなかった長剣に、フリゲートは興味を示す。彼の言葉に、ハルは腰に帯びていた剣を外し両手で持つ。

「武具屋の店主からいただいたんだ。使ってほしいとお願いされた」

 鞘に納めたその剣を、フリゲートに渡す。彼は、両手で受け取り眺める。一言断りを入れ、鞘から少し抜き、刀身も眺める。

「これは、ベルクタット産でしょうか? このような細いものは初めて見ましたが、色を見る感じですと、あの町で見かける剣に似ていますね」

 右手で柄を持ち、左手で鞘を支えて刃を一目見ただけで、答えるフリゲートの推測に、シャルトは感じ入る。

「流石、武具には詳しいですね。そちらの剣はベルクタットで鍛えられたものみたいですよ」

 普段から自身の騎士団の装備を選んで、整えている彼の眼にかかればどこで作られたかもわかるようだ。一通り眺めた後、鞘に納めハルに返す。

「いい剣ですね、長剣にしては、軽く自在に操れるでしょう」

「そうだろう? それにしても宮殿で鎧なんて着てどうしたんだ?」

 剣を腰の位置に戻し、鎧姿のフリゲートに尋ねる。来客や非常時以外では、宮殿で鎧を着用することはない彼の姿に、疑問を覚えていた。宮殿の様子にあわただしい様子もない。

普段と変わらない日常の風景に、何かあったのかと思考を巡らせる。フリゲートが答えようとするが、坂道の方から馬車のタイヤが回る音が聞こえてくる。

 宮殿まで、馬車を乗り入れることができるのは皇族に、元老長のジョン。他国や他の町の領主ぐらい。来客の予定もなく、ジョンも散歩と言っていた。残された選択肢は皇族だけだ。皇帝は第二皇子を連れて現在、他の町に外遊中だ。となると、一人しか残されていない。

 深紅に塗られた馬車は、門のところで話しているハルたちの前で停まる。馭者の老紳士が、馬車の扉の方に回って、その扉を開ける。扉から出てきたのは、黒髪に赤眼の青年。深紅の生地が特徴のコートを羽織っている彼が下りてくると、ハル以外その場にいた者は姿勢を正し、頭を下げる。

「ソル皇子、お帰りなさいませ」

「ああ、フリゲート。宮殿の居留守、助かったぞ」

「とんでもございません。これが私の責務ですので」

 皇子の感謝の言葉に、礼を言う。

 二人の会話に、フリゲートが鎧を着ている理由が理解できた。宮殿に残っている両皇子が不在となって、機を狙って宮殿に何者かが侵入してこないか警戒するためだろう。過去に反乱を企てた者が、皇族不在の隙を狙って宮殿を占領したことがあったみたいだ。ハルが生まれる前の出来事だったため、実際に体験したことではない。

「そういえば、ハル皇子。何か言いかけておりましたかな?」

 馬車が来る前に、尋ねられていたことを思い出し、ハルに再度聞き返す。だが、質問をした当事者は、答えを得たようで首を振って言葉を返す。

「いや、何でもないよ。それより、兄上は一体どちらに?」

「ん? 議会だよ。各町の定期調査が近いから、人員を決めに行っていたのだよ。ハルもいい機会だ、議会に行ってみるか?」

 ソルの提案に、彼は視線を逸らす。

宮殿のある高台の麓にある議会。各町の取り決め、財政についての話し合いをする場となっていた。最終決定には、皇族が赴くのが決まりとなっているが、それ以外は貴族たち運営している。

過去に何度か、兄達に連れられて議会に行ったことがあった。だが、訪れたときは決まって、欲の見え透いた貴族たちが群がってきて、辟易していた。それ以来、議会に行くことに苦手意識を持っていた。

「それは、またの機会にしておきます」

 苦手意識が消えていないハルは、兄の提案を拒否した。その言葉にソルは、わざとらしく肩を落とす。

「昔のように『連れていってと』駄々をこねてもいいんだぞ」

「だ、だれがそんなこと」

 面白がるように笑みを浮かべ、弟を茶化す。ソルの言葉に、間髪入れずに否定する。恥ずかしがるように、顔を赤らめながら。その反応を楽しむようにソルは笑っていた。シャルトにフリゲートも、こらえるように肩を震わしている。そんな彼らの態度に、拗ねるようにしてそっぽを向いた。


 門で話をしていた四人は、廊下に敷かれた深紅のカーペットの上を歩いている。外から帰ってきたこともあり、一服するため昨晩使った食堂に向かっていた。

中庭からほど近くにある食堂に向かう途中、ハルは街の方であった出来事を思い出す。町で横暴をふるっていた元老たちに処罰を下す予定だった。彼らが、宮殿に戻ってきたかどうか、警備していたフリゲートに尋ねる。

「フリゲート、俺が帰ってくる前、元老の者はこなかったか?」

「二人組ですかな? 何やら酷く狼狽しておりましたが、どうしました?」

 逃げてきた二人組の様子がよほど印象に残っていたのか、突拍子のない問いにフリゲートは記憶を深く探ることなく、すぐに答えた。

「ちょっと、町で色々とあってな。彼らに言いたいことがあるんだ。どこに行ったか分かるか?」

 彼らどこに行ったのか、先ほどと同じようにフリゲートへ質問をする。だが、彼がハルの質問に答える前に、フリゲートの隣を歩くソルが口をはさんだ。彼は、弟の身に何かあったのか心配になったのか、心急くような口調になっていた。

「おい、元老に何かされたのか! やつら、自己の利益のためなら手段を択ばないと聞くが」

「お、落ち着いてください、兄上。自ら首を突っ込んだだけです。」

 熱がはいった兄を落ち着かせるように、ハルは簡単に説明する。勘違いしていたソルは、安堵のするように息を吐く。ソルが落ち着きを取り戻すと、フリゲートは口を挟まれる前の問いに答える。

「彼らには、落ち着くように二階の休憩室へ案内しました。おそらくそちらにいるのではないでしょうか」

フリゲートは、確実ではないことを伝える。町から逃げて帰ってきた元老の二人組と、買い物から戻ってきたハル達の間に時間が空いていたからだ。彼らが息を整えるのに十分な時間を与えていたのだった。

「わかった。ありがとう、フリゲート。みんな先に行っていてください。用事を済ませたら向かいますので」

 フリゲートに礼を言うと、二階へとつながる階段に向かうため、三人から離れようとする。一人で向かおうとするハルに対して、隣にいるシャルトが声をかけた。

「お一人で? ついて行きます」

「いいよ。一人でやるから、先に休んでおいて」

 ハルと共に首を突っ込んだシャルトは、引き下がることなく、ハルの厚意を遠慮しようと声を出そうとする。だが、その反応を呼んでいたのかハルは言葉を続けた。

「そうだ、ついでに二人に町での出来事を話しておいてよ」

 その言葉にシャルトは、喉まで上がってきた言葉を引っ込める。説明するのが面倒だったのか、ハルは表情で「よろしく」と訴えている。そんなハルにたいし、あきらめの言葉を出す。

「わかりました。行ってきてください。しっかり説明しておきますので」

「また後で」

 ハルは、引き留めたシャルトに対して声をかける。そして、歩く速度を上げて一緒に歩いていた三人を抜かして階段の方へと向かっていった。

 食堂へと向かう途中だった三人のうちソルとフリゲートは、ハルとシャルトのやり取りについて行かず、疑問符を浮かべている。ハルが去っていくと、ソルとフリゲートはシャルトの方を向き言った。

「シャルト君、町で何が起きたかたっぷり聞かせてくれ。ハルがどんなことをしたのか、ぜひ教えてほしい」

「そうですね。シャルト殿がついていたのにかかわらず、どんな問題を起こしたのか聞かせてほしいですね」

 ハルが町でどんなことをしたのか気になっていた二人だが、それぞれ言葉のトーンが違っていた。弟が、町でどんな活躍をしたのか期待を思わせるソル。シャルトが、皇子を危険な目に遭わしたかもしれないことに怒っているフリゲート。聞いている内容が同じなのに、温度差のある二人にどう説明しようか頭を回転させる。二人の言葉に対して、この場で苦笑いを浮かべた。そして、二人が背を向けると、気付かれることなく深い溜息を吐き、重い足取りで食堂へと向かった。


 二階の一角にある休憩室。宮殿で働く使用人が休憩をするために、割り当てられた一室。簡素な円卓と椅子が置かれただけの小さな部屋。仕事の量が膨大な、使用人たちはこの部屋に長時間とどまることがなく、利用者は一日で二人来るか来ないか。それゆえ、ほとんど空き部屋のように無人とかしていた。

 普段は静かな休憩室の中には、肩で息を整えている男性が二人。身に纏う白いローブはところどころ茶色く汚れている。町から逃げてきた、元老の二人は怯えた声で、これからのことを話していた。

「あのガキ皇子が。正義ぶるのもほどほどにしろよ」

 かぶっていたフードを脱ぎ、禿頭の男性が悪態をつく。対して、もう一人は弱気の発言をする男性。

「よせ。そんなこと誰かに聴かれていてみろ。最悪――」

 フードをかぶったままの男性の発言を、机を叩き遮る。

「うるさい! そんなことわかっている」

 町で思い通りにいかなかった禿頭の男は、年の若い皇子に打ち負かされたことに憤っていた。そんな男をなだめようするが、熱の入った様子にため息をついていた。

多少愚痴をこぼして、満足したのか先ほどのまでの憤りを落ち着けていた。対面に座るフードの男は、彼の愚痴が誰かに聴かれていたらと、あたりを見渡し挙動不審になっていた。

フードの男が抱いている不安が的中したかのように、休憩室のドアからノックの音が聞こえる。その音に、落ち着きを取り戻していた男は身構え、挙動不審の男は少し怯える。椅子から立ち上がった二人の元に、ドアの方から声が届いた。

「ハルだ。入るぞ」

 部屋の中にいる二人の言葉を待たずに、ドアが開かれる。強めに開かれたドアから、入ってくるハル。彼の姿を視認した元老の二人は、一歩下がって頭を下げる。そして、愚痴をこぼしていた男は、先ほどとは一転した態度で話しかけた。

「これはこれは、ハル皇子。先ほどは、見苦しい姿をお見せしました。つきまして謝罪いたします」

 男は先ほどより深く頭を下げる。禿頭の男が下げた動きに合わせるように、フードをかぶった男も深く下げた。頭を下げた二人に対して、ハルは言葉を返さずじっと見ているだけだった。何も発さないハルに対し、謝罪の言葉を口にした禿頭の男はしびれを切らしたように言葉を発した。

「これだけでは足りませんか? では、望みの物を言ってください。用意いたします」

 頭を上げ、にやついた表情を浮かべる。フードの男は、下げていた頭を少し上げ、目の前に立っているハルの顔色を窺っていた。

 禿頭の男が発した言葉に、ハルはため息をつき、不愉快そうな表情を浮かべる。フードの男は、すかさず隣の男のフォローに入ろうと頭を上げる。だが、目の前に立つ皇子が放つ冷たい視線に、喉で言葉が詰まった。

 町で子の腕をつかんでいた男は、卑しい目つきで言葉を並べている。黙り込んでいる男は、よほど町の一件で応えたのだろう。二人の反応を一瞥したハルは、この部屋に来た目的を果たすため、口を開く。

「さて、処分についてだ。あの親子から話を聞いたよ。確かに、非はあの親子にもあるかもしれない。だが、貴様たちはやりすぎだ。大勢の前であんなことすれば、父の名にも泥が付く。そのことを反省し、しばらくの間、宮殿から出ることを禁止にする。いいな?」

 ハルの下した処分に、二人の表情に動揺が走る。先ほどからよく話す禿頭の男が、目の前の皇子に詰め寄り、異を唱える。もちろん、納得していないようで、言葉には棘がある。

「どういうことですか? あのような下々の者へ肩を持つなど、ありえません。あんな民一人など、無視すればよいでしょう」

 手の届く距離まで接近し、非がないことを訴える。詰め寄ってきた男の感情を逆なでするかのように、言葉を返す。

「わからなかったか? 当面、宮殿で謹慎ということだ」

「そのようなことはわかっています。なぜ、民の味方するのです。あんな奴ら、いくらでも替えが効くでしょう。一人いなくなったところで――」

 禿頭男の額に青筋を浮かび上げながら、早口にまくしたてる。男の身勝手な物言いに、ハルは言葉を遮る。

「黙れ」

 たった一言。叫ぶことなく、口からこぼれ出たその言葉に、感情に流されていた男は口をつぐんだ。蛇に睨まれたカエルのように動かない。

ハルに詰め寄り抗議していた男とは、対照的に静かに控えている男。処分が下りた時は、驚いたが歯向かうことはしなかった。町で感じた殺気めいたもの。そのオーラに圧倒されていたため、動けなくなったのだ。

ハルの目の前に立つ男は、それから何も言い返さずに黙り込んでいる。先ほどとはうって変わり、額に冷や汗を浮かべていた。これ以上何も、反論してこないだろうと判断したハルは、この場を締めるため二人に対して言葉を投げかける。

「二人には、しばらく目の届く範囲で、反省しておいてほしい。いいね?」

 ハルの問いに二人は、素早く頭を下げて答える。

「「は、はい」」

 二人の返事を聞くと、ハルは体を百八十度回転させ、ドアの方に歩く。その間も二人は、頭を下げ黙り込んだまま。追加で言葉をかけることもなく、ドアノブを回し、休憩室を出たのだった。


ハルと別れた三人は、先ほど話していた通り皇族専用の食堂で休憩していた。ソル、フリゲート、シャルトの三人が椅子に座っている。

 座って話をしている三人の話題は、ハルとシャルトが遭遇した町での出来事。ほぼ一方的に、シャルトが質問攻めを受けていた。

「で、ハルが首を突っ込んだというわけだね?」

 町で起こった出来事をある程度説明したシャルトに対し、ソルは尋ねる。それに対し、シャルトは頷く。

「シャルト殿は止めなかったのですかな? ハル様の身に何か起こっては――」

 しっかりとした護衛を付けず、問題に巻き込まれたことを止めなかったことに注意するフリゲート。そんな彼をなだめるように、ソルは話の途中で言葉をはさむ。

「まあまあ、フリゲート。わが弟がそんな軟な者たちに、ケガを負わされることはないだろう」

 どこか嬉しそうなソルの言葉に、フリゲートは軽い溜息をついた。

 ガラスのコップに入った水を一口飲み、ゆっくりとコップを置く。

一呼吸おいて、ソルはシャルトに尋ねる。先ほどとは違い、その声には慎重に落ち着いたものだった。

「シャルト君、君は町での噂を知っているかい? 迷い子の噂」

 両肘を立て、指を組んでまっすぐシャルトの方を見つめるソル。真剣な視線に、椅子を座り直し答える。

「子供が急にいなくなるといわれている噂ですよね」

「ああ、その噂について他に知っていることは?」

 追加で来る質問に、シャルトは記憶を探る。だが、彼が知っているのはあくまで噂程度のことだけ。

「いいえ。ほかには何も」

「では、シャルト君。君は、町で何を観た?」

 ソルの問いに、シャルトは町での出来事を振り返る。

 武具屋での剣選び。いなくなった花屋の少女。それに、元老院二人組による蛮行。中でも、迷い子の噂に関係するとなると、花屋の少女。これに関しては、散歩中の元老院長に任せたので、何もわからない。子供関連だと、残るは元老院二人組についてのみ。無礼を働いたとして、子供を連れ去ろうとしたといっていた。

 出来事を振り返るシャルトは、違和感に気が付く。

 無礼を働いたのが子供だとしても、なぜ親も連れて行こうとしなかったのか。あの手の者たちは、両方に罰を下すだろう。なのになぜ、子供だけ連れて行こうとしたのか。まさか、彼らが噂の元凶なのか。だとしても、往来で行うのは、注目を集めすぎる。彼らの目的はいったい――。

 思考の谷に落ちたシャルトに対して、ソルが声をかける。

「何か気付いたか?」

 ソルの言葉に、思考の谷から這い上がる。

「考えすぎかもしれませんが、噂の元凶は彼ら元老院なのではと。あの二人組は、子供を連れていくことにこだわっていました」

 シャルトの答えに、フリゲートは疑問を投げかける。

「だが、あの二人組は注目を集めていた時点で、噂の内容と合わないのでは?」

 彼らと噂の矛盾している点に、疑問を呈するフリゲート。同じところで詰まっていたシャルトは、その質問には答えられなかった。

 再び、考え込むシャルト。沈黙する彼に対して、ソルが言葉を投げかけた。

「さすがだ。そこまでの答えに至ったことは、さすがに驚いたぞ」

 組んでいた両指を離し、拍手をする。

「え、いえ。ありがとうございます」

 称賛されることは予想していなく、シャルトの反応は遅れる。そのため、礼を言うのに口ごもった。

そんな彼の言葉を無視して、ソルは言葉を続けた。

「実は、私もその意見に賛同なんだ。迷い子の噂。その元凶は元老院なんじゃないかってね。ただ、裏付けるものがこれといって欠けていてね」

 いつの間にか、慎重で落ち着いた声音が消え、残念そうな声で話す。手詰まりといった様子で肩をすくめる。そして、ソルは言葉を続ける。

「表立って調査し、外部に知らされては国そのものが揺らぎかねない。そこでだ、シャルト君。君にも協力してもらいたいんだが、どうだろうか?」

 ソルの提案に、シャルトはあっさりと承諾する。

「ここまで聴いて断れるはずはありません。協力します」

「ありがとう、助かるよ」

 承諾したシャルトに、感謝の言葉を述べるソル。感謝と同時に、ソルは手を差し出す。シャルトはその手を握り返し、握手を交わした。

 ソルの手を離したシャルトは、断りを入れて質問をする。

「一つお聞きしてもいいでしょうか?」

 首を縦に小さく振り、続きを促す。

「調査というのは具体的にどのようなものでしょうか?」

 シャルトの質問に答えようと、ソルは口を開くが、言葉は発さない。

質問に答える前に、外から小刻みなノックが三回聞こえる。ハルが戻ってきた合図だ。部屋の外に自身の傍付きを見張りとして置いていた。部屋に入る前に、合流した傍付きに、ハルが帰ってきたことを知らせることを命じていたのだった。

ドアから聞こえたノックの音に、ソルは質問の答えを変える。

「続きは明日の朝、外にいる傍付きが迎えに行くよ」

「わ、わかりました」

 答えを明日に伸ばしたソルは、ドアの外へと声をかけた。


 元老二人組の処理を終わらせ、ソル達がいる部屋へとたどり着く。外で見張りをしている給仕服を身に着けている男性。短い黒髪に、毛先だけ色素が抜けているのが特徴のソルの傍付き。

体に棒でも入っているかのように立っている彼は、ハルが部屋の前につくと同時に、ドアをノックする。少し間が開いたが、部屋の中からソルの声が聞こえてくる。入室を促す声に、オットーはドアを開けた。

 部屋の中へと入り、すでに座っている三人の元へ歩いていく。そんなハルに対して、ソルは声をかけた。

「シャルト君からいろいろ聴いたよ。問題は解決したか?」

「はい。彼らには目の届く範囲で謹慎するように言ってきました」

「なるほど。お疲れ」

 労いの言葉をかけたソルは、空いている席に座るように手で促す。シャルトの隣に空いている席についた。

 ハルが座ると同時に、フリゲートは部屋の隅に置かれている棚からガラスのコップを取る。コップを手にし、机に置いている水差しから水を流し込む。水の入ったコップをハルは受け取り、礼を言った。

 喉が渇いていたのか一息で水を飲み干す。そして、空になったコップを満たすため、机の上にある水差しへと手を指し伸ばす。水を入れながら、先に休憩していた三人に尋ねた。

「何を話されていたんですか?」

「町の出来事を根掘り葉掘り聴いていたのさ。なあ?」

 ソルが答えると同意を促すように、隣に座るフリゲートに振る。

「ええ。一言二言言わないといけませんな」

 急に話を振られたフリゲート。彼はソルの振りに答えた後、笑みを浮かべている。だが、その目は、全く笑っていなかった。

 フリゲートの反応に、隣に座るソルは「やばっ」と声を漏らし、体を引き、ハルに視線だけで謝罪する。視線を向けられたハルは、フリゲートの表情にすべてを悟ったのか、固まっていた。

それから食堂では、フリゲートによる説教が続き、ハルは疲弊していった。


怒り心頭のフリゲートによる講義が終わると、すっかり日が暮れていた。

シャルトは、自分の館に帰るため席を立つ。ハルは帰宅するシャルトを見送るため、二人で部屋を出たのだった。

疲れ切った様子で出ていくハルとそれを支えるシャルト。二人が帰ったあとの室内には、昨晩と同じ二人だけが残っていた。

「いいのですか? 本当のこと話しておかなくて」

 二人が出ていったドアを見ながら、フリゲートは言った。同じく、ドアに視線を向けたまま言葉を返す。

「……ああ。下手に危険にさらしたくないからな」

 そう言って、ソルは席を立つ。ハルが来たとき、フリゲートがコップを取り出した棚へと歩み寄る。

 棚で何かを探すソルに、フリゲートは言葉を発する。

「ハル皇子には甘いですな。あの方ならば、大丈夫ですよ。日々成長していますから。それに、我々と同じく能力もありますしね」

 棚で何かを探しながら答える。

「たしかにな。それに、シャルトもついている。良い支えになるだろうな」

「ハル皇子の傍付きに任命してもいいかもしれませんな」

 皇子の傍付き。皇子一人に対して一名しかなれず、身の回りの世話や緊急時の護衛を行う者のこと。第一皇子のソル、第二皇子のモント。ハルの兄二人にはすでに傍付きはいるが、ハルにはまだいなかった。

「ああ、二人のこれからには期待しないと」

 探していたものを見つけたようで、片手で棚を閉め、フリゲートの方に向き直る。

「それはそうと、フリゲート、また飲まないか?」

手には、三つのグラスを指に挟み持っている。それに合わせ、ドアが開き男性が中に入ってくる。外で見張りをしていたはずのソルの傍付き。手には一本のボトル。

用意周到な二人の姿に、フリゲートは承諾するしかなかった。

「付き合いましょう」

ソルとフリゲートに加え、ソルの傍付きの三人は夜遅くまで飲み続けた。これが最後になるとは知らずに……。


こんにちは、ゆうやです。

追憶の事件編の中盤がここで終わりました。

次回からいよいよ物語が加速します。

ぜひお楽しみください。


ここまで読んでいただきありがとうございます。

また次回もよろしくお願いします。

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