異世界だと思ったらハーレム生活に突入した俺はガチで最強だった件
俺の名は天道ユキオ。さえない中学校生活を終えて、これから来る華の青春ライフを楽しみにしていた高校生だ。
始まる前はウキウキだったが、実際始まってみたら周りにはさえないやつらしかいないし、告白イベントも、リア充満喫イベントも起きないし、なんだか理想と現実のギャップがすごくて拍子抜け中だ。
人生こんなものなのかと絶望した! が、このままでは終わらない、とも思ってた。
そんな時だった、俺の家の押入れが光り輝いてたんだ。
思わず目を疑ったね。だけど、俺はこうも思った。
ようやく「きた」んだなあってさ。
一大イベント発生!って感じよ。
これから異世界にでも行ってハーレム生活満喫するかなって思ってたらさ、まさか本当に異世界行けるとは思わなかったよ。
押入れを開けて変な空間にワープしたと思ったら超絶美女がいきなり現れてきょとんとした顔でこっちをみてるんだよ。
でもその顔も俺の顔を見ている内にどんどんメスの顔になっていって、ついには両手を握って「結婚してください」だよ。
これには参ったね、しかも彼女は王国の姫さまで、金持ちだし何不自由なく暮らせるわけよ。
さすがに運命の相手はこの子に決まりかなって思ったんだけどさ、町に出たらそれはもう可愛い子ばっかり歩いてるのよ。
それもどういうわけか俺に吸い寄せられるように皆惚れちゃってさ、10人は城に連れ帰ったよ。
姫さまも寛大でさ、最終的に自分を選んでくれたらいいなんて健気な事言ってくれるし、泣けてくるよな。
まあ、姫さまの許しも貰ってるからもうちょっとつまみ食いさせてもらうけど。へへっ、マジ最高。
あと、なんかこっちきてから身体能力が高くなってさ、チンピラに絡まれても俺の軽いパンチで一撃よ。
現実ではクソザコの俺が異世界では最強だからたまんねえよな。
そういえばこの前、街で可愛い子が歩いてたんだけど、その子は男と一緒だったんだよ。
それ見た瞬間むかついてさ、なんで俺以外の男とあんな可愛い子がつるんでるんだって思ってよ。
俺がちょっと男をボコしたらその子も俺の強さに惹かれて、またその子も俺のハーレムの一員になっちまった。マジで最強だし、罪な男だわ、俺。
この後も3人の子と合う事になってんだけど、ひとりひとり会うのめんどくせーから、もう全員まとめて会うかな。どうせ俺に惚れるのなんてわかりきってるしな。
あー、毎日マジ楽しいぜ!異世界来て本当よかったわ! 学校のさえないやつらにも勧めてやりたいわ。
ま、選ばれた俺しか来れない場所だから無理なんだけどな!ははは!!
慌ただしい夜が明けて、ようやく迎えた朝は決して穏やかな物ではなかった。
母は部屋から出てこないし、父親はせわしなく誰かに電話している。
私はといえば頭に靄がかかったような状態で冷蔵庫に手をかけ、冷えたヨーグルトを取った。
寝ぼけ眼、もとい何も考えたく無い状態のままリビングのソファーに座る。
スプーンを手に取り、シャクシャクとした食感のリンゴ入りヨーグルトを口に流し込んだ。
甘酸っぱい美味しさが後を引く。
いつもと変わらない私の様子を見て、
妹が泣きじゃくる。
「マヤ姉!どうしてそんな平然としているの!兄ちゃんが……兄ちゃんが死んじゃったのに!」
私のパジャマの襟を掴み、暴力的に訴えかける妹。
私には何にも響かない。
「なんでミユキは悲しむの?」
「な、なんでって……今まで一緒に生活していたユキオ兄ちゃんだよ?死んじゃって……もう会えないんだよ!?」
「そう」
昨日、兄のユキオは2階の自室から飛び降り、命を絶った。
妹の言う通り、たしかに会えない事は会えないが、自分のやりたいことを叶えられたんだからいいのではと思ってしまう。
ユキオ兄は妄想癖がひどく、急に意味の分からない
事を口走ったり、妄想で顔をにやけさせたりする。
そんな常識外れの兄に友達がいない事など明白だった。
そして、そんな兄はよく異世界に行ってハーレムを作りたいと言っていた。
話し相手がいないから、独り言のように私に話しかけていたのだ。
兄の叶わない欲望を知った私は世界で一番兄と仲良くなった人間だと思う。
妄想を垂れ流す時の兄はなんだか生き生きしていて見てて面白かった。
そんな兄が、本当に異世界に行って夢を叶えられたなら、私は泣くより笑顔で送りたくなった。
「なんで……なんで笑ってるの? 信じられない! マヤ姉ちゃんの人でなし!」
錯乱する妹の肩に手をやり私は首を横に振る。
「それは違うよ、好きだから笑顔で見送るんだよ」
最高に素敵な笑顔を浮かべて、私は窓から空を見た。
どこかに存在している異世界で暮らす兄へ向けて。