氷の精霊
極寒の洞窟でよく通る高い声が遠くから聞こえた。足音と共に現れた人影からなびく髪が見える。光が当たる場所に現れると街でよく見かけたような素材の、首や手首に防寒のファーがついた青みがかったグレーのワンピースに黒のブーツを着た、十三才から十五の年の頃に見える少女がそこにいた。
腰を優に超えた亜麻色の髪を持ち、そして長く伸びた前髪の奥から金色の瞳が鈍く光った。瞳孔が縦に伸びている。
リマはこの瞳を知っている。猫のような、獣のようなそれは、魔族の彼らを見た時と酷似していた。人ならざるものの瞳。
『フラウ』
「ただの人間じゃないようだし面白そう。僕は構わないよ」
魔物にフラウと呼ばれた少女が近づくと、魔物は青白い毛を彼女に擦り付けるような仕草を見せた。聞こえた少女の声に一行は違和感を感じた。
実体を失った精霊が他者と意思疎通を図るために、精霊の子の身体を借りる時のようだ。
そして何よりもリマたちの視線を釘付けにしていたのは、少女の左側頭部にある結晶のように伸びた、キラキラと淡い光を反射して輝く白い髪飾りだった。
「初めまして、他の精霊の子たち。まさかこんなところまでイフリートが来るなんてねぇ。はるばるどうも」
特にアレフの方を見遣って少女はそう言った。どうやら縄張りを荒らされたようで機嫌が悪いらしいが、敵意は感じられなかった。
「武器をおろせば?フェンリルは僕の配下だからちゃんと言うことしか聞かないよ」
話し合いで解決できるならそれに越したことはない。ディアンとレイラは構えていた剣と弓をおろし、アレフは炎を収束させた。
「あなたはもしかして、精霊なの?」
「ああ、そうだよ。僕はフラウ。氷を司る精霊。ハーフエルフの魔術師まで連れて、ここに何の用なの?」
自らを精霊だと少女ははっきりと言った。堂々と宣う様子に少し困惑する。年の頃からして、街で会ったシスターが探している少女に違いないとリマとレムは確信した。確か名前をキリアといった。
「単刀直入に言うわ。精霊の子を集めているの。この子たちは世間の言う精霊復活に疑問を持っている当事者たちよ」
「集めてる?ふーん……」
「教会は何をするのか知らないけど、僕らのような者の身体を欲している。多分何らかの実験を行っていると思うんだよね」
レイラとレムが事情を説明しても、フラウはあまり関心を示さなかった。それどころか、リマたちはフラウの言葉に絶句することになる。
「僕も欲しかったんだよね、器が」
「えっ…?」
「ちょうどよかったよ。この人間、宝石を宿して産まれちゃったからさ」
と自らの頭を指差した。つまり少女の頭についているそれは髪飾りではない。
「そのせいでこの娘、耳も聞こえないし。僕がもらってちょうどいいんじゃない?」
「なんだと?」
「祀られてる?ふっ可笑しいな。だって僕、この娘が人間から大事にされてる所見たことがない」
「……」
「意思疎通ができないんでしょ。哀れだねぇ。同族を守ることをさえ知らない下等な連中は」
嘲笑で顔を歪ませてフラウはそう言った。その言葉から人間へのひどい憎しみが感じられる。




