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精霊の御子  作者: 壱原 棗
第6章:凍った心
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雪原戦闘

 この街で集まった情報は三つだ。

 氷の精霊の信仰跡地である『氷結の洞窟』は過去に深部で祭壇を確認したものの、現在では入り口の保存という名目でソレクの街が管理している。

 過去の調査もここ数十年人の出入りはギルドの者たちくらいということ。ギルドの情報では、街周辺や洞窟内の魔物は氷属性の魔物が多く、被害もそれに比例している。洞窟の奥には巨大な狼が住んでいるらしく、夜な夜な遠吠えが聴こえてくるそうだ。

 そして最後に、二年前から所在不明の少女がいるということ。


 一行は氷結の洞窟を探索するために必要なものを街で整えた。ギルドの情報はありがたく、防寒具や体温を維持するための薬。この地帯で身軽に動けるための靴に着ける刃がついた滑り止めなど、必要なもの多くあった。武器装備品周りも雪原地帯に適したものを新調する。


「何も今日行かなくてもよかったんじゃないか?風がやばいぞ」


 防寒用の長いローブをはためかせながら、アレフは目的地の方角を見据えた。彼は目が良いのでだいぶ先にどうやら竜巻のような吹雪が起きているらしいと教えてくれる。

 トール北部地方はほとんどが雪で覆われた大陸で、ソレク付近も高さのある建物が少ない常冬の平地である。吹雪いてしまったら街の外を散策するのは不可能だ。


「天候が読めないからのんびりしてられないし、この程度じゃ死なないでしょ。でもこうも雪煙がすごいと、真っ白で先に進めてるかわからないや」

「そうだね……ん!?」


 そう言ったレムにリマが同意すると、目の前の何かと衝突して進めなくなった。ゴーグルをしているとはいえ視界不良で辺りは真っ白。リマが衝突した目の前も真っ白なのである。しかもフサフサとした触感のある壁のようで。


「魔物だ!!」


 誰かが遠くで叫ぶと同時に聞こえてきたのは魔物の唸り声。その眼と交わるが早いか衝撃が早いか、今度はドスンという音と衝撃で雪が舞った。


「リマ!!」

「……びっくりした!」


 魔物が白い毛皮で覆われた大きな手が退くと、身体を水に変化させていたリマが無傷で目を丸くしていた。


「リマ!身体そのままにして!」

「はい!!」


 返事と共にビュッとレイラの放った矢がリマの足元を通過して地面近くにいた、これも毛の白い小型の魔物に当たった。


「もういいわよ」

「小さいのもいますね。雪で見えないけど」


 小型はそこまでの戦闘能力はないらしく他は逃げてしまったようだ。

 レイラの隣でレムが右の拳を頭上に挙げて手首を捻って、魔物の数十メートル上から岩雪崩を起こした。注意を反らすにはあまりに大きな衝撃に、魔物の動きが鈍った。


「そっちに行ったぞ!」

「ああ!」


 ディアンは長剣を収め、魔術で上空から落下しながら腰から双剣を引き抜いて加速と共に魔物の喉元を斬りつけた。体液が噴き出す前に魔術で移動したディアンは返り血一つ付いていなかった。


「上手くなったわね」

「咄嗟の移動なら出来るようになったんだけど、レムみたいな攻撃魔術となると無理かな」


 接近戦を主体とするディアンは、自分の能力を上げる魔術は早くに身につけたようで、それは戦闘で遺憾無く発揮されている。新調した双剣は、エルフ製のものらしく、彼の魔力で光を帯びていた。


「ディアンって剣二本でも戦えるんだね」

「騎士団は長剣が主流だけど、ダグラス流は剣を使うのならある程度までカバー出来るような流派だからかな」


 と、彼は慣れた手つきで双剣を鞘に戻した。


「どう?『魔法剣』の使い心地は」

「ゴブリン製の物を使う機会も少なかったので、不安だったんですけど、なんとかなりそうです」


 今回彼が新調した双剣はエルフ製の武器である。ドワーフ製の物を『抑制器』、ゴブリン製の物を『増幅器』、エルフ製の物は『魔法具』と一般的には総称される。

 シルフィとレムでは問題になった増幅器は、元来武器としては非常に有効であり、人間も扱う。また抑制器も同様であり、人間の剣士やマナフィラーが愛用するのはこちらである。

 どちらも高価ではあるが、性能に優れている。一方、エルフ製の武器に関しては使用者を選ぶのだ。コアを駆使する能力を持つ__強いてはエルフの血を引く者のみが扱える。力の無い者が鞘から抜けばただの鉄の棒だが、適用者が抜けばそれはたちまち鋼鉄の刃へと変わるものが、俗に「魔法剣」と呼ばれる。

 カイルが「魔術が使えるマナフィラー」と言っていたように、精霊の子も例外では無いらしい。新しい双剣は、ディアンの光の魔力を吸収して刃へと変わるようだ。


「本当なら耐氷の武器が扱えればよかったんだけど、精霊の子はそれぞれの属性の魔力が強すぎて難しいのよね。だから…」


 小さく唸ってからレイラは後ろにいる紅い男の肩に体重をかけた。


「頼りにしてるわよ!アレフ〜」

「…チッ…本当にわかってるのかよ。水属性連れてくるくせに」

「リマは凍らないか心配よねぇ…なるべくアレフの側にいなさい」

「あ、はい」


とリマは素直に先に歩いていたアレフの元へパタパタと距離を縮めた。


「なあ、ここなんじゃないか?」

「そうだね〜立派な入り口……というより氷山がぱっくり裂けたみたいだ」


 青白い氷山の一つの裂け目がどうやら洞窟の入り口らしい。入り口から奥は見えないが、ただぼんやりと氷の色が光っている。

 『氷結』の名前に相応しく、凍てついた空気が流れ出ているのが分かる。リマたちは用意した薬の小瓶をそれぞれ飲み干すと、奥へと歩き出した。


「うわぁ……」


 光が差し込む開けた洞窟内に出ると、リマは思わず感嘆の声をもらした。

 きんと冷たいようで澄んでいる独特の空気が中を満たす、全て氷で出来た自然の洞窟。まさに自然が作り出した神秘とも言うべきか。氷の色は見事なアイスブルーで、天井部分から太陽の光を通すほどの透明度のまま凍っている。おかげで洞窟内はすっかり明るい。


「人の出入りが少ないにしても保存状態はいいわね」

「祭壇を探そう」

「そうだね」

「おい、置いていくぞ」

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